四季が過ぎ
三月。
私とシルファンが来てから一年が経った。
ユウキの一年前のあの様子でも
人見知りしていた状態だったのか、
今ではかなりはっちゃけている。
巻き込まれて怒られるのは私たちなんだけどなあ。
『ユサユサ』
こっちの生活にも大分慣れてきて、
家電の使い方や公共交通機関の乗り方も
ある程度マスターした。
手に職をつけようとしたことはあるが、
メグミ曰くかなり難しいことらしい。
立場的には違法入国者とのことだ。
警らに見つかってあれこれ訊かれると面倒だから、
散歩もろくにできていない。
幸いこの家には本が沢山あるので退屈はしないが。
『ユサユサ』
先程から続いている、
ベッドの揺れによって意識を覚めさせられた。
地震などではなく、ユウキのイタズラ。
「おはよう」
当然ながら部屋の中の目に見える部分にはいない。
「ここか?」
ベッドの下にはいない。
「ここは?」
カーテンの隙間にはいない。
「ここには?」
部屋の扉の向こうにはいない。
前はここにいたんだけどな。
「ウフフフ」
ベッドの方から笑い声が聞こえる。
よく見ると、掛け布団が薄くだが膨らんでいた。
「ここか!」
「キャー!」
布団をめくるとやはりユウキが隠れていた。
毎度楽しそうに笑っている。
「勘弁して欲しいよ、
同床したのがメグミにバレたら、
どんな目に合うか⋯」
「どんな目に遭うんです?」
「ウッ」
振り返るとメグミがにこやかに扉の前に立っていた。
背後を取られるのなんていつぶりか、
考えるのも煩わしくなるほどのデジャブ。
「メグミちゃんおはよう!」
「勇気くん、
寝てる人にイタズラしちゃダメって言ったよね?」
「ごめんなさい⋯」
反省する素振りに毎度磨きがかかっている。
「よく謝れたね、ご飯できてるから食べておいで」
「やったー!」
ユウキがリビングへ駆けていった。
「で、アデーラさん」
「⋯」
どうしようもない沈黙が続く。
「⋯状況はなんとなく分かってるので、
もういいですよ。次からは鍵をかけてくださいね」
「あ、ありがとう!」
「今日の洗濯物は全部任せましたよ」
「ヒン」
朝食を済ませ、言われた通り洗濯物を干す。
いつしか自分の服というものが増え、
誰が誰の服かという見分けもついてきた。
ただ未だに、
タイツだけは誰のものかいまいちピンと来ない。
大きさ的にシルファンのものではないだろうが、
果たして私かメグミどっちのものだっただろうか。
畳む時にでも訊いてみよう。
そんなことを考えていると、
庭と部屋を繋ぐ掃き出し窓が急に開かれる。
「アデーラ、大変だ。今すぐリビングに来てくれ」
「おやおやどうしたんだい」
手に持っていた服を掛け、
リビングを通り過ぎダイニングへ至る。
既にメグミも居り、神妙に斜め下を見つめている。
死角になっていた彼女の目線の先には、
本を抱えたユウキが立っていた。
その本の装飾を見ただけで、題名を思い出す。
『とあるくノ一の一生』
一年前から誰もその名を口にせず、
ユウキに読み聞かせもしなかった曰く付きの書。
ついにその日が来たか。
「どうしたんだいユウキ?」
「いきたいの、あそこに」
一応聞いてみるものの、
やはりユウキの目指す場所は
あの地下室であるようだ。
一人で行かず、
三人にまず相談したのは成長かもしれない。
「今すぐに行きたいのかい?」
「ううん、いまはいい」
「なるほどねえ⋯」
メグミとシルファンの目を見る。
二人とも私と同じ動作をし、
心持ちはほとんど自分と
同じことであることがわかった。
「わかった、行こう。
その代わり少しだけ時間をおくれ」
「どのくらい?」
「うーん」
また二人の目を見ながら、思案する。
「明後日はどうかな?」
ユウキの耳に話しながら、目で二人の答えを待つ。
少し考えた後に二人とも頷いてくれた。
「あさってでいいよ」
「ありがとう」
「あっちゃん大丈夫?」
あっちゃん。
元々ユウキから私の名前を呼ぶことは
少なかったのだが、
本人の呂律の関係かいつの間にか
そう呼ばれるようになった。
「大丈夫さ、なんたって準備ができるんだから。
前とはわけが違うよ」
「そっか」
「ああ、少し椅子に座って大人しくできるかい?」
「うん」
まだ椅子に一人で座れないユウキを持ち上げ、
椅子に座らせる。
何も言わずとも自然と、皆食卓を囲む形になる。
ここから本格的な話し合いだ。
「さて、まず今回の始終を旅とした時、
旅程を細かく考えなければいけないね」
「ああ」
「全員、あの本は読み込んでいるかい?」
「一生シリーズは大体読み込みました、
ですが更に読み込む必要が出てきましたね」
「私は大丈夫だ、全部覚えているから」
二人とも頼もしい限りだ。
「まず作品内のいつ頃に飛ばされるかだが─────




