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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第70話:進展と失敗

ールベルト視点ー



 イーグに着きすぐにこの街の管理者である屋敷へとすぐに向かった。ギルダーツにも報告すると言った手前、必ずウィルスの消息を突き止め助け出す気でいる。自然と足は速くなる。すると、急に肩を掴まれ止められる。




「失礼。何だかお急ぎの様子だったので……ですが、部下の様子も見れないようなら上に立つ資格はないと言われてしまいますよ」

「っ!!」




 思わず足を止め後ろを振り向く。注意を受けた事にはっとなり、様子を見れば息を切らしながらも必死で付いていく者達。思わず戻って謝罪をする。




「すまない……。焦った私のミスだ」

「い、いえ……」

「自分達の、体力不足……です」




 王族である私が自ら謝るのはあまり好ましくない。

 それでも私は謝りたかった。屋敷に着いてすぐに部下達を休ませる為に、別室で休ませておくようにと言えば一瞬、それにためらった様子のではあったがなんとか休んでもらえた。


 屋敷の所有者であり、街の管理者として情報を所有する立場になるラント・ウェグレスに会いに行く。ギルダーツとは幼い頃から付き合いもある彼だ。私が単に会いに来た、とは思わう筈もない事は分かっている。




「先程は見苦しい、姿を見せてしまい……すみませんでした」

「別に平気だよ。けど、あんまりへこへこ謝るのはマズいよ」




 王族なのだから、と含みのある言い方をしているレーナスさんに言われてしまった。すぐにラーファルさんが引っ叩き、「師団長のぐだらない言葉は無視して良いですよ」ととてもいい笑顔でそのまま扉の前で待つ姿勢になった。




「我々はあくまでも他国の人間です。情報開示をしても良い、と言う判断はお任せします」

「すまない。そうさせて貰うよ」




 ラントはこの街を管理する立場の人間でもあり、ディーデット国の貴族でもある。だから、ここからは南の国での問題に関わる事と言う線引きをしてくれたお陰で少しだけ気を緩める。

 既にラントの居る部屋の前には、常置している警備兵がいる事もあり、彼等はラントの身を守る人間であると同時にラーファルさんの言う他国の人間の監視も含まれている。




「念話で来ると言ってから随分と時間が経っていたね。……ルベルト、君にしては珍しいじゃないか」




 部屋に入れば彼はにこやかに迎えており、私の好きな物を用意していた。南国フルーツの味を凝縮させた飴や、片手間でも食べられる焼き菓子、それに紅茶まで用意していると言う状態だった。




「今、新しいのを持ってくるから少し待っていて」

「……すまない」




 気遣いと言うか、表情1つで私の失敗を見抜いた親友と呼べる1人。すぐに新しい紅茶を用意され、下がる侍女を見てから簡単な事情から話した。




「そう、だったのか………。まさか、魔封じの枷を付けられていた彼女が、ルベルトの探している人物かも知れない、と」




 ふむ、と考えウィルスの特徴を言えばすぐに答えは返って来た。確かに彼女をここに1泊止めたと。理由を聞けば人攫いにあった時に仲間が助けてくれた、と言うものらしい。




「不思議に思っていたんだが、彼女から助けた人物達は全員が黒髪で……黒い瞳の彼女の婚約者と言っていたレントと言う人物と、紅い目の少年と青い目の大人が共に来ていたんだが……知っているのかい?」

「黒……紅、青……うん。知っているよ、リグート国で見た事があるからね」




 紅い目の少年は間違いなくウィルスの護衛を務めているナークだとすぐに分かる。そして、青い目の大人と言うのもすぐにピンときたリバイルの知り合いでもある第1王子の側近でもあり護衛のリベリーだったと記憶している。


 そして、黒髪の婚約者……名前をレントと言っている事から本来の色を隠して来たのは第2王子の事だとすぐに整理しながらもほっとした。




(やっぱり、彼等が傍に来ていたか)




 しかも人攫いと言っているが、裏ギルドの一部を壊滅させたと言う事からウィルスに触れた事での大惨事だったのだなと……何故だか、その現場が簡単に想像できた。

 うん……あの2人なら容赦なし、待ったなし、半殺しはしてるんだろうなぁと分かる。そして、それを飽きれながらも見守るリベリーの様子が浮かびウィルスの無事は既に確立されたのだと安心した。




「しかし、国からワザワザ出て来て彼女を探すだなんて……何処かの国の王族か重鎮の娘さんなのかな?」

「うん、そんな所だよ」




 しかし、魔封じの枷をウィルスがしているとは予想外だった。

 あれは父の代の時に、負の遺産として徹底的に潰したと考えていたが、抜け道かもしくは密かに持ってはいたが魔物に襲われてそのままになったのか……様々な要因が重なって、人攫いの道具にされたと考える。


