№9
そりゃーーもう、泣きましたよ。
時間かけて泣きましたよ。
気が済むまで泣いてやりましたよ。
目は腫れて、鼻は真っ赤、声は枯れ、目の周りは擦りすぎてヒリヒリ…。
もう、子供のように泣きました。
私の小さな抵抗。
なんて事をしてくれたんだと言う、抗議。
そんな事しても、まったく気は晴れないけどやらないよりはまし。
その間ずーーと王妃様、何も言わずにただ黙って私の前に座っていた。
そりゃーそうよね、何も言えないよね…。
だって原因っていうか、こっちの都合はまったく無視なんだもん。
人の人生弄んで、こんな所に連れてこられて……。文句ぐらい聞くよね。
あれだけ泣いたのに、また泣きそうだし……。
「行ってみましょうか? あなたが現れた場所に…。」
王妃様の提案、私は勿論即答した。
「はい、行きます。」
私がこの世界に足を踏み入れた最初の場所。
確かめたい、この現実を見なければいけない…、何故かわからないけどそう思ってしまう。
連れて来られた場所は、神殿の中にある神降殿と名の付く部屋。
神殿の中でも一番神聖な場所だって説明を聞いた。
その場所はとても厳かな雰囲気に包まれていた。
神のお告げを信じ、召還が行われた場所。
「ここで…皇太子の嫁召還の儀式が行われました…。あなたの他にあと三名が選ばれました…」
「え? 私の他に三人……。」
「ええ…、あなたの他に三人…。」
待って……、……………。ちょっと………。
「もしかして……、四人も異世界から呼び寄せたの?」
「そうです…。」
ふつふつと沸いてくる怒り、許せない。
「あんた達、狂ってる……。たかが皇太子の嫁の為に……、四人もの運命を変えて……。」
「……………。」
無言の王妃、心配顔のエマとバルバラ、二人の様子をじっと見ていた。
「何様のつもり? 神のお告げってそんなに大切なわけ? 」
「……………。」
「答えてよっ。…………、」
「…………。」
答えない王妃様にイライラとしてくる。
「どうして黙っているのよっ。なんで答えられないのよっ。」
「神のお告げに従ったまで…。」
「神の……お告げ……、………、そんな事の為に……、私は……、こんな所に来たって言うの?」
「神がお選びになった女性です。」
「何が神よっ、そん神様なんか信用できるわけないでしょっ、人の人生めちゃくちゃにして…。家族と引き離されて、慣れ親しんだ土地から無理やり連れて来られ、これは許される事なの?」
「神は人々の幸せを願ってます。」
「私はこの世界の住人じゃないから、幸せにならなくていいっていうの?」
「神はあなたの幸せも願ってます。」
「嘘っ、じゃぁ…なんで…私は……こんなに悲しいのよ…、なんでこんなに不安なのよっ。」
「神が決めた事…、ここがあなたが幸せになる世界だと…。」
「勝手な事言わないでっ、どうせ息子の事しか考えてないんでしょっ?その為ならなんだってするんでしょ?それがこれなんでしょ?」
「違うっ、……違います…。あなたの幸せも考えてます…。」
「それなら…帰して……、今すぐ……元の世界に帰してよっ。」
「それは……できません…。」
「お願い……、お願いします…。元の世界に帰して下さい…。」
「一日も早く…この世界に慣れるように……、全力で手助けします。」
私の前で泣き崩れる少女に、かける言葉が見つからない…。
彼女が言ってる事は理解できる…。
そう思われても仕方のない事……。
神よ……この少女を私達の元へと遣わせた理由は何ですか?
