№8
「王妃様がおみえになりました。」
コスプレの騎士らしき人が偉そうに言ったその言葉に私はあからさまに嫌な顔をしたと思う。無意識に気持ちが顔に出てしまった。今更しょうがない……。
その嫌そうな顔をコスプレのおばさんと騎士さんに見られた。
絶対的に避けたかったのに…、とうとう王妃様とやらに会うらしい…。
この騎士さんも相当なりきっているし…、王妃様……。………。
想像したら怖くなったてきた。どんだけ上から目線の傲慢な王妃様がやってくるのかと思うと、産まれてこのかた庶民肌の私は、きっちりと自分の意思を王妃様とやらに言えるのか自信がない…。ずるずるとこのままコスプレの集団に入れられてしまったら困るっ。
「!!!!!」
出たーーーーーっっ!!! 煌びやかすぎるーーーーっっ!!!
ひぃぃぃぃぃ!!! 王妃様だよーーーっっ!!!
なにこのドレス!!! 本格的過ぎるーーーーーっっ。…………。
あまりの完璧な王妃様に私はしばしバカみたいに口を開けっぱなしで王妃様を凝視していた。
私の姿を見るなり、驚いたように口を開け目を大きくしている可愛らしい子。
わかりやすいわ…。ふふふ、本当に可愛いわ…。
お金持ちなんだ…。きっとそうなんだ…。無駄に完璧だし…。こんな事にだいの大人が本気でお金をかけるなんて……。信じられないし…。大人のお遊びなら同じ趣味の人達と楽しんで欲しいっ。
無関係な私を巻き込まないでぇぇぇーー…。
外人さんの考える事は日本人の私にはさっぱりわかりません…。
「王妃様、お待ちしておりました。こちらが保護した少女です。」
コスプレのおばさんが、聞き捨てならない言葉を言う。なに?保護した?あんた達が私を追い掛け回したんでしょっっっ、しかも、こんなとこに連れ込んで、ハッ、もしかして、ここで眠り込んでいたのもそのせいかも、拉致られたっ? 誘拐???
一般庶民の私なんか誘拐する価値ないのにっ、我が家は普通の家庭ですと大声でいいたいっ。
私の動揺を察してくれたのか、コスプレのおばさんが大丈夫と言ってるようだけど正直意識が飛びそうで反応できない。
「立ち話もなんでしょう。サラお茶を淹れて頂戴…。」
王妃様は、本当に王妃様のような言葉と態度で会話をしている。ある意味すごいです…。
もう何がなんだかわからなくなりそうな私は、目の前の王妃様をじっと見ていた。
私の視線に気づいたからなのかわからないけどにっこりと音でも出そうな笑顔を向けられた。
「椅子に座りましょうか? 」
その笑顔にビクッとした。よくよく見ると凄い綺麗な人、コスプレのおばさんやお姉さんも綺麗だけど、この王妃様とやらは最強クラス…。見た目もこの迫力だから王妃様と言う役がぴったりな感じで、どこまでこの人達はなりきっているのかと違う意味で感心してしまう。誘拐されているかもしれない自分の立場なのに、バカな事を考えていた。
目の前の紅茶を優雅に飲む王妃様、完璧です。もうそれしか言えません。
私にも飲めとしつこく言うので飲んでるけど、熱くて飲めませんっ。
「あなたにはこの状況が不思議でならないわよね…。」
!!!!! 何? もしかして…誘拐した事を認めた?
「何もかもが違うでしょ?」
!!!!! そりゃーあんた達のその格好が違うんでしょうがっ、私が普通なのよっ。
「この世界ではこれが普通なのよ…。」
なにぃぃぃぃ?? この世界ーーーーっっ。 勝手に世界にしてんじゃないわよっっ。
いまどきそんな格好している人のほうが珍しいってばっっ。
「私の息子…皇太子のお嫁さん候補として、あなたは選ばれてこの世界にやってきたのです。」
うわぁぁぁぁ…、なりきるにもほどがある…、トリッパーものの設定ですか…。
「受け入れ難いのはわかります…。あなたの意思を無視して呼ばれたのですから…。」
いつのまにか立ち上がっていた私、頬を伝う大粒の涙。
あぁ……、一生懸命…頑張っていたのに……。
この運命に必死に逆らおうとしていたのに……。
泣いたらダメじゃんっ……、泣いたら認めた事になるのに……。
私の………バカ……。
どこかでわかっていた……、それはいつからだろう……。
物語で読んだ事がある異世界へと落ちた人の話。
現実逃避をしていたのは私の方……。
小説の中だけの話だと思っていたのに……。
自分が異世界へ来てしまうとは……思ってもいなかった…。
でも……もしかしたら…わずかばかりの期待に……しがみついていた。
やっぱり王妃様になんか会うんじゃなかった……。