プロローグ
はい、確かに願いましたよ…。でもね……、だからって……これはないでしょ…。
念願叶い晴れてこの四月から大学生になった初々しい新入生の私は、こんなはずではなかったとかなり
頭の痛い日々を過ごしていた。
入学式の翌日から、サークルの勧誘から逃げる日々が続いている。
それも背が高いと言う理由だけで追い掛けられていた。
ええ、そうですとも、私は背が高い。好きでここまで成長したわけではない。
これはただの遺伝子。余計な遺伝子めっ。
両親も兄弟も祖父母までもが背が高い。だからお決まりのように幼少の頃より誰よりも大きい。
男なら良いが、女で大きいのは悲惨すぎて泣ける。
勿論、お年頃にもかかわらず、男の人と親密な関係になんか産まれて一度もなったが事ない。
気づいたら世の中の殆どの男性から敬遠される存在になっていたし…。
ここまで背が高いのなら、いっそモデルとかになればいいと、友人達は言うが
そんな簡単な事ではないってばっ。てか、性格的に無理。人前に出るのが嫌だから…。
目立つ事が大嫌い。目立ちたくないのに、大きいってだけで無駄に視線を浴びてしまうから
いつからか、視力はすこぶる良いのに、伊達めがねをかけるようになってしまった…。
めがねかけたって身長が縮まるわけではないけどね…。気分的なものだけです…はい…。
だから大学生活には物凄く夢を描いていたのに…。
だって…、この身長に女子高生の制服は似合わない。似合うはずがないっ。
それでも…両親や兄弟達は…、かわいいと言ってくれていたけどね…。
家族意外の人から、可愛いとか言われた記憶なんかないし…。
正直言われたくもないっ、強がりでもなんでもないんだけど…。
だから、ずーーーと、ずーーーと、願っていた。小さい頃から願っていたわよっ。
お正月の初詣も、ご先祖様の墓前の前でも、ずーーとお願いしていたわよっ。
七夕の短冊にだって毎年書いていたし…。
それなのに……。
だからって……、これはないでしょ……。私…これからどうすればいいの……。
サークルの勧誘から逃げる為に走っていた私は、階段を踏み外してどうやら命を落としたらしい…。
階段から落ちていく時に、走馬灯のように産まれてからこれまでの記憶が脳内を駆け巡った。
まるでスローモーションのようにゆっくりと落ちていく身体。
きっと衝撃とかで身体が痛いはずなのに、その感覚はまったくなかった。
そんで気づいたらここだし…。
妙に白い眩しい部屋。そしてまた妙に白く輝く人。
その白い人は自分の事を神様だと言う。…………。…………。
「ちょっと、その目は何? 神様だって言ってるでしょ。」
「…………。…………。神様ですか?……。」
「そうよ、私が神様よっ。」
「へーーー…。そうなんだ…。」
「信じてないようね…。」
その神様と言う人は、オネエ言葉だった。なぜか見目麗しい美形でイケメン。
私の想像していた神様とはまったく違うその姿。私の想像では、白髪に長い髭に杖をついてるお爺さん
あまりにも違いすぎるリアル神様に正直ドン引きしてしまった…。
無駄にかっこいい。かっこ良過ぎる。神様と言う職業にその外見はいらないと思うけど…。
お爺さんの方が威厳があってしっくりするのは、私だけだろうか…。
「あの……、私は……どうしてここに?」
「まあ…言いにくいけど…、あなたの寿命が尽きたのよ…。」
「寿命? え? もしかして…本当に死んだの?」
「んーー…。寿命って言うか…。本来なら大往生で死ぬ予定だったけど…、ラッキーな事にあなたの
長年の願いを叶える為に違う世界で新たな人生を歩むって事になったと思って頂戴。」
「何勝手な事言ってるんですかっ?元の世界に戻してくださいっっ。」
「あっ、それは無理よ。あなたの世界の神様と約束しちゃったんだもん。この子の願いを叶えてくれと
頼まれたからね。あなたの事がずっと気がかりだったみたいよ…。お優しい神様ね。」
「それって…優しいの? ええっ?違うでしょ?ねー違うでしょ?」
「あら、意外に賢いのね。見直したわ。そうね、痒くもない所を血が出る程かかれた気分よね。」
両手両足を床につけて落ち込む私に神様の容赦のない言葉がつきささってくる。
「人間あきらめが肝心よ。新しい世界で幸せになってね。」
