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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第68話:嵐の息子

ーカルラ、ウィルス視点ー



「ミャーン」




 いつもよりも甘えた声、と言うよりは興味に近いかも知れない。ペタペタと体中をあちこち触ったり、乗り掛かったりと猫であるカルラは楽しんでいる。




「しっかし、こうして実物を見るまで普通に驚くよな。この猫が人間って言われても分からないよな。なぁー?」

「ミャミャ」




 聞かれたとしても答えは全部鳴き声だ。

でも、カルラは嬉しいのかずっとエリンス殿下に甘えぱっなしだ。




「ミュミュ♪」

「テンション高いな。なんなら今日、俺と寝るか?」




 その時、カルラの目がキラリと光った感じがした。

 隣に控えていたラーグレスはクスリ、と笑ったのを見たからだ。




「フミャーン♪」

「って事で、俺は今日カルラと寝るぞ」

「ダメ!!!」

「はえーよ………」




 即答で切り捨てるレントの反応に、エリンス殿下が慣れているのが普通にツッコミを入れている。……そんなに力強く否定するのは何でかな?




「でも、驚きましたよ。殿下がいきなり念話で呼び出すのですから急用だと思うのが普通でしょう。………理由を聞いてもしばらくは戻れないからって言うので」



 困ったように言うラーグレスに、コテンと首を傾げる。エリンス殿下の肩に乗りじっと見ると軽く手を振ってくれた。私もカルラも嬉しいからつい「ミャーン」ってはしゃいじゃった。



 私も含め、レント以外のナーク君とリベリーさんの為に、ここに居るエリンス殿下とラーグレスが来た経緯を話してくれた。


 私達がこの街に来て、早1週間は経った。


 未だにディーデット国との転送魔法の許可は下りない所か、一時的に国から規制が掛けられてしまい完全に手詰まりになってしまった。その時のリベリーさんが「くそっ、ローレックの野郎………ぶっ飛ばす」とかなり怒っていたので慌てて私が止めた。


 ナーク君とレントはと言うと……。




「ほっとく」

「殴る位で気が済むなら自由にしていいよ」




 ………これだもの。

 ナーク君は気にした様子はないし、レントは事態が変化しないことをする事の無駄を説いていた。流石のリベリーさんも頭が冷えたのか「くそっ。コイツ等………」と猫になった私の――カルラを抱き上げて慰めてくれとお願いされた。




「ミュ」




 ポン、と。リベリーさんの額に手を押し何回も押す。それがリベリーさんには良い子良い子してくれたような感覚だったのだろう。その後、互いに撫で合うと言う……ちょっと恥ずかしい場面を2人に見られてしまった。


 その2日後。

 ローレックさんから借りている屋敷に、レントが「あ、来たね」と1人だけ来るのが分かってたのかウキウキした気分で出迎えた。その時の私は、寝ているナーク君の頭の上でだらけており……リベリーさんは買い出しの為に街へと情報収集をしながら出て行っている。




ー誰か、お客さんなのレントー

ーうん。ウィルスも知っている人だから安心して良いよ♪ー

ーそっか。気を付けてねー

ーん。ありがとうー




 こうして、レントとの会話は増えていく一方だ。刻印の力を制御出来ているのか、私自身にも変化があったのかは分からない。最近はカルラでも私の時でもこうして心の……刻印同士での会話が普通に出来ている。


 ラーファルさんから少し話を聞いている。

 刻印の力が発動していても、今はちゃんと上手く使えない事の方が多いだろうと。それは私自身の心のバランスが原因だと言う事も聞いている。




「姫猫ちゃんは辛い事を経験したからね……。色々と傷付いているから、上手く整理出来ていないんだよ。あの時、自分が我慢すればレントに……王子に迷惑が掛からないって、そう思ったんだよね?」




 ナーク君と初めて会ったあの時の事。

 リナールさん、は……レントと私が居て楽し気にしている所を見て嫉妬し、私の事を連れ去った。うっかりレントといつものように呼んでしまったが為に、鞭で打たれると言うミスをしたのだけれど……。


