全員で、準備して
粗方の話し合いが終わり、三人で一息つく。
「では私は今から買い出しに行くので、
お二人は家事とお守りをお願いします」
「ああ」
「わかったよ」
「では⋯」
メグミが目をやるほうに、シルファンと共に見る。
視線の先にいるユウキは、
よだれを垂らしながら寝ていた。
時計を見ると、十一時を回っていた。
「あらもうこんな時間、
先にお昼ご飯作ってしまいますね」
「ああ」
「うん」
シルファンがユウキを寝室へ運び、
私は洗濯物の続きをする。
私の世界のお歴々よりは長く生きていないが、
それでもわかることはある。
皆、心の準備をしている。かくいう私もそうだ。
洗濯物を干しながら、必死に安全策を講じている。
さながら戦の前夜。
武者震いの中日々繰り返していたことを
再現するのだ。
恐怖はない。高揚感もない。
ただ集中して意識しながら、危険を予測する。
こういった想像の大概は急に終わる。
そしてことが起こった時は、
想像もしえないことが起こる。
つまり何を考えていても、
予測の範囲内のことは起きないのだ。
無駄だと分かっていても、性分が無駄を否定する。
ただ後悔をしないために。
いつもよりも雑に洗濯物を畳み終わり、
リビングへと戻る。
奥の台所で、
心ここに在らずという感じのメグミが
料理をしている。
麺でも茹でようとしていたのか、
鍋に張った水は既に沸騰していた。
「火、大丈夫かい?」
「ああ、はい」
動き始めたメグミを一瞥して、
服をそれぞれの収納に持っていく。
メグミも同じ気持ちだったのだろう。
しかし準備してあの世界に行くのは初めてのはず。
その緊張は計り知れない。
…準備して行くのは私も同じか。
二階に上がるとシルファンと顔を合わせた。
だがお互い何も言わない。
万が一にもユウキを起こさないためだ。
しかし顔が物語っている。
シルファンも共に同じ心境のようで、
考え事をしながら下に降りていった。
「食料…懐中電灯…水…」
メグミがカバンに詰めたものを
改めて確認している。
この二日間、
できる用意を全てこなして心の準備に費やした。
ユウキはそんな事など露知らず、
リュックを背負いながら家を走り回っている。
最悪の場合どうなるのかというのは、
考えていないのだろう。
あれだけの死闘をした身としては、
あれ以上のことは起こって欲しくない。
アデーラは『とあるくノ一の一生』を
ひたすら読み込んでいる。
「薬よし…ふぅ」
メグミは何巡目かの確認をし終え、
ようやく重い腰を上げる。
「あれ?勇気は?」
「ユウキならさっき二階へ行ってたぞ」
「あの子ったらもう…」
結局三人総出の隠れんぼが始まり、
一時間後に全員集結することとなる。
「皆さん、準備はいいですね?」
「ああ」
「うん!」
「うん」
「では…行きますよ」
メグミは地下室への扉を開け、階段を下る。
準備の一環としての掃除が功を奏して、
かなり歩きやすくなっている。
やがて少し広い空間に出て、
あの機械を正面から視界に入れる。
何の気なしに機械を触ろうとするユウキを制止し、
メグミを見る。
その手には鍵が握られていた。
「行きます…3…2…1…」
『ガチャ』
メグミが鍵を開けて捻ると、
薄い紫煙が部屋中に充満した。
ユウキの手を掴みながら潔くその煙を吸い込み、
眠りへと落ちる。




