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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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リズとバート

 

「アイオス、依頼の内容を聞く前に、リズとバートについて教えてくれ」

 突然、コリンがそんなことを言った。


「はい。リズことエリザベス・ペリーは三百年前のエギム開拓時代に砂の中から私を見つけ出しました。リズの供給する微量のマナにより、千年以上行動不能だった『スペリオル』は再起動を果たし、それはペリー家の血筋に代々受け継がれ、現在に至ります」


 ペリー家三百年の歴史については、コリンも父や兄から多少は聞いていた。だが、マナの一件に関しては、コリンも最近まで知らなかった。


 アイオスが復活した今ならば、銀河のどこにも見つからないペリー家の裏歴史について、聞き出せる可能性が高い。


「先ずは、アイオスの話を聞いてみよう」

「そうだな」



「リズはテカポの農場で生まれ、両親は移住した教会の元精霊魔術師でした。リズ自身も魔術の才能に恵まれましたが教会へは入らず、畑仕事と料理が好きな田舎娘として育ちます」


「隣の農場にいた二歳年上の幼馴染バートも同様に魔術師の両親を持ち、バート自身も魔術師を志しました。残念なことに彼は才能に恵まれず、十五歳で失意のうちにテカポを離れます」


「同じころ、テカポの教会へやって来たフランクという魔術師にリズは恋をしますが、その恋は実らずリズが十六歳の時に、フランクはテカポを離れました」


「その後フランクの消息を求めていたリズのところへ、とある辺境の惑星にフランクがいるとの噂が届きました」


「リズは十八の時にテカポを出て、フランクを追って、まだ開拓から百年足らずの辺境の惑星、エランドへやって来ました」


「その後リズはエランドでフランクに会えず所持金も底を突き、ニューフィールドという町のレストランで料理人として働いていました」


「二十一の時に自分の店を持とうと当時新興の町だったエギムへ来て、砂丘の中に埋もれていた『スペリオル』と出会い、エギムの門前でレストランを始めます」


「その後砂漠で飲む冷えたエールが大人気となり酒場へと店を変え、そこで幼馴染のバートと劇的な再会を果たして、二人は結ばれます」


「これが、その後三百年にわたる砂丘の底の、創業にまつわる真実です」



「まさか、僕の先祖がテカポから来たなんて、知らなかった……」

 コリンは運命の不思議を感じる。


「リズがエギムでバートと出会った時、バートは白猫を連れていました。以来、砂丘の底には代々幸運を呼ぶ看板猫がいます」


「まさかそれが、わたしのご先祖様?」


「さあ、そりゃわからんぞ」


「さて、それじゃぁ、アイオス。依頼の詳しい内容を教えてくれるかい」


「はい。本来リズは十八の時にフランクの噂を辿りエランドへ来ることになっています。それが、因果律の乱れによりリズがテカポから動かない状況が続いているようです」


「ダメでしょ、それは。恋する乙女は王子様を追いかけなきゃ!」

「王子様とは結ばれないんだけどね」


「我々が指定されたターゲットポイントは、LM1218年6月20日のテカポです。史実では、リズは7月1日の定期船でエランドへ向けて旅立ちます。その前の一旬日の間にリズを定期船に乗せることが、第一の使命です」


「てことは、第二があるのか?」


「はい。第二のターゲットポイントはLM1221年9月6日です。この日、リズは砂漠の砂の中に眠っている『スペリオル』を発見し、その扉をマナの力で開きます」


「実際には、その何日か前に我々がエギムへ行き、確実に遭遇させるのが使命か?」


「その通りです。こちらは特に転移先の指定ポイントはありません」


「ミッションに失敗すれば、私もコリン様も、存在が根底から揺らぎます」


「わたしはネコのままかな?」

「どうなるんだ?」

「ドウナルンデショウ?」



「じゃ、出発までにまた私が情報を集めるわ。足りない分は、実際に三百年前のテカポへ行ってから追加で調べましょう」

 シルビアは淡々と語る。


「仕方ない、シルの報告を待って作戦会議だな」


「それにしても、教会と軍の上層部もグルなんだよな、これ」


「ヴィクトリアの警報は向こうに行ったけど、実際どの程度理解してるかは不明だな」


「じゃ、ガーディアンの存在を知ってるのは僕らだけなのかな?」


「その可能性は充分にある」


「今度ゴーレムが来たら余計なことを言わずに、そういう質問をちゃんとしようね!」


「コリン、それは誰に言ってるんだ?」

「全員だよ!」



「中間発表よ」

 翌日、朝食の席でシルビアが眠そうな顔で伝えた。


「リズはフルネームがエリザベス・ペリーで、テカポの出身で間違いないわ。バートはバートラム・ウィリスね。同じくテカポの出身で、服飾デザイナーとして婦人服を手掛けていたらしいわ」


 ニアは、はっとして顔を上げた。


「もしかして、砂丘の底の地下にあったクローゼットの服は……」

「うん。全部とは言わないけど、かなりの服がバートのデザインだったかも」


「スゴイ!」

 ニアとシルビアの顔が紅潮している。


「で、これが二人の写真」


 店を始めたばかりの、若い時代の立体映像が浮かぶ。


 リズは陽に焼けた健康そうな金髪の女性で、バートは黒髪で優しい眼をした、細身で長身の男性だった。


「それから、こっちはリズが恋したフランクね」

 そこに映ったのは、ケンによく似た金髪碧眼のイケメンだった。


「ケンだろ」

「うーん。三年後のケンかな」


「オレじゃねー!」


「これはもう本人なのだ!」

「んなわけないだろっ!」


「これは、シルじゃなくても惚れるわ」

「ニアは何が言いたいのかな~?」


 シルビアの殺気を感じて、そこで言葉が止まった。


「フランクについては、フルネームも不明。テカポを出てから先は教会とも縁が切れたようで、行方も不明よ。ま、それはもういいでしょ」


 そこでシルビアが大きく息を吐く。

「これで、作戦は決まったわね」


「何で?」

 ケンが不満そうに、眉を寄せてシルビアを見る。


「簡単よ。あんたがリズに会って、エランドに行くように誘導すればいいじゃない。フランクそっくりのイケメンに誘惑されたら、すぐにスッ飛んで行くわ」


「そんな杜撰ずさんな作戦に引っかかるのは、シルだけだよ~」

 ケンは言うが、他の全員は静かに首を縦に振るだけだった。


「へっ、ホントにこれで決まりなの?」



 


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