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第二十一章 決戦天都(けっせんてんと)

 亥時三刻(午後十時十五分)、太和殿(たいわ電)内。


 揺らめく燭台の火が、対峙する顧雲深(こ・うんしん)と趙煜(ちょう・いく)の姿を赤々と照らし出していた。趙煜は龍椅(玉座)に深く腰掛け、その顔は土気色に変わり、瞳には剥き出しの恐怖と抑えきれぬ怒りが交錯していた。


「殿下」蕭千山(しょう・せんざん)が重々しい足取りで太和殿へと大股で入り、緊迫した面持ちで告げた。「斥候(せっこう)の報告によれば、李嵩(り・すう)の主力軍はすでに天都の南三十里の地点に到達し、布陣を開始。さらに李存義(り・そんぎ)の辺軍(辺境防衛軍)も城の西四十里に姿を現しました。東西から完全に挟み込まれる形にございます」


 顧雲深は冷然と頷き、趙煜へと視線を戻した。「陛下、李嵩と李存義の二路の大軍による挟撃により、天都は風前の灯火。この期に及んでまだ抵抗を続けるとおっしゃるなら、それは自ら破滅の道を突き進むことに他なりません」


 趙煜は引きつった冷笑を浮かべた。「顧雲深、そうやって朕を脅そうとしても無駄だ。李嵩も李存義も朝廷の重臣。その彼らが、この天都を攻撃するはずがなかろう!」


「奴らは陛下を攻撃しはしない」顧雲深は一歩歩み寄り、静かに、しかし冷酷に言い放った。「だが、この俺を決して生かしては置かないだろうな。ひとたび奴らが天都へ攻め入れば、陛下はただの操り人形(傀儡)と化し、俺は死ぬか、あるいは最悪の囚人となるだけだ」


 彼は一拍置き、さらに言葉を重ねた。「陛下、選択肢を差し上げましょう。自ら進んで龍椅を退位なさるなら、この俺が陛下の御命だけは保証いたします。もし拒まれるなら……李嵩らの軍勢が天都へ乱入した時、陛下の命がどうなるか、保証はいたしかねますな」


 趙煜は長い間、苦悶の沈黙を続けていたが、やがて絞り出すように言った。「朕に……考える時間をくれ。一晩だけ、時間を……」


「よろしい」顧雲深は頷いた。「猶予は明朝まで。もし夜が明けても退位の決断を下されぬ時は、俺の全軍を引かせ、李嵩と李存義の軍勢をそのまま天都へ迎え入れるまでです」


 ---


 子時(午前零時前後)、天都城内。


 夜煞(やさつ)は高くそびえる城壁の上に立ち、城外に広がる不気味な二路の大軍を凝視していた。城南には李嵩の主力軍が、無数の軍旗を翻して広大な陣を構えており、城西には李存義の辺軍が、戦馬の嘶きを夜風に響かせながら駐屯していた。


「首領」一人の暗衛(秘密工作員)が影から滑り込み、低く報告した。「李嵩、李存義の両軍による挟撃網が完全に完成いたしました。恐らく明朝の辰時(午前八時前後)には総攻撃が開始される模様です」


 夜煞は表情を変えずに頷いた。「分かった。我が掌握する四衛の禁軍に、直ちに臨戦態勢を取らせよ。それと……密かに使者を放って李嵩、李存義の双方と接触せよ。彼らに『天都の城内に政変あり、攻撃を一時的に見合わせられたし』と伝えるのだ」


 暗衛は一瞬、唖然とした。「首領、それは一体……?」


「李嵩や李存義が天都へ攻め入ったところで、我らには何一つ得はない」夜煞は冷ややかに言った。「奴らが天都の覇権を握れば、必ずや大々的な異端審問と粛清が始まる。その時、真っ先に血祭りに上げられるのは我ら暗衛だ。この俺には、我らの『立場』を再考するための時間が必要なのだ」


 その時、別の暗衛が慌ただしく駆け寄ってきた。「首領、顧殿下より太和殿へお越しいただきたいとの要請がございました。緊急の要件にございます」


 夜煞の瞳に複雑な計算と揺らぎがよぎったが、最終的には静かに頷いた。「……よかろう。顧殿下にお目にかかろう」


 ---


 丑時三刻(午前二時十五分)、太和殿内。


 夜煞が太和殿へと足を踏み入れた。顧雲深に対して恭しく拝礼する。「顧殿下、夜煞、御前に参上いたしました」


 顧雲深は淡々と顎を引いた。「夜煞、李嵩と李存義の二路の大軍による挟撃で、天都は崩壊の危機にある。この窮地を切り抜けるため、お前の力を貸してほしい。俺と共に天都を守り抜け」


