第69話:似た者同士
ーラーグレス視点ー
殿下からはいつもの騎士服だと面倒だと言う事で、この街で買った街の人達のような豪華でない服を着ている。長袖長ズボンの軽装なものを買い、特に柄にも特別なものを求めていない。
街の住人と言う見た目には一応なっているだろう。
(王子達の計算では、姫様はいつも通りに3日ごとに姿を切り替えている。……問題は、それがいつまで続くかだな)
ふと、2階にある寝室の1つから見える夜空を見る。
月の光が照らす、穏やかな星空。見える空はどの国でも変わらないのだと感じ、嬉しくもある。
「………エリンスはカルラと寝ているし、下ではリベリーが常にいるんだったか」
夜中の内に起こされ、と言うよりいつの間にか俺の部屋に殿下が居るのだから声を上げそうになるのを我慢した。でも、夜中は不味いだろう。ベッドの端には剣を置いているんだから、滑り込むようにして斬られたらどうするのだと思った。
「おう、だとしても軽く済むようにしとく」
明るく答える殿下に思わずため息がでてしまう。どこからくるんですか、その自信は………。
さて、この後の行動も話をしているからと俺はさっさと眠りに入った。リベリーからはあからさまに剣は置かずに、手元に…出来るなら抱えるようにして寝ておけ、と言う言葉を思い出したながら深い眠りへと入った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーエリンス視点ー
ふああ。ビックリしたな、朝から猫パンチを喰らうとは……。まぁ、でも久々にぐっすりな気がするから良いのか。
「お、姫さんの時も思ったが早いんだな」
下に降りて見たら良い匂いがした。野菜を煮込んだ匂いに、香ばしく焼けた様な匂いにつられて顔を覗けばそこにはエプロン姿の………確か第1王子の側近の人? だったかな。
その人がコトコトと煮込む大きな鍋を混ぜながら、俺に話しかけて来る。そんな一言に不思議そうに首を傾げていると、肩に乗っていたカルラは床に着地してその人、リベリーの所へと歩いていく。
「ニャニャ」
「はいはい。あとで遊ぶから今は我慢なぁ~」
「ミャーミャー!!!」
「おう、だからあとでな」
「ミャッ………」
まるで雷にでも打たれたかのように、ショックを受けそのままトボトボと出て行く。カルラと入れ替わりでラーグレスが入ってきて「おはようございます」と挨拶をしてくる。
それに答えつつ、リベリーに構わなくて良いのかと言えば「弟君に遊んでもらうから良いんだよ」と言って今はほっといていいらしい。
「リベリー。今日、肉いらない~」
「バカ。肉食って体力付けろ、体大きくしろって」
「えぇ~~~」
………頼むから、気配なく入ってきて普通に会話をするな。驚きすぎて声を掛けるのも忘れてしまうだろうに。
「おはよう。王子の親友♪」
「お、俺……?」
反応が遅れた俺とは反対に、ナークはレントから聞いたと言って違うのか、みたいな反応をしていた。
……初めて聞いたぞ。レントから見て俺は親友なんだな。
「違うの?」
ナークは不思議そうにしており、ラーグナスもじっと俺を見ている。朝食の準備をしているリベリーは絶対に聞き逃さないとばかりにじっとしているのが見え、俺は正直に言って逃げ出したかった。
隣国同士の付き合い、と言う事で幼い頃からレントの傍に居るが……。レントからそう言った言葉は聞いてたことも無かった。出来れば俺が最初に聞きたかったのに、先に聞いていたのはナークだと言うのは……何と言うか悔しい気もする。
「おはよう。って、私が最後か」
そんな時、頭にカルラを乗せた状態で入って来たのはレントだ。カルラもレントも嬉しそうにしているのだから、仲が良いのは良い事だと思っておく。何でか知らないが、あそこだけ甘ったるい空間になってる……。
猫でも人間でも変わらないでいるのはある意味凄いな。
「とりあえず。今日、ギルドにもう一回問い合わせてみるって事で良いね」
「おう、それで良い」
「はーい」
食べながらレントが予定を確認していく。
俺とラーグナスは猫になっているままのウィルスの護衛。いつも通りの計算なら、明日には人間に戻っている事だと言う。俺を呼び出したのは協力して欲しい事があるんだって……。
聞いてないぞ、レント。
