第32話 信じた言葉
周辺を覆う、眩い光__
ロックが影に入りかけた瞬間、ラットは光玉を投げていた。
影から炙り出されたロックが、手で光を遮りながら、舌を打つ。
「また光玉か……」
影に潜られたら厄介だ。潜られれば最後、距離を取られ、蜂の巣になる。まずはこちらの土俵に持っていく。
「だがラット。お前一人じゃ、影を封じたところで意味がないな。まさか一人で勝つつもりでもないだろ?」
構えられた魔銃がラットを狙う。
引き金が引かれた、その瞬間。
「なっ!?」
鞄から二つの影が飛び出した。
漆黒の影__ミルは、ロックが放った閃光を躱し、標的を撃つ。
虚をつかれたロック。
一息で距離を詰めるミル。
振るわれた鉄鋼がロックに命中する。
ガキン__
寸前、魔銃が防御した。
衝突音と共に散る火花。ミルの奇襲を間一髪で防いだロックは、口笛を吹いた。
「驚いた。まさかこの展開を読んでたのか?」
ミルの連撃を捌きながら言う。
「とっくに追ってない……そう判断してると思ったよ」
追ってこないと油断させ、ラットが一人になったところを襲う算段だったのだ、と。
そう。だから、あえて、一人になった。
わざと一人になり、誘き寄せた。
ロックをここで、倒すために……。
「相変わらず速いね、お嬢さん」
目にも留まらぬミルの殴打。銃身で的確に食い止めながらも、ロックの表情は渋い。
「正直、お嬢さんとは戦いたくなかったよ。……手加減出来そうにないからね!」
攻撃を受け流したロックは、ミルの勢いを逆に利用し、後方へ投げた。バランスを崩すミル。宙に放り出される。
向けられる銃口。
空気を貫く閃光。
__貫通弾。
ミルにまっすぐに放たれた貫通弾は、斬撃により、斬り捨てられた。
飛び出したもう一つの影。
赤茶の影__リオンが、ミルを守り、貫通弾を弾く。貫通弾の勢いにバランスを崩しそうになりながらも、リオンは脚に力を込めて耐えた。
「やっぱりこれを弾くんだな。だけど、ガラ空きだぞ」
バランスを崩し、一瞬動きが止まったリオンの前に、銃口が向く。
「!?」
だが、リオンは脚の力を抜き、姿勢を低く潜り込ませることで、突き出された銃口を素早く掻い潜る。
さらに、
__速力の水。
ラットが放った強化水が、リオンを推進させる。
姿勢を低く保ったまま振るわれた刃は、ロックを掠めた。
刃が振るわれる直前。ロックは、リオンの動きに反応し、バックステップで躱そうとした。だか、ほんの少しだけ、リオンの踏み込みが上回った。
響き渡る舌打ち。
反撃をしようと、ロックは再度魔銃を構える。
だが忘れている。ロックの敵は、一人だけではない。
「くっ!」
同じく速度を底上げされたミルが跳ぶ。
暴走する金属音。ロックの左右で火花が激しく噴き出る。左は剣。右は鉄鋼。二体一の絶え間ない猛攻を、ロックは銃身で、体術でせき止める。
「いい連携だ。だけど、ちょっと前に集中しすぎだね」
二人の後ろに血液の塊が発生する。
<血魔法__移動砲台>
しかし、
(リオン、後ろ!)
リオンは振り向き様に、発射前の血液の塊を斬り落とす。
(ミル、上!!)
