汝(なんじ)、〔怪物〕なりや?
「ひいっ!」
「うわぁっ!」
男達の待機場所へ次々と転がり込む、魔法使い達。
それと入れ替わりに、勇猛果敢に飛び出して行く男達。
我先にと、怪物へ向かって武器を振るう。
或る者は大剣、或る者は弓。
或る者は槍、或る者は突起の付いた盾。
また或る者は短剣で、懐へ入って攻撃する。
ドゴォンッ!
ぐわぁっ!
てりゃあーーっ!
ズドーン!
怪物の猛威と、男達の叫び声。
交互に飛び交う中、尚も戦闘は続く。
四方八方に展開し、近接と遠距離を組み合わせながら。
怪物の体力を奪おうと奮戦するが。
「くそう!何て堅いんだ!」
「この部位は再生するぞ!気を付けろ!」
「うえっ!こいつ、何かを吹き出したぞ!」
「足を止めるな!動き続けろ!」
男達は。
圧倒的な数の暴力で、あっさり倒せると思っていたのが。
当てが外れて苦戦中。
しかも〔怪物〕と言われるだけあって、中々タフな様だ。
早くやっつけてくれー!
今や防空壕の様になった待機場所で丸まりながら、戦いの決着を待ち侘びる魔法使い達だった。
戦いが始まって、20分程経過。
雪の中は動き回り辛く。
更に怪物は時々、翼で空中へと上がるので。
男達の方が、体力の消耗が激しい。
魔法使い達が、思わず叫ぶ。
「まだ倒しきれないのか!」
「だったらお前達も手伝え!曲がり形にも、魔法使いなんだろ!」
確かに、このままではジリ貧だ。
だが、魔法でどうにかなる相手にも見えなかったし……。
魔法使い達は相談する。
加わるか、じっとしているか。
彼等にも、魔法使いとしてのプライドは有る。
でもそれは、命あっての物。
保身と自尊心との間で、揺れ動く魔法使い達。
しかしその間にも、男達の悲鳴と怪物が出す轟音が。
こちらに迫って来ている。
どの道、怪物がここまで来るのなら……。
魔法使い達の心も、参戦へと傾いた。
お互い顔を見合わせ、コクリと頷くと。
一斉に飛び出し、火属性の魔法を放つ。
見事に全弾命中し、怪物はもだえ苦しんでいる。
「良くやった!」
「俺達も続くぞ!」
男達に、力強さが戻る。
そして再び、怪物へと襲い掛かる。
次の魔法攻撃へ備える、魔法使い達。
もう一発、怪物へ向け放とうとした時。
魔法使い達の中の誰かが叫ぶ。
「あれは……何だ!?」
「何を言って……おっ?」
魔力充填を止め、呆然とする他の者達。
確かに、異形の者が暴れ回っているのだが。
それは……。
男達が魔法使い達の様子を見て、檄を飛ばす。
「早く攻撃しろ!」
「死にたいのか!」
「何してる!ボーッとするな!」
その声が、魔法使い達に届いていたかは定かでは無い。
何せ彼等は、魂が抜けたかの様に棒立ちしていたのだから。
その理由は、別の場所で明らかと成る。
「本当に、オラ達は手伝わなくて良いのかよ?」
「ぶつくさ言ってないで、さっさと進む!」
「私も、向こうが気懸かりなのだが……。」
ポウッと謎の光を灯しながら、ミカが通路を進んで行く。
その後を追い駆ける、ジーノとアーシェ。
更にその後ろには、『何でー!何でー!』と叫びながらレギーも続く。
最後尾は、レギーを守る様にエドワーが。
「出るわよ!」
ミカはそう叫びながら、前方の明るい光の中へと飛び込む。
それに続いて、ジーノ達がなだれ込んで行く。
その目の前に見える光景は、何とも滑稽だった。
大きな石の塊に見える建物と、周りに広がる花畑。
周りを取り囲む連なった山頂と、その上にくっきりとした青空が。
さっきまで雪の中で震えていたのが嘘の様に、ここは温かい。
思わず、着込んでいた防寒着を脱ぎたくなるが。
その前に、状況を整理せねばならなかった。
何故なら。
建物の前には、大きな成りをした怪物と。
その傍らにはヒィが立っている。
通路の出口から少し歩いた所には、クリスとヘレンが。
険しい顔をして、建物の方を見つめている。
そして、ヒィとクリスとの中間地点には。
あのダイエンが、ヒィと怪物をギロリと睨んでいる。
苦虫を噛み潰した様に、『ぐぬぬ』と歯ぎしりしながら。
どうして、こんな事になっているのか?
それは、少し前へと遡る。
ヘレンに促され、通路へと駆け込もうとするクリス。
その時。
こっそり反転して、建物の方へ向かう影を見つけた。
足を止め、その姿を確認すると。
撤収命令を出し、真っ先に通路の方へと駆け出したダイエンだった。
何故、そんな事を?