 夜煞はしばらく沈黙を守っていたが、やがてその鋭い視線を顧雲深へと向けた。「顧殿下、もし臣が殿下の御期待に応えるならば……殿下は俺に、何を授けてくださいますか?」


「確たる『活路』を与えよう」顧雲深はゆっくりと、しかし確信に満ちた声で言った。「李嵩と李存義を退散させることができた暁には、お前の命を完全に保証する。それどころか、我が新朝においてしかるべき要職を用意することも吝かではない」


 夜煞は頭の中で損得を弾き、最終的に頷いた。「承知いたしました、殿下に従いましょう。されど……顧殿下、そのお言葉に偽りなきよう、我が命の保証だけはくれぐれもお願いいたします」


「この顧雲深、一度吐いた言葉を違えたことはない」顧雲深は夜煞の肩を軽く叩いた。「李嵩と李存義を退ければ、お前は無事だ」


 ---


 寅時(午前四時前後)、天都城外。


 李嵩は冷たい夜気に包まれた中軍幕舎(本陣)の前に立ち、暗闇の中にそびえ立つ天都の巨大な影を睨みつけていた。城壁の頭に灯る烽火は激しい夜風にかすかに揺れ、守備兵たちの張り詰めた空気が遠目にも伝わってくるようだった。


「都統(ととう)」副将が傍らに歩み寄り、声を潜めて言った。「顧雲深はすでに無血入城を果たし、趙煜は太和殿に軟禁された模様。我らも直ちに城門へ攻め入るべきでしょうか?」


 李嵩は即座に首を振った。「いや、攻城戦は悪手だ。顧雲深は七万三千の江南軍を擁し、さらに天都禁軍の六万をも手中に収めている。奴の総兵力はすでに十三万を超えているのだ。これに対し、我が軍はわずか六万。この戦力差で正面から城壁を叩くなど、自ら死地に飛び込むようなものだ」


「では、いかにしてこの難局を打開いたしますか?」


 李嵩は冷徹な笑みを浮かべた。「天都を完全に包囲し、兵糧を干すのだ。顧雲深がいくら大軍を擁していようと、天都城内の備蓄米は三ヶ月も持たんはず。徹底的な兵糧攻めを敷けば、三ヶ月と経たぬうちに顧雲深の軍勢は餓えに苦しみ、内から瓦解する。戦わずして勝てるのだ」


 副将は深く感服した。「都統、実に見事な計略にございます」


 その時、一人の斥候が急報を携えて駆け込んできた。「都統、李存義将軍の使者が到着いたしました!」


 李嵩は頷いた。「――すぐに通せ」


 使者が幕舎へと足を踏み入れ、李嵩に慇懃に一礼した。「李都統、我が主・李存義将軍より、都統へ宛てた密書でございます」


 李嵩は書状を受け取り、一読するやその瞳に歓喜の色を浮かべた。そこにはこう記されていた。

『李都統の包囲戦術に全面的に賛同する。天都の兵糧を絶ち、顧雲深の軍勢が飢えに瀕したその時を狙って、一気に城内へ攻め入るのが上策と心得る』


 李嵩は書状を蝋燭の火にくべて灰にしながら、使者に向かって言った。「李存義将軍に伝えよ。その提案、全面的に受け入れるとな。我らは共に天都を干殺しにし、顧雲深の兵粮が尽きるのを待って、天下をこの手に奪い返すのだ」


 ---


 卯時(午前六時前後)、天都城内。


 顧雲深は冷え切った城壁の上に立ち、城外を取り囲む二つの巨大な陣営を見下ろしていた。南方の地平線を埋め尽くす李嵩の主力軍、そして西方に強固な陣を張る李存義の辺軍。天都は完全にその包囲網の中に閉じ込められていた。


 ---


【システム警報:兵糧攻め(包囲戦術)】


 李嵩主力軍:6万人(城南に布陣)

 李存義辺軍:6万人(城西に駐屯)

 戦術意図:天都を完全包囲し、兵糧の供給を遮断

 兵糧枯渇までの想定期間:90日


 ---


「殿下」蘇青(そ・せい)が音もなく彼の傍らに歩み寄った。「李嵩と李存義め、力攻めを避けて包囲戦術に出た模様です。天都城内の備蓄米は、どんなにかき集めても三ヶ月分に満ちません。このまま干されれば、我らは一歩も動けぬまま自滅の道を辿ることになります」


