第11話 心くすぐる試作品
風の国__。
この国は広大な平原と風通しのいい森林地帯がどこまでも広がっており、各町への行き来を容易にしていた。そのため物流が発展しており、商業に長けた人間族や、頑強な肉体を持ち力仕事を得意とする獣人族が多く暮らしている土地である。さらに、世界でもっとも高い山を有しており、その山は空へ届かんばかりの巨大な山脈の中心にそびえ立ち、この国の象徴となっている。
この地では常に風が吹いている。頬を撫でるような穏やかな風が大地を巡り、人々や自然を優しく包み込んでいた。風に揺れる草原、枝葉を鳴らす森林、雲を流し続ける青空。その景色は、まるで世界そのものが呼吸しているかのようである。
場所や季節によっては巨大な竜巻や激しい嵐が発生し、ときに人々へ牙を剥くこともあった。だが、この国は荒れ狂う暴風さえも他国からの侵略を阻む盾として利用し、自然と上手く付き合いながら暮らしている。
この国はさまざまな文化が入り混じっている。魔力が少ない種族が多いため、今はまだ魔法よりではあるが、人間族の王都を中心に科学を少しずつ取り入れる傾向にある。
「ミル、到着したよ。ここが王都、〝翠嵐の城塞都市ヴィントホーゼ〟だよ」
「大きい……」
二人の目の前には、空へと伸び、視界を埋め尽くすほど高い外壁が立ちふさがっていた。
「この王都の外壁は巨大な竜巻でも、びくともしないくらい強固なんだ!」
ここは〝翠嵐の城塞都市ヴィントホーゼ〟____。
絶えず風が吹き抜ける高原地帯に築かれた人族の王都。
都市の中心には、天を貫くかのような巨大な王城がそびえ立つ。
その城は、王都、そして人族の威厳と繁栄を体現している。
普段は穏やかな風が街路を撫でるが、季節によっては暴風や竜巻が発生する。
数百年前には、それらによって町を呑み込むほどの大災害が引き起こされていた。
その脅威に対抗するため、王都は巨大な外壁によって幾重にもその周囲を囲んだ。
分厚い城門は暴風すら拒み、どれほど風が吹き荒れようとも、都市の営みを揺るがせない。
そして、この王都でそれは起こったんだ____。
『勇者、ヒーロ・ドラグニル! 国家転覆を企てた罪で、捕縛する!!!!!』
勇者による反逆。
国を揺るがす未曾有の事件。
そんな事件の現場に僕は居合わせた________。
*
王都に到着した二人は、門の内側、つまり街に入るための長い行列に並んでいた。門番たちは、検問を行い、不審な者を通さぬよう常に目を光らせている。
検問の待ち時間は長い。朝から並び、昼を回る。並びながら摘まんだ昼食。膨れた腹を抱えながら、身分証の確認を待つことしばし。ようやく、出番が回ってきた。
「ミル・テクノ。職業は……魔機師? ああ、ジャンク品を造る物好きか。よし、通れ」
騎士から許可を得たミルが歩き出す。
「どうぞ……おわっ!?」
身分証を続けて見せると、騎士は肩を跳ね上がらせた。
「くそ、きちんと並べ!」
きちんと並んでいました。
そう伝えたところで、相手にされないのはわかりきっている。
「ラット・クリアノート、次からは割り込まないように!」
帽子のように罪をかぶり、立ち止まるミルの後を追う。
肩を並べ、外壁の門を潜った。
「目立てる魔導機械、造る?」
「今すぐ!!」
魔導機械の一言に条件反射で食い付いたが、
「…………見てみたいけど、いいかな」
我に返り、断った。
「どうして……?」
ミルは訊いてくる。存在感さえあれば、見つけてもらえるし、認めてもらえるのに、と。
「目立たないからこそ、できることがあるから」
何でも、使いようなのだ。
風に連れられてきた香ばしさが、意識を前へと引っ張る。満腹でも思わず鳴りそうになる、よく焼けた肉の匂い。
「ほら、見えてきたよ、ミル」
はっきりとしてきた陽気な音楽に出迎えられ、入国した____。
外壁の向こう側に一歩入れば、そこは別世界。
呼び込みを競い合う露天商。
食べ歩きを楽しむ男女。
風車を持って駆け回る子供たち。
人波の途切れぬ城下町を見守るのは、絶えない風。
優しい番人が笑い声をくまなく届けるおかげで、ヴィントホーゼの昼はいつでも祝祭だ。
「勇者……どこ?」
歩きながら辺りをきょろきょろと見回すミルの横を、獣の耳と尻尾を揺らす少女が通り過ぎる。王都まで来ると、獣人族の姿も目新しくない。
「勇者は夜にしか会えないんだ」
「……夜行性?」
「あはは、昼も元気だよ。事情があってね」