その途端、鼻の奥がツーンとしてきた。自分の死を自分で認めてしまったからだ。
頭に浮かぶのは、優しい両親や家族の事。今更だけど、背が人より高いなんて悩み自分の命をかける程
ではないと悟ってしまい後悔が押し寄せてくる。
「私を元の世界に戻してっ、神様ならできるでしょ?二度と背が高いのが嫌だなんて言わないから…
お願い…、私を元の世界に戻してください…。」
「諦めなさい、それしか言えないわ…。」
言葉が出ない私の背中を神様がなでてくれた。その途端我慢していた涙が溢れてくる。
泣きながら神様に対して言ってはいけない言葉を吐き続けた。それと同じくらい帰りたいと言っては
泣き続けた。
神様は私が泣き止むまで優しく抱きしめてくれた。
酷い言葉を言われても、その手は変わらず暖かい。
その暖かな感覚は言葉では言い現せない。これが神様と言うものなのか…、安心感は半端ない。
毒を吐き続けながら、一生このまま神様の腕の中にいてもいいと思えるほどだった。
どのくらい神様の腕の中に居たのか、哀しくて仕方ないのに、癒されていくのがわかる…。
神様がこれからの事を考えなさいと優しく語りかけてくる。
私はやっと落ち着きを取り戻してきた。涙も止まり呼吸も戻り神様の腕の中で、ただボーッとしていた。
「このまま話しを聞いてね、あなたの第二の人生を踏み出す場所の事なんだけど、丁度都合よく
異世界召喚が行われている国があるのよ、そこにあなたをポンと送りだすからね。」
「あの…。意味がわかりません…。」
「その国の王子の嫁を呼び出すみたいなんだけどね。候補者が三人召喚される予定みたいよ、
だから、三人も四人も、そう変わらないし、それに王子の嫁候補だと身の安全も保障されるでしょ
一石二鳥よね。しかも異世界人があなたの他に三人も居るのよ。心強いじゃない。」
「あの…、さっぱりわからないのですが……。」
「うまくいったらお姫様よっ。一生安泰よっ。頑張りなさいっ。」
「ええーーーー、嫌ですーーーっ。私…男の人が苦手で……。困りますっ。無理ですっ。」
「あら、大丈夫よっ。あなたとっても綺麗だし。きっと王子も気にいるわ。それに王子イケメンよっ」
「いやいや、そんな問題じゃなくてっ、まずその設定が無理なんですっ。お姫様候補とか無理だしっ
一般庶民でいいです。結婚するなら心優しい真面目な不細工がいいです。ど田舎にでも放り出して
下さいっ。お願いしますっ。」
「それは無理ね…、まず危険すぎます。一番安全なのは王宮なのよ…。この世界を知らない者を
そんな危険な場所に放り出したりできない…。わかってちょうだい…。」
「無理……。お姫様なんか…。嫁にならなくてもいい?わざと王子に嫌われてもいい?」
「私は…、あなたが将来、后となり王の横に立つのを願っています。」
「どうして?私なの?」
「あなたの望みが可愛らしかったからよ…。何年たっても変わらない願いがね。」
「なっ、神様の期待に応える事はできません…。全力で嫁候補から脱落する、してみせるっ。」
「わからないわよ、王子に気に入られたら?」
「産まれて一度も異性から好意を持たれた事なんかないです。こんなに大きな女誰だって嫌がるし…」
「あはは、まだそんな事言ってるの? あなたの願いは叶っているのよ。」
「私の願い? 叶ってる?」
「そうよ。」
あっ…思い出した…。そう言えばそんな事を言われたような……。気がする……。
階段から落ちている途中に……。
『お前の願いを叶えてやる。幸せになりなさい。』
「あなたの願いはなーーに?」
「私の願いは……、私より大きい人達が沢山居る世界に行きたい。」
「そう、それよ、あなたの世界の神様が叶えてくれたのよ。あなたの望みをね。」
うぅぅ、と小さく呻り声をあげてしまった私を見て神様が微笑む。
「旅立つあなたに、私から贈り物があるの。」
「贈り物?」
「ええそうよ。とっても役に立つわよ、ただし、努力しないと宝の持ち腐れだけどね。」
「何?」
「魔力よ。」
「まりょくーーーーーっっ。??? あの…私が行く場所って…魔界ですか?魔人がいるんですか?」
神様が言うには、これから私が行く世界の人々は魔法が使えるらしい。それは魔力に関係しているらしい。魔力が生まれつき無い人達も沢山いて、魔力がある人達は必死で魔法を習得するらしい。
