依頼内容は〔怪物狩り〕
「宝物殿の怪物を退治?それはまた物騒ですね。」
セージの依頼内容は、単に『邪魔者を排除して欲しい』と聞こえるのだが。
ヒィの受けた印象を、そのまま話すと。
『そうですよね』と、セージは返す。
しかし、こうも言う。
「宝物殿の前に居るそれは。周りに氷の刃を撒き散らし、付近の村々に多大な損害を与えているのです。仕方無いのですよ。」
「宥める事は、出来ないのですか?」
今度はアーシェが尋ねるも、セージは横に首を振る。
大きくため息を付きながら、アーシェに言う。
「やってみようとはしたのですが。何分、怒りに任せて暴れ回っているもので……。」
俯くセージ。
ふーむ……。
考え込むヒィ。
被害が今も拡大しているなら、早く対処しないと取り返しのつかない事になる。
かと言って、この話が本当であると言う確証も無いしなあ。
あーだこーだ考えた挙句、辿り着いた結論は。
行動せずに後悔するより、行動して後悔しよう。
それが、人の為に成せる道。
ヒィはゆっくりと静かに、セージへ告げる。
「分かりました、お引き受けしましょう。」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」
椅子からガタッと立ち上がり、その場で号泣するセージ。
涙を隠す様に、右腕を目の前に翳している。
余程困っていたのだろう。
その一方で、ジーノがヒィへヒソッと。
『兄貴!そんな安請け合いしても良いのかい!』
『安易に引き受ける訳じゃ無いさ。』
そうジーノへと言うヒィの目に、キラッと光る物が有った。
ああ、何か考えが有るんだな。
ジーノは悟る。
ヒィはセージに、着席する様促す。
「じゃあさあ、これにサインしてくれる?」
そう言って、契約書を奥から持って来るサフィ。
懐からペンを取り出し、早速サインしようとするセージ。
そこへ、ヒィが或る事を言う。
それは。
「引き受けるにあたって、条件が2つ有ります。」
「何でしょう?報酬はきちんとお支払いしますが。」
「いえ、そうでは有りません。1つは。事前になるべく沢山の情報が欲しいので、〔そこに居る奴と、先行して現場に戻って頂きたい〕のです。」
ヒィは、セージにサインを強請っているサフィを指差す。
『あ、あたし?』と、直々の指名に驚くサフィ。
ヒィが続ける。
「現状が分からないまま向かっても、何かが起こった時対処出来ません。だから、状況を把握しこちらに報告する係を、あなたにお付けします。宜しいですね?」
「え、ええ。こちらは構いませんが。」
「では、その様に。」
セージは美少女と旅が出来る事に、満更でも無さそうだ。
しかし、ヒィが出すもう1つの条件で。
ギョッとした顔付きに変わる。
「もう1つは。あなたの【本音】を、お聞かせ願いたい。本当に、その怪物を退治しても構わないのですね?」
セージが〔怪物〕と呼ぶ、その者に付いて。
ヒィは1つの可能性を疑っていた。
それがもし当たっているなら、セージがこの条件にどう反応するかで。
対処は変わって来る。
すると、セージは少し間を置いた後。
こう答えた。
「構いません。人に危害を加えるのです、そんな輩は私の国に必要有りません。」
「了解しました。では、サインをお願いします。」
そう言ってヒィは、セージに契約書への署名を促す。
セージは、サフィが差し出した紙切れにサインし。
サフィへ渡すと、疲れがドッと出たかの様にテーブルへ伏せる。
契約書を持って、ヒィの下へタタタと駆け寄るサフィ。
内容を確認すると、ヒィはセージに告げる。
「確かにこの依頼、承りました。宿へご案内します。今日はそこで、旅の疲れを落として下さい。」