何で暗殺ギルドと戦うかも、みたいな感じを軽い感じで言うんだよ。思わず遠い目になったのは仕方ない。前から無茶しか頼まない幼馴染みに、俺はいつもいつも苦労させられる。
人を動かす事のは本当に上手いし、自分だけ高みの見物なんてものはしない。自らそうなるように動いて、修正していく様は恐ろしいとさえ思わせる。
ディルランド国でのギルドの時もそうだ。
冒険者達が仕事の依頼を受け、ランクを上げていくと言うやり方に興味を持って俺を誘って登録しようなどと言い出すなんて誰が予想出来るんだよ。俺は嫌だって言ったのに、たまたま聞いていた父に「面白いからやってこい。内緒にしてやる」と言って来た。
絶対に分かってて言ったなと、恨めしい思いでレントを睨んだ。
3年と言う期限付きで、宰相には隠し続けておくから安心しろと豪語しておいて……Aランクと言うそれなりに高いランクを目指せて、何とか終われば待っていたのは説教だ。
「お帰りなさい、殿下。楽しかったですか」
恐ろしかった。黙っていた父と一緒に怒られて、2人して汗だくになって鬼の形相で睨んでいる宰相。それを止めてくれたのは恩に感じているラーグナスであり、彼は俺とレントがギルドに偽名で登録している事も知っている数少ない1人。
……宰相の息子も知っているから、その2人からなんだかんだと怒りを収めて貰い、1週間政務をこなせと言う地獄を味わった。
(元々、書類整理は苦手なんだよ……。マジ、地獄だったわ)
ブルっとその時の恐怖が思い出されて、体が震える。不思議そうに見ているレントが本当にムカつく。アイツは何をしても優秀で、政務も剣術も魔法も完璧にこなしてる。
思わず聞いたんだ。何でそんなに必死なんだよって。
「守りたい人が居るからね。……何を犠牲にしても守りたい人が居るんだ」
ただ真っすぐに事実を伝えて来るレント。
射貫くような視線は恐怖とか威圧なんてものを与えるものじゃない。ただ、真剣な熱意だけが伝わって来た。幻想的だと思うのは銀の髪の所為かも知れないし、エメラルド色の瞳の所為だったかも知れない。
魅了、されていた。
男も女も関係なく人を惹き付けるのは王族のなせるものなのか。何でか分からないが、妙にレントの無茶を聞いても良いよなって気分にさせられるんだから恐ろしい奴だと思う。
「じゃ、頼むよエリンス。カルラの事、ウィルスの事を託せるのは君しかいないんだから」
「はいはい……精々、無理せずに頑張りますよっと」
「………なに? 妙にニヤニヤして変なの」
俺がレントの事を見て笑うのが不快なのか、困った表情をしてくる。まっ、お前はそうやって何でもかんでも巻き込んで大勢を魅了さえておけばいいさ。変化があり過ぎで付いていくのが大変だが、それが何だか楽しいとさえ思うのは……俺自身、レントの事を親友だと思っているからだと思う。
「ニャウ~」
「おっ、なんだ、俺の考え分かるのか?」
「ミャウミャウ!!」
表現するように嬉しそうに鳴いてくるから、お互いに笑い合う。どうやらカルラもウィルスも俺の言いたい事が分かっているようだ。
流石、妹だな。
「ミャ」
と、思っていたらペシッて叩かれる。何だか、否定された気分だぞ。しまいにレントから「今、何を思ったの?」って言いながら絶対零度の視線をぶつけてくる。
おいおい。こえーよ、ってか何で分かるんだよ。
「んじゃ、行動開始だな」
「了解♪」
「分かりました」
見事なスルーをする護衛の3人に俺は思わず助けろって視線で送る。でも、そんなのは無意味だと言わんばかりにズルズルとレントに連れて行かれる。
「え、何で……」
「君。ウィルスの事、まだ妹認定している気なの?」
「………」
「それは散々断ってるんだから止めてよね。ウィルスだって嫌だって言ってたの忘れたの?」
「フミャミャ!!!」
「ほら、カルラだってダメだって言ってるんだし」
「マジかーー」
その後、散々レントに止めろだ、迷惑だって言われ続けられる。俺が無視しているとそれに気付いたのか、カルラがちゃんと聞けって言う意味でパンチして来る。
この2人、組ませると面倒だなと心の底から思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「隊長。やはりこの近辺で魔獣の目撃が多数起きているようです」
告げられる報告内容に、ルベルトが相槌を打つ。そして、自分以外にも探知能力が強いと思われる人物に向かい内容を告げていく。
