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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第40話:ウィルスとスープ

ーウィルス視点ー



「………」




 チラリと目の前にいる黒髪のスティングさんを見る。ニコニコとしており、真面目なバラカンスさんの弟とは見えないと言うのが正直な感想だ。


 しかし、彼はラーファルさんの着ている青を基調とした師団の制服を着ている。聞いたら昨日会ったのは偶然ではなく、私を待っていたと言う事。思わず「えっ」と言ってしまったのは見逃して欲しい。




「あの場所に居ればウィルス様は来ますからね。猫達の世話をしているのを微笑ましく見ている人達が居ますし……癒されますから」

「猫ちゃん達、可愛いですもんね」

「えぇ。猫ちゃん達以外でも、ですけどね」

「……ん?」

「あ、分からなくて平気ですよ。そのままで平気です」




 クレールさんの事をじっと見ると何故か逸らされてしまう。えっ、と思ってジークさんとバラカンスさんを見ると……揃って視線から外れてしまう。むっとなってレントを見ると彼はニコリと笑ってくれた。




ーウィルスが可愛いっていう話だよー


「っ!!!」




 未だに慣れない心の声。

 それに驚くも「可愛いから」と言われて徐々に赤くなる自分の顔。それを隠したくてクレールさんを壁にしてレントから視線を外す。何だか、物凄く恥ずかしいんですけど……。




「レント。今、刻印の力で何かした?」

「さあ。知らないよ」

「………」 




 向こうではバチリと火花が散るような雰囲気で、睨み合うスティングさんとレント。 

 スティングさんはジークさん、クレールさんと同じ19歳。レントとは魔法の特訓を受けたりしている仲だ。バラカンスさんやジークさんみたいな幼馴染みのような感じだ。バラカンスさんが言うには彼は……小動物が好きらしい。


 それに私が含んでいるんだって。

 何故?

 そう考えていたら、スティングさんと目があって微笑まれてしまった。恥ずかしくなって、クレールさんの背に隠れ騎士服の裾をきゅっと握る。




「スティング。ウィルスの事、微笑ましく見ないでよ」

「護衛対象を見るな、とは無理な話だよ」

「「………」」




 うぅ、また部屋の温度が下がったよ。クレールさんにくっつくと頭を撫でられてしまった。ナークが隣で一緒になっているのは……無視なの? それとも、これが普通なの?




「やぁ、昨日からずっと俺に殺気を向けていたね。ナーク君」

「主を食べ物で連れ去った奴め」

「お近づきの印にクッキー、いる?」

「っ、貰う!!!」




 水色の小さな袋をナーク君がすぐに貰い、定位置のように私の隣に戻る。チラリと見て、星形とか丸形とか様々なクッキーがある。




「主も一緒に食べよう?」

「……じゃ、じゃあ、1枚食べる。スティングさん、いただきますね」




 2人揃ってパク、とクッキーを食べる。スティングさんが「ダブルパンチ、辛い……」と顔を手で抑えながら言われた。2人揃って首を傾げたら「可愛い……」と言って今度はしゃがみ込んでしまった。


 


「気にしないで。無視して良いから」

「ジークと同意見だ」




 ジークさんからそう言われ、バラカンスさんは頷きながら弟の評価を口にする。クレールさんの事を見ていると「実力はあるからそれだけは安心」だって。


 スティングさん。味方がいないんですけど……良いんですか。




「可愛いものを愛でるのに理由がいるのか」

「ウィルス以外にして」

「断る。ラーファル様からの直々の要請だ。……既に聞いているのにいつまで経っても、呼ばれないから自分から来たんだよ」




 文句ある? とスティングさんがレントの事を睨む。レントが「仕方ないな」と許可を出した。ラーファルさんは南の国、ディーテッド国の要請を受けて旅立った。


 ディーテッド国は、お母様の母国。昨日、アクリア王……じゃない。デートル様が城に来て私に話したのだ。お母様と婚約するのは、お父様ではなくデートル様だったと言う事。

 

 デートル様の妃である方も、本当ならお父様と婚約する予定だったのだ。エリンス殿下とは……もしかしたら、腹違いの兄妹になっていたかも知れない、とかとか。




「ウィルスは妹って感じがするのはその所為か」

「絶対に違うから、帰れエリンス」

「よし。今度からお兄ちゃんと呼んでくれ」

「そこを動くな。斬る」




 エリンス殿下を斬ろうとするレントを宥めて、なんとかその場を収める。そんな事があったからなのか、エリンス殿下は何かと私の世話を焼こうとする。

 でも、待って欲しい。私もレントやエリンス殿下と同じ17歳だよ? 何故、妹と認定されないといけないのか謎だ。


 そんな事を思い出している内に、レントとスティングさんの喧嘩はいつの間にか止んでおり私は、護衛と紹介されたばかりのスティングさんに手を握られ執務室を出て行ってしまった。




「え、あの………」

「王子から許可は貰った。護衛として今日はずっと傍に居るから安心してね」

「え、えええええぇぇぇ!!!」




 私の言葉を無視してスティングさんによって連れ出される。ま、まず、何処に行くのかを言って下さい。黙っていると気になりますから!!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「まだ城の内部を把握していないと思ったから。はい、厨房だよ」

「ど、どうも………」




 そう言って案内して貰ったのは、この城の食を預かる場所の厨房だ。全身白い服を着て、動きやすいデザインのバルム国でも見た事がある光景だ。思わず、こそっと邪魔にならないようにと中の様子を窺う。


