よく晴れた日の、ぶつかられおじさん
杉山隆が初めて、自転車にぶつかられたのは梅雨には珍しい、よく晴れた日のことだった。
その日の昼休憩、同僚の吉岡は杉山に聞いた。
「その自転車、避けれなかったの?」
「避けれたよ」
「なんでぶつかったの?避ければ良かったじゃない」
「それが、おかしい」
経理の杉山は、会社の同僚だが、理屈っぽい。
営業部との相性は最悪だ。
杉山は弁当の蓋を開けながら聞いた。
「何がおかしいんだよ」
「危険な方が直進して、安全な方が避けるという仕組みだ」
「自転車が危険なら、なおさら避けろよ」
「それを繰り返すと、自転車側は学習する」
「何を」
「人間は避ける、と。」
杉山の主張はこうだった。
「横断歩道に歩行者がいれば、自動車やバイクは止まる。教習所で習うことだ。」
また杉山の謎の主張が始まった、と吉岡は思った。
「しかし、自転車は横断歩道に歩行者がいても止まらない。」
吉岡が口を挟もうとすると、杉山は続ける
「また、歩行者側にのみ信号がついている時も同じだ。車両側が赤信号でも、自転車はほとんど止まらない。減速すらしない。」
吉岡は箸を止めずに食べながら尋ねる。
今日は、弁当にほうれん草が入っている、歯に詰まるので嬉しくはない、と吉岡は思った。
「確かに自転車が間違っているかもしれないが、何も轢かれることはないだろう。
危ないし。そこまでして避けない理由は何なの?」
「行動のあとに不利益がなければ、その行動は強化される」
「AIみたいな言い方だな」
「自転車乗りよりも、AIの方が安全倫理が高い」
この理屈っぽさと強引なこじつけが、いつも敵を作る。
最も、こじつけに関しては、仕事では抑えているようだ。
陰で、営業部の若手が「ウザすぎ山」と呼んでいるのを聞いたことがある。
吉岡は、若手をたしなめたが、きっと若手同士ではまだ、そう読んでいるに違いない。
杉山は味噌汁を飲んだ。
ズズズ。
「つまりだ、僕が避けるという行為は、一見すると事故を回避している」
「防いでるよ」
「短期的にはね」
「は?」
「それでも長期的には、危険走行自転車を育てている」
吉岡はしばらく杉山を見た。
「お前、自転車にぶつかられて頭でも打った?」
「肩だ」
「じゃあ元からか」
最初に聞いた時も、頭をぶつけたかな、と吉岡は思ったが、次週の話を聞いて、確信に近づいた。




