今度こそ
前回同様、ゴーレムの動きは素早い。
コリンたちを無視してすり抜け、クロウラーへ突進しようとするが、二人の風魔法が左右から挟んで、ゴーレムの進路を変える。
並んだ二体のゴーレムは不意を打たれて接触し、盛大に転倒して砂煙を巻き上げた。
「はははっ、やったー」
無邪気に喜ぶニアの姿を捉えた二体は、遠ざかる船団に背を向けて立ち上がる。
ここで、初めてコリンとニアの小さな存在を邪魔者として敵認定したようだった。
「つまり、わたしたち二人は今回のターゲットじゃなかったんだねぇ」
それはそれで、ニアは寂しそうだった。
しかし、そんなことに構っている暇はない。二体が停止した隙を突いて、コリンは金属製の鋭い槍を二本飛ばす。
しかし、軽々と避けられてしまう。
せめて体のどこかに当てて、その槍の威力で金属の体を傷つけることが出来るのか確かめたかった。
コリンが考える間もなく、二体が別々に、ニアとコリンへ向かって来た。
コリンはニアの手を引いて、短距離転移で逃げる。
すぐにコリンは風魔法で圧縮した空気の壁を作り、一体のゴーレムの移動速度を落とした。
その場へニアを残したまま、ゴーレムの目の前に、一人だけ転移した。
すぐに魔法で金属の槍を造り、ゴーレムのボディへ突き刺す。
「どうだ?」
槍が易々とゴーレムの腹を貫通すると、さすがのゴーレムもそのまま動きを止めた。
もう一体のゴーレムは、それを見て二人から距離を取る。
「まんざら馬鹿でもないんだよねぇ」
ニアは、追撃の為にと造った槍を消した。
逃げたゴーレムが砂丘の上から二人を確認していると、その左右に新しいゴーレムが二体現れた。
「そういえば、この前埋めたのは四体だったな」
「ねえ、コリン。今のどうやったの?」
「このゴーレムの動きは素早いけど、3メートルもの巨体だからね。地上で素早く動けば、空気抵抗が大きい。現に、風切り音で移動を追えるほどだからね」
「うん。ひゅいーんて空気を切り裂いて動くね」
「だからほら、赤いオウムの飾り羽を魔法で揺らした要領で、ゴーレムの進行方向へ空気をぎゅっと集めてやれば、速度が落ちる」
「わたしの場合は、師匠に木の葉を揺らす練習ばっかりやらされたけどね……」
「で、その後はこちらがもっと早く移動するために短距離転移魔法、つまり瞬間移動を使うんだ。船の中で自分の部屋へ帰るときに、ニアが無駄使いしている、あの魔法だよ!」
「なーるほど、やってみるね」
とはいえ、一連の魔法を正確に連続して使うには、かなりの集中力を要する。
ニアは動き始めたゴーレムの一体に狙いを定め、圧縮空気のクッションを作る。
「ブレーキがかかったところで、瞬間移動!」
ちゃんとニアは、移動するゴーレムの目の前へ転移した。
「あれ、で、次は何だっけ?」
首を傾げているうちに、ニアは目前に迫るゴーレムの体当たりを食らい、弾き飛ばされて砂の上を転がって行った。
「ありゃりゃ……」
体重が軽いので勢いよく転がって行ったが、防御障壁のおかげで怪我はなさそうだ。
「(ニア、目立つから炎とか爆発系の魔法はダメだよ……)」
一応、コリンは釘を刺しておくのを忘れない。
そんなことをしているうちに、他の二体が船団へ迫っていた。
コリンは慌てて後を追って走る。
転移するまでもなく、本気で走ればゴーレムにも負けない。
逃げる船団はいい方向へ向かっているし、被害を与えない程度にこのまま追ってもらえば都合がいいと、コリンは途中で気付いた。
「(ニア、そっちの一体は任せたよ)」
「(オーケー、もう一度やってみるね)」
コリンは残る二体の進路を適度に妨害しながら、船団から視認できない距離を保って走る。
「(アイオス、キャラバンの進路はどう?)」
「(今の速度と進路を維持すれば、およそ五分で理想の進行方向へ乗ります)」
「(じゃ、このまま行くから付いて来て。キャラバンの進路に変化があったら、教えてね)」
「(承知しました。速度を維持して観測を続けます)」
「(あと、ブリッジのみんなへの説明もお願いね)」
「(承知しました。状況を説明して進路を維持します)」
「(コリン、こっちは片付いたよー)」
ニアがいつもの調子で軽く言う。
「(早いね。でも、残りの二体はこのまま船団を追って貰うからね)」
「(えっ。ああ、これ以上手を出すなってことね。わかった。じゃあ、そっちに合流するよ……)」
言い終わらないうちに、ニアがコリンの隣へ転移して来た。
「(うわ、びっくりした。そんな近くにいたのか)」
「(うん、コリンの背中が見えてたから、振り切られないうちにと思って)」
「(何言ってんの。走ればニアの方が早いでしょ!)」
単に、覚えたばかりの短距離転移を使いたかっただけのようだ。
ゴーレムの姿を走って追いながら、時々ニアは二体の目前へ転移しては逃げて、進路を妨害している。
おかげでコリンは何もせずに後を追いながら、時々アイオスに進路を確認するくらいしかすることが無い。
大きな砂丘を迂回して、谷底の一本道のような場所へ到達すると、アイオスから転進完了の報告を受けた。
「(この谷間のルートを抜ければ、ロワーズまでの最短距離上にジュリオたちの乗ったクロウラーとの遭遇点があります)」
あれから、ほぼ五分が経過している。
「(コリン~、ゴーレムが消えちゃったよー)」
「(ああ、そうか。じゃ、こっちも任務完了だね)」
「(途中に置いて来た怪我人の救出とかは?)」
「(どうやら大丈夫らしいよ)」
オンタリオのブリッジで船団の無線を傍受して、シルビアが安全を確認したらしい。
「(じゃ、僕らはブリッジに戻るよ)」
「(帰りはわたしの転移魔法でね)」
「(了解。頼むよ)」
二人はニアの魔法で、後方の砂漠にいるオンタリオのメインブリッジへ転移した。
「さて、今度こそミッションコンプリートだよな。もうこれ以上地上にいる意味は無かろう?」
ジュリオが全員の顔を見る。全員が無言で頷いていた。
そして、頃合いを見てコリンが口を開く。
「アイオス、軌道に戻ってくれ」
「承知しました」
アイオスが、船をエランドの高軌道上へ転移させた……筈だった。
「おい、ここはどこだ?」
ジュリオの問いかけに、アイオスの返事がない。
スクリーンは、星のない黒い闇に塗りつぶされている。
明らかに、転移先が違う。
だが、今回はアイオスのアラートも鳴っていなかった。