 でも、そうなのかも知れない。

 私だけが、我慢していればレントには迷惑を掛けない。……優しくていつまでも居て良いと言ってくれた彼に対して。




「姫猫ちゃん。たまにはワガママ言うのも大事だよ?」

「ワガママ………ですか?」




 キョトンと聞き返す私を、ラーファルさんは優し気に微笑む。優しく頭を撫で、頬を撫でる手付きが嬉しくてつい擦り寄ってしまった。そんな行動を起こしても、余裕の表情で受け止めれくれたからさらにスリスリしてしまう。




「うん、少しずつで良いんだよ。状況が目まぐるしく動いてて、分からなくなるだろうけど……でも、レントはどんな時でも君の味方だからさ。ちょっとずつで良いから、悲しいなら悲しいって言えるように。嬉しい時には嬉しいって思えるように、ね?」

「………悲しい時は悲しく、嬉しい時には嬉しく………」




 そうしているようには見えなかったのか。自分ではそうしているつもりだったから、余計にラーファルさんの言葉を何度も繰り返す。やっぱり他人からの評価や感じ方は、本人には分からないのだなと改めて思う。




「姫猫ちゃん。心に余裕が持てるようになったら、レントと心の中で会話するのも楽になるよ。………内緒話とかしてても平気だから」

「ふきゃっ……」




 グイッ、と後ろの引っ張られ悲鳴を上げてしまう。

 クスリと笑うラーファルさんと引っ張った人――レントの事を見て私は驚いた。政務は? と聞くと既に終わらせて、私の事を探していたのだと言う。




「ラーファル。あまりウィルスとくっ付いて話すの止めて」

「護衛に対して言うセリフなの、それ」

「守ってくれるのは助かるんだけど、距離が近いんだって」

「………刻印って言うある意味では、2人だけしかない印があるのに?」

「それとこれとでは別だよ。私の気持ちがイライラするから」

「…………。」




 えーーーっと。

 口がはさめないし、どうしてそうなるのかとも思った。しまいには耳元で「私だけを見ててよ」何ていうから、すぐに顔を赤くなっちゃう。


 そんな反応にもラーファルさんにはがっつり見られてしまうから、余計に恥ずかしいのに……。止めてと言ってもレントがお願いを聞いてくれたのはそんなにない。………だから諦めたのだけど、いけないのだろうか?



 そんな事もあってか、ラーファルさんの言う心の余裕が持てた事で以前よりもハッキリとレントの考えている事が分かるようになってきた。意思を持って自分で話しかけてみた時はかなり緊張した。


 念話と言うのもやったことがないから、しどろもどろだったと思う。でもレントが笑いながら緊張しなくても平気だよと言ってくれたから……本当に平気になったのは不思議だ。




「ん?……王子、だれ……?」




 ピクリ、と寝ていた筈のナーク君が起きる。頭を急にあげた時に、そのまま後ろに転げ落ちたのはいい。スタッと着地して背中を叩いたのだから……ナーク君、あとで謝るからね? 




「おっ、入っただけで目が覚めるなんて流石だな」

「…………」




 ナーク君と褒めたであろう人物の間に立ち一瞬、声を上げるのを忘れてしまった。目をパチパチと数回、瞬きをして「ニャウ?」と頑張って声をあげる。




「よぅ、ウィ……じゃない。カルラ、俺の事覚えてるか?」

「お久しぶりです」




 コクコク、と私の時みたいに全力で首を振りそのまま走り出した。

 手を広げてくれたエリンス殿下……じゃなくて、ラーグレスの方に思い切り飛び込んだのだ。




「フニャーーーン♪」

「ははっ。こら、そんなにはしゃぐなって」




 思い切りじゃれる。それはもう幼い時に戻ったかのように……。

 手を広げて固まるエリンス殿下にレントは吹き出し、ナーク君はなんとなく視線を逸らしたような気がする。が、今の私でありカルラはラーグレスと全力で遊ぶ事にしている為に無視だ。


 猫の欲望をそのまま、むき出しにして何が悪い!!!




