私たちには休息が必要だ
「あ、今のゴーレムのことは、ジュリオも忘れていないんだね」
「あの悪趣味な銀ピカの人形とは、前にも会ったような気がするな」
ジュリオも前回の遭遇について、幾らか記憶が戻ったようだ。
「うん、会ってるよ。この前は、わたしたちを抹殺しに来たのかも……」
「本当なのか?」
「砂漠で一方的に襲われたのは、事実だね。その後は町長と天の枷の兵士を二人殺した……」
「おいおい、物騒な奴じゃないか!」
「因果律が乱れているからだよ!」
「何だって?」
「因果律が乱れているので、うまく説明できないのだ」
「ニアとエレーナは、全然意味が解らずに言ってるだけでしょ?」
「何となくカッコイイから言っているのだ!」
「オレもよくわからないけど、何とかしないとな……」
「とりあえず、機関室へ行ってみようよ」
コリンはⅬⅬ-5で拾ったパーツを取り出した。
「なんだ、それは?」
「ⅬⅬ-5のコントロールルームで拾った、何かのパーツだよ」
「少し光ってるね」
「やっぱりニアにも、このマナの光が見えるんだ」
「よく見ないとわからない程度の、淡い光だよ」
「で、機関室のどこに関係があるんだ?」
全員で機関室にやって来た。
コリンは、以前エレーナを案内して機関室へ来たときのことを思い出す。
「……転移装置だ」
コリンはエンジンと反対側の壁にある、転移装置の主装置部分の前に立つ。
壁面に埋め込まれた複雑な装置を、端から見ていく。
その一角にあった妙な凹みを思い出し、手に持ったパーツを装着して、押し込んでみた。
「キー装置の接続と照合が完了しました。転移機能の主装置から、システムをバージョンアップします。新機能のアクティベート中です……」
「……完了しました。本船の転移機能に、新しい能力が付加されます。現在システムの統合中……完了しました」
「追加機能の上書き終了。ベリファイしています……終了しました。機能の追加行程が全て正常に終了しました。何か説明が必要ですか?」
突然始まったアイオスの長い独白が終了すると、あっけにとられた六人は互いに顔を見交わす。
「アイオス、概要を説明してくれ」
コリンは、そう言うしかない。
「封印されていた時間転移機能を、回復いたしました。機能制限として、MT喪失前後の五百年、合計千年間は保護下にあり、転移不可能エリアと設定されています」
ということは、それ以外の時間へ転移が可能になったのだ。
「これで俺たちは、ガーディアンになっちまったのか……」
「でもこれで、僕らの本来の時空間へ戻れるんだよね」
「ああ、そりゃよかった。目出度いな」
「じゃ、ご飯を食べよう。コリン、お腹がすいたよう」
「なんかさっき食べたばかりのような気がしなくもないけど……」
「因果律が乱れているんだよう……」
「とにかく元の時間に戻って、乾杯しようぜ!」
「そうだね」
「何時のどこへ戻るのだ?」
「そりゃ、僕らがヴィクトリアから姿を消した1月11日の翌日辺りかな」
「でも、私たちはもうここで、二旬近く過ごしているのだ」
「それに、せめて明日の夜、俺たちが無事にドーベル商会に救出されるのを見届けてからでもいいんじゃないか?」
「ああ、それもそうか」
「1月12日ではダメなのだ!」
「何故?」
「私の誕生日は1月15日だから、その後がいいのだ」
「ああ、エレーナは十五歳になるんだったよね」
「本当は、もうなっているのだ……」
「じゃ、明日まで待って、エレーナの誕生日へ転移しよう」
「みんなで祝ってやるぞ」
「それがいいのだ!」
それにしても、慌ただしい日々が続いた。
1521年4月3日の夜、ジュリオたち三人が無事にドーベル商会に救助されるのを確認した一行は、そのままアイオスの新しい能力により、同じエランド近くに留まったまま、1523年1月15日へと時間を跳び越えた。
ヴィクトリアで軍の艦隊に追われて姿を消したのが1月11日なので、僅か四日後の未来ということになる。
しかし、その間にエランドで濃密な十九日間を過ごしている彼らは、感覚的には過去へ戻ったように感じている。
船が転移した先では、惑星中が大騒ぎになっている。
三日前に突然砂漠へ出現した緑の森とその地下にあるシェルターには、一万人を超える生存者が収容されていた。
しかもそれは、二年近く前に町ごと崩壊したエギムの一部分であった。騒ぎにもなろうというものだ。
皮肉にもその第一発見者は、近くに隠蔽されていた犯罪組織「天の枷」のオーロラ基地だった。
偶然その場に居合わせた首領エリックの陣頭指揮により、基地のメンバーを総動員して生き残っていた町民の救出が行われた。
「天の枷」は、後に合流した保安部隊と協力し、共に怪我人や病人、それに子供や高齢者などの弱者を率先して近くの基地へと運び込んだ。
保安部隊も彼らの存在が非合法組織であると知りながらも黙認して協力し、その場では善意の救助部隊として受け入れた。
そこまでのニュースを確認して、『オンタリオ』の乗組員たちは、胸を撫で下ろしている。
そしてそれ以上の長居は無用と、結界により姿を隠したまま、以前立ち寄った辺境の星系へと転移した。
エレーナが合流してまだやっと二旬になろうかというところなのだが、すっかり『カラバ侯爵の城』に馴染んでいる。
とはいえ、肝心の酒場の営業を再開するのは、まだ先になるだろう。
「とりあえず、ゆっくり休ませて!」
というシルビアの悲痛な声が上がる。
コリンがニアとエレーナを連れてブリッジへ飛び込んできたあの日から、目まぐるしく様々なことが起きた。
最後に現れた銀色のゴーレムからの提案が残るが、まだもう少しの間は放っておいて貰えるだろう。
これまでの出来事と今後の予定を含めて、頭と心を整理する時間が欲しかった。