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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
115/123

ノープラン

 

 LM1218年7月1日。


 史実通りにエリザベスは愛する家族と、家族同様に過ごした〈エルダーフラワー〉のフィルとロニーに別れを告げて、定期船でコロニー『テカポ』を発った。


 それを見届けた『オンタリオ』の一行は、リズがエランドへ到着するのを見守ることなく、第二のターゲットポイントである1221年のエランドへと転移した。


 リズが後の『砂丘の底』となる宇宙船の扉に触れてマナを流し、アイオスの機能を一部回復させたのは、時分秒まで正確に記録されている。


『オンタリオ』の一行が、そこまで厳密にコントロールする必要はないのだろうが、1221年9月6日という日付は、非常に重要な意味を持つ。


 物理的に、リズがその日に砂に埋もれた『スペリオル』の船体と接触可能な状況を、確保しなければならない。



 一行は『テカポ』の時と同様、一旬前に現地近くで情報収集を始めた。


 三年前のこととはいえ、リズに面が割れていないのは、シルビアだけである。


 今回の任務は、シルビアが中心になって現地へ赴くことが、最初から決まっている。


 コリンとニアは一応変装していたのだが、あれだけ派手な接触を持ったので、ほとんど意味がない。


 色々な意味で目立つ連中なので、その他の面々も、極力リズと会わない方がいいと判断した。


 特に、ケンはダメだ。リズには、フランクのことは早く忘れてほしい。


 幸いなことに、既にリズはエギムに来ていた。


 この時代のエギムは、まだ町の開拓が始まったばかりで、小さな精霊の森を中心に新たな町を広げている最中だった。


 つまり、後に砂丘の底となる恒星船『スペリオル』のブリッジが埋まっている砂丘は、まだ町の結界の影響が及ばない、ワームの住処、いわゆる外洋にあたる。


 そんな場所へ、料理人の女性がわざわざ行く理由が全くない。


 どうやって、リズは外洋の砂漠に埋もれた宇宙船の残骸を発見したのだろうか?


 最初の情報収集を終えて、シルビアは途方に暮れている。



「えっと、私がどうにかしてリズを誘い出して、あんな危険な場所まで連れて行かなきゃならないってことになるのかな?」


 シルビアが心底嫌そうな顔で、仲間の顔を順に見る。


「誰か、何とか言ってよ!」


『砂丘の底』は東門の外に約二百メートル離れた、町の結界が及ぶ端に存在した。


 町の中心から東門までは約一キロあったが、今の東門は精霊の森の中心から三百メートルも離れていない。


 開拓中の町全体の直径が五百メートル程度の、小さなオアシスなのだ。


 つまり『砂丘の底』は、今の東門から一キロ弱離れた砂の中に埋もれている。

 さて、どうやってこれを発見させようか。


 しかし、そんなことで悩む必要はなかった。


 既に砂の中にある宇宙船の残骸自体は、公式に記録されている。


 しかも、貴重なMT遺産として登録された上で保護対象になり、周辺への立入が制限されていた。


「それは、余計にダメじゃねーか」


「でも、そんなことを知っている住民は、誰もいないみたい」

「なるほど」


「町の外の砂の中に何があろうが、知ったことじゃないってか?」


「こういう開拓初期の町は、精霊の森の拡張と地下のインフラ開発が一番重要なのだ」


「おお、さすがは教会の特別顧問!」

「だから、住民が町の周辺など気にしている余裕はないのだ」


「で、肝心のリズは、どんな様子なんだ?」


「それがねぇ……今度もダメみたい」

「またかよ」


「三年前にエランドへ来たものの、当然フランクはここにいない。それはケンに騙されたんだから、仕方がないわね」


「おい、オレのせいかよ!」


「その後、滞在費も底を尽きレストランの料理人として働きながら、地道にフランクを探していたんだけど、そろそろ限界みたい」


「んで、一旗揚げようってエギムへ来たんだろ」


「ほら、ここは『テカポ』みたいな自然の農園で採れた材料なんて、珍しいでしょ。ほとんどが合成食材や輸入した加工食品ばかり。まだ、料理の腕を振るう場面が、決定的に少ないのよね」


「確かにな。俺たちの時代にはもっと色々な食材があったけど、それでもヴォルトのおかげでいいもの食っていたんだって、今ならわかるぜ」


「リズは、自分の店を持ちたくて、ここへ来たの。でも、なかなか現実は厳しいわ」

「やはり、資金か?」


「それもある。幾ら料理の腕が良くても、それを発揮できる場がなければ誰からも評価されない。要は、信用の問題でしょうね」


「そりゃ、一旬日くらいでどうにかなる話じゃねえぞ」


「いや、だから何とかして『砂丘の底』の場所まで連れて行かなければならないの」

「あ、これって、一周回って元に戻る、って奴だ……」


「何かいい案はないの?」

「……」

「ねえ、何もないの?」

「……」

「何とか言ってよ!」


 イラつくシルビアに、ニアが仕方なしに言う。


「えっと、リズを拉致して砂漠へ置き去りにして、目の前にある『砂丘の底』へ逃げ込む他に道がない、みたいな感じに追い込むとか?」


「乱暴だな、おい!」


 ジュリオに言われて、ニアがやや修正をする。

「じゃ、シルがハックした自動クロウラーに乗せて、『砂丘の底』まで配達する?」


「オレはそういう犯罪に関わりたくないぞ」


「でも、わたしたち三人もそうやって、ゴーレムに追われてオンタリオまで逃げて来たんだよ」


 ニアの言い分はもっともな部分もあり、元々ガーディアンは力業ちからわざを得意とする。


「私はコリンに拉致されて、この船に無理やり連れてこられたのだ。だからコリンに責任を取ってもらうのだ!」


「あれ、それならエレーナは帰ればいいのに?」


「どこにどうやって帰るのだ!?」


「そんなことはいいけど、他になければ、ニアの案が採用されちゃうんだからね!」



「あのさ、狭いながらもエギムで働いている人は、沢山いるよね」

 コリンは、何かに気付いたようだ。


「うん。今でも人口は三千人くらいいるわね」


「すごいね。でも、その人たちは何を食べているんだろう?」


「忙しい開拓者の為に、町がやってる公共の食堂や売店があるわ」


「リズは、何でそこで働かないんだ?」


「こういう町の開拓には、技術者や専門家が集まるのだ」

 シルの代わりに、エレーナが答えた。


「そうだな。俺たちのいたころもまだエギムは発展途上で、ケンとシルの両親も専門職だった」


「こんな場所に集まるのは、美味しい食事よりも栄養さえあればいい、と我慢する変人なのだ」


「なるほど。腕のいい料理人より、医師や栄養士がいれば充分ってことか」


「あのさ、リズが『砂丘の底』を発見するのと料理の腕を認められるのとは、別に考えればいいんじゃないかな」

 コリンが、結論を出す。


「最後の手段は、ニアの案でもいいよ。でも、もっと悪いのはリズの心が折れて、この町を離れてしまうことだ。その前に、自信を持って暮らせるようにならないかなぁ」


「そういうことね。それなら、私にも何かできそう……」


「うん。そうしているうちに何かイベントフラグが立って、勝手に砂漠へ行くかもよ」


 かなり楽観的な希望が込められた、計画とも言えない方針である。


「よし、それに期待しよう」


「そうだな。何もしないよりは、マシか……」


「ほぼノープラン、という計画なのだ!」



 


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