知らない方が良いこともあります。
「ここはどこじゃろうか…」
森の中で一人の老人が身を潜めていた。
この老人、長い間走っていたので息が切れている。
外からはフシュー、フシューと、何かの息をする音が聞こえている。
「早く帰りたいのぅ…」
呟くように言いながら、移動する為に老人は立ち上がった。
しかし、老人は運悪く木の枝を踏んでしまった。
パキッと、森の中に乾いた音が響き渡る。
「あー………無理そうじゃの…」
『グルル…』
生物がこちらを向いた。
「すまぬ。どうやら帰れそうにないわい…」
生物はゆっくりと大きな口を開けた。
「はーい、ご飯ですよ〜」
「今日の朝ごはんは?」
眠い目をこすりながら僕は聞いた。
「取れたての卵で作ったハムエッグです!」
「おぉ!やったぁ!!」
「エレちゃんにはヘルシー卵焼きね♪」
『キュルルル』
桜の足に頭を擦り付けながらエレちゃんことエレキハネトカゲは甘い声で鳴いた。
ちなみに、ライフルで撃ったことに関して僕は許してもらえたらしく、少しの警戒はあるものの懐いてくれている。
「しっかしまぁ、そんな声も出すんだなぁ」
「本当ですよね、想像もできませんでした」
エレちゃんとの戦いから1日。平和な時が経っていた。
…でもなんか引っかかるんだよなぁ。
ん〜…なんだろう………
「あーーーー!!!!!」
桜がいきなり立ち上がった僕を見て首をかしげる。
「どうしたのですか?」
「あーー!!!あーーー!!!!」
「まさか…美味しくなかったですか?」
「あーあーあーあー!!!」
『キュルルル、キシャーー!』
うるさいと思ったのか、エレちゃんが僕のふくらはぎへ…
「痛ぁーーーーー!!!!!」
噛み付いてきた。
「ハッ!そんな場合じゃないよ!」
痛むふくらはぎをさすりながらカレンダーを見る。
そして確信する。
「桜………」
「な、なんですか?」
「じいさんはなんで帰ってこないんだ?」
「!?……」
そうだ。本来ならば昨日帰って来ているはずだ。
「そうでした。色々ありすぎてすっかり忘れていました」
おい、自分のじいさんを忘れるなよ…
「大丈夫ですよきっと。少し遅れてるだけです」
「そうか?なら良いんだけど…」
ー三日後ー
「これはおかしくねーか?」
遅い。幾ら何でも遅すぎる。
「どうしたのでしょうか…」
桜も心配そうな声を上げる。
そんな時、ほとんど読まないので横に積んでままになっていた新聞の表題が目に入った。
『森に生物出現!?死者も出た模様か』
「いや、まさか…ね」
『本日、地元の森に狩りに来ていた男性が森の中で大きな足跡を発見したという。そして、その近くには血の付いたシャツが…』
そしてそこには写真が載っていた。
じいさんが着ていた血だらけのシャツの写真が。
「…!?」
まじかよじいさん、あんなに強かったのに…
「どうしたのですか?」
桜が新聞を覗き込む。
「……っ!?」
そして絶句する。
「一樹…」「ん」
「しばらく…一人にして…貰えませんか……」「…ん」
僕は言葉にならない声で返事をして、黙って部屋を出た。
「クッ……ウゥ…おじい…ちゃん……」
後ろのドアからそんな声が聞こえたが、聞こえないふりをした。
「くそっ、なんでだよ!なんでなんだよ!」
やり場のないこの悲しみを僕は忘れることはないだろう。
『クルルルル?』
エレちゃんが慰めてくれた。
「ん、ありがと…」
そうだよ、一番悲しいのは桜じゃないか。
「僕がしっかりしないと…いけない…じゃな…い…か…」
なのにどうしてだろう、涙が溢れてきた。
そのあと僕は落ち着くまで泣いた。
それと同時に決めた。
『もう泣かない、桜を支えていかなくちゃ』と。




