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第96話 神威の顕現

 シールが構えたことで空気が変わった。

 まるで大地そのものが震えているかのような重圧がその場を支配した。


 前線にいた兵士たちが思わず息を呑む。


「団長が加護を……!」


 誰かが声を漏らした。


 シールを中心にして、魔力が波紋のように広がっていく。


 敵側もその異変を察知したのだろう。

 女オーガが足を止めた。

 後方にいた剣士もまた視線を向けてくる。


「……思い知るがいい」


 シールは低く呟く。

 そして、その場で巨大な盾ごと腕を振り上げた。


「……来い」


 直後。

 広がっていた魔力が、一気に収束する。


「っ……!?」


 女オーガの身体が強引に引き寄せられた。

 地面を踏み砕きながら耐えようとするが、それでも止まらない。


 加護による強引な引き。

 空間が圧縮されることにより、女オーガとシールの距離は縮まった。


 そこへ。


「ぬぅぅぅぅぅんっ!!」


 振り上げられた巨大な盾が叩き込まれる。


 ゴガアアアァァァ____ァン


 衝撃と共に、女オーガの身体が地面へ叩きつけられた。

 周囲の大地が砕け、放射状に亀裂が走る。


「……っ!」


 それでも女オーガは沈まない。

 砕けた地面の中から、野獣のように獰猛に感情を荒げながら、起きあがろうとする。

 シールの首に食いつかんばかりの剣幕だった。


 その眼光はさらに鋭くなっていく。


「これでも倒れんか。なら……」


 再び盾を振り上げた。


「吹き飛べ!」


 ドオォォォォォ______


 盾が叩き込まれた瞬間、加護が発動する。

 女オーガの身体が砲弾のように吹き飛ばされた。


 それは単純な腕力ではない。

 加護による空間拡張がその勢いを増長させた。


「今じゃ! 撃て!!」


 シールの声が響く。

 盾となっていた女オーガが戦線を離脱した。


 今ならば、銃の攻撃が通る。


 ダダダダダダダン________


 銃士部隊が一斉射撃を開始した。

 無数の銃弾が剣士へと襲いかかる。


 その前へ、少年と甲冑兵が飛び出した。


「なっ!?」


 二人は剣士を守るように立ち塞がる。


 そして、甲冑兵が大剣を地面へ叩きつけた。


 ドッ、ゴァァァァァッ____


 衝撃と同時に暴風が発生する。

 迫っていた銃弾の軌道が逸れていく。


 だが、完全には防ぎきれない。

 少年と甲冑兵は剣を前へ構え、急所を守りながら銃弾を受け切った。


 撃ち抜かれる二人。

 銃弾は甲冑兵のそれすらも貫通した。


 それでも二人は倒れない。

 前衛が気を引いている隙に壁が展開される。


<漆黒の盾で我を守れ__ソル・シャドウウォール>


 ヴヴヴ______


 周辺に影が広がる。

 同時に地面から巨大な闇の壁が何重にも展開された。


 銃弾が次々と壁へと突き刺ささる。


「来るぞ!」


 兵士の叫び声。

 影の壁に隠れながら近づいてくる。


 ザッ__


 剣士、少年、甲冑兵が飛び出してきた。


「ぐぁっ」


 土人族ドワーフの兵士たちが次々と斬り伏せられていく。


「こいつら、さっき銃弾を食らっとったよな!?」


 兵士の顔に動揺が走る。

 銃弾をいくつも食らったにも関わらず、動きがいっさい衰えていない。


 少年も甲冑兵も、たとえ致命傷を避けていたとしても確実にダメージはあったはずだ。それなのに、まるで何事もなかったかのように戦い続けている。


 その異常さが、兵士たちの士気を削っていった。


「ワシに続け!!」


 シールが前へ出る。

 巨大な盾を構え、そのまま影の壁へと突進した。


 ドオォォォォ______ン


 影の壁が砕け散る。

 衝撃音が肌に響く。


 だが、一枚では終わらない。


 さらに、二枚、三枚。

 何重にも展開された壁を、シールは強引に破壊しながら突き進んでいった。


 そして、視界の端に甲冑の兵士を捉える。


 甲冑兵は壁を破壊しながら突き進むシールに狙いを定める。

 大剣を振り上げ斬りかかる。


「届かんよ」


 次第にシールとの距離が広がっていく。

 そして、甲冑兵は壁へと叩きつけられた。


 ぐぅん______


 甲冑兵を壁へと押さえつけたまま、シールは一瞬で距離を詰める。


「っ!?」


 直後。


 ゴォォォォォン______ッ


 背後の壁と巨大な盾で挟み込むように押し潰した。

 鎧が軋み、壁が砕ける。


 衝撃で周囲の地面すら揺れた。


「まずは一人じゃ」


 甲冑兵がその場に崩れ落ちる。

 先ほどまで重装兵を容易く斬り裂いていた脅威が消えた。


 この一手によって戦況を大きく動かした。


「重装兵! 前へ出ろ!!」


 シールの怒号が飛ぶ。

 

