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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第73話:ルベルトの交渉


ーエリンス視点ー



 あー、空気が重い。

 何故かって……レントとルベルト王子が仲良く睨み合ってるんだよ。笑顔で。


 ウィルス達が用意してくれた熱々の紅茶が、もうぬるく感じてるんだから相当ヤバいって。目の前で淹れてくれたんだから、時間はそんなに経ってない。


 なのに、冷えてるってヤバいだろ。ヤバすぎるだろう!!!


 


「……。」




 チラッとレントの方を見れば、雰囲気から話し掛けるなってなるしウィルスの方を見れば、緊張した面持ちで2人を見ている。ナークがピタリとウィルスの背中に張り付いて、様子を見ているのが分かりギクリとなる。


 通常運転過ぎててなのか、ナークにとってはこれが護衛だからなのか……。もう訳が分からない。


 ルベルト王子の部下も緊張した面持ちで立っており、ラーグレスは俺の傍を離れずに立っている。国での訓練や魔法の講習をして貰っているラーファルは嬉しそうにウィルスしか見ていないし、その上司のレーナスはそれに驚いて暫くは静観している。


 ……え、何、このカオスな感じ。

 静かにため息を漏らせば、俺と同じように緊張しているこの街のギルドマスターのローレック。何と言うか、苦労している感じだ。




(あぁ、何で味が分からないんだ)




 1口飲めば味がする筈なのに全然しない。

 分かってたけど。くそっ、何でだ!?




「髪の色、違うんだね」




 紅茶を飲みながら言った言葉にレントはピクリとも動かなかった。動いたのはこの街のギルドマスターであるローレックとルベルトの部下達だけ。

 思わずリベリーに念話で事情を聞いてみると、レントとウィルスが王族である事も何もかも伏せられていると言ったのだ。




≪え、じゃあ、何であの人そんな正体も分からないレント達にこんな屋敷を貸したんだ≫

≪オレが幼い時に殺し合いしたからな。そっからちょくちょく面倒見て貰って……実力も知ってるしなぁ~。多分、オレと知り合いってだけで殆どの事は一旦見なかったことにしたんだよ≫




 サラッと言うが……そう言えばナークも暗殺者として動いていたから、その繋がりか。しかも聞けば、自分の命が狙われているのを分かっていたからそれを大いに利用したんだって。


 ………まぁ、ギルドを一部壊滅状態にしたんならそう見られても仕方ないよな。ウィルスに関わった罰としてレントとナークが暴れたのが容易に想像できた。




「………王子の事は知ってるんですね」

「管理している街の貴族やギルドマスター達には、何度か国での主催や式に呼んでいるからね。知らないでは通れないよ」




 ほぅ、そうものか。って事は、ここは王族とマスターとの繋がりは良好に働いているんだな。……まっ、俺は髪も目の色も変えてないからあんまり気にしていない。レントみたいな人を引っ張る力はそこまで持ってないしな。


 言ってて悲しくなってきたから、もう考えるのはよそう……。




「じゃあ良いかな。ウィルスは枷の所為で()()()()()()()()()()()




 そう言っててレントの雰囲気が変わる。

 抑え込んでいた魔力は元の色に戻った時に現れる。現に圧倒されているように部下の方を見れば、驚きのあまり冷や汗をかいている。いつもの銀髪とエメラルド色の瞳が再びルベルト王子へと視線を向ける。




「改めまして。リグート国、第2王子のレント・セルロール・リグートです。ギルドマスターのローレックからは無償でこの屋敷を使わせて貰っているよ。まぁ色々と楽しませて貰っているよ」




 その色々って、昨日のギルドの事だよな。

 ローレックを見れば開いた口が塞がっていない。ギギギギ、と俺の方に視線を向けるから答えた方が良いか。




「レントが言うから俺も良いか。エリンス・デートル・ディルランド。言っておくけど、俺は巻き込まれてるだけだからな」




 今度は俺にまで視線が集中した。ルベルト王子は「大変そうだね」と言って来たから、思わず頷きかけた。

 察知されるようにレントが俺を睨んできたから、その問いには答えられないから笑ってごまかす。




「良かった。素の君と話す方が私としては気が楽だよ」

「それは良かったです」




 よくない、よくない!!!

 爽やか笑顔でピリピリした雰囲気の何処が「気が楽」だよ。思わずうな垂れる俺にクスリと笑ったラーグレスにはあとで蹴りを食らわそうと思う。




「………大国の王子が2人。何で居るのかは想像がつく」




 レントに合せていた視線をウィルスに合せて、1度手首に付けられた枷を見て目を細めた。………寒気を感じたのは、気のせいじゃない。




「その枷を外すのは確かにこちらで出来る。でも、国に入るのは彼女だけだと言えばどうする?」

「だったら遠くてもリグート国で解決させる。エリンスにも手伝ってもらうから」




 おーーーい。巻き込むなよ!!!

