表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/1285

ゲートを潜(くぐ)ると、そこは不思議空間だった

 ヒィ達の前に広がっている光景。

 芝生に包まれた地面は、ゲートの外から見えた通り。

 壊れたゲート、朽ち果てようとしているゲート。

 それ等も、入る前に見えた通り。

 しかしこれまで見えなかった所が、ありありと見える様になった事で。

 ヒィとジーノの思考混乱に、拍車が掛かる。




 ここへ来るまで、ヒィは。

『ゲートらしき物は精々、両手で数えられる位しか無い』、そう思っていた。

 でも実際は、形は違えどゲートと認識出来る物は。

 ずらりと並んでいる。

 円形の広場が中心に在り、その周りを段状に取り囲む大地。

 コロッセオの観客席の様な、河岸段丘の様な。

 ドーナツの輪の様な段差が、二重三重と取り囲み。

 それ等を繋ぐ様に、8等分する形で直線階段が上へと伸びている。

 ヒィ達の居る段から下へ、それ等を見下ろせるので。

 今居る大地は最下層では無く、最上層でも無いと把握出来た。

 後ろを振り返り、何処まで段差が伸びているか確認しようとするヒィ。

 それは実に空しい行為で、段差の先がぼやけて見えず。

 真っ青に晴れ渡った空と、所々にぽつぽつと浮かぶ白い雲が確認出来る位。

 後は台地にたたずむ、ゲートの痕跡が。

 ヒィ達を見つめている。

 特筆すべきは、『ここが閉鎖空間では無い』と。

 直感で分かる事。

 何せ上空に浮かんでいる雲が、流れて行っているのだ。

 それも一様の方向では無く、高さによってバラけている。

 何処かの草原に迷い込んだ感覚。

 ヒィ達は、〔爽やかな風〕と〔そよそよと言う芝生の揺れ〕の中に。

 溺れそうだった。

 〔溺れそう〕と言う表現は、余りの頭の混乱に。

 息をするのを忘れる位で、酸欠になりそうな状態の比喩。

 それ程、切羽詰まった状況だった。

 ヒィ達を害するモノは、何も無いと言うのに。




「中々良い混乱っぷりね。感心するわ。」


 うんうんと満足気に頷くサフィ。

 やっぱりリアクションは、こうじゃなくっちゃあ。

 対してジーノは、顔が強張ったまま。

 ゲートに押し出された格好のまま、身体も硬直している。

 ヒィは事態に対処しようと、情報を集める為。

 きょろきょろするだけ。

 でも結局2人は、何も分からない。

 対岸を確認しようとするも、感覚が麻痺しているのか。

 どれ位の距離か、目測では把握しかねる。

 悔しいがここは、サフィに説明して貰う他無い。

 心を見透かしたのか。

 サフィが2人に、ねとーーっとした口調で迫る。


「頼みが有るの?だったら、それ相応の振る舞い方が御座いますんじゃなくって?」


 おほほほほ。

 左頬に右手の甲を当て、お嬢様笑いをするサフィ。

 ぐぬぬ……。

 憎らしい言い回しに、カッと成りそうだったが。

 従わざるを得ない2人は、ピシッと〔気を付け〕の体制と成り。

 身体を前に折り曲げ、頭を深々と下げる。


「「何卒なにとぞ、御解説を。」」


「そう!それで良いのよ!『素直さ』って大事よねー。」


 くっそー!

 心の中でそう叫ぶ2人。

 ここからは、サフィの有り難ーい御高説が始まる。

『一体ここは、何なのか』と言う事の。




 ここは、ゲートの【中継地点】。

 前に言ったでしょ?

 ここと上の世界は、直接繋がってはいないって。

 一旦ここに出て、目的地へと通じているゲートの前に行ってから。

 ゲートを開いて、ここを出るの。

 神々は、上の世界と下の世界が余りにも離れちゃったから。

 直接降下するのを面倒がったのよ。

 神のくせにね。

 だから、怠惰な連中の為に。

 或る神が、下の世界の連中と協力して。

 ゲートを造り上げたの。

 連中も最初は大喜びで、ゲートを使ってたんだけど。

 その内、下に行く事自体。

 億劫おっくうがっちゃってね。

 頻繁に利用されるゲートだけ、メンテナンスされて来たの。

 でもとうとう自分達は動かず、代わりに天使を派遣する様になってね。

 だから『神様ーっ』ってみんなが有り難がってるのは、実は天使なのよ。

 天使は神に仕える存在、その命令は絶対。

 神からも、地上の民衆からも。

 便利屋代わりに扱われ、可哀想な奴等なのよ。

 酷いと思わない?

 奴隷と変わらないのよ、天使って。

 あたし?

 あたしは、そんな酷い事しないって。

 あんた達があたしと出会ったのも、下の世界でしょ?

 ほんっと、ムカつく!

