お邪魔虫(誰にとって?)
モンシドまで続く街道は、荷車1台分しか無い幅のC級。
それは、村へ出向く人間が少ない事と。
宝物殿が在るからと言って道幅を広く整備すると、場所が外部に漏れてしまうから。
だから道中に在る宿代わりの小屋は、簡素で小さく。
1箇所に付き2軒しか建っていない。
案内役を含め10名、それにソリ2台とキムンカ2頭。
宿泊はどうするのか?
そこが悩み所なのだが……。
「また、サフィに連れてってもらった方が良いんじゃねえか?瞬間移動?だっけ、あれで。」
運転席から荷物の上へ、話をする為に移って来たジーノが。
ヒィ達にそう言う。
するとすかさずミカが返す。
「あの方の手を、これ以上煩わす真似は止めて頂戴。」
「でもその方が楽だろ?」
ジーノがそう返すも。
ミカは続ける。
「あの方の気紛れ加減は、良ーく知ってるでしょ?今度は『山から下った方が早い』とかで、山頂へ連れてかれるかもよ?」
「えーっ、それは困るなあ。」
「それに。そんな小細工を使ったら、次こそ変な事になるわよ?」
「エイスの事かい?確かに警戒心が高いなら、不審がられる行動は慎んだ方が賢明か……。」
ヒィが、ミカの言葉に反応する。
宝物殿に氷の妖精が関係しているなら、前の襲撃の件で気が立っているかも知れない。
だからヒィ達が方舟で降り立った時、わざわざやって来た。
自分達にとって害となるか、見極める為に。
ヒィが、考えをジーノとアーシェに話すと。
『そうかあ、なるほどなあ』と、納得するジーノ。
『一理有るな』と、共に考え込むアーシェ。
うーむむむむ……。
3人が思案に暮れている所へ。
「察しが良過ぎるなあ、君達は。」
一瞬『ゴウッ』と、ヒィ達のソリの上が吹雪いたかと思うと。
空中にポンッと姿を現し。
ストンと荷物の上へ着地する。
それは。
「エイス!」
声を上げるヒィ。
運転している案内役は、気付いていない様だ。
前を進むクリス達のソリは、尚更。
どうやら運転席とヒィ達が座る席の間に、何らかの障壁を張っているらしい。
声が聞こえない様に。
前と同じ、オレンジ色の服にゴム長靴らしき黒靴。
透き通る様な白髪、やはりエイスだ。
少し周りの温度が、下がった感じがする。
ブルッと震えるジーノ。
それに対し、申し訳無く思ったのか。
荷物の後ろの方へと、座る位置を変えるエイス。
アーシェも気遣い、席を代わってやる。
ヒィの右隣に移動したジーノは、寒さが緩くなったのか。
顔に赤みが差し、ホッと一息。
アーシェはソリの側面、ジーノの前に当たる場所へと座っている。
鎧を纏っているので座り辛かろうが、荷物の上に腰かける訳には行かないので。
ここで妥協する。
エイスから距離を取る必要が有るヒィは、アーシェと代わってやれない事を残念に思う。
剣に宿る火の精霊と、契約を交わしているヒィは。
例えアーシェを席へ座らせる為その場に剣を置き、荷物の方へ移動しても。
その身を守る為に精霊の力が発動し、うっかりエイスを解かしかねない。
だから席を譲るよりは、そのまま座っている方が良い。
何とももどかしいシチュエーションだが。
これで、エイスと相対する状況を作り出せた。
エイスはヒィ達に話し出す。
「この先、宿に困るだろうと思ってね。協力しに来たのさ。」
「えっ?俺達を警戒してるんじゃ……。」
「それは最初の対面の時だけさ。君達があいつ等と違うのは、もう分ってるから。安心して。」
「ど、どうも……。」
何か照れくさくなるヒィ。
早速エイスに、アーシェが訪ねる。
「して、どう協力してくれるんだ?」
「簡単さ。別の宿を用意する。それだけだよ。」
「別の?」
「これでも妖精だからね、雪の家を作るなんて容易いさ。」
「すっげえ寒そう。」
ジーノがポツリと。
エイスがそれに答える。
「氷で出来た家なら、寒いだろうさ。ポイントは、〔雪で作る〕所だよ。」
「雪?」
ん?
