事情が有るんですよ、エルフにも
「彼女達が……名前の由来?」
「そうよ。〔戯れ〕ってのはねえ。エルフが〔楽しく遊んでる〕んじゃ無くて、〔ここに侵入した者を弄んでいる〕って意味なのよ。」
ヒィの疑問に答えるサフィの言葉は、何か不吉。
それに付け足す様に、『その板に何しても無駄よ、ただの板だもの』と言われ。
ガックリするヒィ。
ユキマリは真顔になって、サフィに尋ねる。
「あなた一体、何処まで知ってるの?」
「さーてねー。」
明後日の方向を向いて、はぐらかすサフィ。
その横を通り過ぎて、ヒィの元へ歩み寄るエルフ達。
外見は、武闘会で出会ったレッダロンに似ているが。
オーラはやはり劣るか。
ツンと尖った耳が、サラサラした金色の髪からチラリと見える。
こちらもレッダロンより、やや小さい。
服装は地味目で。
深緑の生地に、黒と濃い茶色の斑模様を配置。
これは森に身を隠し、対象から見つかりにくくする為で。
その点では、狩りをする人間の格好に似ている。
エルフの側からすれば、『人間の方が真似をした』だろうが。
そこまでして隠れていたエルフ達は、今やヒィを〔狩りの対象〕と見做し。
周りをグルグル回りながら、真直で観察している。
全身を舐め回す様に見て来るので、ヒィは何だか照れくさい。
2人は満足した顔で、ヒィの元から離れると。
怪しげな物体の左右に立ち、ニコッと笑い掛ける。
意味が分からない、ヒィとユキマリ。
向かって右側に立つエルフが、一言。
「あなたには、資格が有りそうですね。これに【触れる】資格が。」
触れる?
ゲートじゃ無いのか?
疑問に思うヒィ。
『何か勘違いしてる様ね』と、サフィが言う。
向かって左側に立つエルフが、その辺りの説明をし出す。
話の内容は、以下に。
これは、ゲートでは有りません。
【ただの転移装置】です。
実はここの真上に、私達が普段暮らす〔土地〕が有るのです。
エルフコミュの集合体、私達はそれを【カテゴリー】と呼んでいるのですが。
上空に浮かんでいる土地は、訳有ってそこから分離し。
宙を漂っていました。
カテゴリーに戻りたい、しかし私達の力では土地を自由に動かせない。
なので孤立したまま、何十年と放浪していました。
或る日その進行が止まり、ここで固定されました。
『何かが自分達の土地に干渉している』、そう考えた当時の長が。
神様にお願いし、地上に調査隊を派遣しました。
するとこれが、〔土地の中に埋まっている何か〕と結び付き。
地上と上空との通り道を形成した、と分かりました。
長は神様の協力の下、地中の物を掘り出しました。
それは何と、【銀で出来た、木の切り株】だったのです。
私の隣に在る物を、良く御覧なさい。
〔根っこの部分が無い木〕に見えるでしょう?
そう。
私達の土地で見つかった切り株の【上部】が、ここに何故か突っ立っていたのです。
今は私達の術で普通の木に見えますが、術を解けば銀色に輝き出します。
この場所へ定着し、上空の土地は安定状態に有ります。
カテゴリーへの帰還を諦めた、エルフ達は。
〔これ〕を利用し、地上とを行き来して。
仮初の平穏を手に入れたのです。
しかし人間達の中に、これを奪おうとする者が現れました。
奴等は一目見て、『銀で出来た木だ』と思ったらしく。
何の考えも無しに、『バラバラにして運ぼう』と考えました。
私達にとっては、迷惑な話です。
それと同時に、後を付けられてこれを発見されてしまったミスを悔やみました。
奴等は何とか追い返しましたが、私達は長と共に話し合いました。
辺りの人間達とは仲良くしたい、事を構えたくない。
だからと言って、転移装置の地上部は私達に動かせない。
どうやら神様にも、位置をずらす事は出来ないそうです。
そこで私達は決めました。
『ここを特別な場所にしてしまおう』と。
【『エルフが良く出没し、人間を受け付けない遊び場にしている』振り】をしよう、と。
その為、二重に幻を張り。
1つ目で人間達を追い返し、2つ目でエルフに敵対する者かを見極める。
そうやって、不要なトラブルを回避して来たのです。
ですが最近、【或る方】から。
『全てを解決出来る者が見つかった』と言う情報が齎されました。
近い内に訪れる筈だから、とも聞かされたので。
交代でその人物を待ち受けていた、と言う訳です。
私達には、直ぐに分かりました。
あなたの特殊性を。
しかし決まりは決まりなので、念の為に試させて頂きました。
御無礼を、お許し下さい。
それを承知で、お頼みします。
どうか私達の願いを、聞き届けては頂けないでしょうか?
