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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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悪夢

 

 そこへ、船室の床から生えるように、一体のメタルゴーレムが姿を現わした。


 サイズはおよそ身長2メートル程度で、船内用の縮小版と言ったところか。

 それでも、十分に大きく威圧感がある。


「これ、コリンの幻影魔法?」

 ニアが言う通り、確かによく似ている。


「僕は何もしてないよ?」

「じゃあ、これは何なのだ?」


 完全に実体化したゴーレムは、メインブリッジに集まるの六人に向けて、音声を発した。


「船団グレートシップスの諸君、はじめまして、私は遺跡のガーディアンを代表してやって来た」


「ああ、はじめまして、俺はジュリオだ。まぁこいつらを代表して話を聞こう」


「あのね、このおじさんは、ただの乗組員。船長はコリンで、副船長はわたし!」


「皆さんのことは、よく知っています」


「はい、そうですか……オレたち意外と有名人?」


「あの、今は忘却魔法を使ってないの?」

 急に色々思い出したシルビアは、戸惑いを隠せない。


「はい、使っていません。特に、そちらのお二人には効果がありませんので」


「で、何の用なの?」

 ニアが眉をひそめて、迷惑そうに言う。


「皆様は薄々感付いていらっしゃるようですが、我々は過去の改変を防ぎ、因果律のねじれを解消するために活動しています」


「因果律だと?」


「はい。千五百年前に魔導師が無秩序に歴史を改変しまくった結果、この世界は崩壊寸前にまで追い込まれました」


「それがMT喪失か?」


「そして因果律が乱れて混乱の極地にある中、全ての魔導師は力を封印するために過去へと旅立ちました」


 そこでゴーレムは全員の顔を見回すように、銀色に光る顔を振った。

「因果律の乱れを解消するための、ガーディアンとして活動するために」


「遺跡を守るのが、ガーディアンの役目だと聞いていたのだ」


「それは、ガーディアンの役目のほんの一部です」


「さて、我々の持つ一番の手駒であるゴーレムですが、少々その性能が劣る事態が目立つように、最近の活動では見受けられます」


「まあ、確かにあまり賢くないな。それに、コリンとニアの方が強いし」


「その通り。でも、コリンさんとニアさんの持つマナは、はっきり言って異常です。決して、ゴーレムが弱いのではありませんよ」


「しかし皆様はスゴイ。魔導師でもない普通の人間が、ここまでMTを理解し使いこなすなんて、奇跡としか言いようがありません」


「あら、照れるわね、ケン……」

「そりゃ、オレとジュリオのことだと思うけどな……」


「そこで、皆さんにお願いがあります」


「あ、出た。これも断れない奴だぁ!」

 ニアはテカポの出来事を思い出しているようだ。


「いえ、そんなことはありませんよ」

「ハニートラップじゃないの?」

「断じて違います!」


「話が進まないから、ニアはちょっと黙ってよ」

「ヤダ」


「皆様には、充分にガーディアンとしての素質と力が備わっていることを確認いたしました」


「えっ、まさか俺たちにガーディアンになれと?」


「はい。受諾していただければ、いつか仕事を依頼することになるでしょう」


「ほら、やっぱり断れない奴だ~」

「まあ、お二人の記憶は消せないので……これは仕方がないですね」


「じゃ、俺たちは断ってもいいのか?」

「この船を降りろとかいうのは、却下なのだ」


「それなら、選択肢は一つしかありません。ちょうど皆さんはエギムの行方不明者リストに載っていますので、このまま消えても問題はないでしょう」


「私は違うのだ」

「そうでしたか。ま、それはそれとして……」


「話を逸らさないで、ちゃんと答えるのだ!」


「ほらぁ、やっぱりハニートラップだったよ」

「だから違うでしょ、ニア!」


「では了承いただけたということで」


「こら、勝手に決めるのはダメなのだ。人の話をちゃんと聞くのだ!」


「では、何か他にご意見がありますか?」


 ほぼ三人の少女だけがエキサイトしている状況に、ジュリオが一石を投じる。

「その、因果律ってのは何だ?」


「時間への干渉により、時の流れが乱れます。流れが乱れれば、原因が結果に結びつかなくなります。それは、非常に困りますよね?」


「あんたの話し方は、なんだかメアリー先生みたいだな」


「あ、正解。参考にさせていただきましたぁ」


「姉さんは、もっと真面目に人の話を聞くのだ」


 だが、ゴーレムの姿を借りて話す何者かは、マイペースを崩さない。


「コリンさんが過去へ転移して皆さんがエギムの町へ干渉し、この時空間の因果律が大きく乱れました。それを正常に戻すため、何度かゴーレムを派遣しました。ご存じですよね」


「ヴィクトリアの南米ステーションで僕らを追って来たストーンゴーレムや、砂漠で最初に出会ったメタルゴーレムは、僕らを抹殺しようとしていたの?」


 コリンは努めて冷静に言ったつもりだ。


「あ、もしかしてコリンさん、怒ってます?」


「当たり前だ。遺跡の仕掛けで何人もの魔術師が命を落としているし、巻き込まれたエレーナだって危なかった……」


 コリンは知らずに拳を握り締めている。


「あ、行方不明の方は、ちゃんと生きてますよぅ。ちょっと記憶が抜け落ちているだけで」


 ゴーレムはそう言うが、年に何人かは行方不明者が出ていると聞いたし、実際にコリンの目の前で町長と天の枷の兵士がゴーレムに殺されている。


「色々難しい場面はあります。だからこそ、ゴーレムに代わって悪を討つ、あなた方が必要なんです」


「おい、コリン。なんか俺たち、うまいこと言いくるめられてないか?」


「オレも、こいつは胡散臭いと思う」

 だが、ゴーレムは一向に動じない。


「この申し出を受けていただけるのなら、一つだけヒントを差し上げますよ」


「よし、その話、受けたー」

 ニアが突然叫ぶ。


「ダメだって」

「だって、ヒントが聞きたいもん」


 だが、そんなやり取りにも構わず、ゴーレムは淡々と続ける。

「コリンさんが拾った丸い物。それを持って機関室へ行ってみてください」


「あー、聞いちゃったじゃないの、バカニア!」

 しかしゴーレムは、シルビアが叫ぶのもお構いなしだ。


「じゃ、私はこれで。仕事の依頼はそのうちに……」


「おい待て!」


 だがゴーレムが掻き消えるとスクリーンに星が戻り、アイオスは正常に機能を取り戻して、転移の完了を告げた。


「ああ。僕らの悪夢がやっと終わり、アイオスも目が醒めたようだね」


「何だったんだ、あの悪い冗談の塊のような、キラキラ人形は……」


 ジュリオは、気味の悪さを吐いて捨てるように、小声で呟いた。



 


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