表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
86/256

第71話:初めての試み

ーウイルス視点ー



 少し苦しげに呻くナークの手を握りギュッとする。痛みがなくなるように、元気になるようにと思いながら不安げに見つめる。


 大ババ様が言っていた光の魔法。

 それは魔獣を倒す唯一の力。……私は、この力でナークの事を戻したが実際は違うのだろうか?


 倒す、と言う言葉に「元に戻す」と言う意味は……多分、含まれない。倒すと言うのだから、レントやナーク君がやったように魔物を殺すと言う事だ。



「……ナーク君の事、殺してしまう……かも、知れなかった?」



 ポツリと言ったが、体の奥が冷える。

 自分で言っていて、殺してしまう事に体が震えているのが分かる。



「姫様?」



 ビクッ、と大袈裟に肩が揺れる。

 恐る恐る振り返れば、ついほっと息を吐いた。ラーグレスが私の事を心配したように、すぐに傍まで寄ってくる。




「どう、されましたか」

「……。私、私……」



 震える体を抑えていたいると、ラーグレスはそっと震える手の上に自分のを置いた。誰かにこうしてもらうと、何だが……安心出来る。



「話してみて下さい。……例え国が違う所でも、私は貴方の味方です。誰かに話すと、モヤモヤも晴れます」

「ラーグ、レス……」




 不安そうに見つめる私をそっと大事に大事に撫でてくれる。

 大人の余裕、だろうか。……安心してしまう自分に、戸惑いつつも騎士である彼なら答えられるかも知れない。


 そう思って聞いてみた。


 


「………人を、殺した事があるか。ですか」




 ラーグレスに大ババ様が言っていた事、私が感じ取った事をなんとか伝える。

 彼はそれを真剣に聞き、私がこんな事を聞く原因を探ろうと見つめてくる。


 今、思うとラーグレスが真剣にしているのはダンスをした以来だと思う。あの時はまだ柔らかい笑顔で、私をリードしながらだったけど……笑顔がないだけでちょっと怖いと思った。


 レントもナーク君も、私の前だと笑顔が多いけれどやっぱり表情を消すと怖くなるのだろうか。 




「姫様の質問の答えですが……俺はあります」




 事実を告げた。


 多分、私に気を使おうとした。でも、私の悩みを解決するには言葉を濁すのは逆にダメだと思った。

 だから、ちゃんと伝えてくれたのは良い事。だけど、胸が締め付けられるように……苦しかった。




「っ……」




 当然と言えば当然の答え。

 幼い頃から居ると言うのは警護の仕事も身の回りの世話も、全てが含まれてくる。暗殺者や、盗賊などの侵入者が私やレントに向かうなら問答無用で斬り捨てる。


 ラーグレスの、騎士として護衛の仕事。

 

 それは分かる。分かるのだけれど、私もそうなるのかと思うと怖い……。



「魔獣が、俺の同僚や先輩の事を乗っ取るようにして喰われた時……何も出来なかった。生きていたのに、もういないって言うのは慣れませんよ」




 でも、だからこそ彼等の為に自分は殺したと言う。

 生きていれば出来る事。それが叶わない、と悟り残された自分は彼等の代わりになって生きるのだと、ラーグレスは言った。




「理不尽に奪われていい命は、この世にない。……魔獣が人を殺し、俺達も魔物や同じ人を殺す。……生きていく為に、俺達も動物を食べています」

「……。」

「俺は魔獣が人間だったとしても、姫様に危害を加えるなら全力で止めます。姫様が倒れたら悲しみを抱く人達がいます」

 



 私の手を握るラーグレスは、訴え掛けるように抱き締めてきた。


 悲しみを悲しみで塗るのは果てしない。

 皆が皆……好きで命を奪っている訳ではない。

 ナーク君もリベリーさんも、本当なら暗殺者でない未来があるのに……生き抜く為に技術を覚えた。


 魔女は魔獣を、魔獣は魔女を殺し合う。

 そんな殺し合いに……私は、足を踏み出そうとしている。



 

「……人は誰でも、怖い事や不安な気持ちはありますから。だから、そんな時には頼りたい人に頼れば良いんです」

「……頼りたい、人に………」

「姫様には身近に居ますよね?」




 ナーク君の事を見る。彼は意識も朦朧としている筈なのに、私の不安を感じ取ってなのか手を握り返してくれた。………まだ、頼っても良いのかな?


