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71話 後押し

 結局私の服はお高めな所からキャメルのコートを師匠が、お手頃な所から裾や袖口にふわふわの毛皮がついている暖かそうなニットの白いワンピースをマリーベルが選んでくれた。

 マリーベルと師匠は私に選んで欲しいと言うので、マリーベルにはお手頃な所からライトグレーのロングコートを、師匠にはお高めな所から落ち着いた青のセーターに黒のズボン、カーキのコートを選んだ。

 お高めエリアから選んだ私のコートと師匠の服一式は師匠が払うと言い、少し揉めたけど結局払ってもらった。


 うう……私、師匠にどれだけ返さないといけないんだろう……また魔石加工したら喜んでくれるかな……あ、そろそろ師匠のお仕事手伝えないかな?


「メル、もう一着選べるぞ」


 師匠の言葉に思考を停止する。

 

「え?マリーベルの冬服は?」

「私はこのお仕着せの上にコートを着てしまえば問題ありません」


 確かにエプロンを外してしまえば紺色のワンピースだが、それはどうなんだろう。私がうーんと思っているとヴァレリーさんが口を開いた。


「では私がマリーベル様にプレゼントしましょう」

「結構です。プレゼントをいただくような関係性ではありませんから」


 ヴァレリーさんが目に見えてしょんぼりした。私は可哀想で元気付けたかったが、何と声をかければいいかわからない。私がまごまごしてる間に師匠とマリーベルは私に似合う服をああではない、こうではないと選んでいる。


 ちょっとは気にしてあげてよ!


 人のことを気にしない二人は結局時間をかけて私の服を選んだのだった。




「……何で俺たちが協力しなければならない?」


 ぶすっと頬杖を付いた師匠に軽く睨まれる。今、私と師匠は庭のテーブルセットでお茶を飲んでいる。


「だってヴァレリーさんはマリーベルと親交を深める機会が滅多にないんですよ」

「俺たちに関係のない所で勝手にやればいいだろ」

「そうは言ってもマリーベルも自由に出歩けない身なのでしょうがないじゃないですか」


 服を選んだ後、ヴァレリーさんが気の毒だったので、マリーベルと館でお話するよう提案したのだ。マリーベルは眉根を寄せていたけど、ヴァレリーさんは大喜びで私の提案に乗った。そしてゆっくりお話ができるよう、私と師匠とパールは庭に出たのだ。ちなみにパールは畑とテーブルセットの間にいつものように顔出しスタイルで気持ち良さそうに目を閉じている。

 

 師匠は庭に視線を向けてため息をついた。


「そもそもマリーはソルジット子爵の利になる結婚はしないと言っているが、子爵はマリーを利用する気なんだろう?子爵を何とかしておかないと、結婚後ヴァレリーや店に何をされるかわからないぞ」


 うまく行ったら行ったで問題があると師匠が言った。結婚までしてしまえば当主であろうと簡単に離婚させられないので、私はその後のことを考えていなかった。


「どうしましょう……何かいい案ありませんか?」

「知らない。ヴァレリーが振られる可能性もあるし」

「そんなこと言わないであげてくださいよ!」


 師匠は面倒くさそうに眉間に皺を寄せ、「マリーがヴァレリーと付き合うと言い出したら考えればいいんじゃないか」と投げやりに言った。


 ……まあ確かに今そんな先のこと考えたってしょうがないよね。どうなるかわからないんだし。


 先のことより今聞きたいことを聞こう。


「それはそうと全ての属性の初級の魔術陣を安定して描けるようになったし、そろそろ師匠のお仕事のお手伝いできませんか?」


 師匠はチラリと私を見ると何も言わずにお茶を飲んだ。その様子に私は肩を落とした。


 まだ私には手伝えないかぁ……


 私がため息をつくと師匠が気遣うような視線を向ける。


「……マリーも描けるから別に無理に手伝おうとしなくてもいいんだぞ?」

「無理じゃないです!私も師匠の役に少しでも立ちたいです!師匠が私の腕に不安があるわけじゃないのなら、やりたいです!」

「……じゃあ頼む」

「はい!」


 よかったー!これで師匠に返済できる。……これくらいじゃ全然足りないことはわかってるよ!でもできる事からちょっとずつやるしかないよね。


「役に立ちたいと言うが、メルはもう十分、俺の役に立っているぞ」

「え?」


 思い当たることがなくて首を傾げる。アメリーさんが来てくれるようになって、料理や庭の手入れの頻度は減っている。

 むしろ魔術の指導や乗馬の訓練、お金、身辺警護……ぱっと思いつくだけでも役に立つより、面倒をかけていると思う。


「メルがいるだけで頑張ろうという気になるし、癒される。メルはいるだけで俺の役に立っている」


 真顔でそんな事を言う師匠に、ポカンとしてしまった。


 い、いや。いくら娘……じゃない妹みたいに思ってくれててもいるだけでいいなんて、そんなわけないよね。あっ冗談か。


「師匠も冗談を言うんですね。間に受けちゃった」


 私は照れ隠しであははと笑う。師匠はきょとんとして「冗談なんて言ってないが」と(のたま)った。


「え……と」


 なんて言ったらいいのかわからず、言葉が出てこない。


 というか師匠。こういう事はさらっと言うのに何で今の生活気に入ってるって言う方が照れるの?師匠の照れポイントがわかんないよ。

 

「メルは十分頑張っている。今までも城で冷遇されながらマリーと二人で頑張って耐えてきた。ここへ来てからも、魔術、乗馬、料理、庭仕事、パールの世話と十分頑張っている。だから俺に対して頑張ろうとしなくていい。もう十分頑張って来たのだから」


 ……どうしよう、泣きそう。そんなこと言ってくれる人、いなかった。魔力が少ないのだから努力しろって言われて、私自身もそりゃそうだよねって思ってた。


 涙が盛り上がって来ているのを感じたが、泣くまいと唇を噛んで必死に堪える。喉の奥がツンとした。


 師匠は頑張ってきた私も、人の役に立てない私も認めてくれた。いや、人の役に立てない私を、師匠はいるだけで役に立っていると言う。


「……ありがとう……ございます」


 泣きそうな顔を隠すために俯いて、小さな声でつぶやくのが精一杯だった。

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