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呪いはどこから生まれるのだろうか。
悲しみ、恨み、憎しみから生まれるのだろうか。
負の感情からのみ、生まれるのだろうか。
呪いは想いの強さから形を成し、想いの強さから人を害す。
本当に、それだけでなのだろうか。
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都内にしてはかなり広い個人病院の門前に、野中幸人は立っていた。個人病院と言っても既に廃業しており、板塀はところどころ朽ち、最低限整えられているものの木々は鬱蒼としている。住宅街にあるもののこの辺りだけ暗く、静まりかえっていた。この雰囲気は怖い。怖いが隣にいる人物の方がもっと怖い。
野中は顔を伏せたまま、横目で隣の人物を見る。綺麗に磨かれた革靴に黒いスラックス、黒い背広に黒いネクタイはまるで喪服のようだ。しかし、一番の問題はこの人物の風貌だ。耳には複数のシルバーのピアスに金髪ツーブロック。長髪なのか後ろで団子結びをしている。舐めている棒付き飴が時折歯に当たり、音が鳴るたびに肩が震えた。
その筋の人と言われれば納得してしまう。
「大丈夫っすよ、怖くないんで。」
盗み見てしまったのがバレたのか、視線がぶつかり、彼はへらりと笑った。野中は引き攣った笑みを浮かべると自分の足元を見つめた。
風で葉が擦れる音と、飴が歯に当たる音だけが聞こえる。自然と鞄の柄を強く握りしめてしまう。
「野中さんって、この辺りの人っすか?」
唐突な質問に顔を上げ、彼を見た。口角が上がり、首を傾げる姿は少し幼く見える。飴を舐め終えたのか棒を指で擦るように弄っていた。
「いえ、関東ではありますが、東京に出てきたのは大学からです。」
質問の意図が分からず、困惑しながらも答えると彼は満面の笑みを浮かべた。
「え!俺もっす!俺も最近、こっちに出てきたんすよ。」
彼の明るい声に思わず、言葉が詰まってしまう。
「俺、すごい田舎に住んでたんで初めて東京来た時、電車の乗り方わかんなかったんすよ。」
彼は照れたように笑うと、野中はどう返答するのが正解なのか愛想笑いで答えるしかなかった。
「あと、人がすっごいいるっすよね。うちはじいちゃんやおっさんばっかりだったから、色んな人がいて楽しいっす!」
声が弾み、楽しそうに話をしていたがふいに、あ、と小さく声を上げると頭を掻いた。
「野中さんの事聞けって言われてたんだ。」
野中は一瞬、息が止まった。何の意図があって自分の事を探ろうとしているのか、分からなかったからだ。顔に出てしまっていたのか、彼は慌てて首を横に振ると眉間に皺を寄せ、こめかみを押さえた。
「えっと、野中さんの周りで起こっていることの原因?を、突き止めるために、必要なことらしいっす!」
言い終わると彼は説明できたことが嬉しかったのか、顔を緩ませながら胸を張った。
「原因、ですか?」
「そうっす。」
彼は大きく頷くと、視線を上に向けた。
「権現坂社長からだいたいの事は聞いてるんすけど、野中さんのバックボーンも知っていた方がいいって、むじなづかさんが。」
むじなづか、が誰かは分からないがきっと彼より上の立場の人間なのであろうことは簡単に想像がついた。先ほどから彼は、誰かに言われた事を繰り返しているように見えたからだ。
「僕の事を知って、何か意味があるんですか?」
「分からないっす。」
即答された言葉に呆気に取られてしまった。
「聞けって言われたから聞くんす。」
笑顔でそういう彼の、その異常なほどの素直さに薄寒さを感じた。あの権現坂社長が依頼した人だ、問題はないだろう。しかし、本当に大丈夫なのだろうか。




