第72話:姫猫ちゃん!!!
ーナーク視点ー
うぅ、リベリーにつねられた頬が痛い。痛がるボクにリベリーは睨んだままだ。
「反省しろ」
「………むー」
またペシッと叩かれる。ワザとじゃないもの。
本当に……本当に体は動かなかった。名前を名乗らなかった奴の、神経毒を受けたのは事実だし実際に苦しかった。
でも、主にずっと手を握っていてくれたのと……お粥を食べてからなのか、すぅと体が軽くなった。リベリーにそう言えば、驚かれたように目を見開かれた。
「……姫さん、魔封じの枷で魔力もだけど魔法の類は一切使えないだろ?」
「んー。でも、主の魔力は感覚で分かるよ」
「そりゃあ契約しているんだから、微量だとしても分かるわ」
そう言って、はっとしたように考え込まれる。……難しい事はよく分からないんだけど。
リベリーが言うには枷が封じる力よりも、主の魔力の方が上じゃないかって言う話だ。
「枷の力より主の方が上になった?」
「だとして何で、力が上がるんだ」
………。妙な間があるけど、魔法の事は詳しくないからよく知らない。使えれば良いなぁ~位の認識だからかな。
「リベリーさん。野菜、煮込んで………ナーク君!?」
そこに驚いた様子の主が驚いている。そう思っていたら思い切り抱きしめられた。………うん、良い匂いがする。
ボクも抱きしめ返して、スリスリしてたらベリッて言う音がする位に無理矢理に剥がされる。
「おはよう、姫さん。もう少し煮込んでくれれば良いから、悪いんだけど見ててくれ」
「あ、はい。おはよう、ナーク君。もう少しで朝食出来るから待っててね」
「うん♪」
手をブンブン振って送れば、主も嬉しそうに手を振ってくれた。飽きずに手を振れば「おい」ってリベリーに声を掛けられる。
「弟君に報告するぞ」
ズルズルと引きずられて王子が寝てる所に向かう。
途中でエリンス殿下が起きてきて、ボクの事を見て驚きのあまりピタリと止まる。
「あの、どうしましたか?」
遠慮がちにラーグレスが殿下に色々と言ってたけど、ボクは気にしないまま王子に突撃を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーレント視点ー
朝からウィルスが楽しそうにしている。
昨日、リベリーから教わったのもありすっかり料理に夢中のようだ。
(エプロン……)
カラフルな水玉模様のエプロン。嬉しく頭が揺れる度に結ばれた髪も同じように揺れている。……全身で嬉しさを表現するから、朝から辛い。
可愛くて、辛い……。エプロン姿、最高だ。心の中でガッツポーズしていれば、目の前に座ってるエリンスからは呆れたように言われた。
「良かったな。婚約者のエプロン姿」
「エリンスがいるのが最悪だけど」
「呼んだのは、レントだろうが……」
「だとしても嫌なものは嫌だよ」
「心狭いな!!!」
バン、って机を叩くエリンスを無視してお皿を洗っているウィルスに近づく。後ろから抱き締めれば「きゃっ」と可愛らしい声が上がる。
「ビ、ビックリした……」
「そう? ごめんね」
悪びれもなくそう答え、首や耳に軽くキスをする。くすぐったいのか、体を捻らせてくるのがまた可愛い。逃げられないように、体を引き寄せれば驚いたようにギクリと体を揺らす。
「エ、エリンスも……居るのに」
「彼なら居ないから安心していいよ」
「えっ……」
恐る恐る振り返るとさっきまて居た筈のエリンスはいない。察しが良いから出て行ってくれたんだよ。
そう視線で訴えれば、赤くなっていく顔が見える。
「ダ、ダメ………」
弱々しくも反抗する彼女。
ちょっとだけ目をウルッとさせているのが、また魅力的で可愛くて……閉じ込めたい気持ちが膨れ上がる。
「洗い物、終わるまで待つよ」
「っ。ず、ずっと!?」
おかしな事は言ってないよ。単に洗い物が終わるまで見ているから邪魔はしない。
「朝の目覚めのキス、貰ってないからさ」
「っ……」
耳まで真っ赤にしてるのは、耳元で囁いているから。そんな彼女の反応を楽しみながら、ずっと後ろから抱き締めたまま洗い物が終わるのをじっと待った。
「お疲れ様」
「うぅ……」
恨めしそうに睨んでもダメだからね?
好きな人は何をしても可愛いんだから。私に見つかったのが運の尽きだと思うんだね、ウィルス。
「い、いじわる……」
「自覚してるから平気だよ」
「……!!!」
おっと、さらに涙目で睨まれた。
無言で私の事を殴るけど、力がこもってないから全然痛くない。両手を拘束して顔を上げさせれば、恥ずかしそうに顔を逸らしている。
「ほら、ちゃんと待ったんだから。ご褒美、欲しいな」
甘えるように言えば、ウィルスは視線を彷徨わせた。場所が違うなら寝室にしようからと言えば、全力で首を横に振られた。
「私からすれば、ウィルスはする?」
「そ、そうじゃなく、て……」
恥ずかしいのか、なかなか先を言わない。
もしかしたら、自分から動くのはあの時と合わせれば2回目だ。不安から駆られて自分からするのと、改めて実行するのとではウィルス的には大分違うらしい。
何も答えないウィルス。こっちから仕掛けようかと思い、顔を寄せればビックリしたように目を見開かれて後ろに逃げる。
「あっ……」
逃げたくても逃げれないのは、壁が背中に当たるからだ。迷っている内に少しずつ後ろに下がるから、そのまま壁まで追い込む。ウィルスが気付いた時には両サイドを私の手が邪魔をしている状態。
「ウィルス。自分からが嫌なら、そうさせるだけだからね?」
私はそう言う奴だよ、と甘く囁けばガクリと足から崩れる。目線と同じ高さになるように私もしゃがむ。
「レ、レント……」
「はい。もう逃げられないよ」
「う、うぅ」
体に力が入らないのか、その場に立つ事が出来なくなった。都合が良いとばかりに引き寄せて同じ言葉を言う。
「ご褒美、欲しいな……ウィルス」
チュッとワザと音を立てて額に口づける。それだけなのに、ウィルスは顔を赤くしたまま動けなくなってしまった。
もう一押し、かな……?
