〔エルフの戯(たわむ)れ〕の、エルフでは無いモノ
ヒィ達が出会ったのは、3人の妖精。
しかし〔跳ぶ〕では無く、〔飛ぶ〕。
エルフは高い跳躍力を持っているので、跳ね回る事は出来ても。
滑空能力は持ち合わせていないので、宙を漂う事は出来ない。
なら、目の前に居るのはエルフでは無いのか?
その通り。
姿形から、別の者と分かる。
では何故それが、〔エルフの戯れ〕と呼ばれる場所に?
それはこれからの、ヒィ達のやり取りで。
判明する事となる。
「どうして、ここに……?」
「羽?有ったっけ?」
ヒィが、ユキマリが。
思わず声を上げる。
背丈は40センチ程、背中に左右2枚ずつの羽。
そして濃緑色の半袖服と、濃緑色のスカートの下に薄緑色のタイツ。
黄緑色の靴も履いている。
どう見ても、エルフでは無い。
羽持ちの小人で風の妖精、【フェアリー】。
それがクルクルと、空中を飛び回っている。
木々に囲まれた、それ程大きく無い空き地。
背丈の違う草が生い茂っている、それで地面は見えない。
空き地の中間辺りは、やや中に木々が出っ張り。
草原は、瓢箪の様に見える。
手前の部分の方が、やや広いか。
奥の部分の中央に、何か草原から突き出た物が見える。
それは、左上へ向かって伸びている様だ。
スポットライトみたいに、天からの光で照らされている。
だから分かる、あれは人工物だ。
積み上げた層の様に、縞が規則正しく並んでいる。
苔が境目に所々乗っかっているので、良く分かる。
注意深く見ると、それは〔板の側面〕である事に気付く。
つまり、これは合板。
板を何層にも重ねて、貼り合わせている。
天然の物に見られる年輪とは明らかに違う、これからも人工物と言えるだろう。
ならそれが、例のブツなのか?
はっきりさせる為、ヒィはもっと近付こうとする。
そこへフェアリー達が、スーッと近寄りながら。
「「「ねえねえ、何処に行くの?」」」
「何処って、そこへ……。」
「反応しちゃ駄目!」
答えようとするヒィを、一喝して止めるサフィ。
『何で?』と疑問のヒィへ、『良いから!』と怒鳴りつけるサフィ。
余りの剣幕に、怯むユキマリ。
こりゃあ、何か有るわね。
そう感じ取り、ユキマリもフェアリーを無視する事にした。
堂々と胸を張り、ツカツカと歩いて行くサフィ。
訳が分からないまま、真っ直ぐ前を向いてヒィも付いて行く。
続いて、ユキマリも。
それぞれに、フェアリーが1人ずつ。
周りに纏わり付き、『ねえねえ』と声を掛け続けるが。
完全に無視するサフィ達。
空き地の中間地点へと進むにつれ、フェアリーの言い方が変化。
最初は子供の様に無邪気で、明るかったのが。
段々口調もキツくなって行き。
最後には、『来るな!帰れ!』と罵声を浴びせ始める。
それで漸くヒィも、サフィの言った事に納得する。
これは、フェアリーに似た何かだ。
幻なのか、化けているのか。
とにかく、本物では無い。
一度構ったら、ずっと付き纏われ。
酷い目に会わされるのだろう。
それを知っていたからこそ、サフィは強い口調でヒィを制止した。
地面から突き出た物が、はっきりと見える間合いまで近付いた頃には。
フェアリーは『ちっくしょーーーーっ!』と言う、汚い捨て台詞と共に。
姿を眩ました。
接触されると、余程都合が悪いらしい。
フェアリーが居なくなると、ヒィ達は安心して確認作業へと移った。
目の前に有ったのは、倒れ掛かっている板切れ。
しかも下の方が、地面に埋まっている様だ。
ドスンと突き刺さった後、ゆっくり倒れたのだろう。
傾いている方とは反対の地面が、こんもりと盛り上がっている。
日蔭となっている部分には、草は生えていない。
それが反って、板切れの神秘性を高めている。
正面へと回り込むヒィ。
すると右上の角が、扇状にバックリと取れている。
そこからヒィは、本来の姿を推測してみる。
元は正方形だったのだろう。
地面に垂直で、しかも何故か傾かない。
原理はヒィの専門外なので、放って置くとして。
或る時異変が生じ。
上から何らかの圧力を受け、地面へ突き刺さった後倒れて行った。
その途中で止まり、現在の形となっている。
苔塗れの板、表面が何色か分からない程。
しかも一部が欠けている。
剣の力で直せるだろうか?
そう思いながらも、ヒィは背中から剣を抜き。
正面へ構える。
するとそこへ、サフィが口を挟む。
「だーかーらー。〔彼女達〕が認めてくれないと駄目なんだって。」
「彼女達?」
そういや相談した時も、そんな事を言ってたな。
ヒィはサフィに尋ねる。
「誰の事なんだ?どうせ知ってるんだろ?勿体ぶらずに言ってくれよ。」
「わーかってるわよ。」
ホンット、面倒臭い。
そんな感情を露わにしながら、サフィは奥の部分へ。
倒れ掛かっている板切れ越しに、大声で話し掛ける。
「もうとっくに、鑑定結果が出てるんじゃないの?早くしてよね!」
じゃないと、ここで変な踊りを始めちゃうから。
どデカい魔物を呼び寄せちゃうわよ!
サフィはそう言いながら、慣れない盆踊りを踊るが如く。
ゆっくりと手足をくねり出す。
ほっほっほっ。
そう言いながら、奥へと歩いて行くサフィ。
余りに滑稽なので、ゲラゲラと笑い出すユキマリ。
呆気に取られるヒィ。
ユキマリとは逆に、慌てる声が。
奥の奥、森の方から飛んで来る。
「分かった!分かったから!〔召喚の儀式〕は止めて頂戴!」
その言葉が聞こえて来ると同時に、奥の部分に現れるモノが。
それはエルフらしき影2人と、その間に在る怪しい物体だった。
「最初から結論は出てたでしょうに。あたしの前で調子に乗るからよ。」
そう言ってサフィは、ヒィ達と影の間の地面へ。
『ごめんねー』とにこやかに言いながら、さよならの合図の様に右手を振る。
ヒィとユキマリはその時、地面の方から鈍い声を聞いた。
残念そうに、『なーんだー、まーだ出番では無ーいのかー』と。
草で埋もれていて、気付かなかったが。
円形の魔方陣らしき物が、何時の間にか地面に現れていたらしい。
『そこから頭と目だけ出していた』、サフィは後でそう言っていた。
結局、ヒィとユキマリには。
出て来ようとした者の正体が分からなかったが。
あちらが慌てる程だ、とんでもない奴だろう。
そう考えた。
奥に現れた物体、その傍に立っていた影達は。
ゆっくりとヒィ達の方へ近付いて来る。
ドキドキしているユキマリ、平静を装うとしているヒィ。
しかしサフィが気安く、それ等の肩をバンバン叩きながら。
『大変よねっ、あんた達もっ!』と気安く、声を掛けるので。
それ等の感情は、何処かへ吹っ飛んでしまった。
ヒィ達の方へ振り返って、サフィは言う。
さらっと、重要な事を。
「彼女達は、ここの管理者なの。〔エルフの戯れ〕の由来は、彼女達なのよ。」