牽制
『オンタリオ』のランチを改造したクロウラーに、六人が乗り込んで砂漠を進んでいる。
「いやー、こういうのもいいもんだねぇ」
ニアは、久しぶりにメンバーが揃っての活動に、ご機嫌である。
「いいか。ちょっと脅かすだけだからな!」
日没が近い。
目標のトレジャーハンターは、『スペリオル』の埋もれている砂丘から十キロほど東へ離れた地点に逗留している。
コリンたちは、日没とともに彼らのトレーラーへ接近し、可能ならひと騒ぎ起こして混乱させようと企んでいた。
二両のトレーラーを連結した大型の牽引車は、それ自体がトレーラーを上回るサイズの、巨大なクロウラーである。
標準サイズの断熱密閉式のコンテナは、およそ幅二メートル半で長さは六メートルある。
だが、彼らが連結しているトレーラーに積載されているのは、長さがその二倍あるロングタイプで、俗にデザートトレインと呼ばれる、旅の商人が多く利用しているものに似ている。
その姿を目視できる位置まで来て初めて、彼らの周到な準備がよくわかった。
「あのトレーラーは、かなりのマナを発しているね。馬鹿にできないよ」
ニアの言うように、商人の巨大なキャラバンに比べれば確かに規模は小さいが、宝探し一味の乗り物にしては、大袈裟に思える。
「結界に使うだけにしては、漏れ出るマナが多いのが気になるなぁ……」
コリンも、何か不気味なものを感じていた。
彼らは、魔法結界と光学迷彩で姿を隠して、トレジャーハンターの南側から数百メートルにまで近寄った。
「じゃ、そろそろ始めるよ」
コリンが陽の沈んだ西側から、メタルゴーレムの幻影を接近させた。
ニアが威嚇として、ゴーレムの動きに合わせて弱い風魔法の空気弾を、牽引車に何発かぶつけた。
接近するゴーレムに気付いたトラクタの動力が目覚め、車体の上部に巨大な双眼鏡のような、二本の太い筒が現れた。
もう一度、ニアは空気の弾丸を、牽引車の窓に当てる。
次の瞬間、トラクタの屋根の上に突き出た筒が、小さく震えた。
一瞬ののち、ゴーレム後方に盛り上がっている砂丘の一部が真っ赤に溶けて、空に吹き飛ぶ。
「うわっ!」
「キャッ!」
「なんだっ?」
「とんでもない高出力の、エネルギー兵器だ!」
ジュリオが叫んだ。
「初めて見たのだ!」
「スゲー、見たことねー!」
「ほ、本物の、エネルギー兵器だって!?」
自分たちが直接狙われているわけではないので、皆は気楽に興奮している。
「俺たちの時代じゃ、こんなものは軍の戦艦にしか搭載されていないぞ!」
ジュリオだけは、恐怖に目を見張る。
「これも、どこかの遺物から盗んだ物かな?」
幻影のゴーレムには何のダメージもなく、自分たちも離れた場所で結界に守られている安心感から、ニアは少しも気にしていない。
すると突然、逆にトレーラーの最後尾に積載されているコンテナが爆発して、炎に包まれた。
「ニア、何をしたんだ!」
悪い笑いを浮かべているニアが犯人だと、コリンにはすぐにバレた。
「えっと、前から一度使ってみたかった爆裂系の魔法を軽く……」
「おい、あの頑丈そうなコンテナの後部が、軽く吹き飛んじまったぞ!」
「ゴメン。ニアの魔法だった……」
「やり過ぎでしょっ、逃げるわよ!」
「でも、これに懲りて、エギムに近寄らなくなるんじゃない?」
「だといいけどよ……」
「撤収なのだ!」
翌日、最悪の事態に陥る。
壊れた車両の修理のため、トレジャーハンターがエギムの町に入ったのだ。
「あれ、おかしいな……」
ニアは、頭を搔いて笑っている。
「ものすごーく弱い魔法だったよ。大丈夫、すぐに修理が終わるよ!」
「でも、フランクは町に入ったぞ。リズの働いている町の食堂には行かないと思うが、どこで出くわすかわからん。それに、黙っていてもフランクは目立つからな」
「仕方ない。私がリズをマークして、何とかするわよ」
シルビアが、直接リズの周辺で警戒することになった。
シルビアのツールで二人の居場所を常時モニターしながら、遭遇しないように注意する。直接リズに会わないで済む妨害工作は、シルビア以外の人間が随時動けるように待機する。
「しかし、俺たちは何をやっているんだ?」
ジュリオの疑問も、もっともだ。
例えここで二人が出会ったとしても、何も起こらない可能性も高い。無理して気を病む必要など、ないのかもしれない。
「そうだよ。正義感の強いリズが、あんな悪党の仲間になるとは思えない」
「でも、逆はあるかも」
「フランクがトレジャーハンターを抜けて、ここに残るとか?」
「それは確かにヤバいかな……」
そんなやり取りとは関係なく、トレジャーハンター側でも着々と次の手を打っていた。
翌日、町ではちょっとした騒ぎがあった。
「深夜に精霊の森の一部が、何者かに荒らされたらしい」
「なんなのだ、それは?」
「わからんが、せっかく育った植栽の一部が失われたと聞いた」
「あいつらの仕業よ」
シルビアがマーキングしていたフランクが、深夜にその場所に行っていた記録が残っていた。ただ、非合法に入手している情報なので、正式な証拠にはならない。
「つまり、ニアがぶっ飛ばしたテラリウムの修復に利用したのか?」
「おそらくは」
「そうまでして、必要な物なのか?」
「きっと、そうなんだよ」
「だとすると、修復を終えた連中は、今夜あたり砂漠へ出るかも……」
「うん。予報では、明日から風が強くなるらしいよ」
「俺たちも、準備しておくぞ。あと二日だ」
「そうね。私も出来る限りの準備をするわ」