 甘えないように、しているんだけど……。ポンポン、とラーグレスに頭を撫でられる。自分も同じ気持ちだと言っているみたいに、その手つきが凄く凄く優しいんだ。




「姫さん、今………」




 そこにリベリーさんが入ってくる。気まずそう位顔を逸らし「出直すか?」と聞いてきてすぐに駆け寄る。




「………料理、ですか?」

「そうそう♪」




 リベリーさんが言うには、ナーク君に栄養のあるものを食べさせるのとそろそろ自分以外にも作れる人間を用意したいって言う事らしい。……確かに、リベリーさんの負担は大きい。


 買い物、作る料理の準備をしながらレントに頼まれた事もこなしつつ……護衛をしてあんまり寝てない感じだし……。




「リベリーさんは、平気なんですか?」

「ん?」




 不思議そうに首を傾げられ、私も「んん?」と傾げる。

 外でも寝れる、と言うよりは何処に居ても寝られる様になっているから気にしてないし、たまに昼寝もしているから平気だと言われてしまった。


 思わず護衛の人は皆、そうなのかとラーグレスの事を見ると……彼は首を横に振り「違う」と言う意思表示をしてくれた。 




「オレ達は野宿するのが慣れてるから、環境が変わっても別にって感じだな」

「………」

「姫様。俺に視線を向けないで下さい。俺は出来ませんから」

「う、うん………」




 ごめん、ちょっとだけ期待してしまった。

 でも、私……料理は猫達のご飯を作る時ぐらいしかないんだけど、それでも平気なのかな。




「不安か? オレが手取り足取り教えるから」

「本当ですか!?」

「おう。全然オーケー」

「い、行きます。少し待ってて下さい。準備をしてきます」

「はいよー」




 部屋を出る前にナーク君に小声で報告っと。

 「待っててね、栄養のあるもの作るから」、そう言って手をもう一度握って離す。

 ラーグレスはこのまま護衛も含めて、ナーク君の事を面倒見ると言う事。リベリーさんと共に買い出しに行ってきます!!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーリベリ視点ー



 ナークにはお粥と思って米を買い、肉の物価が高くなってきているからと思って弟君に念話で魔物の肉で良いから獲るように言う。珍しく≪どうしたの?≫って聞くから姫さんに料理を教えると言ったら……。




≪怪我させたら、ぶん殴るからね≫




 寿命が縮まったぞ、おい。明るく言うなよ……。

 そうでなくても、オレの負担が大きいんだからと理由は言わないでおく。言ったらあの手この手で封じこめて来そうだから、何も言わない。言ったら最後だと思う………こんな恐ろしい兄がアイツだからなぁ。


 ある意味では納得であり、複雑な気持ちになる。




「リベリーさん、こんな感じですか?」

「ん、お、おぅ。平気だよ」




 今、姫さんは髪を1つに結んで慎重にだけど真剣にお米と睨めっこしている。無論、バレッタは弟君からの贈り物である。

 洗って今は鍋でコトコトとお粥作り。………うん、やっぱり料理するなら男よりも女だよな。


 水色の下地にカラフルな水玉模様のエプロンをしている姿は、王族だと誰が思おうか。




(良かったな、ナーク。お前、姫さんの手料理を食べられるんだぜ?)




