押し掛け女房2名様、ご案内!
「何よ、あなた。」
「あんたこそ、何よー。」
ジーノの後ろから聞こえて来る、女性達の話し声。
言い争っている様に感じられる、その主は。
ジーノの服を背中から掴み、自分の方へ引き込もうとする。
グォングォン身体を揺らされる、ジーノは。
堪りかねて、後ろへ向け大声を上げる。
「そんなにギャアギャア言い合うってんなら、もう付いて来んな!兄貴も迷惑だよ!」
プンスカ怒りながら、ジーノは屋敷へと歩いて行く。
慌てて『ごめーん!』と謝りながら、追い駆ける姿は。
ウサギの耳を持つ頭と、ネコっぽい風貌の頭の。
2種類。
もうお分かりだろう。
武闘会での出来事で、完全にヒィに魅せられた獣人達。
微ウサギ系ウサギ族の〔ユキマリ〕と。
本ネコ系ネコ族の〔アンビー〕。
早速ヒィの屋敷へ潜り込もうと、やって来たのだ。
屋敷の場所は、ラモーに聞いた。
『お礼が言いたいので』と嘘を付き、無理やり情報を引き出した。
そうとは知らないラモーは、今頃何をしているのだろう。
更なる強さを求めて、特訓に入ったか。
『まずは心を鍛えねば』と、瞑想し始めたか。
それは定かでは無い。
しかしゴーラへ直帰しなかった事からすると、何か思う所が有ったのは確実。
ともかくラモーは、2人に騙されて。
大喜びで、ヒィの居場所を喋ってしまった。
こんな事では、ラモーが真の強者へと近付けるのかは。
少々、議論の余地有り。
そこまでして、ユキマリとアンビーは。
ヒィの下へ行きたかった。
ユキマリは、〔清めの池〕から〔テトロン〕へ向かう道中で。
ヒィの境遇を聞いていた。
しっかりとした信念を持ち、それに基づいて行動している。
そしてあの、闘技場で観客席に向かって言い放った言葉。
あれに感銘を受け、『共に暮らしたい』と思ったのだ。
逆にアンビーは。
黒エルフをぶった切った、あの不思議な技に。
興味津々だった。
どうやったら、あんな事が出来るのか?
是非、知りたい!
そしてあわよくば、自分の物に……。
結構野心家でも有る、アンビー。
流石、ラモーから〔じゃじゃ馬〕のレッテルが貼られるだけは有る。
彼と一緒に暮らせば、その一端が垣間見れるかも知れない。
そう思って、図々しくも『屋敷を訪ね、強引に居座ろう』と考えたのだ。
2人の願いが通るかは、これから次第。
ヒィと仲が良さそうだった、ジーノを。
フキの町に付いて早々に見つけられたのは、幸運だった。
しかし同時に、『競争相手が居る』と言う不運も有った。
ジーノが急いでいる風だったので、後を追う形で町中を進んで行く。
そして、冒頭の言い争いへと発展した訳だ。
困ったなあ。
このまま一緒に来られると、兄貴に何て言われるか……。
しかもオラ達、これから旅に出るんだよなあ。
どうしようかなあ。
色々考えながらも、妙案は浮かばず。
ジーノは結局このまま、屋敷の前まで来てしまった。
後ろは、静かにしている2人が。
お互いを牽制し合っている。
でも、このドワーフのご機嫌を損なうと。
後々、取り返しのつかない事になりそう。
それだけは分かったので、敢えて大人しくしている。
そんな冷戦状態の2人を見やって。
ジーノは大きくため息。
はーっ、仕方ねえ。
ここは兄貴に、上手く収めて貰おう。
怒られるのを覚悟で、『お前等、付いて来な』と。
2人を、屋敷へ入る様促す。
ユキマリは、ビクビクおどおどしながら。
アンビーは、ドキドキしながら。
門を潜り、玄関から中へと入って行った。
「兄貴ー。サフィを送って来たぞー。」
「ご苦労さん。後は、お前の荷作り待ちだよ。」
客間で寛ぐ中。
優しく、そうジーノに声を掛けるヒィ。
しかし、後ろから見え隠れする影に。
顔を強張らせる。
『よっ!』と左手を挙げ、元気良く。
ジーノの左側から挨拶するアンビー。
『こ、こんちわー』と、前屈みになりながら。
ひょこっと、ジーノの右側へ飛び出るユキマリ。
そして2人もヒィと同様に、ギョッと顔を強張らせる。
ヒィがそんな表情を見せたのは。
急に2人が訪ねて来たのも有るが。
大部分の理由は、アンビーとユキマリの視線の先に有った。
それは。
「「な、なな!何であんたがここに居るのよーっ!」」
「ん?」
ヒィ同様に荷作りを終え、まったりとしているアーシェだった。
ジーノの首をガバッと掴み、自分の方へ引き寄せると。
顔を近付けて、ヒィがジーノにヒソッと。
『お前!アーシェの事、話して無いだろ!』
『あ!忘れてた!』
『あちゃーっ……。』
おでこに右手を当てて、『しまった』と言った表情をするヒィ。
気になる男の下へ尋ねてきたら。
既に別の女が居た。
そんな風に捉えられたら、ここが修羅場と化してしまう。
しかも今は、サフィが不在。
こんな時に、何やかんや丸め込んで。
強引に納得させてしまう役目の存在が、肝心な時に留守なのだ。
誰がこの場を収めるんだ……?