「………まっ、レントからの呼び出しなんて慣れたもんだと思うが夜中に念話するなよ。こえーから」




 ちょっとふてくされたエリンス殿下に悪いと思いつつ、そしてカルラ自身も何だが悪いと思ったのか今は彼に歩み寄ってナデナデして貰っている。

 大人しくちょこんと膝の上に乗り、チラチラと見上げる。


 すると「怒ってない、怒ってない」と言って優しく撫でた。


 私が幼い頃から一緒に居るから、人にかなり慣れているし気持ちに敏感だ。怒っていないと聞いてカルラは気分が良かったのか、そのまま彼の周りを何度も歩き回り頭や肩、足など全身を使って何処が落ち着くのかと言う検証始めていた。


 ラーグレスが言うには、夜中からレントの呼び出しによって殿下も自分も慌てて向かったと言う事。そう言えば、彼の魔法は……アクリア王と同じ転移魔法だったと記憶している。




「だからって、この街の付近に印つけてたなんてな。もしかして、こっちには何度か来た事があるのか?」




 リベリーさんが何かメモをしながらだけど質問してくる。


 転移魔法。

 自分の魔力を印として残し、任意で転送が行える魔法だ。転送魔法の場合は、出発点と終着点に魔方陣を書いておかなければならない上に、終着点には魔物が来ない安全地帯、街中と言った警備がそれなりに整っている場所と言う風に限定される。


 なんでもこれは、魔方陣の発動させ続ける為に魔力を注ぎ続けなければならないと言う大変な作業。

 集中力がいるので、自然と守ってくれる人が傍に居ないといけないと言うもの。集中が途切れたり、横やりが入った時点で陣の完成はなくなり消滅する。


 だからもう一度、と言う気軽なものでもないらしい。


 使われる魔力量が多い為に使えるのは1日1度と言う制限付き。だから、転送魔法は主にギルド同士の認可やギルドを支援しながら管理も行る国の許可得て、持続的に出来るように設定しているんだって。



 その分、ギルドでの許可と国での許可と言う手続きが手間で掛かるらしいのだけど……。


 転移の場合は魔力を印として残すのに使う量はかなり少なくていい。正しこちらも自分で行った事のある街や国での行き来は自由だが、新しい地や知らない場所に行く場合には……実際に行く必要がある。

 

 って事はエリンス殿下は少なくても、この街の付近に来た事があると言う事だ。でも、レントがいつの間に連絡していたのか………分からなかった。




「この付近にはギルドでの任務で来た事はあったしな。本当ならここにも付けようとしたんだぞ? けど、丁度期限が近いからって諦めたんだ」

「期限???」




 私も疑問に思って、ナーク君と同じく首を傾げた。気になるーと言うアピールでちょっとジャンプしたり、その場で回っていたら何故か笑われた。




「あぁ、レントの所は知らなけど俺の場合は3年だけなら勉強にもなるだろうからやってもいいぞって」

「懐、デカすぎね?」

「その分、俺がひっそりと殿下の護衛をしていましたから」

「………大変だったな」




 ラーグレスの肩をポンと叩くリベリーさんは労わっているようにも見える。でも、何でエリンス殿下がここに?


 レントの方に視線を向けると「護衛が必要だからね」と一言で済まされた。納得した様子のリベリーさんとナーク君。ラーグレスも頷いているし、エリンス殿下は分かっていると言わんばかりに笑顔だ。



 ………私だけ、知らないの????

 え、教えてくれるのね? 何で、何で私だけ状況が分からないみたいなことになってるの!?




「平気だよ。カルラもウィルスも仲間はずれにはしないから」




 優しく抱き上げて来るレントに私は当然だと言わんばかりに大きく頷いた。カルラも嫌だよね? と、思っていたら不機嫌そうに鳴いてくれた。ついでに猫パンチをしているから、置いていくなアピールだ。



 流石だ、親友!!!!!



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