本当に異世界に来てしまったんだと思った…。
ぐちぐち文句を言う分言って泣く分泣いて、今は神殿から私が居た部屋に戻っている。
さっきは気が動転して周りをよく見る余裕がなかったけど、ここって全てが大きい。
よくよく考えたらここの人達は皆凄く大きい。
私は決して小さい方ではない、いやむしろ大きすぎたくらいなのに…。
この私が小さく見えてしまう程に皆、背が高い。
前を歩く王妃様も、先導している騎士さんも、コスプレのおばさんもお姉さんも…。
みんな軽く二メートルくらいありそうな感じ……。
騎士さんなんか、二メートル以上は絶対ある。
人だけでなく、建物も大きい。サイズを考えたらこの人達にあわせただけなんだけど…。
植物も木も大きい。さっき鳥がいたけど、恐ろしいくらいに大きかった…。
正直言って、これからの事とか考える余裕はないけど、いつまでも泣いているわけにもいかない…。だからと言って何をしていいのかさえもわからない…。
さっきとは違う部屋。今日からはここが私の部屋なんだって…。
さっきの部屋も豪勢だったけど、ここはまた、格段にグレードアップされている。
ゴージャスすぎる。こんな普通の私にこの部屋はおかしくないかと言いたい。
かなり嫌がったけど、もう決まっていると言われてあきらめた。
どうやら、私のためにわざわざ準備してくれたみたいだった……。
王妃様がそこに居た人達を紹介してくれた。
コスプレのおばさん、名前はサラさん。そしてお姉さんの名前はローレンさん。
この二人がこれから私のお世話をしてくれるらしい。
それから騎士さん達、一人はアビエルさん、もう一人はエリアスさんそしてバルバラさん。
いつのまにか一人増えていた。二人しか居なかったのに、しかも女の人。
その人達は皆笑顔で、私に握手をしてくる。暖かくて大きな手だった。
握手を知らないわけではないが、よく考えたら普段の生活で握手はほとんどしない。
仲の良い友達とさえ、真面目に握手なんかしたことがない。
だから変に照れてしまった。
たかが握手、されど握手…。
「そして、私はこの国の王妃、セレスティーヌ、」
王妃様が名乗った…。どうしよう…。サラさんや他の皆さんが物凄く私を見ている…。
目でうったえられている。これって私に名乗れって言ってるのよね…。
「私は須藤ゆりあと申します。」
「スドウユリア、名前?それとも…。」
「あっ、須藤が性で名前はゆりあです。」
「まあ、ユリア…、なんて素敵な名前なのかしら、ユリアって呼んでもいい?」
「はい。」
名前を褒められてちょっと嬉しかった。単純な私…。
「本当なら女官が二人に侍女が三人程いるのが普通なのですが…、しばらくの間は、サラとローレンの二人です。二人ともとても優秀なので五人分は軽くこなしてくれます。安心してね。それに騎士達は三人、あなたの事を全力で護ってくれます。この三人もとても優秀です。」
「あの…、自分の事は自分でできますので、お世話をして頂かなくても大丈夫です。護衛は正直わかりません、護衛が必要なほど危険なんですか?」
物凄く聞きにくい事だったけど、ずっと気になっていた。
今がチャンスとばかりに私は聞いてみた。
「あなたはこの国の皇太子妃候補なのです。他国の姫や、貴族の令嬢と同じ位の立場にあります。女官や侍女が居て当然なのですよ。勿論護衛の騎士もです。」
「それは皇太子妃候補だからですか?だったら候補から外してください。」
「それはできないわ。受け入れて頂戴。」
「私は普通の家庭に育ちました。相応しくありません。」
「それを決めるのは、皇太子本人。」
バッサリと切られてしまった。
なるほど…、皇太子本人が決めるのか…。
これはもう嫌われるしかありませんね……。
何も問題もなく嫁候補から除外される事決定。
四人もいるんだし、一人位やる気がないのがいても構わないよね…。
でも…、四人が全員私のように嫌がっていたらどうしよう…。
まあ、その時は皆で協力して乗り切るしかないかな…。
あとの三人ってどんな人達なんだろ……。
「ユリア、……ユリア?」
「あっ、はい。」
つい考え事をしていて、今の状況を忘れるとこだった…。
「食事にしましょうか、私もご一緒してもいいかしら?」
断る事なんてできるのだろうか……。たぶん無理だよね…。
サラさんが緊張したような顔で私を見ているし…。
「はい。」
簡潔に返事だけした。視線の端にサラさんの安心した顔がチラっと見えた。