 顧雲深は冷ややかに目を細めた。「……だが、それこそが我らの付け入る隙だ。李嵩も李存義も流石に老獪だな。真っ向から攻めれば自らが敗れると知り、包囲によって確実に勝利を掴む道を選んだわけだ」


 彼は一度言葉を切り、「ならば、我らはその裏をかくまで。伝令! 斥候を放ち、李嵩と李存義の『兵糧輸送路(糧道)』を徹底的に洗い出せ。奴らがこちらの補給を断とうとするなら、俺たちが先に奴らの喉元(補給線)を断ち切ってやる。兵糧を失えば、干上がるのは奴らの方だ。撤退せざるを得なくなる」


「はっ!」


 蕭千山が力強く拳を包んだ。「殿下、奴らの糧道はどのルートを通っておりますか?」


 顧雲深は遥か城外を指差した。「李嵩の糧道は東南方向から、李存義の糧道は西北方向からそれぞれ引き込まれている。精鋭の奇襲部隊を放ち、奴らの背後を急襲して補給部隊を焼き払うのだ」


「お任せを。この蕭千山が直々に軽騎兵を率い、李嵩の糧道を叩き潰して御覧に入れます」蕭千山が不敵に笑った。


「ならば私は、李存義の補給線を奇襲いたしましょう」王遠(おう・えん)がこれに続いた。


 顧雲深は力強く頷いた。「頼む。二人はそれぞれ三千の精鋭軽騎兵を率い、李嵩と李存義の糧道を各個撃破せよ。心得ておけ、深追いは無用。奴らの糧食をすべて地獄の業火に変えた後は、速やかに撤退せよ」


「応!」


 ---


 辰時(午前八時前後)、天都城南三十里。


 蕭千山は三千の軽騎兵を従え、李嵩の糧道を目指して疾風のごとく出撃した。彼らは李嵩の本陣の監視の目を巧妙にかいくぐり、東南方向へと伸びる輸送ルートへと一気になだれ込んだ。


「蕭将軍」副将が馬を並べながら尋ねた。「李嵩の糧道はどのあたりでしょうか?」


 蕭千山は遥か前方の地平線を指し示した。「李嵩の糧道はここから東南に約五十里の地点だ。このまま馬に鞭を当てて疾走すれば、二刻(約四時間)足らずで到達できる。一気に行くぞ!」


 三千の軽騎兵は険しい山道を猛烈な勢いで駆け抜け、地鳴りのような馬蹄の音が山谷の間に激しく木霊(こだま)した。


 二刻の後、蕭千山はついに李嵩の補給線へと到達した。彼の眼前に現れたのは、見渡す限りの巨大な輸送車隊であった。数百台もの馬車が、前線を維持するための米や兵糧を山積みにし、李嵩の大営に向かって牛歩の如く進んでいた。


「――突撃ッ!」蕭千山の怒号が響き渡った。


 三千の軽騎兵が怒涛の勢いで輸送隊へと襲いかかった。無数の火箭(ひや)が虚空を切り裂いて降り注ぎ、山積みの糧食を満載した馬車が次々と炎上、火柱が天を突いた。不意を突かれた護衛の兵士たちは完全にパニックに陥り、武器を投げ捨てて四方へと逃げ惑うばかりであった。


