第36話 樹海の先に見えたもの
空中で、ロックは引き金を引く。
放たれた閃光がリオンへ向かう。バランスを崩しながらも放ったその一発は、確実にリオンを捉えていた。
空気を鋭く切り裂く閃光。
その閃光へ……
リオンは踏み込んだ。
ロックは信じられない光景を目にした。
踏み込んだリオンは、常と違い、貫通弾を弾かなかった。閃光の直進する力に逆らわず、外に逃がし、受け流したのである。
さらに、貫通弾を敷かれた道に沿うように、刃が迫る。
目ではかろうじて追うことができた。だが間に合わない。こちらは攻撃した直後、引き金から指を離してすらいない。これは攻撃に対するカウンターだ。そして、何よりも驚いたのは……。この技を見たことがあったからだった。
いや、見たことがある、どころではない。
知っている。
よく、知っている……。
この技は、
あいつの、
ヒーロの、
〝勇者〟の技だ____。
<流し……>
ギィ____________ギンッ!!
貫通弾を沿う音の終わり。
ロックは斬られた______。
*
声が聞こえる。
「大丈夫だよなラット! 生きてるよな!?」
「…………リオン、人工呼吸」
「じっ!? どうなんだ? 必要なのか?」
「大丈夫。必要ないよ。なんとか……ギリギリだったけどね」
薄れる意識の中、三人の声が聞こえてくる。どうやら、ロックの治療をしているようだ。
ロックは薄目を開け、言った。
「な、ぜ……」
「喋った! よ、よかったぁ〜」
大袈裟に溜め息を吐くリオン。度胸があるのか、やはり小心なのか、わからない。いや、そんなことよりも。
「なぜ……おまえが、その技を使える?」
「ん? ああ、あの技か? 勇者さんが門で追われているときに使ってたんだよ」
「使ってた……? 一目見て真似たとか言うんじゃないだろうな?」
「まさかぁ! 魔物との戦闘でもちろん練習はしたぜ!」
そうじゃない__。
あれは、少し見たり、練習したりした程度で真似できる代物ではない。もちろんそれらしい動作をすることは可能だろうが、あそこまで正確に技の特性を理解し、再現することは不可能ということだ。
しかし、こいつはそれをやって見せた。これは紛れもなく〝天才〟だ。
だが皮肉なものだ。これだけの剣の才能を与えておきながら、魔力の才能は一切与えない。
せめてこいつが一般人程度……いや一般の子供程度の魔力でもあれば、騎士団の団長に昇り詰められただろうに。そのせいでB級冒険者程度の実力に留まっている。神は酷なことをするものだ。
(ま、この国の神はアレだったか……)
ククク___
ロックは笑った。
ラットに向き直る。
「で、こいつらは、なんでここがわかった?」
「〝ソルミナ〟は単にロックの影対策だけではなかったんだよ」
その言葉を聞き、気づいた。
「目印か……」
「あたり」
「またも一杯食わされたって訳か」
「二人が合流するまで、僕が何とか持ち堪えられるかの勝負だったんだ」
「それに、お前は勝ったと……」
ハハハハハ____ハハ………。
笑った。
今度こそ、声を出して。
「おま……じんこ………………ぜった……するな……よ」
久しぶりに大声で笑い、そのまま、何かを伝えようとして意識を失った。
*
気絶したロックを見ながら、リオンが言う。
「なあ、ラット。今、……」
「うん。戻ってたね」
気絶する直前のロックの表情は、敵対していたときのそれとは違う。ラットのよく知る、仲間としての表情だった。
「魅了は大きなダメージを追うことで解けるからね」
「てっきり解除の魔法が必要なんだと思ってたぜ」
「いや、必要だよ。ダメージで正気を取り戻すなんて最終手段だから」
「まあ、そりゃそうか。こんな瀕死の重症を負わせるくらいしないとダメなんだもんな」
「……ラット?」
押し黙るラットに気づいたミルが訊いてくる。
視線に応えるように、ラットは口を開く。
「本来なら、もっと軽傷でも大丈夫なはずなんだよ。いずれにしても傷は負うから魔法の方がいいんだけど。だけど、今回はこれほどまでダメージを負わないと戻らなかった……」
「つまり?」
答えを促してくるリオン。
「つまり、ただの〝魅了〟じゃない……可能性があるとしか。言えないかな……」
得体の知れない症状だ。ラットはロックを念のために拘束し、鞄に入れた。
*
ぴぃ__
すべてが終わった頃、チリリがどこからともなくやってきた。
「やあ。戦闘中、隠れてたんだね」
ロックとの戦闘の直前。
殺気を察したのか、チリリはラットの元を離れて飛び立っていた。
(賢い小鳥だなぁ……)
ラットは思う。そして、気づいた。
「ポニさん……は?」
ラットたちと共に大蛇に呑み込まれた彼女が、まだ見つかっていないことに。
「ポニさん? いや、言われてみれば、声を聞いたような……あれってまさか」
頷く。
すると、待っていたと言わんばかりに、チリリがラットの裾を引っ張った。
「チリリ……? もしかして、居場所を知っているの?」
ぴぃぴぃ!