 食材の下処理をする人が奥に居て、大量に積まれている。この城の食堂や私達の食事の事も考えたら当たり前なのかも知れないが…その量に圧巻する。思わず「ほえー」と言っていると後ろから「何してんだ」と低い声が聞こえ、ビクリと体を震わす。




「………」

「ど、どうも………け、見学……です」




 顎下に薄めだが髭がある30代位の迫力ある男性が立っていた。「リーガルさん」と、先程積まれた食材の下処理をしていた人が駆けよれば自然と私とも目が合う訳で……いつの間にか、周りの注目を集めているのか中断されている。




「…………」




 思わずスティングさんに助けを求める様に視線を向ける。彼はずっと微笑んで頑張ってと言っているようにも見える。酷い、助けてくれない!!!




「あ、君、猫ちゃんの飼い主さん?」

「ふぇ」




 そう言ってしゃがみ込んで見ていた私と同じようにしゃがんだのは、先程リーガルさんと呼んでいた人だ。マジマジと見られ「あっ」と思い出す。あの子達のご飯を持って行こうとしたら、既に誰かにより食事を済ませてあることが多い。

 カルラになって様子見と同時に、師団の人と騎士達以外に誰か来るのかと見ていたらこの子達のご飯を持って来てくれる人が……厨房の人の服を示す白い服を着ていた事を思い出す。




「え、えっと……そう、です。もしかして、いつもご飯を持って来てくれるのは」

「はい。自分です。あ、俺はルーカスです」

「ウィルスと言います。いつもありがとうございます」




 と、言ったらザワリと空気が変わった。

 ん? 名前を名乗ったら、マズいの? あ、もしかしてレントの婚約者とか亡国の姫とかそういうの……知っているのか。




「っ、も、申し訳ありません!!! お、王子の婚約者様になんて言い方を」

「あ、いえ!!!! 私がこそっと覗いてたのがいけないからで!!!」




 そこでまたピタリと時が止まったみたいに静まり返る。耐えきれなくて「ぷっ」と噴き出すスティングさん。思わず彼の事を叩いて隠れているのがいけないんだ、と理不尽にも近い怒り方をする。




「す、すみません……くっ、面白くてつい」

「ワザとですよね!!! さっきも助けてって視線を送ったのに無視して!!!」

「いや、ウィルス様がコソコソしてるのがツボで………」




 余程、笑ったのだろう。目じりに涙が出る位にスティングさんは笑っている。呆気に取られるのは無論、厨房の人達であったがリーガルさんがすぐに作業を再会させてた。

 責任者からの言葉なのか、さっきまで静かだったものが作業に戻る為に移動したり自分の仕事を進める。




「あー、えっと、婚約者様が何でこんなむさい男だらけの場所なんか……」




 こほん、と咳ばらいをし言葉を正してきたリーガルさん。厨房と隣接する部屋に移動され、お茶を出されたのでそれを一口飲む。ほっとしていると「さっきはすみません、でした」とリーガルさんに謝られてしまった。




「いえ、私がいけなかったので。スティングさんも何で連れてきたのか分からなくて」

「だってウィルス様、料理長にお礼を言いたいって聞いていたからね。厨房の場所も知らないかも知れないと思って連れて来たんだよ?」

「……ありがとう、ございます」

「料理長は……今日は食材の買い出しで居ませんよ。お礼ってなんの」

「いつも美味しいご飯をありがとうございますって言おうと思って。私、ここの食事を食べると何だか懐かしい気持ちになって。不思議ですよね」

「そう、か……いや、なら味付けが似てるんだろ」




 ふいっと顔を逸らしながらも、ポリポリと微笑をかくリーガルさんの顔が赤い。じっと見る。薄いオレンジ色の髪に、茶色の瞳……何処かで会った記憶がある。……うん、あるぞ、あるぞ。




「お、おい、何だよ」



 じっーと見ているから気付かなかったが、いつの間にかリーガルさんに迫っていた様子。スティングさんが「近いんですって」と首根っこを掴まれ思わず「ひゃうっ」と言ってしまうのは仕方ない、よね。




「あ、あの!!! リーガルさん、バルム国でも働いていませんでしたか?」

「あ、あぁ……期間は短いが、確かに居たな。やっぱりウィルス姫、でしたか」

「あーーー。じゃ、じゃあ、スープが好きな味なのはもしかして」

「たまに作りますよ。俺の当番の時もありますし」

「やっぱり!!! あのスープ、すっごくすっごく美味しかったです。また当番になったら作ってくれます?」

「………お、おう」

「やったぁ!!! スティングさん、今度一緒に食べましょうよ!!!」

「そんなに言うなら、この後の夕食ご一緒に居て良いですか?」

「ぜひ!!!」




 スティングさんが何だがニヤリとしたようなしてないような……。でも、そんな事よりも私はリーガルさんにまた作ってくれると言うスープが楽しみでしょうがない。


 ふふふっ、ニヤニヤが止まらない。既に夕食が楽しみでしょうがない。……まだ夕方にもなっていないのに。まだなのに!!!




「変わっていませんね」




 そんな私の様子を見ていたリーガルさんがポツリと言った一言など、全然入ってこない。それだけ私の中で楽しみが増えた、と言う事なのだ。



 

 

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