この部屋の隣が食事をする部屋だと説明を聞いた。
開けられたドア、目の前には準備が整ったテーブル。
「ユリア、どうぞ、沢山召し上がれ。」
「え?」 とりあえずにっこり笑って頷いておく。
王妃様が食べだしたので、私も食べる事にした。
「何か好き嫌いはありますか?」
ニコニコと笑いながらの王妃様。私は隣に立っているローレンさんに視線を向けた。
「好き嫌いはありますかと、聞かれてますよ。」
「今のところありません、とっても美味しいです。」
「それは良かったわ、おかわりもありますからね。」
「ん?なに?」 視線をローレンさんへと向ける。
「おかわりもありますって言われてますよ。」
「ありがとうございます。」とりあえず言ってみた、おかわりとか無理だし…。
満足そうな顔で王妃様が笑ってる。
「ユリアと食事ができてとっても嬉しいわ。」
あぁ……また……。
どう考えてもこれって無理があるでしょ…。
私はあなた達と違って聴覚が動物並みに発達してないからこーんなに離れていたら聞こえない。
このテーブルいったい何メートルあるのよ、二人しか座らないのにわざわざ端と端に座る必要ないんじゃないの? 王妃様が若干小さく見えるし…。気づいたら挙手していた。
「あの……、とっても言いにくいのですが、離れすぎていてまったく聞こえません。」
王妃様はそれはもう驚いたような顔をされましたよ。
私が聞こえていない事に気づいてなかったようですね…。こっちがびっくりです。
「まあ、そうだったのね、気づかなくてごめんなさい。サラ。」
王妃様がサラさんを呼ぶと、サラさんはわかりましたと言うように頷いた。
立ち上がる王妃様、同時にサラさんとローレンさんが凄いスピードでテーブルのセッティングを変えていく、そして王妃様は私の近くへと移動してきた。
「ふふ、これで楽しく食事ができますね。」
王妃様……満面の笑みを浮かべているよ……。怖いぃぃいいっ。
庶民の私と話しなんかしても噛み合わないと思いますけど…。
それに私、自慢じゃないけど人と上手く話せる方ではないのに…。
「ユリアはとっても可愛いわね、今、何歳なの? 」
「18歳です。」
「「えっ? 18歳?」」
なんか今…声が重なったような気がしたけど……。
あからさまにコソコソと話すサラさんとローレンさん。
何?どうしたの?……私って何歳に思われていたんだろ……。
「まあ!! もう成人しているのねっ。」
「いいえ、私の国では二十歳が成人ですのでまだです。」
「こちらの世界では、女性は十六歳が成人なのよ。」
十六歳で成人? そんなまだ年端もない子供を大人とみなすなんて、
なんて無謀な世界なのここは…。
怪訝な顔をしている私に王妃様が問いかけてくる。
「ユリア? どうしたのですか?」
私は自分の感想を素直に述べる事にした。最初が肝心だもんね。
何でも言うって印象付けておかないと大変だしね。
「はい、十六歳ってまだまだ子供なのに、それを大人だと認めてしまうのは少し怖いと思いまして…」
「ええ、そうね、そう言う見方もあるわね。でもね、自分に責任を持つ為に早くからその意識を付けさせる為になの、勿論、成人したとは言え、親は子供の面倒はその後も見るのよ。」
なるほど、それも一理ある。
「教えて頂いてありがとうございます。」
とりあえず礼を言っておいた。
「いいのよ、疑問だとかわからない事は遠慮しないで聞いてね。」
私の質問がとても嬉しかったようで、ますます笑顔になってるし…。
サラさんから、『王妃様、良かったですね』とか言われてる…。
何が良いのかわからない…。
その後もずるずると食事の時間は長引きやっと終わってさっきの部屋に戻ると、さほど小さくもないケーキらしい物が待っていた。
「食後のデザートです。」にこやかな笑顔のローレンさん。
なんでらしいかと言うと、緑色しているケーキ…。見た事ない…。
流石異世界、緑って言ったら、メロンとか抹茶とか想像できそうだけど、全く違う。
どっちかと言えば、ほうれん草とか、青梗菜を思い描く色だったから…。
これは…、食べたくないっ。食欲がまったくそそられない。
王妃様が美味しいと言っている。凄く嬉しそうなのがわかる…。
私に食べろと言わんばかりの視線を向けている…。
こんな所で空気が読める自分が嫌になる。
とりあえず食べましたよ…、苦しい…。もう無理…。
味は思ったほど悪くなかったのがせめてもの救いでした…。
