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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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介入

 

「な、なんだ、これは!」

 エリックが、悲鳴に近い声を上げる。


 ドロブニー町長は猛烈な勢いで柱に叩きつけられて、鈍い音を立てて床に転がる。


 その体はあちこちが不自然に折れ曲がり、動かない。一瞬でその命が失われたことは、明白だった。


 町長を弾き飛ばした銀色の輝きは、一体のメタルゴーレムだった。


 続いて、ゴーレムは銃を構える天の枷の兵士に襲い掛かった。

 兵士の後方へと、エリックが下がる。


 恐怖に駆られた二人が、身長三メートルはあるゴーレムの巨体目掛けて、銃を乱射する。


 素早いゴーレムの動きだが、距離が近いのでかなりの弾丸が、その輝く金属製の体に命中した。


 しかしその弾丸はゴーレムには効果なく弾かれて、流れ弾が後方の転移ゲート装置を破壊しただけだった。


 ゴーレムは素早い動きで接近すると、片手の一振りずつで二人の兵士を殴り飛ばして絶命させ、残るエリックたち二人に迫る。


 だが、ゴーレムはそれ以上の殺戮を望まなかったようだ。


 叫び声を上げて全力で逃げ去る二人を追わず、ゴーレムは床に吸い込まれるように姿を消した。


 コリンは結界で姿を隠蔽したまま倒れたスー・シュルムへ近寄り、治癒魔法を使った。


 ジュリオが撃たれた時に比べれば、かなり効果的な魔法が使えるようになっている。

 すぐに撃たれた傷を修復し、流血を止めた。


 措置が早かったおかげか、弱々しくもシュルムは目を開く。


 だが、不可視の結界に覆われたコリンの姿は、見えない。シュルムは長く意識を保つことがまだ難しいようで、すぐに目を閉じた。


 再び意識を失ったシュルムの体を支えると、コリンは二人で精霊の森へと転移した。



 突然現れたシュルムとコリンに、ニアは珍しく慌てた。


「この人、シュルムさんでしょ。どうしたの?」


「町長に撃たれたんだけど、治癒魔法で傷は治した。意識を失っているだけだと思う」


「無事なのね。良かった。シルたちが地上へ残った人を、こっちに誘導し始めたわ」


 尖塔の根元に当たるこの場所は森の中心部にある立入禁止区画で、柵と灌木に囲まれて周囲からは見えない。

 ここまで町民がやって来ることはないだろう。


 コリンは、マナ通信で状況を全員に伝えた。


「みんな聞いてくれ。ゲート装置の前に、メタルゴーレムが現れた。シュルムさんを撃った町長と、天の枷の兵士が二人、ゴーレムに殺された……」


「ご、ゴーレムが現れたら、作戦は中止だぞ!」

 ジュリオが叫ぶ。


「ゲート装置は銃で破壊されて、ハロルドは走り去った。シュルムさんは一命をとりとめたけど、ゴーレムはそれだけで消えてしまったんだ……とりあえず、シルのタイムテーブルからは、外れてないよ!」


「コリン、シュルムさんは無事なのね?」

「うん。治癒魔法を使い、ニアのところへ転移した。ハロルドと部下の精霊魔術師は、逃走した」


「それなら大丈夫だ。ゴーレムってのはよくわからんが、シュルムさんが生きているのなら大丈夫だろう。作戦は続行しよう!」


「いいのか、ジュリオ」

 隣にいるケンが割り込む。


「私も、大丈夫だと思う。ここまで来たんだもの、続けましょう。これ以上の不測の事態も、ある程度その場の判断に任せるわ」

 シルビアも仕方なく、納得している。


「わかった。コリン、そっちへお前のオヤジさんと兄さんが避難する。驚いて姿を見せるなよ」


「無事なんだね!」

「ああ。こっちは順調だ」


「わかった。最後の仕上げは、僕に任せろ」

「わたしも一緒だよ」


「ああ、俺たちも、もうじきそっちへ合流する」

「気を付けて来るのだ」



「どうしてゲート室にゴーレムが現れて、町長と天の枷の兵士二人を殺したんだろう?」


 コリンは悩んでいた。

(彼らの放った弾丸が、転移装置を破壊した。だからゴーレムが現れた?)


「でも、どちらにしてもこれからゲート装置は町と共に破壊されるし、誰かがこれで脱出したという記録は公表されていない」


(だとすると、シュルムさんの命を守るため?)

「そもそも、どうやってゴーレムは現れるんだろう?」


「コリンが一人でぶつぶつ言っておかしいのだ……」

 エレーナの言葉も、コリンの耳に入らない。


(町長はシュルムさんに撃たれて死んだ、と以前ハロルドは言っていた。本来撃たれないはずのシュルムさんが、逆に撃たれた……)


「あのままだとシュルムさんが死んでしまうので、僕に命を救わせるために、武器を持った三人を殺した?」


(……恐らくあの三人は、あの戦いで死ぬ運命だったのかも)

「だとすれば、僕があそこに隠れていることも歴史に織り込み済みだったのか?」


(シュルムさんは、何故ゴーレムに救われたのか?)

「この後のどこかで、シュルムさんが治癒魔法を使い誰かの命を救うことになっているとか……」



 エギムの精霊の森の直径は一キロあるが、コリンが救えるのはその中心部分の直径三百メートルの範囲だけの予定だった。


 教会に残り結界を守っていた四人の見習い精霊魔術師が、最後の避難者になる。だが、スー・シュルムの行方が分からず、まだ避難していない。


 ニアがスー・シュルムを連れて精霊の森の端にある教会へ転移し、もう一度治癒魔法を使って、意識を回復させた。


「お願い、シュルムさん。ここはもう危ないの。お弟子さんと一緒に精霊の森の中心部まで避難して!」


 ニアの説明が功を奏し、シュルムは四人の弟子に撤退を命じる。


 シュルムは弟子たちに背負われて、森の中心部へと避難した。


 僅か三百メートルほどの移動なのだが、それを見届けると、ジュリオたち三人もコリンたちの元に合流した。


「あれ。もしかするとシュルムさんには、四人の弟子と一緒に避難するという重要な役目が残っていたから助けられたのか?」

(おかげで、ジュリオたち三人も逃げ遅れずに済んだ……)


 何となく、コリンはすっきりした気持ちになっていた。



「よし、僕らもそろそろ帰ろう」

「おう、撤収だ!」


 コリンも加わり三人で維持していた精霊の森の結界を、解いた。


 光学迷彩装置だけは、そのまま尖塔を隠し続けている。


「帰還!」

 コリンの転移魔法で、六人揃って『オンタリオ』のブリッジへ帰還した。


「じゃ、もう一度行って来る」

「すぐ戻るよ」

 コリンとニアは、確保してある精霊の森の一画へと戻った。


「じゃ、先に森を転移させる」

「うん、行こう!」


 コリンは、ケンが作ったビーコンの一つに意識を集める。



 


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