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第13話 勇者はどんな人?

 ミルと店主の話が終わるまで存分にリオンと語り合ったラットは、名残惜しみながら鍛冶屋を後にした。


 宿を取り、一息吐いた頃、辺りはすっかり暗くなっていた。月に見守られながら、二人は大通りから外れ、裏通りを歩いていく。


「勇者は……どんな人……?」


 歩いている最中、ミルは、徐にラットに話しかけた。


「そうだね……。彼は、この世界の人じゃないんだ」


 彼は、勇者の世界である〝勇界ヴァリオン〟から召喚されて、この精霊によって造られたと言われる〝精霊界スピリエラ〟に来た。


「一年前の大戦は知ってるよね?」


 そう、勇者パーティによって魔王が討伐されて終結した、魔族との戦争だ。

 その戦争に巻き込まれて、僕は両親を亡くした。その直後、勇界……その勇界の言葉を使うなら〝ニホン〟かな。女神様によって二ホンから召喚された彼と出会ったんだ。


 当時のことは今でも鮮明に思い出せるよ。





 どおおおぉぉぉん____



 突然、馬車が音を立て瓦解し、僕は宙へと放り出されたんだ。


「う、うぅぅぅん……なにがあったの…………」


 王都に雇われて物資の補給をしていた父さんと母さんは、その補給を断とうと行動する魔族に殺された。


「……!? そんな父さん、母さん!! うわああぁぁぁあああぁ!!!!!!」


 悲しみに暮れる間もなく、僕も襲われた……。



 バキ__メキメキメキ______ 


 枝葉を踏み砕きながら姿を現したのは、巨大な体躯を持つオークたちだった。


「オーク!? なんでこんなところに?」


 鈍く光る牙。

 分厚い腕。

 粗雑ながらも実戦で使い込まれた武器。


 重苦しい足音と共にオークたちが姿を現した。


「グガァ……。オレたちの方、補給隊……全部、殺した。そっち、どうだ?」


「……今、終わった」


 辺りを見回すオークたち。


「まだ一匹、残ってるだろォ……?」


 オークの一匹が、座り込む僕に気がついた。


「グ……悪い」


 オークは僕へと向き直り、ズンズンと音を立ててやってくる。


「今、殺す……」


 武器を振り上げるオーク。


 殺されかけたその時だった____。



 フォン________


 魔法陣が眩く輝いた。


 白銀の光が空間を埋め尽くし、暴風のような魔力が周囲へ吹き荒れる。

 あまりの光量に、僕は目を細めた。


 そして。


 光の中心に、彼が立っていた。


 その後、ケンドウという流派で魔族を倒し、彼は僕を救ってくれたんだ。



 その姿はまさに、勇者そのものだったよ____。



 それから彼は、旅の過程で魔法を使用した戦い方を習得し、さらには加護を得たんだ。

 その頃には、誰からも称えられるようになっていた。


 いつも笑顔で。

 楽しいことが大好きで。

 人を楽しませることはもっと大好きで。


 とにかく人が好きなんだよ。

 だから笑わせたがるし、見捨てられない――。


 出会ってからしばらくは二人で旅をしてたんだけど、魔物に襲われている人を助けるのなんて当たり前。気が付けばおばあさんを背負ってたり、泣いてる子どもをあやしたりしててね。


 僕が伸び悩んでいた時も、そうだった。



 僕は先に行く彼に追い付くために、それまで色んな努力をしてきた。寝る間も惜しんで本を読み漁って、早起きして鍛錬して、剣を振り、魔法を学ぼうともした。実践を重ねて、思い付く限りのことは全部やった。


