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第95話 『潜む者』

「うりゃああああっ!」


 女戦士たちが武器を手に、気合いの声を上げながら黒熊狼ベアウルフどもを迎え撃つ。

 そうして天命のいただきが好戦的な雰囲気ふんいきに包まれる中、ただ1人冷静にその場から離れていた人物がいた。

 鳶隊とびたいのアデラだ。

 彼女はボルドの処刑を見るに忍びなく最後列にいたのだが、それが幸いして襲撃に巻き込まれずに済んだ。


 アデラはけむりに巻かれぬよう山頂の外側まで離脱し、さらに黒熊狼ベアウルフに襲われぬよう、木の上に登り太い枝の上に陣取っていた。

 そして頭上を見上げて鋭く口笛くちぶえを吹く。 

 すると頭上を旋回せんかいしていた夜鷹よたかが山の斜面側へと移動した。


「あっちに……誰かいる」


 アデラは身軽に木から木へと飛び移っていく。

 ダニアの女としては小柄こがらなほうで、武器を使った直接戦闘の能力が他の者よりも低い。

 そんな劣等れっとう感を抱える彼女だったが、この身軽さと鳥を使った能力には自信があった。

 そうした才覚を見出みいだしてくれたブリジットのために何かをしたかったが、処刑の決まったボルドを助けるには自分では力不足だった。


(ブリジットのために少しでも何かを出来るとしたら、これしかない) 


 あの黒熊狼ベアウルフたちの動きには人の意思を感じる。

 鳥を使役する彼女だからこそ分かるが、けものにも意思というものがあるが、それは人のように理路整然としたものではない。

 だというのに黒熊狼ベアウルフたちはひたすらあの場を混乱させるように暴れ回っていた。

 仲間が殺されようと決して逃げもせずに。


黒熊狼ベアウルフを操っている者が近くにいるかもしれない)


 使役者の命令が解かれれば、けものはただのけものに戻る。

 そうなれば今ほどの統率は取れないだろう。

 そう考えたアデラは夜鷹よたかの案内に従ってゆるやかな斜面に生える木々を飛び移って進む。

 するとアデラは前方に異変を感じて目をらした。


(……人がいる)


 アデラは太い木の枝に止まり、そのみきに姿を隠すようにして前方をすがめ見る。

 すると前方数十メートル先に人の姿があった。

 その人物はアデラと同じように木の枝の上に待機している。

 新月で月明かりがないために森の中でその姿はハッキリとは見えない。

 だがその人物はすでにアデラの接近に気付いているようで、その木の上から離れて逃げ去っていく。


「待て!」


 あわてて後を追うアデラだが、相手は彼女とは比べ物にならないほどの速さで木から木へと飛び移って行く。

 だがアデラはあきらめずに追った。


(この先はがけだ。迂回うかいしようとしたところを押さえる)


 アデラは鋭く口笛くちぶえを吹き、近くで待機させていた鳥を呼び寄せる。

 それは空を飛ぶのではなく、地面を走ってアデラの元へ文字通り駆けつけた。

 その鳥は体高は180センチほどもあり、体重は70キロにも及ぶ巨大なヒクイドリだった。

 翼は退化して飛べないが、地上を時速50キロにも及ぶ速度で走る。

 そしてその戦闘能力は高く、鋭利にとがったつめで突き刺せば、その突進力も相まって人間を殺せるほどだった。


 アデラは身軽に木の上から飛んで宙に身をおどらせると、ヒクイドリの背中にまたがる。

 ヒクイドリは慣れ親しんだアデラをまったく嫌がることなく背中に乗せ、走り出した。

 だが森の中なのでヒクイドリも最大速度では走れず、相手との距離は一気には縮まらない。

 

 しかし谷はもう目の前まで迫っている。

 行き止まりだ。

 谷の向こう岸までの幅は10メートル弱はあり、とても飛び越すことは出来ない。

 そして落ちれば下は谷底が見えないほどの高さであり、助からないだろう。


 そう思ったアデラだったが、その人物はまるで臆することなく加速し、がけギリギリに生えている木の枝の上から一気に向こう岸に向かって飛んだ。

 アデラは思わぬ事態に息を飲む。

 谷間を飛んだその人物が空中で夜空の星明かりに照らされた。

 風に舞うその髪は銀色にかがやいていた。


 そして人間(わざ)とは思えないほどの跳躍ちょうやく力で向こう岸に到達したその人物は、そこで一度アデラを振り返ると目を細め、それからきびすを返して森の中へと走り去って行った。

 アデラはがけの手前でヒクイドリにまたがりながら、その様子を呆然ぼうぜんと見送るほかなかった。

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