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第17話 勇者と選んだ道の先


 僕たちは選択した。


 人間族と魔族、全軍を挙げた総力戦。


 その戦いに、〝加わらないこと〟を____





 僕たちは両軍の激突には参加せず、加護の力を使って、独立遊軍として魔王城の目前へと迫っていた。


「俺がいうのもなんだけどさ。よかったのか?」


 勇者パーティが騎士団に加われば、風の国の被害はかなり減らせるはずだ。


「それ、ほんとにロックがいう?」


 ヒーロは苦笑する。


「これから俺たちは魔王の元にいく。場合によっては倒すことになるんだよ」


 魔王。それは、ロックたち魔族の王だ。


「まぁ、倒すこと自体はほとんど問題ないんだ。なんせ魔王は最も強いやつがなるしきたりだからな」


 ロックがいうには、魔王は実力がすべて。魔王に挑み、倒すことで、次の魔王となる。


「問題は、勇者パーティとして挑むってところだな」


 笑ってはいる。

 けれど、その目は真剣だった。


「いずれにしても、ここでの俺たちの行動次第で、両軍の被害がどれだけでるかが決まるんだ。気は抜けないよ!」


 僕たちは、人族だけを見ていたわけじゃない。

 魔族のことも考えた上で、この選択をした__。


 魔族とは、人を食い散らかし、殺戮の限りを尽くす者たちだ。

 誰かがいった。


 最初こそ、そう思い……戦った。


 けれど、そうではなかった。

 敵対していても、彼らもまた〝人〟だった__。


 人間族と同じように暮らし、愛し合い、家族を持ち、生きている。

 姿形が違うだけの、紛れもない命なんだ。


 人間族と魔族、その両方を見た上で。

 被害を最小限に抑えるため、僕たちはこの場所へときた。



 魔王を説得するために___





 ロックの攻撃を掻い潜り、騎士たちを退けて、二人は城門を抜けることに成功した。城門を無事に出れば、次はこの先どうするかだ。


「追われている身だし、このまま王都を出たいところだけど……」


 ヒーロが小さく息を吐く。

 王城から脱出したとはいえ、状況は決して安全ではない。

 ヒーロは、今や国に追われる立場となっていた。


「ヒーロは旅支度をしたいよね」

「転移門が使えないし、戻ってこれそうにないからね。ラットはミルさんとの合流か」

「そうだね。残してきたミルを放っておけない。今日は確か……」


 ラットは記憶を辿るように視線を落とした。

 あの場所にいるはずだ。

 状況が状況だけに早めに合流したい。


「今ならまだ、家やバーは抑えられていないだろうし、さっと戻れば……」


 ヒーロは苦い顔をする。


「いや、さすがに戻ったとしても、荷物をまとめている間に包囲されるかな?」


「旅に必要なものなら僕の鞄に一通り入っているよ。使い慣れたものじゃないとは思うけど」


「助かるよ。旅の必需品はラットに借りるとして、問題は……」


 ヒーロは表情を引き締めた。


「今後、どう行動するかだよね……」


 王都を出るだけなら、おそらくそれほど難しくないだろう。

 ただ、王都を出ればいいというわけではない__。


 王都を出てもしばらく追手はくるだろう。

 これから先、ただ逃げ続けるだけなのか?

 そういうわけにもいかない。


 ミルとの合流も考えなければならないし、

 今後の動向を一度どこかで話し合いたいところだ。


 どうすべきかを揃って考えていた時、


「ラットくん、勇者さん!」


 密かな声が、二人を呼んだ__。


 聞き覚えがあるかと思えば、振り向いた先にいたのは鍛冶屋の弟子であるリオンだった。


「リオンさん? どうしてここに……」


 警戒するヒーロに、敵ではないことを視線で伝える。手招きするリオンのもとへ、共に歩み寄る。


「ちょうど納品で来てたんですよ」


 見ると、彼の傍には布で覆われた大きな荷車。剣を運んでいた騎士たちの姿を思い出す。あの剣は、リオンの店のものだったのか。


(おい、今あっちに人影が見えたぞ!)


