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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
南の国篇
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第64話:穏やかな朝

ーウィルス視点ー



「ん……んんー………ん!?」




 誰かに抱き締められている感覚に目が覚める。何だが、暖か居……と思っていたらナーク君の顔がドアップだ。思わず、手で自分の口を抑えて思い出す。

 2階は寝室だけと、物置になる部屋があった。各自に使うからてっきりナーク君は別の寝室だと思った。




(……あ、そうだ……。ナーク君に撫でて貰ってから記憶がない)




 彼に頭を撫でて貰って寝た記憶があるから、と納得した。レントがあんな事しなければ、もっと早く寝れたのに!!




「あ……る、じぃ……」

「!!」



 お、起きちゃった?

 ………。うん。寝息が聞こえるから、寝ぼけてるね。起こしたかと思ってドキドキした。




「いつもありがとう。ナーク君」




 そう言って、優しく頭を撫でれば幸せそうに微笑んだ。

 ナーク君が笑ってくれるのは、嬉しいな。そんな幸せそうな寝顔を見てから1階に降りる事にした。


 髪を1つにするのには、あのバレッタをつけている。手元に戻った時に、肌身離さず持とうとしてギルダーツ様に助けられたから、昨日買ったミニバックに入れておき常に身に付けようと考えた。

 髪をそのままにしながらだと、動くのに不便だしと思いながらも切る事は考えなかった。なんだかんだ言って、レントは私の髪の長さが好きなのか気付いたらよく撫でている事が多い。


 ちょっとだけ恥ずかしくなった気持ちも、すぐに切り替えてリベリーさんに挨拶をする。




「お、早起きだな」




 緑色の町娘の人が着るようなワンピースを着て、台所に行けば既に良い匂いが充満していた。思わずほっとする。




「おはようございます、リベリーさん」




 リベリーさんが朝食の準備をしていた。昨日、最後に寝たと思うのに大丈夫なのかな? と、そう思っていたら「弟君に頼まれたんだ」と、察して答えてくれた。




「良い匂い……凄いですねホント」

「味見するか?」

「ぜひ!!」




 近くに行けばリベリーさんが笑ってきた。小皿にスープを少し入れて貰い一口飲む。野菜の味がしっかりと滲み出ていて、安心できる味だ……。




「美味しい……!!」

「ま、バーナンにも作って上手いって言われたから自信はあったぞ」

「バーナン様に、ですか?」




 私は厨房の方達が作ってるのを食べてるし、レントもそうだ。だから、自然とバーナン様も同じだと思っていた。リベリーさんが言うには、リナール令嬢に渡された毒入りの水を飲んで以来、食事に手を付けなかったのだと聞く。


 リベリーさんがバーナン様の護衛として居るようになり、あまり食べない様子から話を聞き自分が作った物を無理矢理に食べさせたんだって。




「大変だったぞ……あまり食事に喉が通らないからって、王都の露店とか港の方に行ったりで。城に居るとどうしても令嬢達がバーナンに言い寄るからな。執務以外は、すぐに王都に行ってたりするし……とにかく、城に居るのが嫌なんだって言うからな」

「……今は」

「ん?」




 私の小さい声に、リベリーさんは作業を止めて向き合う。

 バーナン様が毒で死にかけたのは聞いていた。でも、そこからの拒否反応が凄まじいのを聞き不安になった。

 

 今は、どうなのだろうか?

 クレールさんを婚約者にしてからも、城に居るのは嫌なのだろうか……。


 バーナン様は、私に話し掛ける時は笑顔だしレントのお兄さんだから隣に居て安心する。レントはなかなかバーナン様だけにはさせないけど、何か理由があるのだろうか。  

 今、大丈夫なのかと不安な気持ちが顔に出ていたのだろう。リベリーさんが「心配すんな」と言って整えた髪を乱暴に崩される。


 せっかく整えたのに……と、恨めしくむっとした表情で見るとリベリーさんは「そのままで良い」と言った。




「オレに聞いたからって態度は変えなくていい。いつも通りに接してくれ」

「で、出来るかなぁ……」




 私は表情も含めて分かりやすいとよく言われる。

 レントにだったり、ナーク君に、バーナン様に、目の前のリベリーさんに……つまりは私が関わった人達、全員の共通の認識だ。この話を聞いた後でバーナン様に、普通に接しれるかは……無理だと自分でも分かる。




「フォローするから安心しろ」

「お願いしますよ?」

「任せろって」

 