話すのは、勇者と会ってからでいいだろう。
「ひとまず、今は鍛冶屋に行こうか」
「武器……、造るの?」
「魔導機械だよ!」
ヴィントミューレを出発する前、魔機屋で集めた数々の魔導機械たち。道中、二人で少しずつ修理してきたが、中には残念ながら二人ではお手上げの物もあった。
「直すのが難しい特殊な造形のパーツがあったでしょ? 鍛冶屋に依頼すれば、修理、もしくは特注で新品を造ってく……ミルっ!?」
ばびゅんとミルが槍になる。
「待って……!!」
追いかけるが、背中は止まらない。行くなら早い方がいい、ということなのだろう。
「そっちはスラム街ーーーーーー!!」
__方角さえ間違っていなければ。
*
何とかミルを捕まえ、目についた鍛冶屋へと入る。
「おう、らっしゃい!」
髭を蓄えた、いかにもといった風情の店主が歓迎してくれる。
カウンターに一番乗りしたミルが、取り出したパーツたちを机上にゴトゴトと落とす。
「んん……? 何だこりゃ、魔導具か?」
魔導具は魔導機械の元になっているため、間違えるのも無理はない……が。
「いや、それにしては複雑だな……まさか魔導機械か!?」
「そう……」
さすが最新の情報が集まる王都だ。昔堅気の店主も押さえている。
「嬢ちゃん、ずいぶんと珍しいものを持ち込んできたな!! こんな量は俺も初めてだ。何に使うか、詳しく説明してくれねぇか?」
「これは……」
店主も珍しいものが見れ、少し興奮気味に話している。
ミルが説明している間、ラットは店内を散策することにした。ヴィントホーゼは慣れた街だが、この鍛冶屋を訪れるのは今日が初。新鮮だ。
広い店内を歩き回っていると、ふと武器の陳列棚の一つが目に留まる。
「……刀!?」
刀が、陳列されている。
(模造品じゃない、本物の刀だ……! 本来は特注で造るもののはずなのに、何本も……!!)
刀は使用するのに技術が必要であるため、需要が低く、一般的な剣のように陳列棚に置かれるようなことはない。入手方法はただ一つ、鍛冶屋に特注で造ってもらうこと。それがどういう訳か普通に店頭に並んでいる。
「え、初級!?」
第二の衝撃を受けた。
武器にはランクがある。初級・中級・上級・特級。右にいくほど高性能であり、高価になる。
初級はお手頃価格な分、切れ味が鈍い、重心のバランスが悪い、歪んでいるなどの欠陥を抱えており、見た目も簡素だ。とにかく安く、最低限武器として使えればいい。それが初級だ。
だが、目の前の刀は明らかにその定義から外れている。初級どころか、上級としても問題ないほど、しっかりと造られているように思える。
刀だけではない。ギザギザしたものからクネクネしたものまで、様々な刀身の剣が並んでいる。
(こっちはエクスキューショナーズソード……こんな処刑人用の武器まで!?)
特殊な一般職の武器まである。
(それにしても、この刀身……一切のムラがない。滑らかで、鏡のように光を反射してる……)
これが初級? 本当に? 上級ではなく?
手に取ってみると、一般的なものと比べ、重心がどこか違う。
「これはまさか……」
「ガハハ、そりゃ弟子の試作品だよ!! うまいもんだろ? ものはいいんだが、需要がないからそこに置いてんだ」
店主が答えを教えてくれた。
「やはりそうでしたか!!」
「おっ、気付いてたのか。兄ちゃん、目利きだね! どうだい? 弟子に会ってくかい?」
「ぜひ、会ってみたいです!」
優れた腕前はもちろん、それ以上にこだわりを感じさせる。オタク心がそう語りかけていた。
快諾した店主は、店の奥へと首を向けた。
「おーい、お客さんだぞー!」
「おーう!」
返ってきた声は、予想以上に若々しい。走り寄ってくる足音に胸が高鳴る。現れた鍛治師は、なんと。
自分と、そう変わりない年頃の青年だった____!?
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットと……
ミル……
で、今回も雑談コーナーをやっていきます。
ん……
とうとう王都に着いたね。
長かった……
だいたいひと月半くらいかかったからね。
こういう長旅は初めて?
お父さんと行った……
博士と行ってたんだ!?
博士も強かったの?
ううん……
じゃあ、ミルが一人で戦ってたの?
逃げてた……
なるほど……。
素材の採取なら、無理に戦う必要はないもんね。
ん……
次回は新しい方が登場します。
よろしく……