 重装兵が前へ出られなかった最大の理由。

 それが、あの甲冑兵の存在だった。


 本来、重装兵は圧倒的な防御力を盾に前線を押し上げる部隊だ。

 並の攻撃では突破されない。


 だが、甲冑兵の前では、その重装甲すら紙のように斬り裂かれていた。

 前へ出れば、即座に両断される。

 だからこそ、重装兵たちは思うように動けなかったのだ。


 しかし、その脅威は消えた。

 今なら、気兼ねなく前へ出られるというものだ。


 最初ほど人数は残っていない。

 それでも十分だった。


 相手は七人。

 そもそも十分すぎるほどの人数差だ。

 それが減って残り六人となった。

 土人族ドワーフの軍も人数が減ったとはいえ、制圧するには十分だ。


 そして、分厚い盾と重装甲。

 それらが壁となるだけで、後衛の損耗は大きく減らすことができる。

 重装兵たちは包囲するように隊列を組み直し、少しずつ包囲網を狭めていった。


<撃ち抜け__シャドウボール>


 ヴヴヴヴヴ__________


 今なお、途切れず響く詠唱。

 黒球が兵士たちを撃ち抜いていく。


 さらに、視界を塞ぐ闇の壁。

 これが銃士や砲手の射線を遮った。


 本来なら距離で圧倒できるはずの戦力差。

 だが、その優位は完全に潰されていた。


 敵前衛が暴れ回れている最大の理由。

 あの森人族エルフの黒魔法使いが、場を戦いやすいように整えているからだ。


「……決まりじゃな」


 シールは少女の声が聞こえる方へと視線を向ける。


「次の相手は決まりじゃな」


 シールは加護を発動する。


 ヴゥン______


 シールの前方の空間が歪んだ。


 圧縮された空間に引っ張られるように、

 シールの巨体が一気に上空へ跳び上がる。


 空中から戦場を見下ろす。


 敵の位置。

 兵士の配置。

 崩れかけている戦線。


 全てを把握する。


「少年剣士は右前方じゃ! 回り込んで逃げ道を塞げ!!」


 シールの声が戦場へ響く。


「剣士は左側面へ抜けとる! 重装隊、急いで援護じゃ!!」


 兵士たちが即座に動き始めた。


 指示を出すのと同時に、シールはさらに加護を重ねる。


 ヴゥン______


 圧縮された空間がシールを引き寄せる。


 その勢いのまま、シールは森人族エルフの少女の前へ降り立った。


 ドオォォォ______ォン


 着地の衝撃で、地面が砕ける。


「お前みたいな嬢ちゃんを殺すのは気が引けるが……」


 シールは巨大な盾を構える。


「ここは戦場じゃ。悪く思うなよ」


 少女は即座に後退しようとした。


「逃がさん」


 シールが加護により空間を圧縮する。

 空間ごと少女の身体を引き寄せた。


 シールの攻撃範囲。


 それに届くその瞬間。


 一瞬早く、魔法が放たれた。


<貫け__シャドウランス>


 ドドドドドォ__________


 地面から無数の闇槍が突き出した。

 逃げ場のない迎撃。


「甘いわ!!」


 シールは全身へ魔力を纏う。


 そのまま身体ごと回転した。


 ゴガガガガガァァァァ________


 闇槍を地面ごと抉り飛ばす。

 凄まじい破壊音。

 粉砕された大地が宙へ舞った。


 そして、その勢いのままに。


 シールは盾を前へ構え直した。


「ぬぅぅぅぅん!!」


 ドォォォォ________


 それはもはや雪崩のような衝撃だった。

 少女の身体が吹き飛ばされる。


 激しい土埃を上げながら地面を転がり、そのまま動けずにいる。

 シールは追撃へ向かう。


 しかし、シールよりも早く、倒れた少女の傍へ影が降り立つ。

 サキュバスだった。


「強化するから……強い魔法を……!」


 歌が響く。

 甘く妖しい旋律。

 その魔力が倒れた少女へと流れ込んでいく。


 意識が朦朧としているはずの少女が、それでも詠唱を始めた。


<漆黒の……剣で……斬り裂け……__ソル・シャドウソード>


 闇が集束する。

 本来それは中級魔法だ。

 だが、サキュバスの強化によって、その規模は上級魔法級へ膨れ上がっていた。

 巨大な黒剣が形成される。


 そして、放たれた。


 ズアァァァ__________


 黒剣が大地を裂きながら迫る。

 だが、シールは退かない。


 巨大な盾を両手で構え、さらに魔力を注ぎ込む。

 そして、黒剣へと向かって突き進んだ。


 ゴガガガガガァァァ________


 双方の力が正面からぶつかり合う。

 轟音と共に周囲の地面が抉れ、衝撃で空気そのものが震えた。


 黒剣が盾を押し込んでいく。

 それでもシールは一歩も退かなかった。


 やがて。

 黒剣の勢いが徐々に弱まり始める。


 そして。

 完全に押し切った。


 勢いを無くした黒剣は徐々に消えていく。


「うそ……」


 サキュバスが絶望の声を漏らす。


「勇者パーティの盾を甘く見るでないわ」


 上級魔法すら受け止める。

 それがシールだった。


「お前さんまで出てきてくれたのは好都合じゃ」


 二人まとめて仕留める。

 シールが踏み込もうとした、その時だった。


 ザッ__


 背後から微かに踏み込む音が響く。

 同時に、陽光を反射した鋭い刃が迫った。


 シールは振り返らずに腕を払う。

 空を切った。


 さらに、体当たりで押し潰そうとした。

 だが、相手はそれすらを躱す。


 後方へ跳び退いたその姿。



 それは少年剣士だった____。



※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


リオンだ!


どう?

加護の話を聞いて。


予想以上だよ。

七人で軍を相手に優勢だったやつらだろ?


そうだね。


しかもさ。

その軍って……


銃器を装備した軍だね。


そんな七人を追い込むってことはさ。

加護の力って。


軍以上の力を持ってるってことになるね。


まじかよ……。


加護の存在は知ってたけど、そこまでなんてな。


リオン、覚えてる?


何がだ?


この戦闘の結末。


あっ!?


そう。

このままじゃ終わらないんだよ。


次回は、あの人が活躍するよ!


よろしくな!


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