 そして、ラントが枷を外すならディーデット国に行くように勧めたのと距離が比較的に近いザーブナーと言う街に行くのを進めたと言う事で、次へ向かう場所も決まった。




「ギルドマスターから聞いているけれど、国との転送魔法を一時的に封じているって事だからまだその街に居るとは思うんだけどね」

「3日程で国に着くけど、魔物が多くなってきているしここ近辺でも魔獣が見かけるようになったから危険は冒さないとと思うんだけど……急ぐ必要があるな」

「ちょっと待て」




 予定が決まり、行動に起こそうとしたらラントから止められる。

 飴を口に含み不機嫌そうに睨むけど、彼はそれに怯む事なく見つめ返し「焦ると危険だよ」と言われ思い出されるのは先程の失敗だ。




「……そう、だな………」




 少し考えてから椅子に座り込む。

 前を向けばクスクスと笑われ「君がそんなに焦るだなんて……余程、彼女は大事な人なのかい?」と冗談交じりに聞いて来た。




「私、と言うよりは……ギルダーツの方にあるんだよね。彼女の事」

「……へぇ」




 予想外、とばかりに目を細められ足を組み替え直しながらニヤニヤとしている。

 まぁ、その気持ちは分かる。私もギルダーツの新たな一面を知った時には、ラントと同じような表情になるだろうな、と簡単に想像がついた。




「ギルダーツにも春が来たのか?」

「それはないから平気」

「………バッサリだな」




 当たり前だ。彼女にとって私達は従妹に当たる血縁関係者だ。

 ギルダーツが気にしているのだって、単に妹としてだろうしそこに恋愛感情は含まれないし、彼がそんな事をする人間でないのは知っている。


 彼女の居るバルム国に行った事があるからか、ギルダーツは妙に彼女の事を気にしている。お菓子1つで目を輝かせたり、慌て過ぎて転びそうになる時とか、婚約者であるレント王子と話す時にはさらに花が開いたように笑顔になったりと……彼女の事を観察するだけでも、面白いのだ。


 無論、それを見てハラハラしているギルダーツが面白いなどとは言わない。これは私1人だけの楽しみだ。鉄仮面のような兄が、ウィルスの行動1つ1つにボロボロと仮面を剥がされていく様は面白いと言う言葉以外には思い浮かばない。




「何だか楽しそうだね」




 そんな私の表情を見て再びふっと笑う。

 ………咳ばらいをし、今後の方針が決まったとばかりに出て行こうとすれば再び「待った」をかけられる。




「もう、夜だから……。魔獣がうろついているかも知れない所に、ワザワザ飛び込むの? そうでなくても、夜に活動する魔物の凶暴さは身に染みて分かるだろう」

「………すまない」




 本日、何度目かになる謝罪の言葉。

 無事である事に安心し、つい暴走気味になる。ギルダーツの事を悪くは言えないなと思った。




「明日の朝、街に向かうと良い。ギルドに連絡して、ギルド間だけなら転送魔法を使うのは出来るだろうから用意をさせておくよ」

「ごめん、ホント助かる」




 彼の手際の良さに感謝しつつ、屋敷に部下も合わせて泊めて貰う事になった。明日の行動を確認してからそれぞれで就寝についた。


 私は寝る前にギルダーツに連絡をいれつつ、彼から新たな情報を聞く事となる。




《なんでも隣国のエリンス殿下が居なくなったそうだ。旅に出かける事も多いだろうから、こちらで見つけ次第連絡をするようにとの事だ。鉢合わせするようなら頼むぞ≫

《了解。……少しは安心できた?》

《あぁ……ありがとう。頼れる弟を持てて幸せだな俺は≫




 最後にそんな爆弾を落としていく兄に思わず顔に集まる熱を感じてしまう。

 ……褒められ慣れをしていないから、この処理の仕方が分からないけどね。何でもないように寝て、明日に備える為だと心の中で何度も呟き無理矢理に寝た。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 場所は変わり、ギーブナーの街。その中のギルドマスターであるローレックが所有する屋敷の中での事だった。




「ぐぅ……」




 くぐもった声を上げ、ドサッと倒れ込むのは大人の男性だ。これで6人、と心の中で数を数えながら目の前にまだ居る同じ黒装束に身を包んだ人達を見る。

 全員、手に武器を持ち倒れた男性の事などを気にせずにジリジリと後退していく。




「おいおい。もう帰んのか? もう少し、ゆっくりしていけよ!!!」




 不適に笑いながら素早く近くに居た男の顔を殴り、数撃の内に気絶させて壁に叩きつけて終わらせる。口角を上げつつ、自分が迎え撃ちながらも密かに心の内で思うのは自分以外の心配だ。




(ったく。予想通りとはいえ……こうも面倒な連中を相手にするとはな)




 彼が相手にしているのは、捕らえた人物達が所属していると突き止めた落葉のギルド。体の一部に黄色い布を身に付け、闇に紛れながら息の根を止めにいく暗殺ギルド。

 その印は黄色。色のつくものは暗殺ギルドの中では有名なものをさす印となる。




(こんな大物、そうそうお目に掛かれないが………やっぱり狙いはローレックの野郎か)




 自身の命が狙われていると自覚しつつ、自分達にこんな面倒事を押し付けてきたギルドマスターに苦い表情をする。とりあえず、今の自分は目の前にいる連中を叩きのめすのが先だと思いリベリーは処理を開始する。


 暗殺ギルドと見た目はなんでもない、実は大物揃いの人物達との夜中の戦闘が開始された。

 

 

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