 ウィルスと離れたくなくてそう言ってるんだろ!? 困ったように嬉しそうに微笑むなって、ウィルスとナークが同じ反応で困るんだが。




「ふふっ、冗談だよ。そんな事したら君、絶対に門を壊して行くでしょう?」

「やっていいならやりますよ?」

「ギルダーツに怒られるのは勘弁だなぁ」




 何で楽しそうに言うんだろうか、この2人は。

 その後、ディーデット国に俺達も合わせて行くのを提示した。俺とレントも合わせて王との謁見を許可してきたから、ビックリだ。




「公式ではないのは分かっている。それに理由も私の方が分かる……国同士の話と言った堅苦しいものではないから安心して良いよ」

「………。他にも何かあります?」




 レントの目がルベルト王子の事を射貫くように見ている。思わず部下達が焦る様に前へ出ようとするのを、ルベルト王子が手で制して来ないようにさせた。

 俺も少し含む言い方をする王子の発言は気になっていた。

 そう思っていたら俺の事も見ていた事に気付く。……何でそんなに楽しそうに見ているんです?




「じゃあ、明日の明朝に移動しようか。色々と準備したいんじゃないかな」

「……!!!」




 驚いたようにウィルスがギクリと体を揺らした。

 ナークもチラッとだけど、ローレックを見ているから思う事があるんだろう。そう言ってこの街の管理をしている貴族の家に泊まると言いあっさりと出て行った。


 それに驚いて付いていくのは部下達であり、随分と慌てていた様子だ。そう思っていたらラーファルとレーナスはその場に動かず、レント方へと視線を集中させている。




「姫猫ちゃんと出掛けたい!!!」

「拒否」

「はやっ!!!」




 えー、と訴えて来るラーファルにレントは当然とばかりに反論している。ウィルスはリベリーと何か話しているし、既にナークは眠そうに目をこすりながらもウィルスの傍から離れないでいる……退屈だとしても早いぞ、寝るの。


 そんでもって、それでもウィルスの背中に張り付いているんだから護衛と言うよりはもう子猫の位置だろ。

 飼い主と飼い猫の関係………か。




「お、驚いた……。王子が2人も……」

  



 そう言いながらウィルスの事を見るローレックは気付いたようにリベリーを見る。何だか目が「おい、まさか……」みたいな感じで睨んでいるが、向こうは普通にウィルスも「そうだぞ」と言えば一気に顔が青ざめる。




「も、申し訳ありません……!!!」




 速攻で土下座だ。え、それはどういう?




「気にしなくて平気ですよ。ここは南の国だし、私やエリンスの国の領土じゃないからルールを知らないのは当然。貴方は最低限、自分の立場を利用して私達の事を利用していたに過ぎないんだし」




 まぁ、でも暗殺ギルドに関しては俺も無視はできない。

 ここで起きている事が、いずれば俺達の居る所で起きるのであれば……対処は必要だし、ここで潰せるなら潰したいしな。


 レントはどう考えてもウィルスを守る方面に全振りしてるんだろうしな。ゼスト王太子の居る国は暗殺ギルドが発展しているきな臭い場所だ。


 各方面に放っていてもおかしくないし、リグート国もその暗殺では痛い目に合っている。俺の場合は全部、ラーグレスが察知して防いでた部分もあるから助かっている。




「私が王族だと名乗ったら変に警戒するから言わないようにって、リベリーに言っていたんだ。彼を怒るのは止してね」

「は、はい……」




 何だか後ろでガッツポーズしているように思えるけど、気のせいだと思っておく。

 ウィルスはリベリーに頼まれた物を買いに出掛け行くから用意をしているし、こっそり付いていくラーファルはレントに捕まって「お留守番」を言われている。


 ナークが充電切れのようにリベリーの背中に張り付いて、寝息が聞こえ嫌な表情もしないまま寝室へと連れて行かれる。一連の流れを見てレーナスは驚きのまま、呆然としている。




(ん?)




 思わず外を見る。

 誰かに見られているような、ねっとりした視線に反応するも……誰かが見ているような感じはない。窓際まで来て屋根の方を見ても人が居るような感じもない。




「どうしましたか」

「いや………」




 ラーグレスが声を掛けて来て、俺と同じように周りを見る。変化が無いのは当然だけど、それが妙な気分にさせられる。




「なんでもない。気のせいだ」




 何でもないように言い、俺は自分の武器の手入れをする。

 レントと薬草を取りに行った時にも思ったが、この街の魔物はどれも皮膚が固い。剣に魔力を通して強度を上げても限界は来るか……。




(良い機会かもな)




 ラーファルとレーナスを見て、そう思った。ここにはディルランドでの講師はいないし、止められる人間はいない。


 魔法の向上を学ぶなら、今なのかも知れないと思いつつ俺は2人に話をしてみた。何故か面白そうに目を輝かせた大人に……嫌な汗が流れた。


 えっ、俺、生きて帰れるよな。なんか、不安なんだが??

 

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