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70話 ドレスのお届け

 マリーベルの誕生日から数日後、ドレスが仕上がったと連絡があり、本日ヴァレリーさんが届けてくれることになった。朝の鐘が鳴ったら転移の魔術陣を使ってやって来る。初めヴァレリーさんは馬車で向かうと言っていたが、道中危険かもしれないということで、安全のために転移の魔術陣を使うことになったのだ。転移の魔術陣を平民や、下級魔術師など魔力が足りない者は町役場の魔術師に魔力を注いでもらう。まあ魔術師は足りない魔力を魔石で補って転移することも可能だけど。

 転移の魔術陣の使用料は大銀貨三枚。裕福な平民は魔術陣を利用することもあるが、大体の平民は他の町に行こうと思うと馬や徒歩になる。

 ヴァレリーさんのような豪商とまでは行かないけど、それなりに儲かっているお店の人たちも基本的には馬を使う。よっぽど仕入れ量が多い上に遠い地で、陸路の輸送費の方がお金がかかりそうだという状況でなければあまり使わない。

 

 今回はこちらの都合なのでこちらで使用料を払う。しかしヴァレリーさんが借りを作りたくないということだったので、その代金分の普段着れそうな服をくれるということになった。ついでにその他に何か要望があれば持って行くと言われ、師匠があれこれ言っていた。


 館の外に布の転移の魔術陣を準備している間に今日までのヴァレリーさんとのやり取りを思い出して、ちょっと疲れた気持ちになった。


 ヴァレリーさん……もっとふんわりした人かと思ってたけど、さすが商人だなぁ。商売のチャンスは逃さない。


 準備が整ったことを師匠が町役場のドミニク様に通信の魔道具で連絡し、ほどなくしていくつかの大きな箱と共にヴァレリーさんが現れた。なぜかヴァレリーさんの身長より少し短そうな木の棒を三本抱えていた。二本は一方の先が同じ形をしており、こんな形→『Y』だった。もう一本は普通の細い円柱の棒だ。私が疑問に思っている間にヴァレリーさんが棒を抱えたまま器用に腰を折った。


「お久しぶりです。ご注文いただいておりました品をお持ちいたしました」


 軽く挨拶をしてすぐに館の中に移動する。箱はヴァレリーさんが恐縮する中、みんなで運んだ。……私は小さめの軽い箱だけ運んだよ。うん。




 箱を館の中に運び終わったら、応接室で注文していたドレスを受け取った。その間にマリーベルがお茶を淹れてくれた。そのマリーベルに満面の笑みでお礼を言うヴァレリーさん。


 ……うん、会えてよかったね。嬉しそうで何よりです。でもあんまりにもしまりのない顔してるから、マリーベルはちょっと引いてるし、師匠は気持ち悪そうに見てるからもうちょっと抑えて。


「……あの、ヴァレリーさん。持ってきていただいた品を見せていただけますか?」

「もちろんです!」


 マリーベルが口元を引き攣らせながらお願いすると、ヴァレリーさんは弾ける笑顔で了承し、急いで準備し始めた。まず箱から厚みのある板を二枚取り出した。その板は長方形だが、真ん中辺りに丸い穴が空いていた。ヴァレリーさんは部屋の壁際の床に板と板を距離を取って置いた。その置いた板の穴に、来た時に抱えていた謎の棒を挿した。もう一つの板も同様にすると、最後にもう一つの円柱の棒を『Y』の形の窪みの所に置いた。

 その後他の箱から折りたたまれていた服を出し、ハンガーに掛け、先ほどの円柱の棒に引っ掛けた。


 なるほど。クローゼットみたいなものを作ってたんだ!


 ヴァレリーさんはどんどん服を私たちが見やすいように簡易クローゼットにかけていった。


「こちらの範囲のものは大銀貨一枚前後のものですから、こちらから三着選ばれたものの代金は必要ありません。こちらの範囲のものはそれより少し高めになっております」


 ヴァレリーさんが示したのは、左側がお手頃価格で、右側がお高めということだった。


 まあ月に小銀貨五枚しか与えられてなかった私からしたら、大銀貨一枚の服もお高めですが。


 初めヴァレリーさんは大銀貨三枚分の服を選んで持っていこうかと思っていたけど、やっぱり自分たちで選んだ方がいいかと思ってたくさん持ってきてくれたらしい。


 選べるのはありがたい。


 せっかくヴァレリーさんが私たち3人が選べるようにたくさん服を持ってきてくれたのだから、「選ぼう」と師匠とマリーベルに声をかける。


「大銀貨三枚分はメルとマリーが選んだらいい」

「私は結構です。姫様がお選びください」

「いやいやそんな訳にはいかないよ!みんな一着ずつでいいじゃん!」

「俺はいい」

「私も」

「いやいやいやいや」


 そのあとも私はみんなで選ぼうと訴え、二人が拒否。しばらく押し問答が続いた。完全に平行線だ。三人とも引く気がない。どうしようかと思っていたらヴァレリーさんが助け舟を出してくれた。


「確かにフレデリック様は普段ご自分のお洋服は仕立てていらっしゃいますから、こちらの服は必要ないかと思います。しかし町を歩こうと思われるのでしたら、季節ごとに必要になるかと存じます。マリーベル様も姫様と共に町へ行くのなら必要ではありませんか?」


「…………」

「…………」


 二人が黙った。確かに町に行く時は安いお店で服を買っていた。冬の町用の服はまだ持っていない。それにいつも買うものよりいいものなので、多分着心地とか違うはずだ。

 師匠はお金に困っていないので、お高い方から町で着れそうなものを選ぶか、追加でお手頃価格から選んでもいいかもしれないけど、マリーベルはそうではない。

 町で安く買うにしても、自由に使えるお金が少ないマリーベルはここでプレゼントをいただく方が懐的に助かるだろう。


「もういいじゃないですか。三人で仲良く選びましょうよ。あっ選び合いします?」

「それなら俺はメルの服を選ぶ」

「私が選びます」


 仲良く選ぶために提案したのに、師匠とマリーベルが火花を散らしている。


 うーん、うまく行かないなぁ……

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