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第六話 優しさに触れて

 今でも忘れられない、おじさんの優しいことばが甦って来る。

「坊っちゃん、汽車で帰りなさい。時間も時間だし、これから暗くなるから、おじさんはとても心配に思うんだよ」

「大丈夫、電車の運賃はおじさんが出してやるから!」

 おじさんは、寒さが深まるこれからを、自転車で帰る僕のことが想像できていたのである。

 僕は迷った。

「でも、自転車が!」

「大丈夫、おじちゃんが必ず届けてあげるから」

「寒いから、そうしな!」

「おじちゃん、いいの?」と、不安そうに少年は訊ねた。

「大丈夫、約束するから」

 おじさんは、自宅に自転車を届けてくれると約束すると、少年に満面の笑みで微笑みかけた。

「おじさん、ありがとう」

「お言葉に、感謝いたします!」

 僕は、文房具屋さんに深々とお辞儀をして駅に向かった。駅に、たどり着いた少年は、涙をハンカチで拭いながら、切符を買い込み汽車に乗り込むのであった。

 外は、白銀の世界、文房具屋さんの、温かい心に触れて、人の優しさに温かみを感じた。それが、僕にとって、とても嬉しく感じられたのである。

 それから汽車が、動きだす。雪煙が舞い、鉄道は白い銀河を進んでゆく。

 僕は、汽車に乗りながら、今日の出来事を振り返っている。辛かった文房具屋さんへの道のり。

 そして、一番は人の優しさに触れたこと。

 窓から見える景色は、外の樹氷が木々をおおっている。暗くなった夜景に、白く光る美しいその鮮やかな樹氷は、少年の目に焼きついた。

(寒かったな、大変だったけど、温かい思いやりに触れたことは最高の思い出である)

 正月明けの、思い出は少年の心に深く刻まれていた。自分の住む町にたどりついた頃は、家族が迎えに来てくれていた。

 文房具屋さんが、連絡してくれていたのである。

「おかあさん、ごめんね」と、僕は言葉を詰まらせた。

「何言うの、頑張ったでしょう。お帰りなさい!」と、母は優しく少年を迎えてくれた。

 僕の、その日の思いでは、これからも心に残るであろう。そんな、人情の感じる物語は、人々に温かみという贈り物を植え付けてゆく。


終わり。


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