お茶らしい物を飲んでいると、サラさんが嬉しい事を言ってくれた。
「王妃様、もう遅い時間です。そろそろ…。」
「ああ…そうね、楽しい時間はあっと言う間ね…。残念ですわ…。」
ありがとうっ、サラさん。もう限界でした。くたくたでした。
「ユリア、今日はとても楽しかったわ、また来ますね。おやすみなさい。」
本当に残念そうな顔をして王妃様が言うから、
「私も楽しかったです。ありがとうございました。おやすみなさい。」
と、返した。これは一般的な挨拶だし、これくらいはいいよね。
長かった王妃様との時間にやっと開放された…。
「ユリア様、お疲れになられたでしょう。このまま湯浴みをしておやすみください。」
ユリア様に反応した私、様なんか付けなくていい。だから二人に言いました。
でも、それはできないと言われた。言われたと言うよりも懇願された。
ユリア様と呼ぶ事をものすごくお願いされた。だから…渋々承諾しましたよ…。
正直、様なんか、恥ずかしい…。自分で悶えてしまうほど恥ずかしすぎるのに…。
二人の立場を考えると承諾するしかなかった…。
呼び捨ては流石に怒られるのかな…。呼び捨てでもいいのに……。
案内された場所で、サラさんとローレンさんに服を脱がされかけて、抵抗した。
まじで、お決まりのようにお風呂にまでついてくるのかと驚いた。
物語とか小説の主人公がお決まりのように嫌がる場面、まさか自分が経験するとは思いもしなかったので、ここはきっぱりとお断りをしました。お風呂くらい一人でゆっくりのんびりしたいよ…。
広い……。広すぎる……。無駄に広くて怖い……。
向こうの方とか、湯気で見えないし……。
鏡が無数にあるのも恐怖が倍増してしまうじゃないの…。
うぅ…、小説とかで、ここまで書いていてくれたら、私…抵抗しなかったのに…。
そしたら…、嫌がらずに三人でお風呂に入ったのに…。うぅぅ。
何かが動いたとビクッとしたら、鏡に映った自分がいろんな角度にいるし…。
怖いので、歌でも歌えおうと少し声を出したら、妙に反響してまたまた怖い。
ゆっくりするどころか、逆に落ち着かない、ビクッビクッと恐怖で身体が跳ねる。
なんの為にここまで広いのか……。まったくわからない……。
お風呂から出で行くと、心配そうな顔をした二人が居た。正直二人を見てホッとした。そんな私を見てサラさんが言った一言。
「怖かったでしょう…。お一人で……。」
わかっているなら言わんかいっ、と思ったけど、言わせなかったのは自分。
反省しました。だからその意味も込めて、明日から宜しくお願いしますと言った…。
「ユリア様…、申し訳ございません。あの…お年を勘違いして……。」
手にしていたのは、お花模様の可愛いナイトドレスと可愛い動物のついたナイトドレス、それと星みたいな幾何学模様がついたこれも可愛いナイトドレス。柄とかまったく問題ないのに、泣きそうな顔をしているローレンさんが気の毒になってしまった。
「どれも可愛いですね。それじゃ今日はこれを…」
私はお花模様を指差した。嬉しそうにそれを私に着せていくローレンさんだった。
「明日はこっちにします。あとは、順番にしてください。」
「そんな…、作り直します。今日はこれで我慢してください。」
「勿体無いです。私はそれでかまいません。」
私とローレンさんのやりとりを聞いていたサラさんが入ってきた。
「ユリア様のお気持ちとっても嬉しいです。今後作る時は少し大人っぽいのにしますね」
「はい、それに…もし、既に準備している物があるなら、それを無駄にしないで下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
嬉しそうに微笑むサラさん。
私だって…、そりゃ…、心細い…この二人と仲良くしたい…。
たかがパジャマの柄くらいで、人間関係壊したくない…。
こんな…打算的な考えだって…知ったら…驚くよね…。
優しいふりをしてしまった…。こんな自分が嫌になる。
また無駄に広い寝室に大きすぎる天蓋つきベッド。
もう驚いたりはしない。ある程度予測はついていた。
寝る前のお茶だと言って、香りの強いものを飲まされた。
なんだか急に眠気が襲ってきた。これはありがたいな…。
今夜はきっと…眠れないと思っていたから…。
ふかふかのベッドにそのまま潜り込む。
「お母さん…、お父さん…、ごめんなさい…。」
一晩中泣く覚悟をしていた私は、睡魔に抵抗せずに眠った。