ヒィもジーノも、最早打つ手無し。
オロオロするジーノ、じっとしているヒィ。
女同士のバトルは、もう回避不可能。
そう思われた。
その時。
「何だ。お主等も、【仲間】として加わりに来たのか?」
「な、仲間?」
アンビーの声が裏返っている。
アーシェの言葉に、我を疑う。
仲間?
仲間ですって?
この女、ヒィの事を狙ってるんじゃないの?
疑問で、アンビーの頭の中が埋め尽くされて行く。
余裕の無くなったアンビーとは対照的に、ユキマリはまだ冷静。
アーシェに、おうむ返しの様な言葉を発する。
「あ、あなたは?仲間に成りに来たの?」
「当然だ。他に有るか?」
即答のアーシェ。
そう、〔アーシェ〕と〔アンビー及びユキマリ〕との間には。
決定的な価値観の差が有った。
アーシェは〔騎士〕である。
しかも『〔救世の御子〕を探す』と言う、重大な使命を負った。
だから、ヒィの事を〔神聖な者〕として特別視していた。
つまり、『異性としては見ていない』のだ。
ここが、ただの一般人として訪れた2人とは。
全く異なる。
最初から、アーシェは。
競争相手になど成らなかったのだ。
その事を理解するのに、2分程掛かったアンビー。
漸く、ショートしていた思考回路が回復したらしい。
元気な表情を取り戻す。
そしてアーシェの傍まで行くと、バンバンと背中を叩きながら。
『仲間かー、そうかー』と嬉しそう。
ホッと胸を撫で下ろすユキマリ。
安心したのは、ヒィとジーノも同じ。
ヒィも、アーシェの事は異性として意識していないので。
考えとしては、お互い様なのだが。
流血騒ぎに発展しそうだった、客間での小競り合いは。
こうして、何とか回避されたが。
依然として。
お互いライバル視している事には変わらない、アンビーとユキマリ。
どうせなら、仲良くして欲しいんだけどな……そうだ!
ヒィは、或る事を思い付く。
そして、バチバチと火花を散らしそうな2人に。
駄目元で言ってみる。
「これから俺達、旅に出るんだ。申し訳無いけど。」
「そうなの?」
「折角ここまで来たのに……。」
シュンと、うな垂れる2人。
しかし続けてヒィが発した言葉で、直ぐに立ち直る。
「だからさ。『誰かが【留守番役】として、ここを守ってくれたら助かるなあ』って。」
「はーい!」「はいっ!」
立候補する様に、スッと右手を挙げる2人。
「あたしが先に手を挙げたのよ!譲りなさい、この耳ピョン女!」
「私よ!私が先よ!勝手に決めつけないでよね、猫撫で声女!あ、ネコか。」
「なにをーーーーーっ!」
「なによーーーーーっ!」
むむむーーーーっ!
またしても睨み合い。
『はいはい』と、間に割り込むジーノ。
ヒィの意図を酌んだかの様に、2人へボソッと漏らす。
『オラ達が帰って来た時、ここで仲良く番してる姿を兄貴が見たら。どう思うかなあ?』
そして付け加える。
兄貴は、〔落ち着いた、気の利く女性〕が好みらしいぜ。
サフィを全く相手にして無いだろ、そう言う事だよ。
まあ後は、あんた達次第だけどな。
頑張りな。
そこまで言うと、ジーノは。
旅支度の為、自分の部屋へと戻った。
ジーノの発言に、心を揺り動かされる2人。
くっそーーー!
仕方無い、ここは。
『バッ』と、お互いの顔を見合わせると。
『ガシッ』と固い握手をする。
一先ず停戦よ。
今はね。
目線で言葉を交わす、ユキマリとアンビー。
あいつの居ない間に、優位な立場を構築して置こう。
そんな考えも有った様だ。
〔屋敷を守る者〕として、フキの町中に好印象を与えられれば。
あいつも『私・あたし』を無視出来なくなる。
よーし、やるぞー!
張り切る2人。
『じゃあ、早速』と。
仮の住まいを、2人に選ばせるヒィ。
ヒィの部屋の隣が良かったのだが、悲しいかな彼は角部屋で。
反対側は、ジーノが既に占拠している。
仕方無く、サフィとアーシェが並んで暮らしている方へ。
サフィ側に、ユキマリが。
アーシェ側に、アンビーが。
それぞれ入居する事となった。
これで部屋の並びは、内側から見て左から。
アンビー、アーシェ、サフィ、ユキマリ。
それでもまだ少し、部屋が余っている。
どれだけこの屋敷は広いのだろう。
『これで足りるかな?』と、ヒィが2人にお金を持たせる。
それはサフィがミーリから巻き上げた分の、5分の1位。
それでも、4人家族の家具・衣服等が一通り揃えられる程の額だ。
強欲なサフィの一面が、ここで良い方向へと発揮される。
大喜びで、何やら話しながら商店街へと向かう2人。
これで少しは、仲が深まってくれると良いけど……。
2人の帰りと、ジーノの支度が出来るのを。
ボーッとしながら待っている、ヒィだった。