ミルもマナベル越しのラットの合図で破壊した。
ロックは次々と移動砲台を発生させるが、ラットの合図で発射前に破壊される。
ミルとリオンが攻撃を担うなら、ラットは目だ。
全体を見渡し、二人の死角を守る。破壊を免れようと距離を離せば、避けられるだけの距離を与えてしまう。
これにより、移動砲台が攻略された。
ロックは応戦する。
しかし__
ミルと、
リオンと、
そしてラットの、三人での連携に、
削られていく。
徐々に、確実に。
ロックの額に、汗が滲む。
後方へと流れるロックの視線。
彼が求める濃い影は、ない。
与えない。
頭上で弾ける白い光。
投げた光玉が、影を霧散させる。
絶やさない。
逃げ場は、ラットが決して与えない。
「くそ、盤石か、俺への対策は……!」
ロックが吐き出す間にも、ミルとリオンの攻撃は止まない。
拳が髪を千切る。
剣が頬を切り裂く。
……追い詰める。
「ちっ! 不本意だが、仕方ない!!」
瞬時__。
集めた血液の塊を地面に落とす。
<血魔法__ブラッドボム!!>
地面に触れた血液の塊は炸裂し、三人の足元を中心にした十数メートルの地面を吹き飛ばした。
足場が崩れる。
ミルとリオンの攻撃の手が緩む。
着弾の直前で飛び退いていたロックだけがすぐに動いた。
逃げた__。
気づいたミルが体勢をいち早く立て直し、追う。
縮まる距離__。
直後、ロックが振り向いた。
銃声。
撒き散らされた散弾が、ミルの接近を阻む。
飛び退きながら発砲を繰り返すロック。
攻撃を避けるミル。
こうも乱射されてしまえば、さしものミルでも簡単には近づけない。
足止めされる間に、逃げ込まれてしまう。
森へ……。
*
ロックを追いかけ、ラットたちは遅れて森へ入った。
(よし、うまく森へ誘い込むことができた)
そう。ラットたちの目的は森へ戦場を移すことだった。今回の戦闘ではロックが逃げ込む形となったが、そのためであれば、ラットたちが逃げ込んでもよかったのだ。そのためのプランはいくつも用意していた。
ここからが、本番だ。
ミルとリオンへ振り向く。
「二人とも気をつけて」
「ラットこそ、頼んだぜ」
「ラット……よろしく」
頷いたラットは、鞄から取り出したものを構えながら、森の奥へと一人進んでいった。
*
「さすがだな。もうどこにいるのか、わからなくなっちまった」
リオンの視界には、平地と違い、生い茂った木々のみが映されている。
どこかにいるのは間違いないが、目で追ったとしても、ラットがいるのかすらわからない。それどころか、〝いるはずだ〟という思い込みは、ただの木ですらラットに見せてくる。
「ミル、背中は預けたぜ」
「リオンも……」
互いの死角をカバーするように、森の奥へと進む。
瞬間。
風が、割れた。
ギンッ__
撃ち放たれた閃光を、剣で斬る。
「そっちか!」
踏み込んで走り出そうと構える。
「だめ……」
……が、ミルに止められる。
冷静な一言に、思い出した。
「移動砲台か……」
ロックの血魔法による移動砲台。弾道を追った先に見えるのは、ロックではなく、その砲台かもしれない。とすれば、罠の可能性がある。闇雲に突っ込めない。
立ち止まる隙に、今度は反対側から、くる。
「うおっ」
鉄鋼で無理やり頭を下げさせられる。瞬間、通り過ぎる閃光。
「あっぶねー。もう少し止まるのが遅かったら撃ち抜かれてたぜ。サンキューな」
「くる……」
ドッドドドドド______
「うおおおおぉぉぉぉ、めっちゃ撃ってくる」
一つ防いだからこそ、気が抜けた。しかし、ロックはそれを許さない。息つく暇も与えない。無数の赤い閃光が四方から放たれる。
弾く、跳ぶ、転げ回る。
なりふり構っていられない。
ミルも同様に立ち回っていた。
しかし、無数に放たれる閃光の中に紛れる細い光__貫通弾。
ミルを狙った一筋の光。
それに気づいたリオンがミルとの間に割って入る。
ギンッ!!
弾く。
だが、踏ん張りが効かない。足が浮く。
「やばっ」
四方から放たれた閃光がリオンに向かう。
ガシッ!
