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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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緊急追加ミッション

 

 ジュリオたち三人は、夜の砂漠でワームに襲われた時に、たまたま通りかかったドーベル商会の船団に救出されている。


 その後ドーベル商会に身を寄せて、本拠地のロワーズで一年を過ごすことになる。だから、何が何でもドーベル商会の船団に救助してもらわねばならないのだった。


 今のままだと、その船団は遥か遠くの砂漠を通るルートにいる。


 エギムを襲ったあの砂嵐を避けるために、ルートを変えることがなかった。


 その理由は明らかではないが、何かちょっとした違いがこの結果に繋がっているのだろう。


「つまり、四月三日の夜までに、あの船団をジュリオたちのいる砂漠へ移動させなければならないんだよね」


「そうなるな。ところでコリン、その銀色のゴーレムってのはどんな奴だ?」


「え、ジュリオも見たでしょ。僕らが天の枷の基地近くを素通りした時に襲われた、メタルゴーレムだよ」


 だが、ジュリオは不思議そうに首を振る。

「そんなことがあったか?」


「知らないわ」

「オレも」

「エレーナは?」

「私は全然知らないのだ」


「ニアは覚えているよね」

「当ったり前、二人で砂に埋めたんだもんね」


「僕ら二人だけが覚えている……」

(シムが拾ったあの石と同じで、メタルゴーレムには忘却の魔法がかかっているのかもしれない……)


 無事に終わったと一度安心していたコリンは、背中に寒気が走り、震える。


(だからハロルドはメタルゴーレムの襲撃を忘れ、町長がシュルムさんに撃たれて死んだ、などと言っていたのかも……)


 ヴィクトリアのストーンゴーレムには、そんな力はなかった。


 だが、ストーンゴーレムが回収しようとしていたあの氷のような石には、同じような力が宿っていた。


 メタルゴーレムは、より上位の能力を持った存在ということなのだろう。


 コリンは、ヴィクトリアから時を越えて追って来るガーディアンの存在に、不気味なものを感じる。



「放っておいても、過去の改変を防ぐためにゴーレムが船団をジュリオたちのいる方へ追いやってくれるんじゃないの?」


 ニアは、そう軽く言う。その通りかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


「もし、そのゴーレムが現れなければどうなる?」


「歴史が変わってしまう」

「オレたちはどうなるんだ?」

「さて……どうなるんだ?」


「何か俺たちにできることはないのか?」


「この船がワーム形態になって、船団を追い込んで行くとか?」

 シルビアの提案には、可能性が見える。

「ケンの光学迷彩かコリンの魔法で店を見えなくすれば、可能だと思うわ」


「なるほど」

「やってみるか」


「よし、仕方ねぇ、緊急ミッションだな」

 ジュリオは、自分たちの命に関わっているので、不満は言えない。


「ちょっと待って、一時間ちょうだい。追加の作戦を練ってみる」

 シルビアの顔には、昨夜のような深い疲労の色が見える。


「じゃ、ご飯にしようよぅ」

「ニアは、いつもそれなのだ」


「その前に、シャワーを浴びたいんだけど!」

 シルビアがそう口にした瞬間、ニアの洗浄魔法がシルビアの体を包んだ。


「えっ…………く、悔しいけど、これっていい気持じゃないの。よし。じゃ私は仕事にかかるわよ」


「僕は食事の支度だね」

「私も手伝うのだ」


「俺たちは、シャワーでも浴びてくらぁ」


「わたしは?」

「いいよ、ニアはその辺で休んでて」

 コリンが言い終わる前に、ブリッジからニアの姿が消えた。


「て、転移魔法なのだ。最近ちょっとニアは調子に乗っているのだ!」


 悔しそうな顔をしたエレーナは、すぐに気を取り直してコリンの背中にぴったり貼りついて、後ろからそっと手を握った。



 そして、翌日の本番。


 砂漠に転移してワームに擬態した『オンタリオ』が、キャラバンの船団を襲う。


 と言っても、派手に砂を巻き上げながら近付くだけだ。


 一直線に目的地へと追うのではなく、不自然に見えないよう地形を生かして効率的に追い込むルートを、シルビアが策定した。


 近付きすぎて戦闘になってもいけないし、逃げるために無駄な水袋を消費させるのも、出来ればやりたくない。


 ただ自然と逃げやすい方向へ行けば、目的地の方角へルートを取るように。しかも、ロワーズの町へ戻るルートからも外れ過ぎない程度に、時間をかけて節度のある追い込みが求められる。


 順調に、計画通りのことが運んでいるように見えたのだが、エレーナが砂の中に銀色の輝きを発見してしまった。


「あれは、たぶん前と同じメタルゴーレムなのだ!」

 直接その姿を目にすれば、以前に見た記憶がうっすらと蘇るようだ。


「くそっ、せっかく上手くいってるのに、何で出て来るわけ?」


 シルビアが吐く呪いの言葉も届かず、ゴーレムは闇雲に船団を襲い、被害を出しながら気にせず一直線に追い始めた。


「おいおい、死者は出ないかもしれんが、ありゃ怪我人や要救助者がたくさん出るぞ」

 ジュリオも呆れる、一直線の追い込みだった。


「あれは、完全に僕らと同じ方向へ追い込もうとしているよね」

 そうなると、競合するワームとゴーレムの争いになる。


「おい。あいつ、こちらを敵視しているみたいだぞ」


「冗談じゃない、目的は一緒なんじゃねーのか?」

「でも、向こうはそんなこと知るかって感じだけど……」


「ヤバい、こっちに来る!」

「もうっ。これは私たちの獲物よ、横取りしないで!」


「コリン。やられる前にやる、だよね!」

 ニアが叫ぶ。


「仕方がない。邪魔者は消せ、だ」

 二人は外へ出て、再びメタルゴーレムと対峙する。


「今度は手加減しないよ!」


 更に船団へ襲い掛かろうとする、二体のメタルゴーレムの前に立ち塞がるように、二人が戦線に加わる。


 戦端が開かれた。



 


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