小屋と橋が示すモノとは
モンシドへの旅、2日目。
途中で通り過ぎた橋、何本か。
その全てが落とされている。
この事実を把握する度、レギーの顔が険しくなる。
何故なら、橋の壊れ具合がまだ新しいからだ。
誰かが故意にやっている、僕達の邪魔をする様に。
この先で、何が起きているんだ?
レギーの心の中は、次第に不安が膨らんで行った。
2日目の夕方。
宿代わりの小屋が有る場所まで来たのだが。
またしても、老人で一杯。
おかしいと思いながらも、老人達に小屋を譲るレギー。
ソリに乗り込むと、クリスとひそひそ話。
『やっぱり変だよ、どう考えても。』
『だよね。こんな時期に、老人が群れ立って動いているなんて。』
『しかも……。』
街道の方へ目をやるレギー。
ここまで来る中、雪が少々降っていた。
街道にもそれは積もっていたのだが、足跡が全く無い。
行きも、帰りも。
それなのに小屋には、沢山の老人が居た。
誰にも使わせない様、陣取っているとしか思えない。
ならば、その目的は……。
これ以上は考えたく無かったが、敢えて口にするレギー。
『誰かが仕組んでるね、明らかに。』
『よっぽど私達を、村へ行かせたくないんでしょうね。』
『首謀者は誰だと思う?』
『決まってるじゃない。〔ペルデューを乗っ取ろうとした連中〕よ。』
『でもその内の1人は、あの人達の仲間と一緒なんだろう?それも、ここから遠い所に。』
そう言ってレギーは、後ろのソリに乗るヒィ達を見やる。
彼等の事を疑うつもりは無いけど、監視役の話は本当なのだろうか?
少し怪しみ出すレギー。
しかしそれを打ち消す様に、クリスは言う。
『あいつ等は信用に足るわよ。その証拠が有る。間違い無いわ。』
『あの剣の力の事かい?凄いよねー、あれ。』
無邪気にそう返すレギーだったが。
クリスはポツリと。
『全く、面倒な事へ巻き込んでくれたもんよね。虫唾が走るわ。』
そう呟いたクリスの顔は、何処か寂しそうで。
『これ以上話し掛けたら駄目だ』、レギーにそう思わせる。
なので、少しの間黙っている事にした。
1日目と同様、小屋から少し進んだ先には。
雪で出来た宿泊所が用意されていた。
泊まっていた1日目のそれは、出発と同時に跡形も無く消えた。
宿泊の痕跡を残さない為に。
もしも、これ以上村に近付いて欲しく無い輩が居るなら。
『奴等は夜通し走っている、一刻も早く村で休む為に』と考えている事だろう。
疲労感と共に戦闘意欲を失わせる、作戦としてはそんな所か。
道中すれ違う人物が居なかったのが、幸いした。
小屋さえ押さえておけば十分、そうやって手抜きをしたのが運の尽き。
『小屋を過ぎ去った』と言う情報だけが伝えられ、それが油断・慢心を生む。
しっかりと途中で休み、英気を養っている事を掴んでいれば。
何かしら手を打てただろうに。
雪のドームで休む事は阻害されなかったので。
レギー達は、旅の疲れを十分取り除く事が出来た。
こうして2日目も、無事に過ぎ去って行った。
3日目。
荷物を積み終わり、ソリとソリの間にヒィ達が集まる。
案内役2人は、エドワーとヘレンが各自同乗して。
それぞれ、ソリの運転席で待機。
これは、念の為にレギーが命じた事。
それと言うのも……。
ヒィ達の前で、レギーが小声で話し出す。
昨日クリスと話し合い、出した結論を。
「恐らくモンシドには、敵が居ます。」
「だろうな。明らかに、橋の落とされた時期が現在に近い。」
アーシェが答える。
崩れた後から見える、橋の接合部が。
それ程朽ち果てていない。
そこから判断しての事だった。
静かに頷いて、レギーが続ける。