んーーーー?
頭の中で思い浮かべようとするが、ジーノの知識では無理の様だ。
どんな形か、想像出来無い。
『それは、小屋に着いてからのお楽しみ』と、一旦話題を終わり。
こちらが本題とばかりに、エイスが話す。
ミカを見ながら。
「この天使、本当に信頼に足るのかい?」
「ど、どう言う事よ!」
顔を真っ赤にして、ミカが怒る。
平然とした顔で、エイスが続ける。
「確かに君は天使だ。でも【どの神にも仕えていない】だろう?」
「わーっ!わーっ!」
慌てて大声を出し、エイスの言葉を遮るミカ。
ヒィ達にエイスの発言が届くのを、何とか阻止出来たらしい。
3人共、キョトンとした顔をしている。
と同時に、ミカを怪しむ目付きに。
どうして慌て出した?
エイスが『信頼に足るのか』と投げ掛けた疑問に、乗っかる形で。
それだけで十分だったのだろう、エイスはニヤリと笑う。
く、くそーっ!
悔しい表情を隠す事無く、ミカはエイスを睨む。
エイスは、話を続ける。
「とにかくだ。余りこいつに振り回されない様、気を付けた方が良いよ。それがお互いの為さ。」
「心得ている。私も、どうも気に食わなかったのだ。」
アーシェが同意する。
ジーノは黙って頷くだけ。
ヒィは元から、ミカがサフィと組んでいる時点で。
心の底からは信用していない。
『変な企みに巻き込もうとしている』、そう考えている。
ただ、困っている人は放って置けない。
ペルデューの人達の為に、今は動いている。
どうせサフィの方は、いつもの様に『ファンタジーだから』とか抜かして。
何とかしてしまうのだろう。
だから、別に良いや。
厄介払い同然で、セージにくっ付けたのだ。
あいつが居ると、普通の出来事さえもややこしくしてしまう。
そんな感じ。
エイスの、ミカに対する牽制は終わった。
続きを話すエイス。
「いざとなったら、加勢するよ。あいつ等にお灸を据えたいんだろう?」
「ああ。ここへ寄り付きたく無くなる程、痛い目に会わせないと。」
ヒィはそう答える。
モンシドから宝物殿まで行き、その後どうなるかは。
何と無く予想が付く。
その為に、ミカが同行しているのだから。
単なるサフィとの連絡役では無い、それ位はヒィでも分かる。
だから本当は、あの子達を巻き込みたく無かったのだが。
そう考えて振り返り、前を走るソリを見やる。
苦しいヒィの胸の内を悟ったエイスが、心境を和らげる様に言う。
「これは試練だよ。あの子達にとっても、町や国にとっても。そう割り切るんだね。」
でないと、君の気持ちが参ってしまうよ。
優し過ぎるのも問題だ。
そう問い掛けている。
それに呼応する様に、ジーノがヒィの手をギュッと握る。
その上に、アーシェも手を重ねる。
3人は見つめ合い、そして頷く。
その光景を、辟易した感じで見ているミカ。
人間ってホント、その場の空気に流され易いんだから。
面倒臭いったらありゃしない。
あ!
あの方のお気に入りを貶したら、あたいが怒られるか……。
あーあ、やぁねぇ。
さっさと終わらせたいなあ。
そんな感じで、最後はボーッと空を見上げている。
天使らしからぬ発想を繰り広げているミカを見て、ふふっと笑うエイス。
その心中は、如何に……。
1日目はこうして、何と無く進んだ。
そして、小屋の建つ場所まで来たのだが……。