「すみませんね。本来なら他国の方にお願いする訳にはいかないんですが……私以外に彼女を知ってるのは貴方だと伺いましたので」
「平気だよ。部屋に居て退屈していたし、師団長もなんだかやる気だから私としては嬉しい限りだよ」
それに、と言葉を切りルベルトに対して微笑む人物の目は蒼い瞳。
白いマントにエメラルド色の魔法師団の制服に身を包んだ人物は嬉しそうに語った。
「姫猫ちゃんに会えるならなんだって、協力させていただきますよ。ルベルト王子」
癒しが欲しかったぁ~~と伸び伸びと答え、誰が見ても緩み切っている顔に不安を覚えてしまう。実際、ルベルトと共に行動をしている師団の者はコソコソと「大丈夫だろうか?」、「腕利きの、副師団長なんだろ。とてもそう見えないが……」と不安げな声をあげている。
それを見ていたレーナス・アークは、ラーファルの妙なやる気に驚いていた。普段は早めに仕事を終わらせようなどと言わない彼からの、手早く済ませたいと言ってきた。希望なんだか、欲望なんだか知らないが……余程、その「姫猫ちゃん」とやらの人物に対して会いたがっているのが嫌でも分かる。
「おい、仕事はこなせよ」
「はいはい。師団長こそ、誰かさんの変わりぶりに驚けばいいさ」
ふふん♪ と鼻歌交じりで砂漠の中を進んでいく。すると突如、空が暗くなった。雨雲かと思い空を見上げると、降って来たのはムカデだ。
その体の一部が地中から飛び出し、ルベルト達に向けて尾を振り降ろす。すぐに防御魔法を展開する師団に対してラーファルとレーナス、ルベルトは動かなかった。
「た、隊長!?」
「邪魔だから」
焦る面々とラーファルからの告げられた言葉は同時だった。
瞬間、ムカデの魔物は幾重にも斬り裂かれその飛び血さえも全て自分達を避けていく。
「なっ……」
驚愕している間にレーナスは片手を空へとあげる。その途端、ゴロゴロと雨雲から雷が発生しそのまま数メートル離れた何もない場所へと落とした。
何かに当たったのか爆発が起きる。思わず防護壁の魔法を組み、煙と共に巻き込まれる砂から身を護る。
「えっと、この足とかギルドの方に持って行けば武器に加工できるんだっけ?」
「鋼みたいに固いから、防具を作るには良いんじゃないかな」
「ほぅ。詳しくなった」
「貴方が面倒だからと言うからこっちが負担したんですけど?」
「お、悪い悪い」
「…………」
思わず呆然としてしまった。
自分達の目の前で普通に魔物を倒し、その体の一部をギルドに持ち帰り報酬として受け取ろうと動くリグート国の師団のトップが2人。しかも滅多な事では傷を付けられないムカデの魔物。
大きさが大きければその分、体も頑丈な存在。
冒険者の中で処理できるのは切れ味の鋭い刃物か、強力な魔法を使う必要がある。強力な魔法であればあるだけ、緻密なコントロールと魔力を正確に操作する高等技術を身に付ける必要がある。
自分達も師団に入っている腕利きだ。
しかし、あの2人は別格だった。
探知と同時に瞬時に魔物の大きさを測れるスピードと強い皮膚を傷付けるだけの強力な魔法。
体の一部をバラバラにした瞬間に、逃げると言う一択を迫られた魔物を確実に狩る空から降る雷の魔法。
それぞれ自分達が担当して行っている隊での行動。同時に展開出来る魔法が多いのは、それだけで実力が凄まじい事と1国が持つには強力過ぎるカードでもある。
(瞬時に行ったとは言え、正確無比な魔法技術は……ディーデット国で出来るのはそう居ない)
正直、リグート国の持つ魔法の力は噂としてしか知らない。ルベルトは後悔した。
もっと早くに手を組めるように同盟でも組んでいれば、少なくとも自国の事態にはそれなりの対処が出来たのはとさえ思った。
「さ、次の街に入って情報収集をしましょうよ」
「えっと、この先にあるのは……イーグだっけ?」
「えぇ。彼女と風貌が似ているのを、1日だけ預かったと言う話ですから。詳細を聞き、すぐに向かおうかと思います」
平静を装いつつ答えたルベルト。
ラーファルとレーナスは「魔物を狩って楽に通れるようにするか」と、言っている事は物騒なのにのんびりとした足取りで向かう。
ルベルトは誘っておいて良かったと思い、ギルダーツに連絡をした。これからイーグに入り、消息を探ってくると。頼もしすぎる2人に、リグート国と言う大国の秘めた力の一部を思い知らされた気分になった。