『それでもやはり、カテゴリーに戻りたい』と言う願いを。
どうか、どうか……。
話し終わり、スッキリした顔になるエルフ。
対照的に。
話のややこしい中身に、頭の中がこんがらがるユキマリ。
もう1人のエルフは、こう付け加えた。
「後ろで突き刺さっている物は。昔上空の土地から落下した〔板〕が、地面に突き刺さっただけです。こちらも、ゲートとは何の関係も有りません。」
「そ、そうですか……。」
ヒィはガックリする。
そして同時に、幾つかの疑問が浮かぶ。
銀の木と切り株は、本当にただの転移装置なのだろうか?
それにサフィははっきりと、『ゲートが在る』と言った。
〔エルフの戯れ〕に。
更に、『彼女達へ情報を与えた』と言う〔誰かさん〕って……?
チラッと、サフィの方を見るヒィ。
欺瞞の目付きに、サフィは不服だったのか。
文句を垂れる様な言い方で、ヒィに突っ掛かる。
「何よ!言いたい事が有るなら、はっきり言いなさいよ!」
「そこまで怒らなくても……。」
「怪しんだ視線であたしを睨む、あんたが悪いのっ!」
「えっ?俺、そんな顔してたか?」
「自覚が無いなら、重症ね。呆れたもんだわ、全く。」
腕組みをして、プイとそっぽを向くサフィ。
ヒィの口からは、素直に『ごめん』と謝罪の言葉。
それが弱々しく発せられたので、逆に引くサフィ。
気持ち悪いわねー、そこまでやり込めたかしら?
思い当たる節が無いサフィは、『良し、あたしは悪く無い!』と開き直り。
ヒィに、訳を尋ねる。
「で?何であたしを見てたのさ?」
「あ、ああ。まさかとは思うけど、エルフ達に言ったのって……。」
「あたしじゃ無いわよ。〔レッダロン〕でしょ、多分。ねぇ?」
「は、はい。お知り合いでしたか。これは言葉足らずで、申し訳ございません。」
説明してくれた、左側のエルフが。
そう釈明する。
ついでにユキマリが、左側のエルフに尋ねる。
「ねえ。何でエルフじゃ無くって、〔フェアリー〕を見せたの?幻惑で。」
「〔エルフの戯れ〕と呼ばれる場所で、わざとエルフでは無い妖精を見せ。攻撃態勢を取るかどうか、反応を確かめたかったのです。」
「それを看破したサフィが、怒ってズカズカと歩いて行ったと。なるほどね。」
納得するユキマリ。
自称〔女神〕が、妖精如きを差別する筈が無い。
獣人である私を同行させる位だし。
心の狭い人物に見られ、ご立腹だった。
そりゃあ、そんな態度に出るわよねえ。
サフィの心中を察するユキマリ。
その点に付いては、サフィに謝り倒すエルフ達。
神には独特のオーラが有る、それがサフィから感じられなかった。
だから、神だとは思わなかったらしい。
エルフ達の述べる理由は、ヒィには同意出来る物が有った。
こいつはどうも、その部分は胡散臭い。
サラが気軽に接するし、ブレイムからは畏怖されている。
さっきも、得体の知れない者を召喚しようとしていたらしいし。
時々変な技を見せるかと思えば、仲間である筈の神々を〔あいつ〕呼ばわりする。
正直、女神の取る行動とは思えない。
〔それ以上の何か〕の方が、妥当ではないか?
そこまで思いを巡らせると、何時も。
ヒィは、考えを止める。
何だって良いじゃないか、仲間なんだから。
何者であろうと、関係無い。
その結論に到達するから。
「で?俺は何をすれば良い?」
レッダロンが言った、〔全てを解決出来る者〕は。
恐らく俺だろう。
サフィと何やら、話していたみたいだし。
武闘会後の光景を見ていたヒィは、そう考え。
サフィに尋ねる。
『えへん』と胸を張り、サフィはヒィに告げる。
「まずは、エルフの長に会って貰うわ。本当に元に戻りたいか、最終確認しないと。」
「その後は?」
自分に、そこまでの力が有るとは思えなかった。
色々な炎が使える様にはなったけど、行使対象の大きさには限度が有る。
『宙に浮かんでいる』との、エルフの住む土地を。
丸ごと、どうにか出来るとは考えられない。
悩むヒィに、バンッと背中を叩き。
『自信を持ちなさい!』と言わんばかりの顔付きで、サフィは言う。
あの言葉を。
「あんたなら出来るって。何たって、ファンタジーなんだから。」