 でも、彼は、何歩も先に行った。

 僕がどんなに走っても、走っても、背中に触れることすら叶わない。


 彼との差は開いていくばかりだった。

 彼に追い付くどころか、途中でパーティに加入した剣を握ったことすらなかった者にまで易々と追い抜かれた。


 圧倒的に才能がない――。


 現実を見せつけられる内、彼の背中が見えなくなって……道を見失い、立ち止まりそうになった。


 そんなとき、言われたよ。当時行動を共にしていた冒険者たちから。


「おい、おまえ、なにやってんだ!」


「前衛が簡単に突破されんなよ。勇者にいつもフォローされてよ~」


「おまえの後にパーティに入ったこいつの方が断然使えるぜ」


「ああ。戦闘だって、こいつは経験なかったのに。今では前衛で十分やれてるしな」


「おまえはお荷物なんだよ」


「足手まといはいらんわな」


「パーティから出てってくれ」


「あなたの代わりは自分がしっかり受け継ぎますね」


 でも、彼だけは__僕を庇ってくれた。


「なにを勝手に話を進めているんだい」


 低く響いた声に、その場の空気が一瞬止まる。

 視線の先には、勇者が立っていた。


「勇者、おまえからも何かいってやれよ」


 同意を求めるような声。

 けれど勇者は迷うことなく口を開く。


「俺はラットを信じてるよ」


「はぁ!? さっきの失態、おまえも見ただろ?」


「失態……? そんなの俺だってするさ。それをフォローし合うのがパーティだろ?」


 勇者は肩をすくめ、小さく笑った。


「それにしたって多いんだよ。前の戦闘だってそうだ」


「ラットはまだ発展途上だろ。自分のスタイルを模索している段階だ。そうもなるさ」


 その言葉に、僕は思わず顔を上げた。

 誰もが責める中で、彼だけは僕の成長を信じてくれていることを知ったんだ。


「そんないつまでも待てないだろ?」


「俺だってラットが諦めているなら、脱退を止めないさ。ラット自身の命にも関わるからね」


 勇者の表情が真剣になる。


「だけど、諦めていない……。少なくともその間、俺は待つつもりだ」


「そういったって全員でフォローするのは大変だろうが」


「フォローしてるのは俺だろ? 君たちは見て見ぬふりじゃないか」


 その言葉に場の空気が張り詰めた。

 そして、一人が口を開く。


「勇者がフォローする分、他のことをやってもらった方がパーティのためなんだ。わかってくれよ」


 勇者はその言葉に目を見開いた。


「……そうか。それが君たち全員の意思なんだね……」


 しばしの沈黙。


 勇者はゆっくりと目を閉じ、何かを考えるように息を吐いた。


「……わかった。そこまでいうなら、彼を追い出したらいいさ。それがパーティの意思なら俺にそれを止める権利はない」


「決まりだな! じゃあ、おまえは出てい……」


 勇者の同意を得られたことを喜び、行動に移そうと一人が口を開く。


「ただし!」


「なんだよ……」


「俺もこのパーティを出ていく」


 一瞬、その場にいた全員が意味を理解できず、言葉を失った。


「何言って……」


「俺はラットについていく。そう言ってるんだよ」


 さも当然のごとく、あまりにも迷いのない声だった。


「ふざけるなよ。そうなったら、誰が前衛をやるんだよ」


「他に代わりはいるだろ。新人だった彼だって十分に成長した」


「そうは言ったって……」


「このパーティは十分強いよ。それでももっと戦力がほしいっていうなら、新たにメンバーを加入させたらいいじゃないか」


 勇者は冷静に、事実のみを口に出した。 


「意見が違う俺を入れておく必要なんてない。俺がパーティに留まらなきゃならない理由なんてないんだ」


 淡々と。


「パーティに入る入らないは個人の自由だからね。パーティの意思に俺が口出す権利がないように、君たちに俺を留めておく権利はないよ」


 言い終わるころには、誰一人として口を挟もうとするものはいなくなっていた。



 そんな風にまで、言ってくれて。

 僕は僕の可能性を信じてくれた彼に応えたかった。どうしたら追いつけるか考えて、考えて、考え抜いて……。


 あることをきっかけに、思い付いたんだ。

 僕の全部を利用してやるって。


 商人の息子で、オタクだったからこそ培えたアイテムの知識。生まれつきの存在感のなさ。長所だけじゃない、趣味の知識や短所も含め、全部を利用して、彼に追い付くんだって。


 そうして、僕は、彼の隣に並び立った。


 ぐんぐん進む彼、立ちはだかる強敵たち。歴代最強とまで言われた魔王とその幹部たち。入れ替わり立ち替わり、大勢いた仲間たちが次々と挫折していく中、僕を含めた六人だけが、彼の横に最後まで並び立っていられたんだ。


「あれが魔王城だね。みんないくよ!!!!」


「うん!」

「ああ!」

「は~い♪」

「うむ!」

「のじゃ!」

「腕が鳴るっ!」


 それが英雄と呼ばれている勇者パーティ__〝聖なる疾風ディヴァイン・ゲイル〟の始まりだよ。



 〝勇者はどんな人?〟って訊いたよね、ミル。

 恩人、だよ。

 僕の命を助けてくれて、僕の今を作ってくれた人。

 みんなの太陽で、僕の__


「……相棒」




 わかってくれた彼女へ、笑う。


「唯一無二の、ね」



 __そうして、辿り着く。




『ラブアンドピース 〜勇者が誘う安らぎの空間〜』


 勇者の店の前に__。



 ミルはしばらくの間、無言でその看板を見つめていた________。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットと……


ミル……


で、今回は雑談コーナーをやっていきます。


ん……


どうだった?

僕と勇者の昔話。


勇者パーティにも歴史あり……


いい言葉知ってるね。

でも、たしかにその通りかも。

順調に仲間が増えていったわけじゃなかったんだ。


ラットが七人目……?


ああ。

確かに最初に勇者と出会ったのは僕だよ。

でも、魔王軍と戦う仲間として、みんなに正式に認められたのが〝七人目〟だったんだ。

勇者は最初から仲間だと思ってくれてたんだけどね。

最初からいたのに、最後に認められたって……ちょっと情けなかったかな?


ううん……。

諦めなかったの、すごい……


……ありがとう。

次回はいよいよ、勇者が登場します。


よろしく……

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