「レント……か、顔、近い……」
「いつも通りだよ?」
「っ……」
段々と抵抗が小さくなる。むむっと、私を軽く睨むと不意に視界が暗くなった。ただ耳は塞がれていなかった。
チュッ……。
短くともはっきりと聞こえた音に、ふっと自分の顔が緩むのが分かる。目の前の手をどかせば……ウィルスが顔をそらしたまま。
「……も、もう、良いでしょう」
「ダメ」
「ダっ……ダメって、んんっ!!!」
反論するのを無理に押し込める。
ウィルスからキスを貰えるのは嬉しいよ。例え私がそう仕向けていたとしても、ね。
「あう………」
完全に私に体を預けたウィルスは既に息が荒い。体に力は入らないから逃げたくても逃げられないし、私はそれを許す程優しくはないしね。
彼女の匂いを堪能していたら「それ以上すんな!!!」とエリンスから思い切り叩かれた。
「………何?」
「何じゃねえよ。イチャイチャタイム終わりだっての!!! 気を使って離れれば、やりたい放題!!!」
「好きな人が居るんだから当然でしょ?」
「開き直んな!!!!!」
えー、と不満げに言う私を無視してエリンスはウィルスの事を抱えて玄関まで連れて出していく。……むっ、もう少し一緒に居ても良いのに酷いな。
「姫猫ちゃん!!!」
ん? 今の、声は………。
慌てて向かいそこに居た人物達を見て思わず足が止まった。
ウィルスはラーファルに抱きしめられていて、状況を把握するまでに時間が掛かっている。エリンスの方は気まずそうに視線を逸らしているけど、相手はニコニコとしたまま黙っている。
何でここに居るんですかね、ルベルト王子。
久しぶりに見たレーナスに視線を合わせれば、彼はペコリと頭を下げ「お久しぶりです」と緊張したように言って来た。
「良かったぁ~~。魔力が微量すぎてて不安だったんだけど、ナークの魔力を辿って来たから合ってたよ♪」
「ラーファルさん……!!!」
ウィルスは感極まって泣き出しており、ヨシヨシと撫でられているからまた涙が溢れて来ると言う……ある意味ループ状態に突入した。
ラーファルとウィルスの事をまとめて抱きしめたのはナークで「会いたかった!!!」と、全力で答えればラーファルも嬉しそうに笑顔で返した。
「………おい、レント。どういう事だよ、これ」
エリンスに小突かれ、私はルベルト王子に視線を向ける。彼の後ろには3人程の部下がいる。見た目からしてラーファルと同じようにローブに身を包んでいる事から、魔法を専門に扱う者だと分かる。
「どうするよ、この状況」
私の背後で耳打ちするのはリベリーだ。
どうするって言われていもね。このままと言う訳にはいかないでしょ、とリベリーに訴えれば少し考える素振りをしてウィルスの事を呼ぶ。
「2人で準備するぞ」
「はい!!!」
「ナーク。お前も来るか?」
「やる!!!」
はいはい、と慣れた感じでリベリーがウィルスとナークを自然と連行。入れ替わりでラーグレスが来て、ルベルト王子に気付いて礼をしてから私の事を見る。
「……このままと言う訳にもいきませんから、上がって下さい。持ち主は後ろのローレックですけどね」
「お、おぅ、気付いていたか……」
そりゃあ、ね。
屋敷の鍵は私とリベリーと持ち主のローレックしか居ない。しかも、ラーファルが魔力を頼りに来たとしても無許可で入るような真似はしない。持ち主から許可を得るか、本人同行で開けて貰うしか方法はない。
「随分と大人数で泊まってたんだな」
「あ、うん。……ちょっとね」
「俺等は無理矢理、な」
速攻で足を踏んでそれ以上は黙らせる。痛がる声も我慢しているけど、涙目で訴えかけられても反省はしないよ。
「事情を聞こう。……私達は彼女に用があるんだ」
「………連れ出す気なら容赦しませんよ」
ギョッとしたのはレーナスで、3人の部下と思える者達からは軽く睨まれた。そんな程度でウィルスをどうこうするつもりなら、さっさと帰って欲しいね。
「お待たせしました。皆……さん」
ウィルスが用意できたとばかりに知らせて来るけど、空気が悪いのがいけないんだろう。チラチラと私やラーグレスを見ている。その後、キュッと私の袖を掴み不安げに見つめてきた。
ー平気?ー
ー大丈夫。任せてー
その答えとばかりに、私はウィルスの手を強く握りしめる。目的はディーデット国であって、貴方ではないよルベルト王子。
そう思って彼を見れば、何故だか楽しそうに微笑まれてしまった。