その魔力が一番強い家系が王家の人々で王族の流れをくむ人々、国民の羨望と尊敬と憧れの的らしい。
いまいちピンとこない。マジシャンは日本でも人気があったけど……。魔法使いとなると話しは別…、
どっちかと言うと嫌われ者のイメージ。毒りんごを持っていじわるをしそうな感じだし…。
それにお婆さんの姿しか浮かんでこない…。魔力に魔法……。きっと私には居心地が悪そうな世界。
神様からむやみに魔法が使えると他人に言ってはならないと言われた。
言われた意味はわかるけど、正直魔法なんか今まで一度も使った事ないし、見た事もない。
だから、自分が魔法使いになったと言われても納得できないし、それが良い事なのか悪い事なのかも
わからない。神様が言うには、私の魔法を利用しようと言う人達がいるかもしれないからだとの事。
つまり、自分の私利私欲の為に私の力を悪用したくて、私に優しい言葉をかけ近づき意のままに動かそうと悪巧みをする輩が多いとの事だった。
正直言って、魔力なんか必要ないと神様に懇願したけど、あっさり却下されてしまった。
必ず役に立つし、無いよりはあった方が良いと熱弁された。
どうも私の魔力と言う物は、神様が無駄に入れすぎてしまった為、膨大な力を持ってしまったらしい。
だから普段はその魔力を他人には悟られないように隠して過ごすようにと厳しく言われた。
この隠すと言う行為が難しいのなんのって、私はあれから何時間も魔力を隠す練習をさせられている。
ちなみに神様も普段は隠して過ごしているらしく、ちらっとだけその力を見せてくれたけど、
それは凄いものだった。身体に得たいのしれない力がくわわり、まともに立っている事もできず、
ビタンッとその場にカエルのようにはいつくばってしまった。普通の人間はここまで凄い力は持っては
いないらしい、神様は他人の魔力により何らかの影響を受けた事がないので説明できないと言われた。
「召還の日になれば嫌でもわかるわ、王族がウヨウヨいる中でしょ、魔力保持者が一同に集うから
魔力の大きさとか属性とかもあなたにはわかるはずよ。その能力も付けておいたからね。」
「属性? それ何ですか?」
「魔力には属性があるの、火、水、土、風、おおまかにこの四つね。一つしか使えない者もいるし、
中には四つ全て使える者もいるわ。まあ、詳しい事はこれから自分で学びなさい。あなたは全て
使えるわよ、但し、宝の持ち腐れにならないように、しっかりと勉強する事ね。」
「あの…、魔法って…勉強しないとできないんですか?」
「そうね、だから使える者は皆から尊敬されるのよ。」
「もし…、魔力が大きくても怠けていたら使えないって事ですか?」
「そのとおりよ。厳しいようだけど、真面目で勤勉な者だからこそ、その力の恩恵をうけれるのよ。」
「もし…、なーーんにも勉強しなくて過ごしたら?」
「勿論魔法なんか使えないわね。あなたは勿論勉強するでしょ?そして世の為人の為に使いなさい。」
有無を言わせない神様に押されて仕方なく『はい』と返事をした。
とてつもなく不安でたまらない……。
わざわざ異世界なんかに行かなくていいのに…。
「私…このまま死んだら駄目ですか?」
「駄目っ、神様同士の約束だから、あなたは天国にも行けないわ…。寿命をまっとうしなさい。」
「勝手に人の命奪っておいてなんなのよっ。不安でたまらないのに…。誰一人知り合いも居ないしっ
頼れる人も居ないのに…。怖いの……。怖くてたまらないのっ。」
「私が居るでしょ。」
「困った時は助けてくれるの? 辛い時はそばに居てくれるの?」
「それはできないわね…。でも、いつでもあなたを見守ってる。私があなたを知っている。」
優しく微笑む神様の笑顔にはきっと、人を惑わす力があるのかも、私はこの笑顔に弱い。
全身から溢れ出る癒しのオーラの威力はすごい。すさんだ心もマイナスな思考も溶かしてくれる。
神様には全てお見通しなのかもしれない、私が神様に甘えている事も……。
これは、背が高い事を幼い頃より悲観して、幼少の頃より数えられない程の回数、
神様に自身の願いを聞いてほしいと訴えてきた女の子の物語。
不本意ながら、その願いが叶ってしまった主人公、須藤ゆりあ、18歳。
この春大学生になったばかりの身長186cmの女の子だった。