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予言、御子、そして剣

 アーシェが語り出した事。

 それは、【とある魔導士の予言】だった。




 人間コミュとしては3本の指に入るであろう大きさの国、〔カッシード公国〕。

 屈強な軍団を複数持ち、広大な地域を支配している。

 他の人間コミュと違うのは、他の種族が入り込むのを徹底的に嫌う点。

 過去の苦い経験から、多種族との交流を制限し。

 従属に近い関係を迫っている。

 なので、多種族の技術を遠慮無く搾取し。

 有数のコミュにまで発展させて来た。

 当然弊害も有り、敵対するコミュが格段に増えた。

 そこまでして頑なに拒むのには、理由が有る。

【他に無い物】を保有している為。

 その存在は、半ば伝説として語られる程。

 〔武器・防具〕だとも〔板状の物体〕だとも言われている。

 現物を見た事が有るのは。

 管理している【大公の一族】と、それに仕える一部の魔導士だけ。

 高位の精霊と契約している魔法使いを、この世界では〔魔導士〕と呼ぶ。

 因みに、最高位の精霊と自在にコミュニケーションが取れるのは。

 〔賢者〕と呼称される、魔導士の上位互換。

 賢者は、世界に何人居るか分からない位少ない。

 魔導士も、大きなコミュで稀に見かける程。

 だから、かなりの権威を持っている。

 政治を左右する位の。

 カッシード公国の魔導士が、或る時啓示を受け。

 それは〔予言〕とされた。

 そして、その内容が問題だった。




 カッシード公国の頂点である【ヘイゼル大公】の下を、お抱えの魔導士【ウェイン】がたずねて来た。

 魔導士が権力者の前に現れる事は、殆ど無い。

 お抱えとは言え、民衆から見れば。

 魔導士と大公は、身分の差が無く同列なのだ。

 立法府からは独立しているが、介入はしない。

 聞かれた時に、アドバイスする位。

 そうやって、折り合いを保っている。

 だからウェインが直々にヘイゼル大公と会う事自体、異例なのだ。

 十数人の参与が立ち会っているにも係わらず。

 〔大公の間〕を静寂が覆い、空気が張り詰める中。

 ウェインがヘイゼル大公の前へ進み出て、上奏文を読み上げる。




『天からの啓示を申し渡す。』

『この世界に、【混沌をもたらす存在】が現れようとしている。』

『奴は悪しき者共を引き連れ、世界を蹂躙し。』

『世界に散らばる宝物ほうもつを強奪し、民の前でそれ等を誇示し。』

『〔我こそが世界、世界こそが我〕と唱える。』

『その言葉に耳を傾けた者は、心を黒く染められるだろう。』

『しかし、案ずるな。世界は奴に屈しはしない。』

『〔救世の御子〕を探せ。は、奴に対抗しる力を持つ者。』

『兆しはもう現れている。急げ。急げ。』

『以上、天からの啓示である。速やかに履行せよ。』




 ウェインが読み終わった後、大公の間はどよめきで埋め尽くされる。

 前述した〔他に無い物〕は、天啓の中で出て来た〔宝物〕の内の1つで間違い無い。

 だとすれば。

 この国がその不気味な存在に、既に目を付けられ。

 そいつは国へ攻め込むチャンスを、虎視眈々と狙っているに違いない。

 このままでは国内が乱れ、戦乱に巻き込まれてしまう。

 自らの地位も危うくなるだろう。

 それを防ぐ為、ヘイゼル大公は。

 カッシード公国が先頭に立って動く事とした。

 〔救世の御子〕とやらを掻き集め、国を守ると同時に。

 他のコミュへ戦力を派遣する事によって、どさくさに紛れてこの世界を牛耳ってしまおう。

 大公は、かなりしたたかな様だ。

 ピンチをチャンスに、危機を発展の足掛かりに。

『他の魔導士・賢者にも天啓は降りている』と、ウェインは告げる。

 各地でもう、救世主探しは始まっているだろう。

 ただ天は、〔何人現れるか〕までは明言しなかった。

 そもそも啓示を与えた〔天〕と、神々の住まう〔上の世界〕と同一とは限らない。

 それを探る事は『禁忌』とされているので、本当の所は魔導士も知らない。

『最上級の精霊から愛された賢者にのみ、真実は伝えられる』とされている。

 これ等をかんがみるに、御子探しは他のコミュに悟られぬ様。

 隠密に行われる事となった。

 その場で上奏文を聞いた者には、かん口令が敷かれ。

『もし不用意に漏らせば一族諸共、死を持って償わせる』、その様な取り決めが交わされた。

 御子探しの為の人員も、騎士団の特別階級に絞られ。

 現れるとウェインが予測したコミュに、それぞれ派遣する。

 アーシェは大公一族に近しい貴族の出で、上奏文読み上げに立ち会った参与の娘。

 剣の腕も一流で、騎士団の団長に推薦される程。

 正に、適任だった。

 父からの厳命に、長旅になるのを覚悟し。

 騎士として、また娘として承諾した。

 彼女なりに下調べをし、どうやって探すかを練りに練って。

 派遣先へと向かう。

 目的地近くまで到達し、慎重に根回しを重ねながら探索する内に。

 ヒィがドワーフの町を訪れた一件を耳にした。

 これは、確かめる必要が有る。

 そう考えたアーシェは、ボロ毛布に身を包み。

 あの三叉路で待ち受けた。

 こうやって怪しい姿を晒せば、きっと探りに来る。