ヒィはジーノに、セージを宿まで案内する様頼む。
『了解!』とジーノは、〔気を付け〕に〔右手をビッとおでこに当てる仕草〕をし。
敬礼の様なポーズを取る。
子供の様な見掛けなので、余り似合わないが。
『さあ行くぞ、おっちゃん』と、セージの手を取って屋敷から外へ出る。
成すがままにセージは、屋敷を離れる。
2人を玄関先で、手を振りながら笑顔で見送るサフィ。
その姿が見えなくなると。
客間でボソボソと、アーシェと話しているヒィの傍まで飛んで行き。
文句を垂れる。
「何であたしが!あんなおっさんと、旅をしなきゃならないのよ!」
「ん?お前なら、その理由が簡単に理解出来ると思ったんだが?」
「理由は分かるわよ!じゃ無くって!何でその役が、アーシェじゃ無くてあたしかって事よ!」
「それも分からないってのか?」
「分かんない!ぜんっぜん、分かんない!」
プンスカ怒っているサフィ。
そこへ、ボソッと呟くヒィ。
「決まってるじゃないか。仲間とは言え〔大国の騎士〕を、小国へ堂々と派遣する奴が有るか。それに……。」
「お前が適任だろ?て言うか、〔お前にしか出来ない〕だろ。」
そう。
ここで暮らすにあたって、アーシェは。
カッシード公国の鎧や剣を、一切身に付けていない。
『公国が遠く離れた支配外の地域で、内政干渉を行っている』。
銀の鎧で出歩く事は、そんな不用意な噂を。
フキ内だけで無く、辺り一帯へ広げる事に繋がりかねない。
『他領域への侵略の布石』と、間違って捉えられれば。
アーシェの身は疎か、この辺りの平穏を脅かす。
そんな事が起こってはならない、起こしてはならない。
同じ他所者だったヒィだからこそ、そう考えるのだ。
だから、素性不明のサフィの方が適任。
変に身辺を探られても、サフィなら上手く誤魔化せる。
そう確信している。
今までがそうだったから。
ヒィの考えが、ちゃんとサフィへ伝わっているか。
怪しいものだが。
何せ〔お前にしか出来ない〕と言われた途端、サフィは既に舞い上がっている。
あたしにしか……そうよねー、当然よねー。
ヒィの隣で、そう言いながら不気味な動きをしている。
両手を両横に突き出してクネクネ、前に掲げてはクネクネ。
サフィの感覚では『喜びの舞』らしいのだが、単純に傍迷惑。
そこへ丁度、宿にセージを送り届けたジーノが戻って来る。
その流れでジーノが、『ラモーの時みたいに、屋敷には泊めないのか?』とヒィへ尋ねる。
しかしその問いには、『いずれ分かるさ』と返すだけのヒィだった。
翌日。
パッパと旅の支度をする、サフィ。
いつもの様に、どっさりと嵩張るかと思いきや。
かなりコンパクト。
財布代わりの小袋に、衣類が入った鞄。
鞄と言っても、ボストンバッグの様な大げさな物では無く。
リュックサックに、形状は近い。
違いは。
ファスナーでは無く紐で、口を縛る位だろうか。
サフィのお気に入りとあって。
生地はテカテカで、光が当たればギラギラと反射する。
装飾もガラスビーズの様な物が沢山降ら下がり、色彩も赤と緑のチェック柄。
森の中で迷っても、直ぐに見つけられそうだ。
逆を言えば、敵と思しき者には簡単に居場所がバレてしまう。
だから旅には、本来不向きなのだが。
敢えてこれを使う事にしたらしい。
『じゃあ、先に向かってるわよー』と言い残し。
ジーノに連れられてサフィは、セージの泊まっている宿へと急ぐ。
その間に、ヒィも旅支度。
アーシェは。
こんな時の為にジーノへ頼んでおいた、特注の鎧と剣を用意する。
着々と準備は進み、ジーノが帰還する頃には大体済んでいた。
しかし、ジーノの後ろにくっ付いて。
【或る者達】が、屋敷内へ乗り込まんとしていた。