 あいつ等、〔神〕を名乗って置きながら。

『やってる事は、悪魔と同じだ』って、何時気付くのかしら?

 伸びしろの無い奴等の、末路って所ね。

 これ以上進歩しようが無いから、向上心の欠片も無い。

 だから、間違いに中々気付かない。

 あたしの方が数倍偉いっての。

 自分の足で動いてるんだから。

 と言う訳で、今やこの惨状よ。

 使う者が居ないから、メンテもされなくなって。

 ゲートは壊れて行くばかり。

 でも大丈夫。

 ヒィ、あんたにゲートを復活して貰うから。

 って、ちょっと!

 話、聞いてる?

 ねえ!




 ソイレンから通じているゲートを後にし、同じ段を歩きながら。

 説明する時に何時も見せる、右手人差し指を上に向けクルクルさせる仕草。

 そうやって、ここに付いて切々と語るサフィ。

 対して、後に続いて歩く2人だが。

 話が壮大過ぎて、サフィの背中を追うのがやっと。

 途中でゲートの欠片につまづきそうになる事、度々。

 寄り掛かる段差の壁の、その感触は。

 様々な大きさの石が積み上げられ、さながら城壁の様。

 隙間無くきっちりとしている外見から察するに。

 腕の立つ職人が沢山、建設に従事していたのだろう。

 グルグル回る途中で通り過ぎた階段も、石が敷かれている。

 元々はピカピカに磨き上げられていた様だが、風化したのか朽ち果てている。

 ボロボロと崩れそうな程、不安定な状態。

 こちらは石と石の間から、草が芽吹いている。

 そう言った光景に、ヒィとジーノが目を向けるのは。

 サフィが突然、止まってからだった。

 いきなりの事で、ビクッとするジーノ。


「な、何でい!止まるなら『止まる』って言ってくれよ!」


「言ったら気付くの?今の、頭ん中真っ白なあんたの状態で?」


「う、うっ……。」


 俯き加減になるジーノ。

 ヒィがジーノを慰める。


「しょうが無いよ。俺も多分、言われても気付かなかったろうからさ。」


「あ、兄貴……。」


 目をウルッとさせるジーノ。

『あたしが虐めてるみたいじゃない』と、サフィが抗議する。

 多少の事には動じない、これまでの流浪生活からその自負が有った。

 なのに次から次へと変な事に巻き込まれ、戸惑う日々のヒィ。

 彼でさえ、今置かれている状況に慣れるので精一杯なのだ。

 呑気に過ごして来たドワーフ風情には、いささかこくではないか?

 そうサフィに、目で訴えるヒィ。

『分かった、分かったわよ』と、その場にドスンと座り込むサフィ。

 そして2人に、同じく座る様促す。


「冷静に考える時間が必要な様ね。こっちはまあ、急がないから。情報を整理しなさい。」




「なあ。ちょっと、聞きたい事が有るんだけど。」


 落ち着いて来たのか、辺りをゆったりと眺める余裕が出来たらしく。

 ヒィがサフィに、幾つか尋ねる。


「なあに?変な質問には答えないわよ。スリーサイズとか。」


「スリー……何だそれ?まあ良いや。ここって、芝生しか生えてないのか?」


「階段のとこに、花が咲いてたでしょ?気付かなかったの?」


 そう言って、通り過ぎた階段を指差すサフィ。

 確かに、背丈は小さいが。

 黄色い花を付けた草が、石の隙間から生えている。

 それをジッと見ると、不思議な事に気付く。

 それは。


「あれって、地上でも同じ種類が生えてるよな?何で背丈が低いんだ?」


 その草は、ヒィの言う通り地上でも見られるが。

 人の腰位の高さまで成長し、花を咲かせる。

 それなのに、芝生と余り変わらない。

 そしてそれは、聞こうとしていた疑問の1つと重なる。


「木も、1本も見えないけど。生えない様にしてるのか?」


 この空間に、〔木〕と言うか〔苗〕さえも見られない。

 くるぶしを覆う位の、フサフサした芝生が見えるだけ。

 だから、不思議だったのだ。

 サフィの話によると。

 ここを管理・整備する者は、今はいないらしい。

 だったら、草ボウボウな状態でもおかしくない。

 木々ももっと、鬱蒼と生い茂っているだろう。

 なのに全然、そんな様子には感じられない。

 かと言って、階段の朽ち果て具合を見るに。

 時が止まっているとも言い難い。

 だから、謎なのだ。

 芝生や段差の壁の状態は維持され。

 木々や階段の状態はゆがんている。

 こいつの事だ、『ファンタジーだから』と誤魔化すかも知れない。

 でも一応、聞いておきたい。

 答えは期待していなかった。

 が、ヒィの憶測を他所よそに。

 サフィは答える。




「ここを造った神が、その辺を司っていたのよ。〔時空関連〕のね。だからこそ、ゲートも設置出来たのよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