第84話 闇を束ねし漆黒の巨剣
トゥーロは、最初こそ両手の剣と腕へ大量の魔力を流していた。
嵐槍と斬り合うために。
剣と嵐槍がぶつかり合う。
一瞬でも気を抜けば、剣を簡単に弾いてしまいそうなその回転数。
それを捌いていく。
後ろにはリタがいる。躱すことができない。
切り結ぶ間。
その傍らでトゥーロはさらに魔力を練っていた。
そして、魔法を発動する直前。
あえて、嵐槍を受ける腕に魔力を籠めるのをやめた。
隙をつくり、体に覆っていたありったけの魔力を、
魔法に籠めるために。
ガキン____
腕と共に剣が弾かれる。
それを予測していなかったのか、
一瞬ミルの反応が遅れた。
その瞬間を、待っていたのだ。
腕ごと吹き飛ばされることすら計算の内だ。
躱されない距離まで、無理矢理踏み込み、
あらかじめ練り上げていた魔力を解放する。
「……捕まえた」
次の瞬間……。
<頑強な凍てつく檻で捕縛しろ__アストラ・アイスプリズン>
ミルの周囲を、超高密度の氷が一気に包む。
分厚い氷塊が球体となり、ミルの全身を拘束した。
氷の中に閉じ込められ、身動きがとれないミル。
だが、
ギギギィィイィ____ガギィッ
ミルが嵐槍が発動していたことで、完全には捕縛しきれなかった。
徐々にだが閉じ込めている氷に亀裂が広がっていく。
トゥーロは魔力を流して、それを修復し、破られないようにする。
「リタ!! 今のうちだ!!」
トゥーロが叫ぶ。
リタは防御魔法を解除して、魔力を籠めた。
魔法の準備に入る。
そして、次第に空が曇りだす。
「まずい……!」
ラットがそれをさせまいと、
持ち替えた空気銃でリタを撃つ。
その魔法だけは阻止しようと、
がむしゃらに、爆裂玉なども織り交ぜてリタを狙った。
それだけではない。
鞄からスクロールを取り出し、魔法による攻撃も行う。
しかし、
<守れ__アイスウォール>
ミルを拘束したまま、トゥーロは幾重にも氷壁を張り、
それを妨げた。
轟音。
爆発。
砕ける氷。
しかし、氷壁を崩したとしてもすぐに新たな氷壁がつくられる。
一方、ミルも氷の中でもがいていた。
ギギギィィイィ____ガギィッギィ
嵐槍で内側から削り、脱出を試みる。
だが。
トゥーロはさらに魔力を流し込む。
氷が再生し、厚みを増していく。
トゥーロは既に限界近くまで魔力を使っていた。
それでも。
ラットを止めるために。
ミルを閉じ込め続けるために。
ありったけの魔力を絞り出す。
トゥーロもなりふり構っていられなかった。
それほどまでにミルの嵐槍を厄介に感じていた。
ここで倒しきらなければならない。
さらに、空が曇り、とうとうその時がきた。
空を漆黒の常闇で包みこめ__。
沈みし黒を収束し、滅びの剣となれ____。
その一刃で、眼前の敵を斬り伏せろ!!
<__イ・ネビュラ・シャドウソード>
見上げたそこには、黒く巨大な魔法陣。
上空に広がる黒紫の光。
空気が震える。
詠唱とともに、空の色が変わり始めた。
漆黒が空一帯へ広がり、陽光を呑み込んでいく。
まるで空を蝕んでいくかのように__。
その黒さから。
風は止み。
音が遠のいていく。
そんな感覚を覚える。
不安を増長させる__。
夜とも違う。
月明かりすら存在しない、底知れぬ常闇が一帯を包んだ。
明るさが引き剥がされた世界となる____。
そして__
その闇が、ゆっくりと引き寄せられ。
集まり。
圧縮され。
黒が一点へ収束していく。
やがて。
空そのものを切り取ったような巨大な剣が姿を現した。
黒き巨剣から溢れ出す魔力だけで、恐怖を呼び起こされる。
その切っ先が、ゆっくりと標的へ向けられた。
まるで。
夜そのものが、敵を斬り裂こうとしているかのように____。
「放て!!!」
特級魔法。
リタの掛け声と共に、巨大な黒き剣が、空から放たれた。
それに合わせて、トゥーロは距離をとる。
トゥーロが離れたことで、氷牢へ注がれていた魔力が途切れ、
ミルは嵐槍により氷牢を破壊した。
迫る巨剣を迎え撃つために、
ミルはもう一方の手にも嵐槍を展開し、
出力を最大まで引き上げる。
ギュオオォォォォォ____
そして、
黒き巨剣と衝突した____
ギャアアアァァァァァッ____
嵐槍が巨剣を削る。
暴風と漆黒が激しくぶつかり合い、火花のように魔力が弾け飛ぶ。
それでも巨剣は止まらない。