 弟君頼むなー、と起こしに行くのを頼まれて再び2階へと向かう。その途中でちょっとフラフラな状態のナーク君を発見。私を見付けた途端に、ぱあっと花が咲いたように綻び「おはようー」と言って抱き付いてきた。




「おはようナーク君」

「朝から気分がいいんだ」

「え、そうなんだ。どうして?」

「主に会うからー♪」

「ヨシヨシ。良い子良い子」

「えへへー」




 お互いに頭を撫でつつ、お互いに笑い合う。すると「こら」とリベリーさんがナーク君を軽く叩いた。




「弟君、起こしに行けないだろうが。ナーク君、お前こっちで準備しろ」

「もうちょっと、居たいー」

「ワガママ言うな!!!」 

「うぅ、主ーー!!!」




 そのままズルズルと引きずられながら連れて行かれるナーク君。これから毎日見るかなと、思うとちょっと嬉しいな。そんな気持ちに浸っていたいが、レントを起こしに向かう。


 2階は寝室と違ってカーテンは付けていないから、少しほこりっぽいのを我慢すれば手入れの行き届いた廊下だと分かる。……滞在するからには、きちんと掃除した方が良いよね。

 



「レントー。起きてるー?」




 当たり前だけど、起きてはいないよね。

 寝息が聞こえるから、静かにソロリと近寄る。……うん。レントの寝顔は可愛いからいつまでも見ていたいんだよね。………いつも、私が最後に起きるから見れないから………。




「ふふっ。可愛いな………」

「そう言って貰えるのは嬉しいな」

「へっ?」




 勢いよくベッドの中に引き寄せられ、悲鳴すら上げる間もなかった。レントの上に乗るような形になり、キョトンとしてしまう。そんな様子の私にクスクスと笑うレント。




「い、いつから……?」

「入ってきた時から、ね」

「っ……起きてたんなら、返事してよ。もぅ……」

「ごめんごめん。私がウィルスの寝顔を見ているから、どんな反応をするのかなって思って……私よりウィルスの方が可愛いから安心して?」

「そ、そう言うのは………いい」

「明日もお願いね? カルラの時でも良いからさ」




 自分を起こす役目は私なのだと言い、チュッと額にキスを落とす。それが気恥ずかしくてそっぽを向くと、その様子にご満悦なのか髪を優しく撫でて来る。

 そんな事をしながらも、どうにか1階に降りて来ればリベリーさんが用意された朝食が丁度出来上がっていた。


 温かいパンに、さっき私が味見をした野菜スープ。

 次に出て来たのは大きなお肉の塊だ。何処で買ったのかなと思っていると「今朝、魔物を狩った時にな」と軽い調子でリベリーさんが言うから思わずパチパチと瞬きをしてしまう。




「魔物は確かに人を襲う生き物だけど、意外に食べられる物もあるんだ。安心しろ、オレ達は長年そういうのも食べてるから保証付きだ」

「巨大なイノシシの形の魔物のお肉も美味しいよ♪」

「………平気、ウィルス?」




 心配そうに顔を覗き込むレント。何と言うか、牛や豚とか鳥とかのお肉も食べてたけどまさか魔物のお肉を食べる事になろうとは……。うん、また食べる事になるとは思わなかったけど。


 うん。冒険なんだから、こういうのもありか。




「無理すんなよ。オレ達は魔物狩りとか、そういうのを専門にしてきたから食べられる物は分かるが普通は分からないからな」

「いえ!!! いただきます」




 元々一口サイズに切ってくれているから、それをフォークを食べてみる。固いかとも思ったけど、意外に柔らかい……リベリーさん、料理の天才じゃないかな。




「リベリーさん、料理人で働けますよ!!!」

「勘弁だ。オレは今のこの生活が良いんだよ。気長に気楽に……姫さん達を見ているのが良いんだよ」

「見ても面白くないですよ」

「いやいや。十分面白いから」




 何でそう肯定されるのだろうか。そう言えば、ナーク君は普通にしてるけどレントもあんまり驚いてない……何で?