 瞬間、飛び込んできた叫びに、ぎくりとした。


 追手だ。もう追い付かれるなんて。

 さすが、A級冒険者レベルの実力者のみで構成された騎士たちだ。速い。

 冷や汗が流れる。どうする。戦うか。いや、ロックもいるかもしれない状況で、下手な真似はできない。戦闘になれば被害が大きくなる。


 だが、このままだと追い詰められ……


「こっち!」


 二人の手を、リオンが強く引っ張った。





 ザッザッ____


 鉄靴が雑草を踏み荒らす音が聞こえてくる。


「おい、お前! 勇者を見なかったか!?」

「知りません!」


 心なしかリオンの声がこわばっている。緊張しているのだろうか。


「本当か? そっちの荷台は?」

「武器の納品で来ていたので。もう何もありませんっ!!」

「なぜ動揺してる? 怪しいな。荷台を見せろ!」


 荷台、の言葉に、心臓が強く騒ぐ。まずい。


「何もありませんよっ!」

「動くな!」


 荒々しい怒声が飛ぶ。


「まさか匿ってるのか!?」

「布を外せ!」

「ちょっ、勝手に。やめてください!」


 必死に訴える声に、室内の空気が張り詰める。


「動くなと言ってる!」

「抑えろ!」

「本当に何もありませんってば!!」


 リオンの悲鳴を押し除け、足音と殺気が迫ってくる。


 はみ出しそうな吐息を抑え、身を潜める。

 ぽたりと手に垂れたのは、隣で硬直するヒーロの汗。


 ぬるつく手のひらを握り締め、息を殺す。瞬きすら止めて__。


「鬼ごっこもここまでだ。姿を現せ!!」


 せり上がってきた生唾を、ごくりと飲んだ。


「…………何だ、本当にいないのか」


 身体から、力が抜けた。


「ったく、紛らわしい!」

「勇者は国を裏切った。見かけたらすぐに知らせるように。いいな!」


 鉄靴が慌ただしく去っていく。

 殺気が完全に消えたところで、ラットとヒーロは出た。


 __荷台の上に置いた、魔法鞄から。


「ありがとうございます」

「いや〜、荷台をめくられた時はほんと焦りました……」


 苦笑するリオンに、ヒーロが訊いた。


「……リオンくんは、どうして、俺たちを?」


 ラットと熱く語り合った仲とは言え。騎士に追われているところを見れば、何か悪事を働いたと思うのが普通だろう。突き出すのが正しいのに、どうして匿ってくれたのか?


「俺の親父が、勇者さんに世話になったからです」


 リオンは、そうまっすぐに説明した。


「親父は、騎士団の元団長で。大戦の時、勇者さんに助けられたことがあるんです」


 リオンはどこか懐かしむように笑った。


「部隊の全滅を防げたおかげで、親父は面子を守れたし、生き長らえることもできた」


 ___その後、戦死しちゃいましたけどね

 続いた言葉に、リオンの笑顔がわずかに陰る。

 けれど、それでも彼は前を向いた。


「恩人なんですよ、勇者さんは」


 その声には、迷いがなかった。


「恩人がピンチになってたら、助けたいって思うのは当然じゃないですか」


 そして、リオンはラットを見る。


「それに、ラットくんが悪い奴なんて、俺にはどーしても思えなかったし!」

「リオンさん……」


 胸が温かくなる。同志に悪い奴はいない、という信頼だ。すごくよくわかる。しかし、感動するラットとは裏腹に、ヒーロは険しい表情で何やら考え込んでいた。


「リオンくん、君の親父さんの名前は?」

「〝ライオス・グレイファング〟です」


「ライオスさん、あのあと亡くなっていたのか……。すまない、俺たちが別行動をとらなければ」


 ヒーロが悔しそうに目を伏せる。


「はは、いーんですよ。そのおかげで魔王を倒して国を救ったんじゃないですか」


 だが、リオンは気にした様子もなく笑った。


「勇者さんにとってはそれが役割。親父は親父の役割を精一杯果たしたんです」


 そして、少しだけ優しく笑った。


「あのときに助けていただけなければ、それすら叶わなかったんですから」

「リオンくん……」

「それに父の部隊にはお子さんが生まれたばかりの騎士もいたらしくて」


 まっすぐな目で、ヒーロを見る。


「ちゃんと妻子の元へ帰してやれたって、話していたんです」


 その表情には誇らしさが滲んでいた。


「勇者さんには感謝してもしきれないって言ってましたよ!」

「……ありがとう」


 そこで、ヒーロも、ようやく笑い返した。

 重かった空気が、少しだけ和らぐ。


「ってかラットくん、その鞄、すごいね! 中に入れるなんて思わなかったよ」


 リオンは感心したようにラットの鞄を見た。


「それさえあれば、安全に鍛冶屋まで行けるじゃないか!」

「いえ、そこまでしていただく訳には……」


 ラットが遠慮がちに言う。


「俺たちをこのまま匿えば、君まで危険な目にあうかもしれないよ」

「ミルさんと合流しますよね?」


 リオンは即座に返した。


「鍛冶屋に来てましたよ。助けたいって言ってるんですから、助けさせてください」


 そして、にっと笑う。


「他にも何かあれば、できる限り手伝いますよ。さあ、鞄に入った入った!」


 押しやられるように、ラットとヒーロは魔法鞄の中へ身を隠した。


 リオンを巻き込みたくはない。

 けれど、ミルと合流したいのも本心だった。


 迷った末、ラットはリオンの厚意に甘えることを選ぶ。


 今は、一刻も早く仲間と合流するべきだ。


 やがて荷台が動き出し、車輪の軋む音が静かに響き始める。


 その揺れの中で、ヒーロはマナベルを強く握り締めていた。



 まるで、何かを願うように____。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ヒーロだ。


今回は、リオンさんに助けてもらえて本当によかったね。

あのまま逃げられたとしても、準備不足のままだったし。


ほんとそうだよ。

ちゃんと感謝しないと。


今まで勇者パーティとして積み重ねてきた選択が、

今回の結果につながったのかもしれないね。


だとしたら嬉しいよ。

恨まれても仕方ない立場だったのに。


みんなで悩んで、みんなで決めてきたもんね。


そうだね。

だからこそ、これからもみんなの信頼には答えていかないといけないね。


次回は、ラットが決断します。


よろしくお願いします。

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