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第37話 思わぬモテ期

 ラットたちは樹海の先。見えた世界樹を頼りに向かっていた。そして、到着する。フルーテンに……。


 フルーテン__。

 世界樹が目の前に聳え立つ広大な街。

 世界樹と比べてしまえば見劣りはするが、それでも通常の森からすれば最老の大樹と言われるほどの木々が立ち並ぶ。その上に家々が寄り添うように立ち並んでいた。木肌に溶け込むように作られた住居は、まるで最初からそこにあったかのようだ。


 枝と枝のあいだを渡る細い橋を、森人族エルフたちが静かに行き交う。ふと視線を凝らせば、小さな妖精族フェアリたちが気まぐれに、戯れ合うように、空を漂っていた。


 風が吹けば、無数の葉がさざめき、街全体が生き物のように呼吸しているように感じられた。人間族ヒューマの町とはまったく違う営みがそこにはあった。


「やっぱりフルーテンだ……」


 ラットは呟く。


「なんだよ。自信なかったのか?」


 ラット自身もどんな力が関わっているか判断しかねていた。数々の自分の常識を覆すような力。目を疑うとは正にこのことだ。


「見た光景はたしかに間違いなかったんだけど……」


 魔族の中でもいくつかの種族が利用する、そこまでレアというわけではない魅了でさえ、加護を破る信じられないような効果として目の前に現れた。


「魅了の件といい、もしかしたら幻覚かもって思ったんだよ」


 魔族が利用する能力は様々だが、いずれも一つの冒険者パーティで対処可能な規模感だ。しかし、今回の魅了はそれを明らかに超えているように感じる。もっと強力な能力は存在する。そんな能力まで際限なく底上げされたら、なにが起こるか想像もできない。


「たしかに、信じられないようなことが立て続けに起こっているもんな。いきなり水の国なんて聞かされて、半信半疑だったし……」


 水の国への転移。それも国を横断するほどの長距離転移は加護レベルの力になる。出会ったあの魔物は転移して移動していた。この長距離転移もあの魔物の仕業と考えるのが自然だろう。だけど、これほどの力を持つ魔物なんて聞いたことがない。


 いや、そもそも魔物だったのか?

 もしかしてあれって___


「それにしてもすげ〜な。あれって森人族だよな。あのちっこいのが妖精族か。人間族がまったくいないなんて信じられないぜ」


リオンが何の警戒もなく町へ入っていく。


「リオン、待っ……」


 ラットは町へ入るのを止めようとした。


「あ、人間族だ!」


 しかし、すでに遅かった。


「みんな〜、人間族がきたよ〜〜」


 その言葉に呼応して、妖精族の子供たちがざわついた。


「ほんとだ。人間族だ」

「逃げろ逃げろ〜」


 見つかった。

 別に見つかるの自体が悪いわけではない。

 妖精族の子供は飛ぶ力も弱く、捕まえようとすれば人間族であれば、すぐに捕まえることができるだろう。人間族のすべてが悪いものばかりというわけではないから、敵対する必要はない。


 だが、中には悪い考えのもと近づいてくるものもいるため、人間族を見たらとりあえず逃げろというのが妖精族の中での常識だ。


「ごめん。リオン、妖精族は多種族との関係が薄くて慣れてないんだ。特に人間族を見ると大騒ぎになるんだよ。先に伝えておくべきだったね……」

「おいおい、どうすんだ、これ? 大騒ぎになってるぞ」


 周りにいる森人族や妖精族の大人たちがこちらを警戒している。招かれざる者。そんな視線をリオンたちに送っていた。


「待ってて。騒動をおさめられる大人に話しかければ、なんとか……」


 ラットが事情を説明しに走ろうとしたそのときだった。


「あ、ラットだ!」


 一人の子供がラットに気がつく。


「ほんとだ。ラットがいる!」

「みんな〜。ラットがきたよ〜〜」


 状況が一変した。ラットが来たことが、広まっていく。


「おいおい、どうしたんだ? 今度は何だ?」


 リオンの焦りとは裏腹に、続々と妖精族の子供たちが集まってくる。


「ラット、もうきたの?」

「早すぎ〜」

「遊ぼ遊ぼ〜」


 ラットは勇者パーティで旅をしている最中に立ち寄ったことがあった。そのときにまたいつかくると約束をしていた。だけど、それはずっと先の話になるだろうと。


 しかし、一年と少しで再びくることになってしまった。ここの住民の全員が、森人族と妖精族であるため長寿だ。一、二年程度なら人間族から見れば数週間ぶりくらいの感覚だろう。


「はは、きちゃいました……」


ラットもそれを理解しているのか、少し気まずそうだ。


「ねえねえ、おまえはラットの友達なの?」


 この街の子供は好奇心旺盛だ。無害だとわかれば、珍しい来客に集まってくる。リオンにも好奇心の矛先が向いたようだ。


「この武器なに?」

「かっこいい!」

「おい、危ないぞ!!」


 そして、それはミルも同様だ。


「おまえは人間なの?」

「なんなんだ〜〜〜」


 森人族と妖精族、ともに魔力に優れている。子供でもミルが人間族のそれとは違うことをすぐに察知したようだ。

 遅れて大人たちがやってきた。


「ラット、もうきたのか!」

「鞄大事に使っているみたいだな〜」

「勇者たちは元気にしているか?」


 最初は挨拶から始まる。しかし、


「ラットくん、私に会いにきてくれたの?」

「彼女はできた?」


 話がラットの恋愛事情に変わっていく。


「ミル! 見てみろよ!! ラットがモテてるぞ!!」


 真っ先にリオンが気づいた。

 普段は気づくことすらされないラットが、モテていることに__。


「見てみろよ。ラット、モテモテだぜ!!」


 リオンはラットを茶化すように、ミルに話を振った。


「そう………」


 ミルはそう言って歩き出す。


「お、おい………あれ? ミルさん?」


ちょうどいい高さの木の根を見つけ、ミルは座り込む。そして、ラットをじっと見つめる。


 心なしか頬を膨らませている?

 ものすごく不機嫌そうだ。


 そのときだった。


「君たちはラットくんのお友達かな〜?」


 紫色の瞳に、空色の長い髪__。

 落ち着いた感じの、他の妖精族たちとは違う装いの女性が、にっこりと笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「ラットくん、妖精族の間ではモテるのよ」


 その女性が、リオンたちが気になっていることを察して、話を切り出した。


「人間族としては小柄かもしれないけど、妖精族としてならちょうどいいくらいだし。顔立ちもね。あと特に雰囲気が妖精族に近いところがあるから」


 しゃべりながら、ゆっくりと笑う。


「お久しぶりです・・・といっても妖精族から見れば、そんなに長くはないんですよね」

「そうね。こんなに早く再会できるとは思ってなかったから、うれしいわ」


「二人とも紹介するね。こちらが勇者パーティの一人。精霊信仰の神子。〝エレ・ホーク〟だよ」


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ミル……


とうとう、フルーテンに到着したね。


……ん。


どう?

初めてフルーテンに来た感想は。


大きい木……


わかる。

つい見上げちゃうよね。


ラット、口……空いてた。


ミルも空いてたよ。


……ん。


ずっと上見ちゃうから、首も痛くなるよね。


……ん。


妖精族フェアリ森人族エルフたちと会った感想はどう?


……


どうしたの?


ラット……デレデレしてた……


してないよ!?


ちやほやされてた……


そ、それは向こうが親切だっただけで……


……。


次回は、ポニが目覚めます!


ミル、ちょっと待って!?

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