今度はミルが鉄鋼でリオンを掴み、引き込んだ。
遅れて交差する光。
間一髪だ。
「思ったよりも激しいな。このままじゃ……」
「リオン、木……」
「そうか!」
二人で咄嗟に木陰に飛び、やり過ごす。
隠れた木が壁になる。
閃光の中に時折紛れる貫通弾。それは魔銃から放たれるもの。その方向の先にロックはいる。
「さっきあっちの方から撃ってきたよな?」
ドッ__
「うぉ、っぶな」
様子を窺おうと顔を出せば、放たれた閃光が牙を剥いた。髪を揺らされ、息が止まりそうになる。おちおち覗けもしない。
「リオン、前……」
「ひっ」
__かと言って、隠れ続けてもいられない。
移動砲台は位置を変え、角度を変え、攻撃してくる。その上、ロックの貫通弾は、隠れた木ごと撃ち抜くことができる。木を背にしているからと言って、一瞬でも気を抜こうものなら、撃ち抜かれてしまうだろう。
移動砲台が幹を穿つ。赤い雨は止まない。じりじりと削られる樹皮。次にこうなるのは自分かもしれないと、唾を呑む。
撃たれるのは時間の問題だ。
貫通弾は撃たれる度に方向が変わる。ロックも移動しているのだろう。居場所がわからない。もし場所がわかれば、こちらから仕掛けられるのに……。
……そのときだった。
放たれる無数の閃光の奥。
見えた人影……。
「あいつだ! 近いっ!!」
リオンは飛び出そうとした。
だが、ミルが道を塞ぐ。
「ダメ……」
「なんでだ!? あそこにいるんだぞ。もう我慢できねぇよ!」
叫んだ。
「ラットを……信じる」
はっとした。
そうだ。ラットは言っていた。
『どんなに撃たれても、僕を信じて。……耐えて』
……と。
「……悪い。頭冷えたよ」
「今は待つ……」
頷いた。
銃声は続く。
毟られる葉。
壊れゆく幹の盾。
近付く死。
それでも、耐える。
ラットを信じて。
*
草葉の陰から覗かせる銃口……。
木陰に隠れながら、ロックはミルとリオンへ魔銃を放つ。
(いい的だな。これならどちらかに攻撃が当たるのも時間の問題だね)
一方的に攻撃する状況で、ロックは淡々と、狙撃を繰り返していた。もちろん、ラットへの警戒は緩めない。
(なかなか誘いに乗ってこないな。ラットの入れ知恵か?)
ロックはただ隠れながらに狙撃をしていた訳ではない。ラットを見つけられない状況で、少しでも早く戦力を削っておきたかった。そのための〝誘い〟だ。
__移動砲台
ロックの血魔法の一つ。
移動砲台による手数の追加。
設置による攻撃位置の誤認。
罠。
など、
様々場面で利用することができる。
ロックは移動砲台により位置を誤認させようとしており、近づこうとした瞬間……正面に意識が集中した瞬間に、別の方向からの攻撃によって標的を撃ち抜こうとしていた。
別方向、つまりは意識外からの攻撃が必殺の一撃となる。
だが、これでは足りない……。
きっとラットの〝言葉〟を必死で守っているのだろう。
「これならどうだ」
<血魔法__血液人形>
移動砲台だけではない。血でロックを象った血液人形を作り出した。近くで見れば偽物とわかるが、薄暗く距離があればその限りではない。見分けることはできない。
走れば届く距離。
見える人影。
つけ込める隙。
食いつかずにはいられないだろう?
(誘いに乗って、走り寄れ!)
そうすれば、そのガラ空きになった背中を撃ち抜くことができる。
__しかし、二人は誘いに乗らない。
なぜだ?
これだけ一方的に攻撃されている状況。このままでは、突破され瓦解するのも、そう遠くないと分かっているはずだ。
そんな状況だ。目の前に用意された突破口はそうとうに蜜の味だろう。
それなのに、仲間を信じきれるのか?
少なくとも今まで対峙してきた奴らは飛びついてきたのに。
信じきれるのか?
ほんの少し手を伸ばせば、抜け出せる可能性を捨ててまで……。
……いや………信じていたな。
俺も………。
あいつの〝言葉〟を……。
カサッ!
木から落ちた葉に何かが当たる音。
「!?」
次の瞬間、死角からくる物体に咄嗟に反応した。即座に撃ち抜く。しかし……。
パシャ__。
「くっ」
何かが当たった。
(これは? ……いや、考えるまでもない)
『ラットか!!』
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
ミル……
ロックとの再戦、始まっちゃったね。
……ん……。
ラット、……戦える?
ん?
大丈夫だよ。
ロックが裏切ってないってわかったしね。
でも……怪我、させちゃう……
まあ、そうなんだけどね。
でも、おそらくそれくらいしないと、戻れない気がするんだ。
どうして……?
魅了って言ってたけど、普通の魅了なら、そもそもロックには効かないはずなんだよ。
だから、本気でぶつかろう。
……ん。
絶対、三人なら戻せるよ!
だから、よろしくね。
……ん!
次回は、ミルに整備してもらった武器が登場します!
……!!




