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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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神の使い

 

 フィルの古傷は、治癒魔法では治らない。


 だけど、ニアには得意の生物魔法がある。


「手首の組織全体を、メチャメチャ活性化させちゃうよ」


 ニアが握った手首が熱く膨らんだように感じるが、フィルには不快な感じではない。

 そのまま、ニアは魔力を強める。


 魔法により活性化された生命力が、本来の形を取り戻そうと勝手に組織を変化させている。


 やり過ぎると、ゴーレムのように強化されまくったごっつい腕に変化しかねないので、程々にして途中から治癒魔法に切り替えた。


「どうかな?」

 ニアが手を放す。


「どうって、まだ何も……」


「左手を握ってみて」


 半信半疑でフィルが左手を握り、開く。

 今までは、それすら痛みを感じて、簡単にはできなかった。


「痛くないし、痺れもない。力が入る。おお……」

「あなた、治ったの?」


「そうだ。もう完治してる。信じられん……」

 フィルが左手で、力強くロニーの手を握った。


「ああ……」

 ロニーが両手でフィルの左手を包む。


「お楽しみのところ悪いけど、次は右膝だよ」


 ニアにとっては、感動も何もない当然の結果として、自慢する気にもなれない。


「あ、ああ、頼んだよ、嬢ちゃん」

 ニアが、今度は両手で膝を軽く押さえた。


 マナが解き放たれ、フィルの膝が熱に包まれる。



 一方、キッチンでは。


「僕もコックなんです」

「あら、珍しい。でも本当に?」


 普通、店の客が勝手にキッチンに入って来れば、リズは警戒する。


 しかし、その少年はまるで弟のような笑顔で自然とリズの隣にいて、遠慮がちだが暖かな声で話しかけて来た。


「じゃ、何か作ってみてもいいですか?」

「よーし、お姉さんが満足する料理が出来たら、今日食べた分はサービスしちゃおうかな」


「よし、勝った!」

「こら、気が早いぞ」


 すぐ隣で劇的な光景が繰り広げられているとは知らず、リズは思いがけない料理対決に浮かれていた。


 最近はフィルの元気がなくなって、料理の話をする相手もいなかった。


 コリンが作ったのは、鶏肉のトマト煮込みとパプリカのマリネ、それにスペイン風オムレツであるポテトのトルティージャ。


「はい、完成!」

 それをあっという間に作り上げたので、リズもびっくりした。


「ええっ、もうできちゃったの?」


 実はこっそり魔法で加熱したり収納から出した加工済みの材料を使ったりと、かなりのインチキ三昧なのだが、リズに気付かれることはなかった。


「君、スゴイね!」


 味見をしてからまたびっくりしたリズは、すっかりコリンに感心している。


「これ、私にも教えてよ!」

 そういうリズからのリクエストに応え、コリンの料理教室が始まる。


 気が付けば途中からすっかり元気になったフィルが調理に加わり、ロニーはその間に素早く店仕舞をして、カウンターでニアと祝杯を挙げている。



「ニア、そろそろ帰ろう」

「えー、もうちょっとだけ~」

「ダメ」


 これ以上目立つのはまずいと、ほどほどにしてニアの耳を引っ張り無理やり店から引き上げたコリンは、緊張が解けてほっとしている。


 ニアは、まだ飲み足りなそうだったが。


「さて、僕らも帰って宿の部屋で祝杯を挙げよう」

「うん。これでダメなら、もう一度ケンの出番だね」


 村の夜は早い。

 夜の八時を過ぎれば、ほとんどの店が閉まっている。


 その分、農村の朝は早いのだが、ニアには関係ない。


 その夜は朝まで、二人きりで飲み明かした。



 コリンとニアが帰った後で、店に残った三人は、まだ興奮が冷めない。


「きっとあの子たちは、神様の使いだよ」

 ロニーは涙ぐんでいる。


「あんな凄い魔法は、教会の魔術師が逆立ちしても使えないさ」


 フィルはニアの治療を詳しく話した後で慌てて口止めして、リズの目の前でぴょんぴょん飛び跳ねて見せた。


「すごーい。本当に大丈夫なんだ!」

「ああ、リズには心配かけたな」

「本当に良かった……」

 リズも、ロニーと一緒に涙ぐむ。


「それに、あのコックの子も鮮やかな手際だったな」

「そうなの。私も、新しい料理をたくさん教わったわ!」


「ああ、俺も驚いた。それに、久しぶりに鍋を振るって楽しかったな……」


「明日からまた、店を開けるのが楽しみだね」

「……」


「リズ、あなたはそれでいいの?」

 ロニーは、リズの手を握る。


「これはきっと、魔法の神様がリズの思う通りにしろと言っているんだよ」


「……うん、考えてみる」

「ああ。しっかり考えるべき時だ」



 しかし、その翌日も日が暮れると神様の使いと言われた若者二人は店にやって来て、何事もなかったように賑やかに酒を飲んで、騒ぐだけ騒いで帰って行くのだった。


 フィルとロニーは二人から飲食代を取ろうとしなかったが、不思議と二人が帰った後には、適正な料金が精算されているのを発見した。


 そしてついに、リズは惑星エランドへ旅立つことを決意した。



 


感想、レビュー、ブクマ、評価、いいね、等々、気が向いたらお願いします!


読みやすくなるように、ちょこちょこ手を入れて修正していますが、気になった部分をご指摘いただければ嬉しいです!


今月末で完結予定ですので、もうひと踏ん張りです。


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