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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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フェーズ2

 

「そろそろ、俺たちはクロウラーに乗って町を脱出するころだな」


「ああ、西門の方角へは行かれないぞ」


「よし、全町民の位置情報を把握したわ。逃げ遅れている人には、私の脱出ルートに沿って個別に地下シェルターへナビゲートしている」


 システムには極力干渉しない、などと殊勝なことを言っていたシルビアだが、充分にやりたい放題を始めている。


「大丈夫。私がみんなを誘導し、救ってみせる……」

 シルビアは自分に言い聞かせるように呟いた。


「問題は、この戦闘だな」


 その間にジュリオとケンは、東門で拘束されていた門衛たちを救出し、地上にいる町民の救助と避難誘導をお願いしてある。


 端末が使える限りは、シルビアがハックしている避難誘導ナビゲーションに必ず従うように、と。


 だが、時間が無い。


 残念ながら、地上で天の枷と交戦している守備隊は劣勢を強いられ、かなりの犠牲者を出して撤退している。


 その中にはコリンの父と兄が加わっているはずだが、まだ安否は不明だ。


 アイオスの外部録画記録には音声データが無かったのだが、セキュリティデータの中に音声データが別に存在することを、シルビアが発見した。


 それを解析したところ、天の枷と守備隊の武器以外の発砲音が何種類か記録されていた。

 町の民間人が、かなり戦闘に加わっていたようだ。


 その中に、二人の持っていた旧式銃の発射音もいくらか残っている。


 少なくとも町の東側で12時までは派手な戦闘があり、そこまでは銃の射撃音が確認されていた。


「あと二分待って。そこから先は地下への避難を諦めて、残った人を精霊の森の中心部付近まで避難させるわよ」


「了解。二分経過後、行動プランをフェーズ2へ移行、と」


「こちらのナビゲーションプランも、二分後にフェーズ2へ切り替わるように準備しているから」


 既にいくつかの爆弾が爆発し、地下への避難経路を潰し始めている。


 そろそろ地下への避難誘導も限界が近かった。



「ケン、あなたの家族もシェルターへ入ったわ。『砂塵飯店』の一家もね」


「そうか。よかった……シルの家族は大丈夫なんだろうな?」


「うん。元々地下にいた人たちは、ほぼ全員避難したわ」


「あとは、砂丘の底か……」


「コリンのお父さんとお兄さんが使う旧式銃の発砲音は、この東門から町の中心に向かって移動していたわ。今、個人認識情報を検索中……」


「あの二人はコリンと違って肉体派だから、無茶しがちだよなぁ……」


 ジュリオはコリンの家族とも仲が良く、強風で店が休みの日には、わざわざ二人と飲むために店に出かけたりしていた。


 そのまま嵐で帰れなくなり、店に泊ったことが何度もあるくらいだ。


「見つけたわ。端末に精霊の森の奥まで避難するように強制命令を送っておいたから」


「ああ。それで少し頭を冷やしてくれればいいんだがな」


「大丈夫、無事に目標へ移動を始めたわ。周囲の怪我人を助けながらなので、速度は遅いけど確実に精霊の森に向かってる」


「安全なのは、森の中心から百メートル以内だぞ。そこまで進むように、よく言い聞かせてくれ!」


「わかってる。任せて。コリンの家族を失うわけにはいかない」

「他の店員たちはどうなんだ?」


「大丈夫。まだみんな地下の家にいたから、もうシェルターへ入ってる」

「よし、あと少しで避難完了だな!」



 教会の地下にある転移ゲート室へ姿を現したコリンは、緊迫した現場に息を呑んだ。


(想像していた展開とは、かなり違うじゃないか!)


 部屋の隅で結界により慎重に姿を隠したまま、コリンは眼前の混沌とした様子を窺った。


(やっぱり。この場は一番情報が不確実かつ不安定で、怪しい局面だよなぁ……)


 ハロルドこと、天の枷の首領エリック・ゲレツは、部下の魔術師バルトシュ・クライフェルトを伴い上階の教会からこのゲート装置の場所まで降りて来て、そこで先に来ていた町長のヤロスレス・ドロブニーに出会った、という場面のようだ。


 双方が予期していなかった出会いらしく、互いに驚愕している。


 もう一人、この町の精霊魔術師、スー・シュルムがドロブニー町長に銃を突きつけられながらも、動じる様子もなく堂々と対峙している。


(さすが、シュルムさんは違う)


 スー・シュルムは転移ゲート装置を守るようにその前に立ち、ドロブニー町長が近寄れないように、魔法の結界を張っている。


 少し遅れて天の枷の兵士が二人、階段を下りてエリックとクライフェルトの両脇に控えた。


「ドロブニー、これだけのことをして、まさか一人で逃げようっていうのか?」

 エリックが、ドロブニーを追い詰める。


「何を言う。どうせ貴様らも、町民を見捨てて逃げるつもりでここへ来たのだろうが!」

 ドロブニーも、スーに銃を向けたまま叫ぶ。


「だが、この魔術師の持つキーが無ければ、貴様らも逃げられんぞ!」


 このときまでは、ドロブニーにはまだ余裕があるように見えた。


「そんなものは不要だ。このバルトシュ・クライフェルトは優秀な魔術師でな。どこの町の制御キーも簡単に破り転移することが可能だ」


 コリンには、それがハッタリなのか本当なのか、わからない。


 だが、保安部隊に追われた彼らが、ロワーズの町から転移ゲートを使って逃走したのは事実だ。順序としては、この一年後の出来事になるのだが。


「キーなしでゲートを開くだと、そんな馬鹿な!」

 町長も、かなり動揺し始めた。


 だが、エリックは構わず左右の護衛兵と一緒に、ドロブニーへ近付く。


「寄るな! 早くキーを渡せ。本当に撃つぞ!」


 ドロブニー町長が前に出て、震える銃口をスー・シュルムに向ける。


「よせ、無意味だ」

「違う!」


 エリックが冷静に吐いた言葉がドロブニーの癇に障ったのか、町長がもう一歩前に出た。


「そうだ。お前たちも一緒に脱出しよう。どうせ、この町はもう終わりだ!」


「なぜ、終わりなんだ?」


「数えきれないほどの爆弾が、町の地下に仕掛けられている」


「それに、もう時限式の起爆装置を作動させた。誰も俺の町からは逃げられない、逃がさない。押し入って来た天の枷のくそ虫と共に、滅びるんだ。全部、お前らのせいだぞ!」


 狂った瞳が、エリックを食いちぎるように睨みつける。


「町長、それは本当なのですか?」


 シュルムの方から町長へと近付く。


「来るな!」


 町長が持った震える銃が、突然火を噴いた。


 至近距離の銃弾が結界を貫き、スーの胸に穴を空けた。彼女は鮮血を吹いて、倒れる。


 天の枷の兵士が慌ててドロブニーに銃を向けるが、その後方にはゲート装置があって、撃てない。


 だが次の瞬間、大きな銀色の輝きが床を走った。それは町長に突進し、ドロブニーの体は激しく宙に舞った。



 


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