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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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時間線上のシルビア

 

 全員が揃い準備が整うと、アイオスは砂漠へ転移した。


 再びワーム形態になり、砂の中へ潜む。


 エギム襲撃の前後、天の枷の部隊がどこから来てどこへと逃げ去るかは、概ね把握できた。


 既に二か所の基地から武装した部隊が発進したのを、彼らは宇宙から捉えている。

 天の枷の内部では、ドーム基地とオーロラ基地と呼ばれる二か所だ。


 その呼称を『オンタリオ』の乗員たちは知らないが、どちらも所在地は掴んでいる。


 アイオスが選定した潜伏地はそのどちらからも遠い方角にあり、充分な離隔距離を確保している。


 ここから先の移動は、全てコリンかニアの転移魔法を利用することにした。

 バギーやクロウラーを使い、万が一それを回収できなかった場合のリスクを考えてのことだ。


 例え砂上に残るわだちでさえ、彼らが存在した痕跡を残さないようにしたい。


 この時まだ猫だったニアとヴィクトリアのジャングルにいたエレーナ以外は、素顔を見せることもできない。



「私がアイオスの記憶領域から集めた情報には、エギム内部の監視カメラや個人の端末によるライブ映像などが、ほとんど残っていないの」


 タイムテーブルをまとめる仕事を終えて、シルビアがぼやいていた。


 コリンもそれで、『砂丘の底』の外部監視映像に頼ることになった。


「きっと誰かが襲撃前に、町のセキュリティと通信インフラに介入していたのよ」

 シルビアは推測する。


「そんなことが可能なのは、ハロルドしかいないわ。ハロルドが一人でゲートに向かったのは、ドロブニー町長の逃亡を防いで拘束する目的よりも、外部からの救援が来ないようにゲートを破壊するのが目的だったのかもね」


「だからハロルドはゲートを破壊して、天の枷のクロウラーで町を脱出したのか?」


 それについては、実際に見てみないとわからない、とコリンは考える。



 町の警報が出ると同時に、外部への第一報も出ていた。

 しかし続報はなく、途切れがちの実況報道映像の後、詳細が伝わらぬまま情報が隔絶した。その状況はコリンも経験している。


 それは、これから町へ潜入し隠密行動をとる六人にとっても、望ましいことではある。


 ただ、シェルターへ脱出した町民の個人端末やその他の付随するローカルメモリーの中にある情報が、今後漏出する可能性はある。


 六人は極力姿を隠して、表面に出ないように行動するべきだ。


 だが避難誘導には、直接人と接する場面が必要になるだろう。

 その偽装をどうするか?


「治安部隊のサンドスーツとヘルメット型のヘッドセットにゴーグルで全身を隠せばいいんじゃねえか。避難誘導も楽になるぞ」


 ジュリオはそう言ったが、治安部隊の格好をしていれば、天の枷の標的になり、危険だ。


 そこで、全員が一般的な砂漠作業用の、気密性の高いサンドスーツを着用した。フードと反射型のフェイスシールドで、髪も顔も覆う。


 不審者扱いされそうだが、砂漠の町では決して珍しい姿ではない。


「私も極力、町のシステムには干渉したくないの。計画通りの動線を守って行動すれば戦闘には巻き込まれず、セキュリティにも捕捉されないはずよ」


 監視カメラや防犯センサーの類をすり抜けることは、今回の計画では最優先事項だ。

 何者かの介入や暗躍の証拠を残しては、過去の改変が疑われてゴーレムの出現する確率が上がる。


 シルビアが念を押すのを、他の五人が神妙な顔つきで聞いている。


「ここからは、タイトな時間線タイムライン上を全力で駆け抜ける。だから、イレギュラーな事態が起きたら、すぐに私に連絡して。何としてでも証拠を消すから。可能な限りは、こちらも動向をモニターして先手を打って介入するけどね」


「了解だ」

 ジュリオが代表するように答えて頷く。刻々と、時が刻まれる。



「よし、あと二分だ」

 ジュリオが確認する。


「今ごろ俺たちは、ハロルドにソーラーパネルを貰って浮かれているところだな……」


 11時30分に町に潜伏していた天の枷のメンバーが東門を襲い、占拠する。これが最初の動きとなる。


「もしこの初動がシルビアの作ったタイムテーブルと違っていれば、これは俺たちの知る世界ではない。全ての作戦を中止して、一度この星系から離脱する」

 ジュリオは、そう伝えてある。


「スケジュール通りに事が起これば、シルビアの作った時間線タイムラインに乗って、そのまま作戦実行だ」


 緊張感が走る。


「よし、予定通りに動いたぞ。作戦開始だ!」


 東門を急襲した部隊がスタンガンで門衛を昏倒させ、東門のコントロールを掌握した。


「始まるぞ。健闘を祈る!」

「「「「おう!」」」」

「…なのだ」


 ニアはエレーナを連れて、精霊の森へ転移する。


 コリンはジュリオ、ケン、シルビアの三人と一緒に、東門に近い建物の陰に転移した。


 魔法使いの三人は武器を持たないが、その他の三人は、護身用のスタンガンのみを所持する。


 だがケンの改造したブレスレットにより、弱いながらも防御結界を展開している。



 11時39分、砂丘の底が銃撃を受けた。


 一分後には、速度を落とした天の枷の戦闘車両が、次々と東門から町に入る。


 町の中へ散開した襲撃部隊の攻撃が始まると、保安部隊が散発的な応戦を始めた。


「じゃ、後は頼んだよ」

 コリンは三人をその場に残して、精霊の森へ転移する。


 転移した先は、精霊の森の中心部。町の結界を守る尖塔の下にある、立入禁止区域だ。既に、ニアとエレーナがそこにいる。


 ニアとエレーナは、二人で尖塔に強力な防御結界を張っていた。


 11時45分、町に緊急警報が発令する。


「来るぞ!」

 コリンが予告した直後、精霊の森上空に侵入した三機の大型ドローンが、空中から尖塔に向けて空対地ミサイルを発射した。


 ほぼ同時に着弾する爆発物に、なす術なく尖塔は砕け、根元から折れて地上へ落下する。


 だがその爆発音は本物だが、砕けて落下する尖塔は、コリンの作った幻影魔法だった。


 幻影の尖塔が地上に激突する瞬間に、コリンは土魔法による振動と、破壊された森の無残な姿を映す。直後に風魔法で巻き上げた砂が、森の中心部を覆う。


 だが、ニアとエレーナが結界で守っていた尖塔の本体は、実際にはびくともしていない。


「よし、あとはケンとジュリオが作った装置の出番だ」


 コリンが収納から出した小さなトランクには、残った尖塔を見えなくする、光学迷彩装置が入っている。装置を作動させ、周囲から視認できないことを確認すると、コリンは立ち上がる。


 尖塔が無くても教会の魔術師が数人いれば、町の結界は何とか維持できる。これもシルビアが確認している。


 ハロルドは当然その事を知っているから、先に尖塔を破壊して魔術師が下手に動けないようにしたのだろう、とジュリオは推測していた。



「ここまでは全て計画通り。じゃ、後は頼むね」


 コリンは尖塔を守り切れたことに、安堵した。


 尖塔の爆破による衝撃で、町の結界は一時的に喪失していたが、それも事実通りだ。

(教会側にも、何か攻撃があったのかもしれない。心配だ……)


 ここから先は、不明な点が多い。


 ニアとエレーナはここに残り、念のため尖塔と周囲の精霊の森に防御障壁を張り続ける。


 コリンは教会の地下にある転移ゲート室へと、自身の転移魔法で移動した。



 


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