 激しく燃え盛る馬車を見つめながら、蕭千山の胸には確かな手応えが広がっていた。李嵩の兵糧をこれだけ焼き払えば、奴らは逆に干上がり、退兵を余儀なくされるはずだ。


 だがその時、地平線の彼方から激しい馬蹄の音が響いてきた。李嵩の救援部隊が急行してきたのだ。


「目的は達した! 引けッ!」蕭千山は即座に全軍へ反転を命じた。


 三千の軽騎兵は風のように素早く戦場を離脱し、複雑な山路の奥へとその姿を消していった。


 ---


【戦闘データ】


 李嵩の糧道炎上: 馬車三百余台、兵糧の約60%が消失

 江南連盟軍: 軽騎兵三千、戦死約20名、負傷約30名

 戦果: 李嵩の兵糧に甚大な打撃。包囲戦術の前提を揺るがす


 ---


 巳時(午前十時前後)、天都城西四十里。


 王遠もまた三千の精鋭軽騎兵を率い、李存義の補給線を断つべく出撃していた。彼らは李存義の辺軍大営の哨戒網を巧みにすり抜け、西北方向へとひた走った。


「王遠殿」副将が尋ねた。「李存義の糧道はどこに?」


 王遠は手綱を握り直しながら前方を睨みつけた。「李存義の糧道は西北へ約六十里。この速度のまま突っ走れば、三刻(約六時間)で奴らの首根っこを掴める」


 軽騎兵たちは砂塵を巻き上げて険しい道を進み、絶え間ない蹄の音がこだました。


 三刻の後、王遠はついに標的のルートを捉えた。そこには、李嵩の輸送隊にも劣らぬ膨大な数の馬車が、重そうに車輪を軋ませながら李存義の陣営へ進軍していた。


「――全軍、突撃! 一粒残らず焼き尽くせ!」王遠の命令とともに、鉄流が輸送隊へとなだれ込んだ。


 放たれた火箭が容赦なく馬車に突き刺さり、瞬く間に激しい炎が荷台を包み込んだ。護衛の辺軍兵は江南の精鋭による突然の猛襲に防戦一方となり、組織的な抵抗もできぬまま潰走していった。


 赤々と燃え上がる兵糧の山を見つめ、王遠の口元に笑みが浮かんだ。これで東西の補給線はどちらも完全に崩壊した。


 しかし、戦場の静寂を破るように、地平線から凄まじい砂塵と共に李存義の精鋭騎兵が姿を現した。


「深追いは無用! 撤収するぞ!」王遠の鋭い号令のもと、奇襲部隊は鮮やかに反転した。


 彼らは一糸乱れぬ統制で撤退を完了し、追撃を振り切って山影へと消え去った。


 ---


【戦闘データ】


 李存義の糧道炎上: 馬車三百余台、兵糧の約55%が消失

 江南連盟軍: 軽騎兵三千、戦死約25名、負傷約35名

 戦果: 李存義の兵糧に大打撃。包囲網に致命的な亀裂が入る


 ---


 午時(正午前後)、天都城外。


 李嵩は中軍幕舎の前に立ち、東南の空を赤々と染める不気味な煙を見つめていた。それは自らの生命線である糧道が完全に灰に帰したことを告げる火光であり、彼の腹の底からは煮えくり返るような怒りが湧き上がっていた。


「都統……」副将が恐怖に震えながら歩み寄った。「我が方の糧道が顧雲深の軽騎兵に急襲され……備蓄兵糧の約60%が完全に消失いたしました」


 李嵩は顔を引きつらせて冷笑した。「顧雲深の小倅(こせがれ)め、想像以上に牙が鋭いな。こちらの包囲戦術を見抜き、逆にこちらの補給線を断って主客を転倒(反客为主)させようというわけか」


「では、ここからいかに動かれるおつもりで……」


 李嵩は冷酷な眼光を取り戻した。「伝令、残された糧道の護衛をこれまでの倍に増強せよ。同時に、部隊を割いて天都城外の物流を徹底的に妨害し、何が何でも城内の兵糧を干し上げろ。奴らの胃袋を潰せば、勝つのは依然として我らだ」


 副将は頷いた。「はっ!」


 その時、別の斥候が蒼白な顔で飛び込んできた。「都統! 西方の李存義将軍の糧道も同時に襲撃を受け、兵糧の55%を喪失したとの報告が入りました!」


 李嵩は深く息を吐き、忌々しげに頷いた。「東西同時に仕掛けてくるとはな。完全に主導権を奪う腹づもりか。……だが案ずるな。このまま天都の包囲を緩めなければ、干上がるのは最終的には兵力の多い顧雲深の方だ」


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 未時(午後二時前後)、天都城内。


 顧雲深は城壁の上に立ち、城外の二大勢力を冷然と見下ろしていた。李嵩主力軍と李存義辺軍は依然として強固な陣を構え、天都を東西から圧迫し続けている。


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【システム情報更新:兵糧残量比較】


 天都城内: 兵糧に余裕あり(約3ヶ月分維持)

 李嵩主力軍: 兵糧60%喪失、残り約40日分

 李存義辺軍: 兵糧55%喪失、残り約45日分

 予測結果: 李嵩・李存義の兵糧が底を突き、退兵を余儀なくされる


 ---


「殿下」蘇青が扇を軽く叩きながら笑みを浮かべた。「李嵩と李存義の補給線は見事に崩壊しました。我らを干殺しにするつもりが、今や飢えの恐怖に直面しているのは奴らの方にございます」