嵐槍は削りながらも、少しずつ押し負けていく。
そして、ついに、嵐槍が弾け飛んだ。
瞬間、ミルへと直撃した____。
ミルを構成していたであろうパーツがはじけ飛ぶ。
吹き飛ばされるミル。
地面を激しく滑りながら、石畳を砕いていく。
衝撃で土砂と破片が巻き上がり、周囲へ亀裂が走った____。
*
次第に巻き上がった砂埃が引いてくる。
そのとき、砂煙の中から、ゆっくりと影が立ち上がった。
「……っ」
トゥーロは目を細めそれを凝視した。
ミルは辛うじて立っていた。
バチバチッ____
音を立ててショートしている。
鉄鋼はひび割れ。
なにより脇腹には抉られたような後を残していた。
人であれば致命傷となる傷。
いくら魔導機械人形とはいえ、限界が近いだろう。
だが、倒れていない。
「……魔法と鉄鋼で、威力を逸らしたのか」
トゥーロが低く呟く。
「まさか、リタの特級魔法を受けて立ち上がるとは……」
トゥーロは再び氷剣を発動して追撃へ移ろうとした。
その瞬間だった。
ドオオオォォォォ________ォォォン
周囲一帯へ爆音が響く。
それと共に発生した大量の煙。
その煙は先ほどの煙と比較にならないほどの量だった。
離れた場所にいたリタでさえも覆われている。
視界が完全に閉ざされた。
「また煙幕か!」
トゥーロが叫ぶ。
「リタ!!」
だが、返事がない。
「リタ……? ……なにが起こってる?」
トゥーロが警戒する。
声が聞こえなくなったリタの元へ移動しようとした瞬間。
ぐちゃっ____
足が地面へ張り付いた。
「っ!?」
粘着物。
「これで足を奪ったつもりか?」
トゥーロは即座に判断する。
前と同じだ。
攻撃が来るなら、カウンターを合わせればいい。
すでにミルの最高速度は把握している。
影を捉えた瞬間、斬ればいい。
剣を構える。
目の前に影が飛び込んでくる。
だが、トゥーロは反射的に斬りかからず、回避を選ぶ。
それはミルではなかった。
ふわりと舞う布。
ラットの上着だ。
「やはりな。一度この手は使っている。だからこそ、タイミングを狂わそうとした」
トゥーロが笑う。
「お前ならそうすると思っていた」
タイミングを崩し、虚を突く行動。
〝予見〟していた。
「そんなもの、読めていれば――」
横から迫る影。
「やはり来たな! これで僕の勝ち……っ!? 」
ドッ____
確かにミルは突っ込んできた。
しかし、先に振りぬかれたのは、剣ではなく拳だった。
ォォォンッ____!!!
「がっ……!?」
ドッドッ____
地面を転がる。
「なにが……」
タイミングは合っていたはずだ。
なのになぜ?
そう思った瞬間、
目の前に映るもう一つの影。
吹き飛ぶ先にラットが立っていた。
「くっ!?」
ラットガンを構えている姿をみて、トゥーロは即座に身を捻った。
避け切れない。
防御魔法も間に合わない。
なら、魔力で耐える。
全身へ魔力を纏う。
「これだけの魔力で覆えば、さっきの爆発程度じゃ――」
パシャッ____
放たれた玉が命中する。
だが、爆発しない。
代わりに、中から液体が飛び散った。
「……なんだ?」
そのままラットの横を通り過ぎ、地面へと叩きつけられ止まった。
本来なら、まだ立てる。
まだ戦える。
そのはずだった。
だが……。
シュゥゥゥ____
「っ……!」
トゥーロの身体から力が抜ける。
立ち上がれない____。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
リタよ……
リタさん……?
どうされました?
どうしたもこうしたもないわよ!!
!?
よくも騙してくれたわね!
騙した!?
トゥーロをあんな目にあわせたのを黙ってるなんて!!
いえ、知り合いだなんて知らなくて……
そんなの関係ないわよ!
トゥーロを燃やしたんでしょ!?
燃やしはしたけど……
やっぱりそうじゃない!!
しかも、あたしに近づいて何をするつもりだったの!?
何もしませんって!
本当でしょうね!?
本当です!
しかも、あんな戦い方……
あたしをバカにしてるの!?
逃げ回るし、罠は張るし、煙は撒くし!
(うん、もうだめだ……)
もうーーーー!!
リタさん、落ち着いてください!
落ち着けるわけないでしょーーーー!!
次回は、僕が何をしていたか明かされます。
もうーーーーーーーー!!!!!