そこで、ヒィの言った事を思い出す。
『離れた場所からでしか、気付けない事』。
それが、この事を意味するなら……。
クリスはふと考える。
怪物は確かに、逃げ出す魔法使い達を追って。
翼を羽搏かせ、山頂を飛び越えて行った。
窪地には、何も居ない。
ヘレンがクリスの様子に気付き、『早く逃げましょう!』と促そうとする。
しかし、ヘレンの目にもその光景が入って来た。
ダイエンの、あからさまに怪しい行動。
これは何か有る、直感で分かった。
そこでクリスとヘレンは、通路へ逃げる振りをして。
入って直ぐの場所で、こっそり観察する。
ダイエンはきょろきょろと辺りを見渡し、誰も居ない事を確認すると。
嬉しそうに建物へ近付き、基礎に備わっている階段を昇る。
そして扉らしき物が有るであろう、黒く焦げた部分へと触れる。
反応が何も無いと分かるや否な、基礎から飛び降り。
少し距離を取ると、今度は右手のひらを前に出し。
そこから、さまざまな属性の魔法をぶっ放す。
火、水、風、土。
更には、〔雷撃〕や〔溶岩の様などろりとした物〕までぶつけ出す。
ドンッ!
ドドドンッ!
ビカァッ!
ズシュッ!
ゴゴゴッ!
あらゆる種類の轟音を出し切ったが、建物の壁は破れず。
壁の焦げた部分は、扉の様に開く素振りも見せない。
基礎や花畑さえも、何故かノーダメージ。
余りの悔しさに、大声を上げるダイエン。
「くっそーーーっ!邪魔者は排除したのに!どうして開かないんだーーーっ!」
はあっ、はあっ。
魔法を使い過ぎたのか、息切れし出すダイエン。
その時、建物の横から。
スッと姿を現す影が。
それは堂々とダイエンの前を歩き、基礎を昇ると。
焦げた部分の前に立ち、ボソッと呟く。
「やっぱりな。そうだろうと思ったよ。」
影はダイエンの方へ向き直り、胸を張って。
高らかに宣言する。
「お前の負けだ!大人しく降参しろ!」
「何を……貴様は!セージが依頼したと言う!?」
「そうだよ、俺だよ!お前の野望は、今ここで潰えたのさ!観念しろ!」
「まだ終わっていない!何も、な!」
そう言って、建物の前に立ち塞がる影へ。
有りっ丈の魔法攻撃を繰り出す。
ボボボボッ!
ズドドドドッ!
ダンッ!
ダダダダダダダダダンッ!
「どうだ、思い知ったか!はあっ。これで、貴様も!はあっ。おわ……り……。」
激しい攻撃で、辺りに濃い煙が立ち込める。
その凄まじさに、クリスは悲しみの思いが込み上げ。
思わず叫ぶ。
「駄目ーーーーっ!」
「何だ?まだ邪魔者が残っていたか!あいつの様に、消し飛ばしてくれる!」
クリス達の方を向き、ダイエンは魔法を放とうとする。
対して、クリス達には。
あれ程の激しい魔法を防ぐ手立ては無い。
こんな所で終わっちゃうの?
そんなの、嫌!
まだ私には、やるべき事が……!
クリスは思わず頭を抱えしゃがみ、目を瞑る。
彼女に覆い被さって、ヘレンが必死に守ろうとする。
2人が滑稽に見えたのか、ニヤリと笑うダイエン。
「食らえっ!」
ギュウウウウンッ!
ダイエンの右手のひらの前で、光が集束する。
それを正に放たんとした時。
ズオッ!
建物の前に漂っていた煙幕が、突如消し飛ばされ。
そこには、あの怪物が。
ヒィを守る様に立ち塞がっていた。
ダメージらしき傷は見えず、ヒィもピンピンしている。
ヒィは、持っていた剣をヒュッと縦に振り下ろす。
その先から炎の斬撃が『ジュッ!』と飛び、ボンッとダイエンに命中。
よろけるダイエン。
ヒィが叫ぶ。
「手加減したんだ!何て事無いだろう!今のお前にはさ!」
「……まさか!俺の正体を!」
「当然だ!この【悪魔】め!とっととその人を開放しろ!」
ヒィとダイエンのやり取りを聞いていた2人は。
態勢を立て直そうと、その場で立ち上がる。
そして2人と1怪物?の行く末を、ジッと見つめる。
残念ながら、ヘレンは思考が追い付かない。
聡明なクリスは逆に、直ぐに今の構図を理解した。
怪物はヒィの味方で、ダイエンの敵。
と言う事は、あれが〔国王〕……。
自分の思考結果が信じられないクリス。
しかしどう考えても、その結論に辿り着いてしまう。
その間にも、ヒィとダイエンの睨み合いは続く。
そこに、ミカ達が到着したと言う訳だ。
これからどの様な展開が待っているか?
この場に居る人々は。
〔何と無く気付いている者〕と〔さっぱり分からない者〕に分類される。
分からない者は、状況を整理しようと躍起になり。
気付いている者は、嫌な顔付きに。
そしてミカだけは、ニンマリと笑みを湛えていた。




