貸し切りに付き……どうする?
木製の小さな小屋は、定員3名で。
各小屋には、〔案内役と子供、そのお付き〕が。
3人セットで、それぞれ泊まる事となっていた。
強引に割り込めば、4名でも何とかなりそうだったが。
レギーとクリスが、肩身の狭い思いをする。
だからヒィ達は遠慮して、キムンカ達と夜を明かすつもりだった。
不審な輩が近付いて来るのを防ぐ、見張りとして。
一晩位は、どうとでもなる。
そう考えていたのだが……。
「済まんのう。今は一杯なのじゃ。」
小屋の中は、老人達でひしめき合っている。
どうしてこんな時期に、沢山の老人が?
疑問に思うも。
若い自分達より弱い者を、外へ放り出す訳には行かない。
レギーはそう考え、案内役とお付きに伝える。
クリスは『何で!何で!』と、暫く口答えしていたが。
ヘレンが、『坊ちゃまの御意思を、尊重したく存じます』と繰り返すので。
『もう、知らないっ!』と膨れっ面。
ソリの荷台にドカッと座り、梃子でも動かない様子。
老人はレギーに対し、『済まぬ、済まぬ』と拝んでいる。
『気にしないで下さい』と、レギーは返す。
お辞儀をしてレギーはソリへ乗り込み、先へと進む事にした。
そうは言ったものの。
レギーには、良い考えが浮かんではいなかった。
モンシドまでは、まだ掛かる。
それに、キムンカ達も流石に疲弊しているだろう。
休ませてあげたい、一刻も早く。
どうしたら……。
考えている内に、案内役が前を指差し叫ぶ。
「あ、あれは何だ!」
街道の前方、その脇に。
半円球の大きな物体が、3つ並んでいる。
その外見は真っ白く、まるで雪の家。
後ろからジーノが、何やら叫んだらしい。
レギー達の乗ったソリを曳くキムンカが、それ等の前で停止する。
ソリの上から注意深く観察する、レギーとクリス。
すると、或る事に気が付く。
「遊びで作ってる家と、形が同じだ!」
「そうよ!何処かで見た事が有ると思ったら……!」
レギーとクリスはたまげて、つい大声に成る。
谷はかなり急勾配、一気に崩れたら街道の狭さも有って逃げ場は無い。
音量を下げさせようと、ヘレンとエドワーが慌てて口を押えるも。
その反響で雪崩が起きる様子は無い。
気のせいか、降っていた雪も止んで来た。
不思議がるヘレンとエドワー。
その横へ、トコトコとジーノが歩み寄り。
ソリの下から声を掛ける。
「兄貴から伝言だぞ。『今日はここに泊まりましょう』だってさ。」
「え!それはちょっと無謀では……!」
エドワーが返事を言い終える前に、『伝えたぞ、じゃあな』とジーノは戻って行った。
ジーノの言葉に、クリスは考える。
あいつ等は、下手に無茶をやらかす連中じゃ無い。
だとしたら、ここは……。
思い当たる節が有り、すぐさまヘレンに命ずるクリス。
「ちょっと行って、中を見て来て頂戴!私の見立てが正しいなら……。」
「わ、分かりました。少々お待ちを。」
クリスの圧力に促される形で、ヘレンが物体の様子を見に行く。
ソリを降りて、案内役も付いて行く。
恐る恐る近付くと、街道側に大きな入り口らしき穴が。
その中を覗き込むと。
おおーーーっ!
思わず叫ぶ、大人2人。
ゆっくりと中へ入り、一通り歓声を上げた後。
顔を火照らせ、クリスの下へ駆け寄る。
そして、ソリの上で待つ者達に告げる。
「凄いですよ!中は大きな空洞です!ベッドやテーブルらしき物も有ります!」
「やっぱりね。レギー、今夜はゆっくり眠れそうよ。」
「なるほど、そう言う事か。凄いね、全く。」
感心する子供2人。
それに付いて行けず、エドワーがレギーに質問を投げ掛ける。
「どう言う事ですか?私にご説明頂きたい。」
「見れば分かるよ。さあ、荷物を下ろそうか。」
レギーはそう言って、エドワーとヘレンに荷運びを命ずる。
喜んで動くヘレンとは対照的に、エドワーは不服そう。
勿体振らず、言葉で表現して貰いたかった。
そう言いた気。
しかし黙々とヒィ達のソリも荷卸しをしているので、負けじと手を動かす。
そして初めて、荷物を物体の中へ運び込もうとした時。
エドワーは驚く。
「何て立派な施設だ……!」
そこはまるで、貴族が暮らす屋敷の中に居る様。
外見は雪のドームに見えるのに、中は奥深く形作られている。
この辺りは雪国なので、かまくらの様な物を作って遊ぶ子供達も多い。
中には幾つかの塊を連結して、屋敷ごっこをする位だ。
これは、その拡大版と言える。
頂点の高さは3メートル以上、奥行きはかなりあって。
ベッドもふわふわ、新雪のまま。
床も滑らない構造となっている。
外では息が白くなるのに、中ではそんな事は無く。
寧ろ暖かく感じる。
流石に風呂は無いが。
囲炉裏の様な、焚火を焚けそうな箇所も設けてある。
そして天井には、煙を逃がす煙突の様な物がくっ付いている。
正に至れり尽くせり。
案内役とお付きは、テキパキとベッドの上に毛布を敷き。
寝床を確保する。
そこから解ける様子も無く、押し固められずふわりとしたままの雪。
これ等の様子を見て、レギーは考える。
これは、人間技じゃ無い。
きっと、ヴィルジナルに相当する者が造ってくれたんだ。
でもどうして僕達に、そんな事をしてくれるんだろう?
