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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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本当の想定外

 

 ほんの五日も経てば、リズが食堂の厨房に立つのは当然のように受け入れられていた。


 その間にシルは何度かリズと会って、リズがフランクという想い人を追ってこの惑星に来たことや、その後の苦労話などを聞いていた。


「シルだけは、敵に回せないな……」


「あのねぇ、これは私の策略以前に、リズが特別優秀だったから可能なプランですからね!」


「ああ、ボンクラなオレなんかは、シルのおかげで何とかやれてますよ。そうじゃなけりゃ、すぐに転落人生を歩むことになって……うわっ怖っ!」


「はは、ケンはよく覚えておくといいわ」


「でもまあ、これで第一段階は成功」


「次の砂漠イベントの兆候はないのか?」

「あ、それが、あったんだ!」



 アイオスの報告によると、昨夜から大型トレーラーが、町の周囲をうろついているという。


「何者なの?」


「どうやら、トレジャーハンターらしい」

「あっ、もしかして『スペリオル』を狙ってる?」


「ああ。連中の常套手段は、砂に埋もれた遺跡の外殻を密かに破壊して侵入し、貴重なMT遺産を盗掘する。例えば嵐に紛れて、とかな」


「うーん、アイオス。僕の知ってる『砂丘の底』なら、そう簡単に侵入を許さないと思うけど……」


「コリン様。この時代、あの船を含む船団全体が、マナ不足で活動休止状態です。有効な対抗手段は、発動できません」


「あ。三百年前は、そうだったのか……」


 だから、エリザベスが船に接触して最初のマナをチャージ行う前に、決して連中を近付けてはいけないのだ。


 その9月6日までは、まだ四日もある。


 今のところは、エギムの保安部隊が保護区域に指定されている船の周辺に、防護柵を設置して警戒している。


 だが、少し強い風が吹けば帯電したモスにより通信が断絶し、柵も砂に埋もれて役立たずになる。


「連中もそのタイミングを狙い、待っていやがるんだろうな」


「うーん、先に僕らが入って結界で防御するのは簡単だけど、それだとリズより先に僕らがアクティベートしてしまうよな」


「おい、コリン、駄目だぞ。これ以上因果律を乱さぬよう、アイオスを含めた俺たちは、船に近付かないのが基本だ。当然、魔法の結界も禁止だ」


「誰かさんがコリンのレシピを公開して、もう結構乱しているしな!」

「悪かったわね!」


「うーん、でも困ったな」


「逆に、トレジャーハンターを排除してしまえばいいんじゃねえのか?」


「うん。やるのは簡単だけどさ、手加減が難しいよ!」

 ニアは、やる気満々であるが、それはそれで怖い。


「まさか、天の枷みたいなのと繋がりのある組織じゃないよねぇ」


「そういう面倒なのは勘弁してほしい」

「じゃ、またシルに裏を取ってもらおうか」


「そうだね」

「シクヨロ」

「また私なの?」

「好きなくせに……」


「やってもいいけど、怪しいとか腹黒とか、後で変なことを言わないでよね!」


「はい、スミマセン。以後気を付けます」

「ケンは、急におとなしくなったね」


「怯えてるだけでしょ」

「意気地なしなのだ!」


「オレは結局何をしても、ディスられるんだな!」



「想定外の事態が起きているわね」


 珍しく、シルビアが動揺している。


「何があった?」


「トレジャーハンターのメンバーの中に、フランクがいたの」


「行方不明のはずの、あの、フランクが?」

「おいおい」


「まだリズは知らねえよな?」


「うん。フランクの方も、気付いていないと思う」

「何で、このタイミングで来るかなぁ?」


「あ、でもジュリオが言ってたのだ」

「俺が何か言ったか?」


「ほら。リズは、何か人を引き付ける魅力があるって」


「そういう意味じゃねぇ!」


「へえ、ジュリオはそんな恥ずかしいことを言ってたんだ……」

 残る四人は、吹きだして笑っている。


「こ、このタイミングでリズがフランクに会ったら、ヤバいだろ?」

 ジュリオは、必死に真面目な声を出して、話を進めた。


「リズが、トレジャーハンターの一味になったりして」

「歴史が変わるぞ」


「ええ。あの一味はトレーラーで移動して暮らしているみたいだから、腕のいい料理人は歓迎されるかも……」


「うわ、シルの計画が台無しになる……」

「面白くないわね!」



 今のエギムは建設途上の小さな町だが、だからこそ、物珍しさで見物に来る野次馬も絶えない。


 その物好き相手の宿に分散して、『オンタリオ』の一行は宿泊している。場所は教会のある町の中心部で、居心地の良い高級なホテルを選んだ。


 今回の親子設定はジュリオとシルビアで、あとはコリンとケン、ニアとエレーナと男女に分かれて宿を取った。


 シルビアがそれなりの設定を作り、町のセキュリティを誤魔化している。


 毎日ぶらぶら遊んでいても、特段怪しまれないようには、なっていた。概ね、将来の投資や移住を見据えた資産家の子息、というポジションである。


 リズに直接出会わない限りは、ほぼ警戒する要素はない。リズのスケジュールは、シルビアにより、完全に共有されている。


 シルビアはトレジャーハンター一味の調査のため、ネットワークに接続して部屋を動かず、残りの面々は自由行動となる。


 さすがにジュリオはシルビアを一人置いて遊びに行くこともできず、宿に残って手伝いをしている。


 ニアとエレーナは町内の調査という名目で、普通に観光を楽しんでいた。


 残る二人はコリンの転移で『オンタリオ』へ戻り、ケンのラボで何やら実験を続けている。



 


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