「あぁ、言ってなかったね。私とエリンスはね……ディルランドのギルドに登録してるんだよ。偽名で、だけど。だから魔物のお肉とは食べられる物があるのは知っているよ」

「は?」

「初めて聞いた」




 リベリーさんは思わず口をつけるスープをこぼしそうになり、ナーク君はモグモグとパンを食べながらもそう言っていた。

 レントの話では、エリンス殿下と2人でギルド登録をし任務も幾つか受けたし、ランクも上がっている。だから、転送の事も知っていたしそれを使うのにランクが最低でもBランクなのも知っている。




「ちなみにその時の偽名は私がゲーリーで、エリンスの方がドールトだ」

「………ちなみにランクは……」

「ん? 私もエリンスもAランクで留めたよ。上のランクはSランクなんだけど、そこまですると内緒ではなくなるからね」

「内緒でやったの!?」




 政務はどうしてたのか、と疑問に思っているとジークさんとバラカンスさんに頼んで偽装して貰ったそうだ。………あの2人、レントの護衛でもあるのに随分と簡単に許したね。




「バレてイーザク宰相にこってりと怒られたよ……」




 その後、3人で正座させられてたのは良い思い出だと言うけど……あの宰相さんに怒られて良い思いでとは流石にいかない気がした。私はちょっと青い顔をしたし、ナーク君もその人に対してあんまり良いい印象は持っていないのだろうちょっとだけ顔をそらしていた。




「その後も負けじと何度かエリンスと行ったけど」

「すげーな、弟君」

「その後も、繰り返し説教をされたけどね」

「………学習する気はあるのか、弟君」

「あるけど、何でかな………イーザク宰相を面白くしたい」

「国王様と同じかよ………」




 流石、親子だなと言いながらリベリーさんは食事を開始した。

 今日、私とレントは街中を散策しにリベリーさんとナーク君とでギルドに行き依頼をいくつかこなして来ると言う。




「オレ等はギルドに入るのは初めてだ。暗殺ギルドの場合、名前の登録じゃなくて実力主義だったからなぁ………」

「リベリー、話すのはあとだ」

「へーーい」




 鋭いレントの指摘にリベリーさんは涼しい顔をしている。

 そんな雰囲気の中、食事も終えてナーク君と2人で皿洗いを開始した。お皿洗い用の洗剤と毛糸で編まれた洗い用のタオルで頑張って洗う。隣でナーク君から教わりながらだったから……いつの間にか顔に泡が付いてたけど。




「泡ついてるよ。少量でも良いのに……」

「ごめっ……加減が難しくて」

「ふふっ、こういう生活も良いね。………皆、あったかい」




 そう言って肩に顔を預けて甘えて来るナーク君。もう、朝からこれで本当にギルドに行く気があるのか謎だ。




「平気平気。ボクが強いの、知ってるでしょ?」

「うん。無理しないでね」

「王子と思う存分、イチャイチャしてても平気だよ?」

「も、もうっ!!! 何でそうなるかな!?」

「え、私は嬉しいよ。ウィルスとのデート」

「わひゃっ」




 後ろからしっかりと抱き込まれ、レントの声に思わずビックリして悲鳴を上げる。ナーク君がニヤニヤしているから、分かってて知らせてくれなかったな……酷い。

 リベリーさんとの話が終わったとの事で洗ったお皿を乾きやすい様に置き、軽く身支度を済ませる。




「じゃ、頑張ってね2人共」




 屋敷に鍵をかけ戸締りをしっかりとして、私はレントと街中を散策しにナーク君とリベリーさんはギルドに向かう為にそれぞれ動く。ギルドに行く2人に平気だと思うけど、一応気を付ける様に言う。




「はーーい」

「弟君は少し自重しろよ」

「努力はする」

「姫さん。辛くなったらオレを呼べ。対処するから」

「は、はい……」




 そう答えつつ、出来るのかなと思いながら自然とレントの手を握る。嬉しそうに顔を緩めるレントの直視は出来ないから下を向いて頷くだけにする。




「んじゃ。何かあれば念話で弟君に連絡入れるから」

「2人の事は無視してても平気だと思うんだけどね」

「………デートの邪魔するなって事か」

「そうだよ♪」

「もうっ。違うでしょ!! これから日用品を整えようって、昨日話したばかりじゃない」

「うん。そう言う事にしておくね」




 昨日、4人で話したのにもう忘れるのか……。

 そんな私達をリベリーさんは「仲良くて結構だ」とニヤつかれてしまった。うぅ……また顔に熱が集まる。そんな風に思っていたら、2人の姿は既に居なくなっておりレントと2人きりだ。

 気配もなく静かに消えるのって、凄いね……。




「じゃ、行こうか。ウィルス」

「うん」




 しっかりと互いの手を絡ませて、離れないように街中を進む。

 まさかレントがギルドに居た事があるとは知らなかった……。そうなると、エリンス殿下も剣の扱いが出来る事を意味するよね。


 昨日に続いて買い物も出来るようになったし、やっぱり外で動き回るのは好きだな。バルム国だと出来なかった事が出来るのは嬉しいからかな。悲観的にもなれず、いられるのはやっぱり好きな人が……安心できる人が居るからかな?

 

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