 顧雲深は冷酷に頷いた。「包囲して兵糧を断つという戦術の報いを、今度は奴ら自身がその身で受ける番だ。主客は完全に逆転した」


 彼は視線を長江へと向け、「伝令、残った奴らの糧道へのゲリラ襲撃を継続せよ。同時に、我が水師(水軍)を江沿いにさらに北上させ、奴らへのあらゆる水路補給を完全に遮断するのだ」


「はっ!」


 蕭千山が尋ねた。「殿下、奴らは兵糧が尽きかけた際、死に物狂いで強攻(攻城)に出てくるでしょうか?」


 顧雲深は確信を持って首を振った。「いや、攻めては来ん。真っ向から戦えば自滅すると分かっているからこそ包囲を選んだのだ。糧食が底を突けば、奴らに残された道は『退兵』しかない」


 ---


 申時(午後四時前後)、天都城内。


 趙煜は太和殿の冷たい床の上に座り込み、窓の外の空を眺めながら激しい恐怖に身を震わせていた。外には十三万を超える大軍、そして城外には己を狙う二路の軍勢。自分の運命がこれからどうなるのか、完全に暗闇の中にあった。


 その時、重々しい靴音と共に顧雲深が殿内へ足を踏み入れた。


「陛下」顧雲深は淡々と言い放った。「李嵩と李存義の糧道は見事に灰燼に帰しました。我らを干殺しにしようとした奴らは、今や自らが飢餓の淵に立たされております」


 趙煜は必死に虚勢を張って冷笑した。「顧雲深、出鱈目を言うな! 二路の大軍に包囲され、絶体絶命なのはお前の方ではないか! 奴らが攻めてこないと、なぜ言い切れる!」


「攻めれば必ず敗北することを知っているからだ」顧雲深は趙煜を見下ろした。「俺の手元には七万三千の江南軍、そしてお前が遺した禁軍六万、合わせて十三万を超える大軍が城内を固めている。わずか六万の奴らが攻め寄せたところで、ただの犬死にだ」


 趙煜は絶望の表情を浮かべ、しばらくの沈黙の後、掠れた声で尋ねた。「……では、奴らは引くというのか?」


「ああ、必ず引く」顧雲深は冷酷に頷いた。「兵糧が尽きれば退兵せざるを得ん。奴らが天都から消え去り、すべての脅威が排除されたその時――俺は正式に、この国の新たな皇帝として『登基称帝』を果たす」


 趙煜は呪うように冷笑した。「顧雲深……お前が皇帝になったところで、この天下が太平になるとでも思っているのか!」


「天下太平だと?」顧雲深は嘲るように笑った。「陛下、この世に太平など最初から存在せん。あるのは、強者が生き残り、弱者が容赦なく淘汰されるという絶対の真理だけだ。……さあ、選ぶがいい。自ら退位して命を長らえるか、それとも李嵩らの軍勢が瓦解するのをここで惨めに待ち続けるか」


 趙煜は長い間、頭を垂れて絶望に打ちひしがれていたが、やがて力なく呟いた。「……朕は、退位する……」


 顧雲深の瞳に、勝利の歓喜が閃いた。「賢明なご決断だ、陛下」


 ---


【システム提示:主線任務第四章――還都勤王(進捗92%)】


【現在の任務進捗:】


 * 臨安の奪取(完了)

 * 潤州の奪取(完了)

 * 金陵の奪取(完了)

 * 天都への進軍(完了)

 * 趙煜の退位(完了)

 * 登基称帝(準備中)


【新任務:登基大典(即位の礼)】


 任務目標: 登基大典を執り行い、正式に皇帝として即位せよ

 任務難易度: 極高


 ---


 戌時(午後八時前後)、天都城内。


 顧雲深は太和殿の前に立ち、夜空に煌めく無数の星々を見つめていた。一族の復讐は、今まさに完成しようとしていた。だが、本当の戦いはまだ終わっていない。


 李嵩と李存義は補給線を絶たれたとはいえ、未だ計十二万の兵力を有しており、死に物狂いの反撃に出る可能性は捨てきれない。何より、今は従順を装っている夜煞だが、その「忠誠度」はわずか55%に過ぎず、いつ背後から牙を剥いてきても(反噬)おかしくはないのだ。