「これは罠です。僕達を丸ごと潰す為の。」
「それが分かってて突っ込まなきゃいけないんだから、辛い所だよなー。」
あっけらかんと、ジーノが返す。
サフィの企む先に、トラブル有り。
そう言う認識なので、そんな事実が発覚した所で心は揺らがない。
そんな自分が恨めしく思うも、一方ではドキドキしていた。
ジーノの様子を見て、クリスが不満そうに言う。
「そんなに、厄介事に首を突っ込むのが嬉しいの?変わってるわねー。」
「ち、違うよ!」
ブルブルと首を横に振るジーノ。
弁明する様に、アーシェがクリスに言う。
「ジーノはヒィの弟子を公言している。つまり、彼の〔一番のファン〕なのだ。」
「そう!そう!」
今度はブンブンと、縦に首を振るジーノ。
アーシェが付け加える。
「またヒィの凄い所が見られる、相手が強ければ強い程。そんな彼の気持ちも察してやってくれ。」
「ややこしいのね、あなた達って。」
「まあな。」
変な溜息を洩らしながら言うクリスに対し、そう答えるアーシェ。
『実は私も、少々期待しているのだ』と、アーシェまで言い出すものだから。
ヒィは不服顔。
「そんな、大した事無いよ。2人共、俺を買い被り過ぎ。」
『過大評価だ』と言いたいらしい。
それに加え。
剣の力を発揮しなければならない事態には、出来るだけ成って欲しくない。
そんなヒィの思いも有った。
しかしそれを打ち消す様に、レギーが話す。
「区長達の誰かが、敵と組んでいる可能性が有ります。僕とクリスは、そこまで考えています。」
「その根拠を聞かせて貰おうか。」
レギーの確信めいた言い方に、アーシェが尋ねる。
やや下を向きながら、残念そうにレギーが言う。
「小屋のご老人方は大方、敵に脅されて。無理やり、駐留させられたのでしょう。」
「私達が宿泊出来ない様にする為にか?」
「そうです。そして橋を壊して回っているのも、向こう岸の小屋を使わせない為でしょう。」
「対岸に渡られたら、作戦も無駄になるからか……。」
ふうむ。
アーシェは考え込む。
遠回しなレギーの物言いに、イライラして来たのか。
ミカが言及する。
「はっきり言ったら良いじゃない。敵と考えられるのは、〔この谷に通じる地域を治める、どちらか〕だって。」
「おい!声が大きい!」
ヒィがミカを叱る。
折角小声で話し合っていたのに、これでは台無し。
案内人達を遠ざけたのも、彼等の主人が敵である可能性を考慮しての事。
『だからよ』と、ミカが言う。
「駆け引きってのはね、こうするのよ。見てみなさい。」
クイと、ソリの運転席の方を顎で指し示すミカ。
向こうに悟られない様、そっと目線を向けるレギー。
対して、大胆に顔を向けるクリス。
クリスは、ミカの意図を理解していた。
ここには、他に誰も居ない。
味方になる者の姿など無い。
だからこそ、堂々と牽制する態度を取った方が。
相手が敵か、そうで無いかの判別が付く。
しかし残念な事に、案内人の表情や仕草は見えない。
選りにも選って、エドワーとヘレンの姿が被さってしまった。
これでは、ミカが大声を出して表情を確認しようとした事が無駄になる。
むきーーーっ!
何て使えない連中なの!
悔しがるクリス。
その一方で、ヒィは考えていた。
なるほど、そう言う事なら……。
でもその考えは、暫く黙って置こう。
確信が持てる、その時まで。
レギー達の話し合いは、ここで取り敢えず終わり。
各自、またソリへと乗り込む。
そして一路、モンシドを目指して出発。
今日中には、村へ着くだろう。
そこに何が待ち受けているか考えたく無い、レギーだった。