 目を皿の様にして、すれ違う群集を見つめる事数日。

 案の定、それらしき者がやって来た。

 一度接触し、感触を確かめて。

 今度は目的地の傍で、最終確認。

 アーシェがここまで話した所で、ヒィ達は漸く理解する。

 目的地とは〔フキ〕では無く、〔デイヅ〕だったと言う事を。




「と言う訳だ。」


 話し終えると、肩の荷が下りた様にすっきりした顔付きと成るアーシェ。

 粗方納得する、家主とネロウ。

 他人事の様な感じのする、ジーノ。

 腑に落ちないのは、ヒィ。

 早速アーシェに質問する。


「どうして俺が、その〔探していると言う御子〕だと考えたんですか?」


「身を挺して他人と助けようとする姿、鮮やかな身のこなし。正に、救世の御子たる者として相応しい振る舞い。それに……。」


「それに?」


 少し話が詰まるアーシェに、思わずオウム返しするヒィ。

 アーシェは思い直すと、ヒィの背中を指しながら続ける。


「その剣だ。不思議な力を感じる、特異な剣の持ち主だと言う事。」


「こ、これってそんなに……?」


 背中から取り出し、まじまじと剣を見つめるヒィ。

 前にもロイエンスが、『ソイレンの町でゲートを開いた』と聞いて。

 この剣の不思議な力に、驚いていた。

 フロウズの間で、首長の一族に代々伝わって来た代物なので。

 真の力や使い方は分からない。

 その事までは伝承されず。

 その必要も無い程、穏やかな時が過ぎて行ったから。

 しかしサフィが、こう指摘する。


「剣の声が聞こえないって、切ないモノよね。」


「え?声?」


「そう。声。」


 変な事を言い出すので、ヒィは咄嗟に反応。

 サフィは続ける。


「『本当の自分を知って欲しい』って、訴えてるわよ。あたしは、それにちょこっと力を貸しただけ。」


「それじゃあ、あの炎は……?」


 ぶつけた後擦り上げる時に、剣の刃先から発する炎。

 ただ単に摩擦によって、火が付いていると思っていた。

 てっきり鍛錬で素早くシュッと擦れるレベルになったから、こう成るものと……。

 サフィはそれをあっさりと否定する。


「自分で言ったんでしょ?〔不殺の剣〕だって。火を付けておいて『殺さず』って、矛盾してるじゃない。」


 少なからず、打撃でも炎でもダメージは与えられる。

 弱々しいモノは、それ位で死んでしまう。

 攻撃を加えておいて『退けて何やらかんやら』は、理屈が通らない。

 武器は武器、そう言いたいらしい。

 ヒィは思わず言い返す。


「だったらどうしろと……!」


「剣の思いを汲み取ってあげなさい。『特別なんだ、凄いんだ』って思って欲しい。【彼】も、そう望んでる。」


「今更、そんな風にはなぁ。」


 ずっと一緒に過ごして来た。

 特別な物とは思えない程、なじみ深くなっている。

 最早、身体の一部。

『人を傷付けたくない』と言う、意志の象徴。

 感慨深げにヒィが見つめる剣へ向けて、ジーノがボソッと。


「そこまで行ったら、『兄貴の特別』じゃないのかなあ。認めてあげなよ、いい加減。」


「ジーノ!声とやらが聞こえるのか!」


 びっくりするヒィ。

『えへん』と胸を張り、ジーノが得意気に言う。




「兄貴に、三叉路で庇って貰ってからかなあ。その剣に宿っている、【火の精霊】の声だよ。」




「そうか!それでサフィは、火の玉を剣に向けて……。」


 漸く合点が行くヒィ。

 知らず知らずの内に、剣に宿る火の精霊が力を貸してくれていたのだ。

 でもヒィは、それに気付かない。

 火の精霊らしい、アピールの仕方に。

 ヒィとこの剣は、余りにも距離が近過ぎて。

 特別な雰囲気など感じなくなっていたのだ。

 だからヒィとアーシェが、改めて対峙した時。

『丁度良い機会だ』と、サフィが火を飛ばして援護した。

 それで張り切って、いつも以上に力を発揮したら。

 やり過ぎてしまって、鎧を溶かす事態になってしまった。

 これは、火の精霊も不本意。

 どうしようか迷っていると、話の流れから。

 結果として、ヒィの理解する所となった。

 嬉しいのか、メラッと小さい炎が刀身の中央から立ち上る。

 ヒィは精霊の存在を実感し、目を潤ませながら。

 感謝の意を示す。


「今まで気付かずにいて御免よ……。そして、ありがとう……。」


 すると。

 やや白っぽくなっていた剣の刀身が、一瞬で真っ赤に変わった。

 鮮やかな深紅しんくに。

 そして何やら、文字の様な物が浮かぶ。

 この世界で使われている文字で、該当する物は無い。

 ヒィには、何て書いてあるか読み取れない。

 変化した剣を見て、ニコニコするジーノ。


「良かったなあ、思いが通じて。」


 剣を見ながら、うんうん頷くサフィ。

 彼女に、ヒィが尋ねる。


「お前なら読めるんだろ?この文字。何て書いてあるんだ?」


 剣の本当の名だと、直感で分かった。

 それを知りたくてサフィに尋ねたのだが、彼女は答えを避けた。

 剣に向かって、軽くウィンクしながら。




「それはあんたが、声を直接聞き取れる様になってからのお楽しみ。ねっ!」

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