そこだけは、どうしても分からなかったレギー。
しかしクリスは、あざとかった。
ヒィ達の周りをうろちょろしている不思議な影を、この目でしっかりと捉えていた。
何て事……!
ヴィルジナルさえも、味方に付けたっての?
何者よ、一体?
クリスの背筋に走った一瞬の冷たさは、寒さから来る物では無かった。
小屋よりも立派な建物を、エイスは用意してくれた。
それも3つ。
1つは子供達とそのお付き、そして案内役2人の分。
1つはヒィ達4人の分。
そしてもう1つは、ソリとキムンカ2頭の分。
キムンカ達は大喜びで、中をゴロゴロ転がっている。
荷物から持って来た焚き火用の木々に、ヒィが剣で炎を付けてやる。
初めはビクッとしていたが。
『害が無い』と分かると、その傍でじっくり温まる。
『キムンカ達の顔が緩んでいる』、そう感じたヒィ。
ヒィと入れ替わりに、ジーノが遊びに来た。
『遅くまでお邪魔するんじゃないぞ』とヒィに言われ。
『おう!』と返事するジーノ。
ヒィは次に、レギー達の居る建物へと入る。
そして火を付けるのに苦戦している、お付き2人に成り替わり。
剣の先で、焚き火用の木々を突く。
すると、重なり合った木々の中から『ボウッ!』と音がし。
見事に着火。
その手際の良さと、見慣れぬ力に。
一同は皆感心する。
ただ1人、むくれているクリスを除いて。
ヒィの手元に在る剣を、まじまじと見つめるエドワーとヘレン。
見た事も無い武器を目の前にして、戦士としての血が騒ぐようだ。
彼等に便乗する様に、案内役も覗いている。
切れ味の無さそうな外見が、気になるらしい。
レギーは、魔法に対する憧れから。
剣から発した炎に付いて、ヒィに尋ねる。
モテモテのヒィが気に入らないのか、建物の外へと出るクリス。
そこには、ヒィが中々帰って来ないのを心配したアーシェが立っていた。
入り口の傍で座り込むクリス。
その隣に、アーシェも座る。
アーシェはポツリと、クリスに言う。
「不満か?」
「何が?」
「注目されていない事だ。『本当は、自分があの位置に』とか、考えてるんじゃないのか?」
「何でよ。」
「『誰かの特別に成りたい』と思ってるんだろう?『そうすれば、寂しくない』と。」
「そ、そんな事無いもん!」
心を見透かされた様で、恥ずかしくなるクリス。
アーシェは言う。
「結構大変なんだぞ?そう言う立場も。彼は笑って流すだろうがな。」
賑やかな声がする中の方を、ちらりと見やる。
そして続ける。
「お前も成れるさ。その力を必要としている者が居るからな。」
「え?どうして?」
「それはな……おっと、私が話した事は内緒だぞ?ヒィに怒られるからな。『抜け駆けするな』と。」
「何、それ。」
フフッと笑うクリス。
心の緊張が、少し解れた様だ。
ここでアーシェは、〔あの話〕を切り出す。
「実はな……。」
ここが良い機会だ。
触りだけでも話しておこう。
『取り敢えず』と言う軽い感じで、アーシェはそう考えたのだが。
何と無しに聞き流そうとしていたクリスは、何時の間にか真剣な顔となっていた。
アーシェが話し終わった時には、クリスの顔付きがすっかりと変わっている。
火の精霊ポウの思いが、クリスへ伝わったかどうかは分からない。
これから先の、彼女の行動が。
それを指し示すだろう。
一行はこうして、ハプニングを乗り切り。
一晩をそこで過ごした。
そして朝が来ると、旅支度を整え。
再び、モンシドへと向かうのだった。