先行するチリリの後を、三人でついていく。
チリリの案内に従って歩いていくと、そこには気絶したポニがいた。翠の目は伏せられ、栗毛も葉に塗れてしまっている。ラットはすぐに容体を確認する。
「大丈夫。どこも怪我をしてないよ。気絶しているだけみたいだ」
問題ないことを伝えると、リオンはもちろん、ミルもほっとしたように見えた。ロックと同様に、ポニも鞄に入れた。
「それで、これからどうするんだ? そもそもここはどこなんだ? って話だよな」
そうだ。応急処置をしたとは言え、ロックはかなりの重症だ。もっとちゃんとした場所に連れていきたい。それに、一般人のポニがいる。いつまでも魔物のいる危険な森の中を連れ回すことはできない。早く町や村に運んであげたい。しかし……。
わかっていることは、場所が変わっているだろうということだけだ。それ以外は見当もつかない。そのときだった。
「さっき……大きな木、見た」
ミルが言葉を発した。
「大きな木なら俺だって見たぜ。これだけ生い茂ってたら嫌でも目につくぜ」
「違う。もっと大きい。すごく……」
「大きい木……?」
ラットは考え込む。
「ミル、僕をその木が見える位置に連れてってもらえる?」
「うん……」
ミルはラットを掴み、飛び上がった。
生い茂る木々の上、空の色がはっきりとわかる地点まで飛翔し、気づく。樹海の先、離れたところに、他の木が苗木に見えるほどの木がそびえ立っていることに。
「世界樹……」
大樹に、ラットは呟いた。
*
リオンの元に戻り、方針を口にした。
「場所がわかったよ。予定を変更しよう」
「それは構わないけど、結局ここはどこなんだ?」
「落ち着いて聞いてね。ここは風の国じゃない」
時を止めたリオンに、ラットは告げる。
「水の国だよ」
「……は?」
「ここは世界樹の麓__聖樹の街フルーテンだ」
「フルーテ………………………んっっっっ!?」
動転するのも無理はない。ラットたちは先ほどまで風の国のラインブリースにいたのだ。それが今は、何ヶ月も旅をしてようやく行き着く先にいる。つまり、転移したということだ。
「フルーテン……ちょっと待てよ。ってことは!」
思い至ったらしい。ラットは頷いた。
『そう。勇者パーティの一人、〝エレ〟に会いにいくよ!!』
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
リオンだ!
ミル……
今日は三人で、このコーナーを進めます。
いや~、ほんと強かったな。
……ん。
まあ、伝説になるくらいだからね。
それ、お前もだろ。
いやいや、僕は語り継がれてないから。
……わたしたちが知ってる。
ミル……
ラット、泣くなよ?
泣いてないよ!?
でも、本当にありがとう。
二人がいなかったら、ロックを戻すことはできなかったと思う。
いいってことよ。
……ん。
これからも旅は続くけど、よろしくね。
おう!
……任せて。
次回からは新章になります。
よろしくな。
……よろしく。