 喜ぶのは目に見えているから早く治せよな、と思いながら質問してくる姫さんに教えつつ自然と距離が近くなる。お粥を作って、卵を落とせば卵粥の完成だ。

 緑に体に良い薬草を小さく千切れば完成だ。うん、いい匂いだ。




「今、ラーグレスに聞いたらちょっと起きてるみたいだから持って行くだろ?」

「はい。……喜んでくれると、良いな」




 平気だ、平気。

 そんだけ想い込めて作ったんだからマズい訳ないしな。味見もしたし、隠し味も加えたから安心して良いぞ。




「今度、弟君が熱で倒れたら姫さんが作れば良いんだよ」

「……レント、に………」




 どう想像したのか分からないが、ゆで卵みたいに赤くなる姫さんの顔。チラッとオレの事を見るが……多分、顔がニヤケているのが自分でも分かる。




「も、もうっ!!! リベリーさんが意地悪です」

「別に良いじゃんか。弟君、絶対に喜ぶぜ」

「だ、だとしても……い、色々と恥ずかしいです」




 口ごもりながらもむっとなる姫さんに、悪いと心の中で謝りつつナークの所に食事を持って行く。




「……主。リベリー……」




 いつもよりも弱々しい声のナークに相当弱っている、と思いつつオレはいつもの調子で「姫さんがお前にって、お粥作ったんだ」と説明している。耳は聞いているかもだけど、目は既に姫さんがよそうお粥にしか向けられていない。




「………これ」

「うん。リベリーさんと一緒に作ったの♪ ナーク君に元気になって欲しくて」

「そう………」




 おーい、オレに睨むなよ。

 くっ、ラーグレスの奴はタオルを替えに出て行ったから居ないし……タイミングが良い奴め。




「はい。ナーク君」

「え」




 熱々のお粥にスプーンを1杯入れ、ふぅーふぅーと冷ましたのを差し出す。ちょっと顔が赤いのは見なかった事としよう。うん、オレって優しいな!!!




「多い?」

「へ、平気……」

「はい。あーん」

「っ……!!!」




 あ、気付いていないな姫さん。

 普段、自分がされているから……やり返しみたいに思えるけど素だぞ。屈託ない笑顔で差し出されて、拒否は出来ない。しかも、自分の為だと言われれば嬉しいに決まっている。


 パクッ、と意を決したナークが一口食べる。

 モグモグ……。静かに咀嚼し、姫さんは無意識の内にゴクリと唾を飲む。なんだろう、オレもその緊張が移るんだが。




「………美味しい」




 ハニカミながら、でも精一杯の笑顔で姫さんに答えれば……当然、作った本人は輝く笑顔で「嬉しい!!!」と喜んでいる。やっぱり、上手いとか美味しいと言って来るのは作った側とすれば倍に嬉しいもんな。




「……主、もう一口」

「うん!!! はい、あーん」

「あーん」




 もう恥ずかしくなくなったのか、普通に食事を始める。

 あれか、姫さんもナークも慣れるの早いな。……その後、眠たくなったのか着ている服を替えてもう一度眠りに入る。


 翌日……。普通に立って歩いてるナークにオレが驚いて、その場で転んだわ。おかしいぞ。……神経毒は種類にもよるが、2~3日はまともに動けない筈なのに……。

 え、あれか。姫さんパワー?




「ナーク。お前、まさか嘘言ってるんじゃないよな?」 

「そんな必要ある?」

「姫さんに甘えられる」

「…………」




 おい、無言になるなよ!!!

 え、おい。マジなのか? マジで姫さんに甘えたいが為にこんな事したのか?って、おい、おい。


 逃げんな、ナーク。逃げんなあああああ!!!!!!!


ー夕食時ー


「リベリーさんと作りました!!」

「「………」」←(感動して動かない、レントとラーグレス)


「あ、れ……レント? ラーグレス?」

「いい、気にしなくて平気だ。姫さん」

「おーい、マジで動かないのか?……じゃあ、レントの貰うぞ」

「やったらタダじゃおかない!!!」

「じゃあ、食べろって!!!!」



 その後、レントとエリンスのくだらい喧嘩が始まりその後も、ラーグレスは感動のあまり食事に手をつけられなかった。

 リベリーがそれにゲラゲラと笑いつつ、おかしそうにお腹を抱えた。


 夕食時はかなり楽しくて、離れて寝ているナークの表情もかなり穏やかです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