「殿下」蘇青が隣に立ち、静かに進言した。「李嵩と李存義は退路を断たれつつありますが、このまま大人しく退くとは限りません。一瞬の油断も許されぬ局面にございます」


 顧雲深は冷然と頷いた。「分かっている。全軍に最高レベルの戦備態勢を敷かせよ。奴らの最後の足掻き(反扑)を完膚なきまでに叩き潰す」


「はっ!」


 その時、一人の斥候が歓喜の表情で駆け込んできた。「殿下! 城外の李嵩、李存義の両軍、一斉に撤退を開始いたしました!」


 顧雲深の眉が微かに動いた。「確実か?」


 斥候は激しく頷いた。「間違いございません! 兵糧が完全に底を突き、これ以上の維持は不可能と判断した模様です。現在、全軍が東南方向に向けて移動を開始しており、三日以内には天都の周辺から完全に撤退を完了するものと思われます!」


 顧雲深は斥候の肩を力強く叩いた。「見事な報告だ。伝令! 全軍、直ちに追撃の準備を整えよ。奴らが敗走する背後を急襲し、二度と立ち上がれぬよう叩き潰す!」


「応!」


 ---


 亥時(午後十時前後)、天都城内。


 顧雲深は太和殿の奥に座し、窓の外に広がる漆黒の夜空を見つめていた。敵軍は撤退を始めたが、奴らにはまだ強大な兵力が残っている。さらに、最大の火種である夜煞の忠誠度は55%という極めて危険な水準のままだ。


 彼は完全に二面作戦の思考に入っていた。城外の敵を壊滅させるための追撃戦、そして城内でいつ牙を剥くか分からぬ夜煞への徹底的な防衛策。


「殿下」蕭千山が太和殿へ入り、拱手した。「敵軍の撤退の動き、確認いたしました。直ちに追撃部隊を発進させますか?」


 顧雲深は深く沈吟した後、冷静に首を振った。「いや、今は動くな。奴らは飢えているとはいえ、合わせて十二万の底力がある。倉卒に追えば、死に物狂いの伏兵に遭って手痛い反撃を喰らいかねん」


「では、いかに動かれるおつもりで?」


「泳がせておくのだ。奴らが天都の防衛圏内から完全に離脱し、その行軍が完全に弛緩した瞬間を狙って叩く」顧雲深は低く、冷徹な声で言った。「それよりも今警戒すべきは、城内の夜煞だ。奴の忠誠度はわずか55%。いつ我らの背中を刺しにくるか分からんからな」


 蕭千山はその言葉の意図を瞬時に理解し、深く頷いた。「御意。直ちに太和殿の警備を我が江南の直属精鋭で固め、夜煞の不穏な動きに備えます」


 ---


【システム予警:夜煞の忠誠度変動】


 現在の忠誠度: 55%

 潜在的脅威: いつでも反逆(反噬)の可能性あり

 推奨措置: 太和殿の守衛を強化し、夜煞の勢力を内部から分断せよ


 ---


 システム画面の禍々しい数値を睨みつけながら、顧雲深の心は冷徹な警戒心で満たされていた。夜煞を制御しつつ、城外の敵を討つ。この綱渡りのような権力のゲームに、一瞬のミスも許されない。


 夜明け前の天都は、不気味なほど静まり返っていた。ただ遥か彼方の山谷から、撤退する大軍の地鳴りのような馬蹄の音だけが、不穏に響き渡っていた。


 天都を巡る最初の決戦は、こうして幕を閉じた。


 しかし――天下を揺るがす真の戦争は、まさにここから始まるのだ。


【第二十一章 完】


【下章予告:登基大典の前夜、牙を隠し持っていた夜煞の真の目的がついに白日の下に晒される。太和殿を舞台に繰り広げられる、新帝即位前夜の血塗られた宴。天都攻城戦を遥かに凌ぐ、最も凶険な『権力のゲーム』の勝者は一体誰だ……】


 ---


【本章 核心データ】


 天都包囲戦の結果: 李嵩・李存義の糧道が灰燼に帰し、兵糧の致命的喪失により両軍は撤退を余儀なくされる。

 江南連盟軍・総兵力: 7.3万人。

 天都禁軍: 6万人(夜煞が四衛を掌握、二衛は皇帝に盲従するも武装解除中)。

 李嵩主力軍: 6万人(兵糧60%喪失、現在撤退中)。

 李存義辺軍: 6万人(兵糧55%喪失、現在撤退中)。

 主線任務第四章進捗: 92%(趙煜の退位が完了、登基称帝への最終準備へ)。

 宿主心境パラメータ:冷酷+98、謀略+70、仁徳-12、決断+90。

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